三浦半島でアーティチョークを購入した
場所は5月中旬の三浦半島。うっかり大物を逃がしてしまった釣りの帰り、同行の友人が農家の直売所でアーティチョークを買っていこうと提案してきた。
大根やキャベツじゃなくて、唐突にアーティチョーク。パーティピーポみたいな名前だが、なんでも昨年たまたま購入して、とても気に入ったらしい。
いちや……じゃないな、やさい髙梨農園。
アーティーチョークね。あー、はいはい。噂のあれね。
とかいって、どんなものだったか漠然としていたのだが、実物を見て目を見開いた。
ずいぶんと攻撃してきそうな植物だな。
アーティーチョーク、そういえばこんな形だった気もするが、ぼんやりと思っていたイメージよりもずっと存在感が強い。もう植物というよりも怪獣だ。
一つ350円という値段だが、これが安いんだか高いんだか、全く分からない。食べ物としての価値は謎だが、造形物としては安い気がする。
持ち上げたら二股に分かれていた。より怪獣っぽいぞ。
ここまで外観から食べ方がわからず、味の想像ができない食材も久しぶりだ。ホヤ以来だろうか。
さっそく購入したところ、店番の元気なおばあちゃんから、茎の中も食べられるからねという謎のアドバイスと共に、食べ方の書かれたお手製のペーパーをいただいた。
つぼみが開きかけているからと50円まけてくれた。
アーティチョークとは何か
いただいたペーパーを読んでみると、アーティチョークはキク科チョウセンアザミ属の多年草で、国内で食用として作っている農家はごく僅かとのこと。食べられるのはガクの一部と花托らしいが、どこなんだそれは。
アザミといえば、近所の道端にも生えているあのトゲトゲした草のことか。確かに似ている気もするが、そのサイズ感がデカビタCとオロナミンC、いやもっと、ヒマワリとタンポポくらい違うぞ。
その辺に生えていたアザミ。これも食べられるのかな。
野生の植物を品種改良によって大きくし、より食べやすくするというのは人類の歴史ではよくあることだが、それにしてもよくここまで巨大化させたものだ。
Wikipediaによると、アーティチョークは地中海沿岸が原産地で、品種改良の歴史は古代ギリシャ・ローマ時代までさかのぼるとか。
1930年代のニューヨークではマフィアの資金源となっていたため、アーティチョーク禁止令が出たらしい。ドラッグ、アルコール、そしてアーティチョークか。
野生のアザミはものすごくトゲが鋭いので、食べるのは断念した。
さてアーティチョークのつぼみが巨大なのは分かったが、では全体はどんな感じだろうと思っていたら、ちょうど昆虫学者の丸山宗利さんが、ご自身で育てているアーティチョークの写真をツイートされていた。
うわぁ。やっぱりこれは怪獣だ。2メートルを超えるアーティチョーク、なんだか未知の外国人レスラーみたいでかっこいい。
あのサイズのつぼみとなると、こうなるよねー。来年は私も育ててみようかな。
アーティチョークを茹でる
こうして持ち帰ったアーティチョークだが、いただいた食べ方のペーパーには新しい程おいしいから早く食べろと書いてあるので、さっそく調理を開始する。
まずは塩水に浸けて虫退治。特に何も出てこなかった。
そういえば店のおばあさんが、茎の中も食べられるよと言っていたが、断面を見て納得した。
なるほど、これは食べられそうだ。せっかくなので、つぼみ一緒に茹でて味を確認してみよう。
抹茶味のシュークリームみたいな断面。私が幼虫ならこの中で過ごしたい。
鍋にお湯を沸かして、つぼみと茎を投入。茹で時間は20~30分と結構長いようだ。
茎の茹で時間はまるっきり謎だが、つぼみと同じでいいかな。
つぼみが浮かないように、この上からお皿をかぶせて落とし蓋にした。
茹で加減の目安だが、ガクをむしって取れれば食べ頃の合図である。で、ガクってどこだっけ。総苞片という部分のことかなと確認しつつ、つぼみを包む巨大なウロコみたいなやつを引っ張ってみる。
初めての作業なので茹で加減の判断ができるのか不安だったが、なるほど、こういうことかという手ごたえだ。
ちょうど良い茹で加減になると、ガクが抵抗なく抜ける。
試しに15分で引っ張ってみたところ、これは確かに固すぎるなというのがわかる。
しばらく待つと茹で湯からホクホクとしたデンプン質の香りが立ちこめて、小さいつぼみは20分でガクがスッと抜け、大きいつぼみは25分くらいがちょうどよかった。
アーティチョークのつぼみを味わう
アーティチョークの調理行程は以上である。ただ茹でただけ。もちろん様々なレシピは存在するだろうけど、まずはやっぱりシンプルに食べたい。
