展示会は表参道でやってました
その展示会は「LANDWALK.KIT」というタイトルで、表参道の奥の方でやっていた。
入り口に看板があった。奥の家の二階が会場。
すごく人ん家みたいな入り口をくぐって二階にあがると、中はぎゅうぎゅうだった。
大人気
右側で手を振っているのが石川さん
石川さんの専門は広場や公園などの設計だけど、大学ではもうちょっと広く、社会に対して新しいデザインを提案する、といったような内容を研究しているという。
今回の展示会は、3年目となる先生と学生の研究の成果をまとめたものだそうだ。まずは順路どおりに見ていくことにした。
SFCガイド
「SFCガイド」は、これまで見たことがない視点でのキャンパスのガイドブックを作るというもの。
たとえば「流れているものガイド」は、キャンパスのなかで流れているものについてのガイドブックだ。どういうことなのか。
まずは「水」をご紹介
人や、その滞留も流れだという。
最初は「水」みたいな穏当なところから始まるんだけど、そのうち教室から出てくる「人」とか、渋滞して教室から「出ていけない」ということ(滞留)も、流れだというふうに視点が広がっていく。
教室でみんなが座ってる光景を「流れ」だと思うことは普通ない。流れに注目したからこそ、そう思えるようになる。
この課題は、研究会に所属したての学生に、頭をほぐしてもらうという意図があるそうだ。早稲田の「役に立たない機械」の課題も一年生向けの演習の1つなので、意図としては似ているのかもしれない。
遠距離通学をポジティブに
慶応SFCへは、かなりの遠距離通学をしている学生も多い。そんな長時間の移動をポジティブに描くことはできないか、という課題。
「ももことつむじ」
この作品では、通学中の電車内の風景を絵本としてまとめていた。
電車内では、手元のスマホや本をずっと読んでいたりしがちだ。そうすると、手元の風景と向かいの席の風景が、なんだか別々の世界のように感じられる。ほんとは同じ車内なのに、手元だけは「なんだかじぶんのへやみたい」だという。
縦に見開きにする、というレイアウトがうまい。車内での位置関係と同じなので、とても伝わりやすい。
「TRACK LOG GRAPHICS」(写真は浦島もよさん @monoprixgourmet からお借りしました)
この作品では、研究室メンバーみんなのGPSログを統合して、通学路を描き出した。
SFCへは、主にすぐ東の湘南台駅からやってくる。南の辻堂駅からは多くない。全体としては右上、つまり東京方面から来る人が多く、左下、つまり湘南方面から来る人は少ない。湘南藤沢キャンパスなのに!みたいなことが分かる。
石川さんは「愚直に、執拗に、丁寧に」という。そうやって積み重ねて初めて見えてくることがあると。本当にそうだなーと思う。
コンクリートで何をつくったっていい
次の課題は「コンクリートネイティブ」。
かつてはコンクリートがよくないイメージを持つことがあった。わだかまりのない世代として、ニュートラルな素材としてコンクリートを捉えてみるという課題。
プッチンプリンとかヤクルトを作った
手前のプッチンプリンの型でつくったやつは、「ゴットンプリン」と呼んでいるそうだ。いい名前。
そのほか、アイスやマヨネーズなど、冷蔵庫の中にありそうなものを一式つくった。
持ってみると、なめらかでひんやりして気持ちいい。それにかわいい。セメントに混ぜる砂利には、自分の地元のものを使ったそうだ。愛着も湧くだろうなと思う。
「役に立たない機械」で3年連続タモリ倶楽部に出演している中谷教授の感想だ。ゴットンプリンかわいいなと思ったけど、さすが、急に心にしみる。
「コンクリートおえかき」。水を含んだ筆でこんなふうに描くことができるし、すぐ乾く。さわると気持ちよくて、かわいくて、こんなに便利。作ってみなくちゃわからないことだ。
卒業プロジェクト
4年生は、自分だけのテーマを決めて一年間それに取り組む。卒業プロジェクトというそうだ。
ジェットコースタースケープ
ジェットコースターはふつう乗るものだけど、この方は1年かけて全国のジェットコースターを見て回ったそうだ。
乗る人にすごい体験をしてもらうために、コースは急な山なりになったり、らせん状になったりする。だから結果的に造形も素敵な、鑑賞に足るものになる。
成果を一冊の写真集にまとめたということなんだけど、なんとその帯を当サイトライターの大山顕さんが書いているのだ。どういうこと、と思ったけど、確かに大山さんしかないなと思い直した。
「UPDATION SCAPE」
テプラを捉え直したという卒業プロジェクト。
テプラをべたべたと貼られた風景は、ダサくてよくないものと思われている。本当にそうだろうか。ダサいとされながらも存在し続けているのには何か理由があるはずだ。
テプラは基本的に善意でできている。次に使う人がわかりやすいように、それまでのユーザーの声が反映されている。だから信用できるのだという。
たしかにそのとおりだ。後から手書きなりで書かれたものは信用しちゃう。「みかん」と印刷された箱に「文房具」と手書きしてあったら、文房具のほうを信用する。
42.195kmを捉え直す
東京オリンピックアーカイブ、というプロジェクト。卒業プロジェクトとは別です。
マラソンで走る42.195kmを、別の方法で捉え直す。
それがこの鉛筆
鉛筆は、書けば書くほど減っていく。42kmの距離を書いたときにちょうど使い切るように印を入れておけば、その距離を体感できる。
