改札をくぐったら、すでに電車の来る音が聞こえる。
自分の行きたい方向の電車が来てるのか? 階段の上からでは分からない
ホームまで降りて初めて分かる。逆向きの電車だった。
こういうことってあまりにもよくある。そして、そういうものだと思っていた。
でもこれって駅の構造の問題なんだということに、このまえ初めて気づいた。「駅をデザインする」という本を読んだときだ。
「駅をデザインする」(赤瀬達三著、筑摩書房、2015年)
本にはこうあった。
「(前略)東京の地下鉄では多くの駅で、階段の両側が壁で覆われている。このため上からホームの様子はまったく分からない」(208ページ)
両側が壁になってるからホームが見えない
いや、そのとおりだ。
実際、地上の駅だと階段の両側には壁がなくて、多少は見やすい。いうほどでもないけど。
JR巣鴨駅の例。ここが空いてて多少は見やすい。
本ではミュンヘン地下鉄駅を例にあげ、「階段の上下双方から互いによく見える空間がつくられれば、利用者のストレスは大幅に軽減できるはずだ。」(209ページ)という。
すてきなミュンヘン地下鉄駅
そうなのか。海外の駅、いいなー。
でも日本の、とくに東京周辺だと、こんなふうになってる駅はなかなか見当たらない。どこかにないのか。
本では、改札階とホーム階が違う場合に、改札階からホームの見通しがよい駅としてはJR田端駅が挙げられていた。
たしかにそうだ!
改札をくぐるとこんなふう。つきあたりの左右にホームへ降りるエスカレーターがある。
上からはホームの状況がよく見渡せる
エスカレーターを降りながらでも状況が見やすい
下からも上がよく見える
たしかにこれなら、電車の音がしてもホームまでいかずとも状況がよく分かる。田端駅のことをそんなふうに捉えたことは今までなかった。田端、すごいじゃん!
こんな駅は他にないんだろうか? 田端駅みたいなすばらしい駅を探してみることにした。
工夫はある
田端みたいに見通しよくしようと思うと、相当な駅の作り替えが必要になる。なのでそれぞれの駅では、できる範囲で工夫がしてある。
たとえばJR横浜駅。
行先の表示板がここにある
階段の根元に電光掲示板があるので、時計と見くらべれば、いま来てるのはどっち向きのどの電車なのかがいちおう分かる。
他にも、左右の壁のうち電車が来ている側に灯りをともす、みたいな工夫もあるようだ。
もちろん、田端みたいに一覧できる分かりやすさにはかなわないけど。
改札階からホームの見通しのいい駅をさがせ
田端みたいに見通しのいい駅を探したい。
そうなると、屋根を大きくとった大空間の駅ということになる。そういうのは西欧や中国など海外には多いらしい。
そんな駅の例、リエージュ・ギユマン駅。「ヨーロッパのドボクを見に行こう(八馬智著、自由国民社)」74ページより
日本にはこんな駅あるかなあと思ったら、あった。大阪駅だ。
大阪駅はすばらしい。こんなに何路線もあるのに、すべてが一覧できる。分かりやすい。空間としても気持ちいい。
でも東京周辺にはこんなのないなあ。あるかなあ。
駅を思い浮かべてみる。新宿駅。ちがう。東京駅、違う。渋谷駅、ちがう。
でも、渋谷駅にはいちおうそれっぽいのがあるのでした。
改札階のこのガラスから副都心線ホームがのぞき込めるようになってまして
のぞきこむと、こう
いちおう、ホームが見える。
田端や大阪と比べると見通しは狭いけど、地下で制約が多いなかではこれが精一杯だったんだと思う。ほんとはもうちょっと見えてほしかったけど・・。
そういえば、横浜のみなとみらい線の駅は空間が大きかったような気がする。行ってみた。
みなとみらい線の元町・中華街駅
地下鉄なのに天井が高い! 期待がたかまる。
ホームに降りるエスカレーターは奥にある。なので改札階からの見通しはよくない。ところが、エスカレーターをちょっと降りてみるとこれがいいのだ。
エスカレーターで降りていくと・・
中腹で一気に視界が開ける!
なので、ホームのかなり手前から状況が分かる。便利だし、気持ちもいい。
逆からみると、こう
ホームの中ほどは、ふつうに天井が低い。エスカレーターの手前だけ天井を高くすることによって、見通しをよくしているのだ。
なるほどー。いいねー。
千里中央駅があった
改札階とホーム階の見通しがいい駅といえば、大阪の千里中央駅があった。忘れてた。
ホームから見上げたところ。
改札階からホームを見たところ
見通しがいい。いま電車がちょうど来たのか、しばらく余裕があるのか、すぐ分かる。
すばらしい。東京メトロもこうなってほしい。
約束の地、みなとみらいへ
みなとみらい線は全般的に見通しがよくて素敵なんだけど、いちばん感動したのは、みなとみらい駅だ。
ホームを降りると、いきなりこんな景色。
地下鉄なのに、ホームの上が筒抜けになってる。
本では、こういうパターンを「吹き抜けでつながるホームとコンコース」と書いてあった。なるほど、「ホームが筒抜け」よりそれっぽい。
そして上の階からの景色がこれだ。これを見たときは本当に感動した。
改札とホームを見下ろす
画面の左下にホームがある。改札に向かうエスカレーターを降りる人は、この時点でホームと電車のようすがよく分かる。実際、エスカレーターを利用する多くの人が電車を見ていた。
そして、画面右上にでかいガラス張りが見える。これもそれっぽく言うとカーテンウォールというようなんだけど、とにかく外の光が差し込んでるということだ。地下鉄に!
地下鉄のホームに日光が直で届いてる駅なんて、他にあるんだろうか。この駅は全体的に、お客さんが分かりやすいように、そして過ごしやすいようにという意図がバシバシ伝わってきて、感動した。
番外:改札とホームが同じ階ならふつうに分かりやすい
いままでの話は、改札階とホーム階が違う駅のことだった。といっても東京周辺のたいていの駅はそうなんだけど。
小さな駅だと改札とホームが同じ高さにあるので、これまでの話は関係なく、ふつうに見通しがいい。
分かりやすい!
だからすべての駅がこんなふうなら、それはそれでいいんです。
みなとみらい線はいい
まず、田端を見直した。サマンサ田端とか言ってる人は反省したほうがいい。ぼくのことだ。
それから、日常のちょっとした「不便だな」という感覚を忘れて、そういうものだと思っちゃいけないということだ。
みなとみらい線の駅は空間が広いなと思ってたけど、ちゃんと意図があってそうしてるんだと、はじめて理解できました。
あと、いくらホームのようすがわからなくても、階段を駆け下りたり、かけこみ乗車はやめましょう。ぜったい。
なお、今回の記事作成にあたって知人の
大貫剛さんにアドバイスをもらいました。ありがとうございました。