ネコを飼えない体質
すまない、つい声を荒げてしまった。
なにも僕はネコが嫌いなわけではない。
むしろ好きで、飼いたかったのだ。あれは8年くらい前だろうか、ネコが飼いたくて、数か月かけて妻を懐柔し(PCの壁紙をネコにする等の巧みなサブリミナルを使った)、なんとか「じゃあ飼おうか」というところまでこぎつけた。飼う前にどんなネコがいいのか見に行こうと、ネコカフェに行った。そこで猛烈な目のかゆみとくしゃみに襲われ、自分の体質に気づいて断念した。
僕はネコを飼えない体質だったのだ。
しかし憎しみは何も生み出さない
ネコを飼っている人よ。あなたにはネコがキーボードに乗っている写真をSNSにアップする自由がある。しかしそれを見た僕が「いいから働け!」と思うこともまた自由である。そうだろう?
自由である、が……。
僕はうすうす感づいてもいる。そうやって反発ばかりするのもまた、非生産的なのである。GDP上昇に貢献していないのは僕のほうなのではないか。
僕は心を入れ替え、自分のネコを作ることにした。アレルギーにならないやつを。
我が家の初ネコ
こうして我が家に1匹のスコティッシュフォールドがやってきた
箱から出してあげた
そしてこの電池ボックス!
うちのスコティッシュは単3電池2本で動く。
最初ゆっくり歩いて、ちょっと鳴いて、そのあと早く歩いて、またちょっと鳴く。
機械だから
しかし残念ながらそのあとは同じパターンの繰り返しである。なぜなら機械だから。
僕はこれをもうちょっと動物らしくしてやりたい。
そこで立ち返るのが、冒頭の「仕事してるとキーボードの上で寝にくる」である。ネコの気まぐれさ、そして飼い主との関係性を象徴するようなこの動作。機械じかけのネコに命を吹き込むのにうってつけではないか。
しばしの改造タイムを経て
こうしてうちのネコも、仕事を邪魔してキーボードの上で寝る能力を手に入れた。その様子がこちらである。
ネコが寝たあと、「これじゃあ仕事できないよー」的なセリフを入れるつもりだったのだが、ほとんど突然死みたいな倒れ方をするので思わず笑ってしまった。
目を開けたまま寝るタイプ
あとにはネコが打ちこんだ原稿が残された
新ジャンルの誕生
機械のネコに命を吹き込むつもりだったのに、できたものは突然死という皮肉。
「バタン」と音を立てて倒れるところと、倒れる前に一瞬動きが止まるところが突然死っぽい原因だろう。直せなくもないけど、しかしこれはこれでカワイイのでそのままにしておいた。「突カワ(突然死かわいい)」という新ジャンル誕生の瞬間である。
さて、もう一つやっておくべきことがある。SNSで、困っている風の文面で自慢するのだ。
TwitterとFacebookに投稿した。
Twitter
Facebook
大満足である。冒頭であんなことを言ってしまったが、いま思い返すと、僕はこの「ネコがキーボードの上で寝ている写真をSNSにアップする」行為に憧れていたのかもしれない……。
メイキング
さてここからしばらくはメイキングである。そのあともう1ページあるので、興味のない方はカーソルキーの右を押してさっさと次のページに進もう。(この機能、知ってた?)
先ほど紹介したとおり、今回は市販のネコのおもちゃをベースにしていて、改造点は主に3つだ。
・ネコの進路上にキーボードがあったら感知する
・そのタイミングでネコの動きを途中で止めて、
・ネコを寝かす
ひとつずつ実装していく。
ネコの進路上にキーボードがあったら感知する
動物としては自分でキーボードを探して向かっていくのが満点だろうけど、そこまでの技術力はなかったので、「進路上にたまたまキーボードがあったら見つける」にとどめた。
世の中にはいろんなセンサーがあるが、キーボードを感知するキーボードセンサーというものはない。ここで試行錯誤があった。
たとえば、RFIDのリーダーとタグ。
RFIDは、タグに直接触れなくても近づけるだけで情報を読み込める技術。わかりやすい例でいうとSuicaとか。リーダーをネコに搭載すれば、あとはカードをキーボードの上に置いておくだけで、近づいたときに感知できる。
これは便利そうだったのだけど、電波法の問題があってやめた。リーダーから電波が出るのだけど、無免許の僕が一定以上の強い電波を出すと法に触れる。今回の用途はたぶん大丈夫なレベルだけど、測定ができないので本当に大丈夫か証明のしようがないのだ。
次に、カラーセンサー。
青、赤、緑の3つの光の強さを測れる光センサ。組み合わせで色がわかる。
試してみたところ、光センサなので周りの明るさの影響を受けてしまい、ちょっと使いづらかった。
最終的に行きついたのがこれ。
フォトリフレクタというやつ
ケースに2つ丸いものが入っているのが見えると思う。片方は赤外線を出すLEDで、もう一つは赤外線センサ。出した光の反射を読み取ることで、前方に障害物があるかとか、その距離を調べることができる。……というのが一般的な使い方なのだけど、もうひとつ電子工作でよく使われる用途がある。
黒は光を反射しにくいので、フォトリフレクタを使って床の色が黒か白かを判定することもできるのだ。
ちょうどキーボードが黒い
自然光でなく反射光を使うのでカラーセンサより値も安定しやすい。というわけでこの部品で、黒いキーボードを感知することにした。
指を近づけるとLEDが消えるのがわかるだろうか。
黒いキーボードだと消えない!
