そもそも定礎ってなんだ
いろんな定礎
そもそも「定礎」とは何だろうか。
いくつかの辞書の情報をまとめると、建設工事の開始を記念し、建物の安泰を祈るために行われる定礎式で設置される礎石、ということらしい。
何食わぬ顔で鎮座しているが、建物の安泰の願いが込められている
礎石というのは、元々は建物の土台となる石のことだが、だんだんと形骸化が進んで、現在のように壁に「定礎」と書かれた石を埋め込む形になったようだ。西洋建築におけるコーナーストーンに由来するという説もある。ふむふむ。
定礎の楽しみ方
そんな定礎だが、注意して観察してみると、それぞれに個性があって面白い。特にフォントが好きな方は、ぜひ文字部分に注目してみて欲しい。見過ごしがちだけれど、ここは味のある手書き文字の場合が多いのだ。
定礎の文字にも個性がある
中でも私が気に入って集めているのが、「字の下手な定礎」シリーズである。シリーズって言っても、私が勝手に言ってるだけなんだけども。
字が下手な定礎シリーズ
気の毒になるくらい字が下手だ
一度こういう定礎を見てしまうと、もう定礎の虜である。他にはどんな定礎があるのだろうと、気になって仕方がなくなる。そしてこう思うだろう、もっといろんな定礎が見てみたい! と。
定礎を探して
いろんな定礎を見るには、地道に自分の足で探すしかない。しかし、ここで困った問題がある。定礎がどこにあるのか分からないのだ。
経験上、なんとなくビルのエントランス付近にあるというイメージがある。しかし、大きなビルになるとエントランスが複数ある場合も多いし、どこを探せばいいのか迷ってしまう。
定礎はビルのエントランスにあるイメージ
例えば東京駅の定礎はどこにある? と聞かれて、すぐに分かる人はあんまりいないのではないか。いたら、その人は間違いなく定礎マニアだ。
定礎は南東にある?
何とか定礎を見つけやすい方法はないかと調べていたとき、「定礎は南東にある」という気になる情報を見つけた。これは北東の方角がいわゆる鬼門、南西が裏鬼門に当たり縁起が悪いため、それを避けて南東ということだとは思うが、今ひとつ出典がはっきりしない。
しかし、これは定礎ウォッチャーにとって有用な情報である。もし南東に定礎が多いなら、そこを重点的に探せば効率的に定礎が見つけられる。これは、実際に調べてみるしかない。
早速、定礎を求めて街に繰り出した。果たして南東に定礎はあるのだろうか?
地図を片手に建物の南東側を目指す
大阪駅の定礎
どうせなら最初は巨大な建物の定礎をと思い、関西の玄関口、大阪駅にやってきた。
大阪駅。広すぎて、定礎がどこにあるのかなんて見当も付かない
大阪駅の南東はこの辺り。ここに定礎があるのか?
メインの動線ではない通路なので、人も通らずひっそりとしている
本当にこんな場所に定礎なんて……
ん?
あった
本当に定礎があった
南東にあるという情報だけで、広大な大阪駅の中で、なんと定礎を見つけることができた。ビックリである。いや、これは期待していた結果なのだが、ここまで簡単に見つかるとは思わなかった。
いきなりの南東定礎(以降、南東にある定礎を「南東定礎」と呼ぶ)の発見に気をよくした私は、その足で大阪駅前にあるビルの定礎調査を行った。
しかし後が続かず
この調子で何も考えず南東に行けば、どんどん定礎が見つかるかもしれない。すごいぞ、南東定礎! ……と思ったのも束の間。
南東角だけど、特に何もない
ここにもない。あれ?
