モノレールの車両基地は上空にある
ビジネスポータルZとモノレールをつなげようと思ったら、なんのこっちゃという出だしになってしまった。
いや、ちょっと別の仕事で「湘南モノレール」さんにお世話になったときに、「モノレールを洗ってみませんか」とお誘いを受けたのである。なんでも、機械による洗車ではなく、人の手でモノレールを洗っているらしい。手洗いだ。おもしろそう。
冒頭に世の中がどうとか書いたけども、結局「おもしろそう」だけで人は動く。
湘南モノレールは、大船から湘南江の島までを結ぶ懸垂式モノレール(ぶら下がるタイプ)である。商店街や住宅街の上空を電車が“飛んで”いくのがダイナミック。
モノレールにぶつからないよう、信号や街灯が背を縮めて空を譲っているのがカワイイ
モノレールの清掃は車両基地で行われているということで、湘南モノレールの本社兼車両基地に向かう。
そういえば電車の車両基地って見たことがあるけど、モノレールの車両基地ってどうなってるんだろう……と思ったら、上空に車両基地があった。
ぶら下がったまま基地に入るモノレール。左側の黄色いやつは点検用の車両。モノレール界のドクターイエロー。
車両基地の1階部分が湘南モノレールさんの本社になっている。モノレールの正面をかたどった郵便受けがでかい。
湘南モノレールの尾渡英生社長と。湘南モノレールは4月からPASMOの導入が始まるそうですよ。言い忘れましたが当サイトのライター西村さんもいっしょに洗います。
当日は気温が低く、「寒いですよ」と散々脅されてのスタート。「いっそ雪が降ればよかったですね」と、芸人並みのリアクションを求められる空気の中、用意していただいた作業着に着替える。
「この刺繍かっこよくないですか!?」と興奮する西村さん(が、撮った写真)
着替えました。この日のためにホームセンターで長靴を買いました。左は取材に同行してもらったエッセイスト宮田珠己さん。
車両基地の中を抜けて……
上空に飛び出した通路をゆけば……
本日洗うモノレールとご対面。
先ほどからちょくちょく写真に登場するモノレール、車両の色が赤(記事冒頭で運行していたやつ)、青(これから洗うやつ)、黄色(車両基地の中で整備中のやつ)と、全部違う。
聞けば、湘南モノレールの車両は7編成あり、全て色が違うのだそうだ。他に緑や紫、ピンクといったカラーリングがある。戦隊ものっぽいな、と思ったらラッピング車両もあるそう。それはそれで放送中盤で敵が寝返って味方になるタイプの戦士っぽい。
いきなりのコロコロに固まる
いよいよモノレールの清掃である。では始めましょう、と言われて、いきなり手渡されたのが「コロコロ」だった。
手渡されたコロコロを見つめて固まる二人
「モノレールを洗う」と聞き、頭の中にはホースで水をバシャー!とかけるイメージが広がっていた。いきなりのコロコロ登場に戸惑いが隠せない。あとで写真を見たら、おじさん二人がフリーズしていた。
あ、そういうことですね
なにもモノレールをキレイにするのは外側だけではない。まずは内側から清掃をするのだった。
手渡されたコロコロはシートについたホコリを取るためのもの。3両編成あるシート1つ1つコロコロしてホコリで取っていく。
思ってた以上に衣類や髪の毛などがシートにくっついてる
冬はダウンジャケットから飛び出た羽毛がシートに刺さり、取るのに苦労するそうだ。あと、沿線に女子高があるので、長い髪の毛もよく付いているのだそう。
お話をうかがっているのは、普段清掃を担当されている株式会社ダイヤビルサービスのお2人。いつもは1日で1編成(3車両)を、約2時間かけて清掃するとのこと。
2人で2時間かーと、このとき軽く聞いていたが、素人にはとても2時間で終わる量の仕事ではないことがこのあと判明する。
コロコロが終わったらホウキで床のゴミやホコリを取る。夏場は海水浴客が乗るため、砂ぼこりが多く大変なんだとか
掃除をしながら西村さんが「シートの隙間にゴミを入れる人いますよね!」と掃除あるあるを語っていて、聞けばその昔、バスの車両清掃の仕事をしたことがあるという。
西村さん、話を聞くたびに違うキャリアが出てくる。スパイかなにかだろうか。
続いて拭き掃除。おぉぉ水が冷たい……!(後ほど「サービス」とお湯を用意してもらえました)