本来は丸のままで可食部分に辿りつくべきなのだが、あまりにもつぼみの内部構造がわからなかったので、真っ二つにカットする。花托捜索だ。
可食部分である『花托』ってどこだろうと画像検索したら、例のハスの花ばかりが出てきて焦る。リンクは貼らない。
ブーメランパンツみたいな部分が花托で、アーティチョークハートと呼ばれる一番うまい部分らしい。
まずはガクを外しながら、その付け根にちょっとだけある柔らかい部分を歯でこそげるように食べすすめる。
口に入るのはものすごく少ない量だが、イモやクワイみたいなホックリした味と香り、そしてちょっとした甘さを感じる。そしてキク科の苦みが少々。なるほど、こういう味なのか。
ガクをむしり、ちょっとずつ味わっていく。十二単(じゅうにひとえ)みたいだ。
それにしても可食部分が少ないぞ。こりゃ貴族の食べ物か。これに比べたらタケノコなんて、とても良心的な食材に思えてくる。ヨーロッパには『タケノコ剥ぎ』ならぬ『アーティチョーク剥ぎ』という言葉がありそうだ。
アーティチョークのガクを食べていると、なんだか焼き菓子の紙カップにこびりついた部分を歯でこそげている子供みたいな気持ちになる。全然貴族じゃないけど、なんだか楽しい。
もったいないので、ガクの付いていた部分も歯で削り取るようにして食べた。
これがアーティチョークの花托なのか
続いてはメイン部分である花托である。
なんだかイソギンチャクみたいな断面だ。ずいぶん小さくなっちゃったなぁ。
このブーメランパンツみたいな部分が花托らしい。
花托上部のモニョモニョした部分は、苦い上に繊維質でおいしくないので外す。
さあ花托とやらを歯でガリガリと削り取ってやろうかと思ったのだが、軽く引っ張ったら内側のパーツがポコっと抜けてしまった。食べやすいじゃないか。
きっとここが一番うまい場所だな。
分離した花托をポイとそのまま口に入れると、タケノコ、ソラマメ、キク、イモ、クワイといった様々な食材達が、脳裏に浮かんでは消えていく。味覚、触覚、嗅覚に、これらの要素がちょっとずつ感じられるのだ。
なんだこの食の走馬灯発生装置みたいな食べ物は。胃袋には全然堪らないけれど、大切に食べるからこそ脳にものすごく満足感がある。
ちょっとした中毒性を感じる味。
最初はちょっと苦味が気になったが、だんだんとこの苦みが愛しくなってくる。
花托をとった残りの部分も、苦味と硬さの許容範囲ギリギリまで責めさせていただいた。
茎の中身も食べてみよう
続いては茎の中身である。茎を食べるといえばフキだが、あれは中身が空洞になっている。それに対して、アーティチョークは一見するとメロンの果肉みたいな芯が入っている。
細い方が20分、太い方は25分茹でてみた。
パピコみたいにチューっとすすっても中身は出てきそうにないので、行政の如くパカっと縦割りにしてみる。
なんだか竹筒に入った抹茶ゼリーみたいでうまそうだ。
花托よりも食べごたえがありそうだ。
別角度から。
ティースプーンで中身を削り取っていただくと、花托の中心部分と似たような味だが、より甘みを強く感じる。柔らかく茹でたアスパラのようだ。意外と食べやすいし、捨てなくてよかった。
茎の細い側はちょっと苦味が強かったので、太いもの程うまいのだろう。
この甘さの質、どっかで覚えがあるな。
この甘さの正体は、正確に言えば後味の甘さだろうか。食べた瞬間よりも、後から遅れてくる甘さ。
そうだ、ホヤを食べた後のような、なんでも甘く感じるあの感覚が口の中に広がっているのだ。
ならばと急いで牛乳を飲んでみると、まるで砂糖を入れたみたいな甘さを感じた。すごいぞ、アーティチョーク。
買ったのはカロリーではなく物語だ
初めて買ってみたアーティチョークだが、口に入れるまでにこれだけドキドキする食材もなかなかないだろう。とても良い買い物をした。300円の買い物で何文字書いたんだっていう話である。
食べた後に口の中が甘くなった謎だが、アーティチョークの葉には味蕾の甘味受容体の働きを阻害し、なんでも甘く感じさせるシナリンという成分があるそうだ。
ちなみにお店でいただいたペーパーには「好きになれない人は食べるところが少ししかない高い野菜でしかないのでおすすめしません。花が咲くまで飾って下さい」と正直なコメントが書かれていたが、今後も出逢うことがあれば積極的に買おうと思う。
髙梨農場野菜直売所
住所:三浦市南下浦町菊名662-7
営業日:野菜のある時期は水曜日定休日、野菜の無い時期は不定休
営業時間:10:00~17:00