ネコの動きを途中で止める
ネコを寝ころばせたとき、動いていると転んでもがいているようにしか見えないだろう。なので動きを止めたい。
動きを制御するためには、ネコの中の回路にアクセスする必要がある。分解だ。
ところがこのネコ、まずどこから毛皮を外していいのかがわからない。ダメもとで検索したところ、
すごいサイトに行き当たった。膨大な数のおもちゃの修理法が載っている。圧巻!
それによると毛皮はホットボンドで止まっているからドライヤーで外せるらしい
足が露出してケンタウロス状態になったネコ
お尻にモーターが入っていた
電池ボックスに穴をあけて、モーターにつながる銅線を外に引っ張り出してくる
ネコの動きをON/OFFさせるにはこの部品を使う。
リレーといいます
これを使うと、ひとつの回路(今作ってる方)から別の回路(ネコの回路)をON/OFFできる。センサーとネコの動きを連動させられるのだ。
組み込む
ネコを寝かす
そして最後の機能。ネコを止めたら、次に横に倒す。本当はネコが足をまげてヨイショっと寝るようにしたかったのだけど、難しかったので、バランスを崩して倒すことにした。
さっきの動画にももう出てたけど、サーボモーター。
無限に回転する普通のモーターと違い、自由な角度で止められるモーターだ。これに棒をつけて左半身を持ち上げると、バランスを崩して右側にコロッといく。
ほかの部品を基板にまとめて、サーボモーターをつけたところ
おなかにつけて、完成
こうしてうちのネコはキーボードの上で寝ることができるようになったわけだ。
改めて動作風景の動画を貼っておこう。
次は、本物のネコを飼っている人に自慢しに行きます。
ネコを飼ってる人に見せる
個人的には(突カワという予想外のかたちであったにしろ)愛らしい仕草ができたので大満足である。本物のネコを飼っている人にも自慢しに行こう。
左、ライターのべつやくさん。今は飼ってないけど実家でネコを飼ってた
ネコが倒れた瞬間に大きくのけぞっての爆笑
めちゃくちゃウケたものの、実家にいたネコとは違うとのこと。そして衝撃の事実が明かされた。
ネコはこんな姿勢で寝ない
ネコはこんな姿勢で寝ないそうだ。
なるほど、姿勢のことは一切考えずに作ってしまった……。
画像検索で「ネコ 寝てる」で検索したところ
確かに、体はまっすぐのまま足を折り曲げて寝たり、丸くなって寝たりしているものが多い。中には横倒しになってるネコもいるが、こんな死後硬直みたいにピンとしてないのである。
僕はてっきりバタンと倒れる動作のほうに問題があるのかと思っていたが、寝相のほうもおかしかったようだ。なるほど…。
あと、黒い床に置くと即死することが分かった
ネコという概念
もう一人、現役でネコを飼っている、編集部 安藤さんにも見てもらった。
以下、安藤さんのコメント。
・うちのネコもこれよくやる
・リアルかどうかは別として、かわいい
・動きの再現性はともかく、ネコのネコらしさをよく表している行動なので、目の付け所はすごくいい
気に入ってもらえたようだが、「リアルかどうかは別として」「動きの再現性はともかく」とすべての文に条件が付いていたのが気になった。ネコオーナーとして譲れないものがあったのかもしれない。
安藤さんちのネコもキーボードに乗る。国語辞典の「鎮座」の項目に貼りたいくらいの写真
ネコに貴賎なし
生きているネコとはいろいろ違った形になってしまったが、とはいえこの子はかわいいうちのネコである。買った当初は「工作の材料」という感覚だったのが、毛皮を剥いたり戻したりといじっているうちにすっかり愛着がわいてしまった。
またネコを飼いたくなったらこのネコの突然死でも見て、気を落ち着かせようと思う。