窓を1枚1枚水拭きして……
つり革や手すりも吹きます。
運転席の後ろの窓に、子どもが手をついた小さな痕跡が。大人に抱っこされて景色を見せてもらったんだろうな。掃除ではこういう跡も拭き取らないといけません。
このとき、車体の清掃と同時に、屋根の上では点検作業が行われている。たまに「カンカン!」と音がする。
点検の安全のために車両の電源をオフにしているので、車内は照明もオフ。ほの暗い状態で掃除をしないといけない。もちろん空調も効かないため、夏場はとても暑いそうだ。
見た目がすっかり現場に馴染んできた
完全にここで働いている人の顔になってる。
もはや企業の採用ページで「社員インタビュー」に使われているカットだ。
僕の死後、遺族がこの写真を見つけたら「あの人、ライター以外にこんな仕事も……」と勘違いするかもしれない。面白いのでそのままにしておきたい。
水→洗剤→ブラシ→水→拭く
さて、内側が一段落して、いよいよ外側の掃除である。イメージしていた「水ビシャー!」の時間がやっときた。
水をかけていきます(お手本)
電車を洗う、と聞くと、クルクル回るモップの中をゆっくり通り抜ける電車を想像するが、湘南モノレールにはそうした設備が無いので、人の手で水をかけて洗わないといけない。地上を走る電車とは、いろいろ勝手が違うのだ。
水圧が高いので、ノズルをしっかり持っていないと飛んでいきそう。加えて、ノズルは金属製なのでめちゃくちゃ冷たい。結果、冷たいものをしっかり握ることに。
とは言え楽しいです!
やっぱり水をまくのは楽しい。晴れていたら虹が出たりするかな、のんきな事まで浮かんでしまう。
一通り濡らしたら、洗剤をつけたブラシでゴシゴシ磨く
連結部分もちゃんと洗わないといけない
長いブラシで車両を磨いていくのはなかなかに重労働。だんだん腕が高いところに上がらなくなってくる。
冬場はまだ汚れが少ないが、台風に襲われる夏~秋は大変なんだそう。海が近いので、潮風にあたった車両に潮が付着してしまうのだ。湘南ならではの苦労である。
ある程度モップで磨いたら……
洗剤が乾かないうちに、もう一度水をかける。すすぎ。
また現場に馴染んでいる写真が撮れてしまった。たぶん僕、真面目なんだと思います。
今回は僕と西村さんの2人がかりで車両の片側を洗ったが、通常は2人で両サイドを担当されている。段々「大変だ……」しか口にしなくなってきた。
さて濡れた車体はそのままにしておくと、窓に水垢がついてしまう。というわけで、仕上げに窓についた水滴を拭き取る。
先がスポンジになったワイパーで水を拭き取っていく
「これ、引っ張るだけでスポンジの水を絞れるんですよ」「うわっ!本当だ!」「すごい!」「どこで売ってるんですか!?」と、本日一番どよめいた瞬間をGIFアニメでご覧ください。
この辺は大掃除で家の窓を洗うのと同じ流れだ。
これを毎日やるのだから頭が下がる思いである。こちらは年1回だってやるかやらないかというゾーンなのに。
続いて車内の床を水拭き。ドア付近のゴムのマットは靴の汚れがつきやすい。
それにしても、ここまで1時間以上、ご指導を受けながらモノレールを洗ってきた。
もう取材というよりも、普通に一生懸命清掃に取り組んでいる。自分は清掃の仕事に就いている、というパラレルワールドに入っている感じさえあった。
床の汚れで落ちづらいのは、噛んだ後のガムと、靴底がすれた跡。みんな綺麗に使おう。
モップをかけながら、西村さんと「いつかこういう仕事もするかもしれませんね」「我々もいつまでライターができるかわかりませんから……」「発注元もどんどん若くなっていくし……」と、リアルな話まで出る始末。
掃除には自分を見つめ直す力がある。あと、腰が痛い。
でもドアを手で開ける時はめっちゃ笑顔でした
なんやかんやあったけど、無事終わりました!
これは大変だ
当日は朝9時に集合して午前中を丸々モノレールに清掃に費やしたのだが、もう午後は仕事にならなかった。心は仕事をした充実感で溢れ、体はぐったりしていた。
月並みの言葉で恐縮だが、こうして影で支えてくれる方々がいるからこそ、我々は安心して電車に乗れることができるのだ。ちゃんと綺麗に使おう。そしてもう少し運動しよう。
最後にドアを開けたり閉めたりをやらせてもらって、みんなではしゃぎました。