あまりに南東定礎が見つからないので、そんなはずは……と思いながら、意地になってどこに定礎があるのか、ビルの周囲をぐるぐると探し回ることに。
結果、なんとか5つの定礎を発見することができたのだが、その方角を見て愕然とした。
大阪駅前第1ビル定礎
大阪駅前第2ビル定礎
大阪駅前第3ビル定礎
大阪駅前第4ビル定礎
大阪マルビル定礎
この通り、てんでバラバラの方角にあり、マルビルなんて思いっきり鬼門の方角にあった。おお、なんてことだ。定礎南東説は音を立てて崩れていった。
作戦変更
このままでは、「南東に定礎はない」という結論であっけなく終了してしまう。ここは、もっとサンプル数を増やして調査する必要がありそうだ。
そこで、効率的に南東定礎を探す策を考えた結果、次のようなやり方を思い付いた。題して、御堂筋北上・南東定礎探索作戦である。
建物の東側を北上することで南東角を一気に探索できる
つまりはこういうことだ。御堂筋は、大阪市内の中心部、主にビジネス街を南北に突っ切る大通りである。この通りを北上することで、次々と現れるビルの南東角を素早くチェックし、効率的に定礎を探索していくことができるのだ!
そんなわけで、南側の道頓堀橋を起点に探索スタート
南東定礎探索作戦
この方法で定礎を探索すると、自分でも驚くほど定礎の発見効率が上がった。
このいかにも南東角っぽいところに文字が見える。近づいてみると
やっぱり定礎だ
こういうエントランスは非常に匂うので
回り込んでみるとそこには
定礎、あるよね。文字のバランスがかっこいい
紛らわしいけど、これはたぶん定礎ではない
これも違うな。だんだん四角い銘版は全部定礎に見えてくる
さすがにアップルストアにはないだろうと思いつつも、少し念入りに探索してみる
勝手口まで銀色で未来感があったが、残念ながら定礎はなかった
純粋南東定礎の存在
さて、探索しているうちに、これは! と思えるような定礎がいくつかあった。
これまで見てきた定礎は、ほとんどがビルのエントランス付近にあるものばかりであった。エントランスがたまたま南東にあるので、それに付随して定礎も南東にあるというパターン。
エントランスにある定礎の例
しかし中には、エントランスでもないのに、唐突に南東に位置する定礎が見つかったのだ。
こういうやつだ。
建物の南東角、何もない壁にいきなり現れる
定礎。どーん
これを便宜的に、「純粋南東定礎」と名付けたい。
何がすごいって、南東に置く必然性がまるでなさそうなのに、わざわざ南東に置いてあるところだ。つまりは、何らかの風習に従って、この場所を選んで定礎を設置してあるに違いないのである。
これって、「定礎は南東にある」という説の裏付けにはならないだろうか。
高くそびえたつ壁、そこに突然あらわれる
純粋南東定礎
完全に街の風景と調和している
これも純粋南東定礎だろう。堂々たる面構え
そんなこんなで、いくつかの発見を残して、作戦は北側の淀屋橋で一旦終了とした。
淀屋橋交差点で終了。お疲れ様でした
結論:定礎は南東にある?
この御堂筋北上・定礎探索作戦で見つけた定礎の数を報告しておこう。
調査したビル数: 60
南東定礎: 13
――――――――――――
南東定礎率: 22%
この通り、定礎が南東にある確率は約22%という結果となった。
大阪駅前での調査結果(6つ中、1つが南東定礎)も含めると、南東定礎率は21%である。
八方位に均等に定礎があった場合の確率は12.5%なので、それよりは高い――高いのだが、「定礎は南東にある」と大見得を切るには微妙な数字になってしまった。
ただ、このたび見つけた純粋南東定礎の存在によって、定礎を南東に置く文化が確かにあると確認できたのは、大きな成果ではないだろうか。
非常に有意義な調査であったと言える――ということにしたいと思う(強引)。
そんなわけで、結論。
定礎は南東にあるのか? という問に対しては、約21%の確率で、ある。それ以外は大体、エントランスにある。
定礎の場所に迷ったら、まずはエントランスを。エントランスが分からなければ、とりあえず南東を見よ! ということでひとつ。
なんとなく南東へ
道中にあった神社でおみくじを引いたところ、「方角 東南によし」という運勢が。何やら運命めいたものを感じた定礎探索であった。