これいいな。マラソンコース上のランドマークを入れて、まだ市ヶ谷かとか思いたい。
神山町プロジェクト
徳島県の神山町という山あいの町に通い、その暮らしと風景を捉えるという委託研究。
神山町の風景や、使われている道具など
神山町では、暮らしに必要な道具は、スキルをもったおじいさんたちが最適な手法で作っている。そんなおじいさんたちを、Fabrication-Skilled Grandfathers 略して FAB-G と呼んでいるとのこと。
材料をとっておき、見立て、つくり、ばらし、とっておく
街では道具を自分で作ることはあまりないし、スキルを持ったおじいさんもいない。でも何かのときにとても役立つスキルだ。
レゴでつくる神山町の風景
神山町は山あいの町で、坂道を登るのに軽トラックが大活躍しているそうだ。そんな象徴的な風景をレゴで捉え直してみた。
神山町のカフェ・オニヴァ
近代的な建物と、伝統的な民家をレゴでそれぞれ作ってみたら、民家のほうがパーツが圧倒的に多かったとのこと。近代的な方はのっぺりした壁でなんとなく表現できるけど、農家の軒先には柿が干してあったり道具が置いてあったり、外から見てもディテールだらけだ。
このレゴ、今年のベネチア・ビエンナーレで展示されるそうです。すごいー。
ランドウォーク
いろんな街をみんなで歩き、それをレポートにまとめる、というものもあった。いいなー。やりたい。
港北ニュータウンのレポート
港北ニュータウンは、横浜の都筑区にあるニュータウン。
センター南駅前について
駅前をどこまで歩いても椅子があった、という報告。センター南駅前は人に優しい。
シラカシの生垣について
生垣の足元がスケスケだったという報告。外から住人以外の車が入ってこないので、境界が弱めに作られているのではないか、と。
街を歩きながらこういうことに気づいたり、お互いに報告しあうのってすごく楽しそう。ぼくだったらずっと「へぇー!」って言ってそうです。
展示会ってどうやるの?
これまで見てきた展示物は学生が作ったものだけど、展示会そのものも学生が計画して作ったものだ。
いつぐらいから準備を始めたんですか?と軽い気持ちで聞いたところ、
「去年の夏からです。それでも遅かったと反省してます」
と言われてしまった。えー!半年も前から準備するんだ。こっちはのほほんと見るだけだけど、作るのは大変なんだなあ。
リーダーの西井さん
今回の展示は、真ん中に写ってる西井さんがリーダーとして先生に指名されて、準備を進めた。学生が展示をするようないい場所は半年前にはだいたい埋まっていて、場所の確保に苦労したそうだ。
「会場が決まらないと模型が作れないし、模型がないと展示計画も作れないし・・」
と西井さん。え?模型ってなんですか?
「展示会をするときには、まず会場の模型を作って、どこにどういう展示をするかを計画するんです」
まじですか!そんな苦労があるのか。模型は研究室にあるというので、無理を承知でお願いしたところ、ご厚意で大学にお邪魔できることになりました。
SFCキャンパス内の研究棟、通称ドコモハウス。
学生のみなさんと、奥で見守る石川教授
さっそく会場の模型を見せていただいた。展示会が終わって運ぶときにちょっと壊れちゃったそうだけど、ぼくにはよく分からない。
会場の模型
おー!確かに会場こんな感じでした。
こういうのを作って、梁や柱もちゃんと再現して、机をどう並べて、みたいなことを考えるのか。ひー。
こんなふうに梁に展示をぶらさげたりするから、梁も模型に必要
西井さんはリーダー気質はまったくなかったという。一人でやるタイプだった。でも設備班、広報班、グラフィック班などをつくってみんなに仕事を振ってがんばったという。
「この人ならきっといいものを作ってくれる、と思って頼んだら、期待どおりかそれ以上がでできたときは嬉しいですね!」
と西井さん。すごい、言ってることが完全にリーダー。ぼく社会人20年目だけど全然その域に達してないです。
テプラの展示をした東さんは、車を運転して展示物を運んだ。
こういう、学生主体の展示会にはよく行くほうだと思うんだけど、今回の展示会で気づいたのは、それぞれの学生が自分以外の作品についても詳しく説明してくれたっていうことだ。
「それについては、説明のテキストを私が書いてみんなに配りました。事前に説明をシミュレーションする会もやりました」
準備、万端すぎ。それでも、終始不安で仕方なかったそうだ。
左から平野さん、稲田さん、加藤さん
周囲からは、西井さんがあまりにも不安そうでいっぱいいっぱいに見えたそうだ。
「西井さんをなんとか支えなきゃ、と思ってまわりも頑張りました」
と、(テプラの)東さん。なにこのいい話。
指図だけして反感買うパターンのリーダーとは真逆の、リーダーのために頑張ろうパターンじゃないですか。
説明する西井さん(右はし)
「帰り道の景色が違って見えた」という感想が、西井さんにとって特に嬉しかったそうだ。
「行きの道と帰りの道で風景が違って見える、と思ってもらいたかったんです」
分かる。ぼくもできれば風景が違って見えるような記事を書きたいものだと思います。
今回の展示会は、5日間で500人来ればいいかなと思っていたところ、なんと2倍の約1000人近くの来場があったそうだ。ツイッターで検索する限り好評だし、準備が報われてよかったなと思う。
後片付けもさぞかし大変だったことだろう。西井さんは空になった会場の写真を撮影していた。ぼくはただの来場者のひとりなんだけど、裏話を聞いてしまうと、みんな本当にお疲れさま、と思った。