貸し切り電車に便乗することになった
なぜ突然、車両基地に入れてもらえることになったのか?
11月4日(2017年)、東急東横線の車両基地である元住吉検車区から、そのまま東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道線を経由し、埼玉スタジアム2002の最寄り駅、浦和美園駅までほぼノンストップ運行する特別列車が運行された。
この特別列車は、この日に行われた、Jリーグカップで、川崎フロンターレを応援するサポーターを運ぶための電車で、我々は、その特別列車に同乗することが許されたというわけだ。(特別列車の詳細はこちら→
直通貸切臨時列車プラン「11/4 ルヴァンカップ決勝戦 イッツコムpresents応援ツアー」)
乗車のさい、駅から乗車するのではなく、車両基地から直接乗車して、そのまま乗って行けるというスペシャルな体験ができるときくと、勝手に出発進行してしまうぐらいたまらない。(比喩です)
そこで、当サイトでもとくに鉄道に興味があるウェブマスターの林さん、ライターの萩原さん、そして私、西村でもって取材におもむくことになった。
なかでも、車両基地に関しては、ライターの萩原さんは
「車両基地巡り」、「車両基地のここはすごい」(https://dailyportalz.jp/b/2009/03/26/b/)などで、たびたび記事にしているので頼もしい。
朝6時30分に集合
当日は、元住吉の車両基地に6時30分集合であった。
遅刻しました
ところが、私西村、集合時間に盛大に遅れた。早朝の電車のダイヤグラムをナメていた。時刻はすでに7時。集合時間が6時30分だったので、30分遅刻だ。
ただ、取材に余裕を持たせるために、あえて早めの集合時間にしておいたのが幸いして、車両基地をまったく見られないということはなかった。
が、肝心の萩原さんがなかなかこない、連絡してみると、これまた盛大に寝過ごしたらしい。
ライターどもの、朝の弱さたるや。である。
せっかくなので、萩原さんには、メッセンジャー越しに「車両基地をかっこよく撮影する」ためのアドバイスを貰うことに。
林さん「車両基地ってどんな感じに写真撮ったらかっこいいですか?」
萩原さん「たとえば電車の整列っぷりに注目して写真をとるのはどうでしょう?」
整列っぷり
上の写真は萩原さんが送ってきてくれた作例の写真だ。これは長津田の車両基地だろう。さまざまな種類の電車だが、横一列にピタッと同じ位置に停車しているのがかっこいい。
アドバイスを受けて、林さんが実際に写真を撮ってみる。
整列っぷりを……
うーん。
林さん「あんまり整列してないですね」
萩原さん「あ、ホントですね……では、電車は無視して、車止めや架線柱の整列具合に注目するのはどうでしょう。」
整列してる信号
萩原さんから今度は、信号が整列している作例が送られてきた。あぁ、これはたしかにかっこいい。
この車両基地にも架線の端っこがズラッとならんでいるところがある。
このへんはどうだろう?
萩原さん「架線を引っ張ってる構造が、すごくいいと思います!」
線路と同様、架線にもいちばんはじっこがあるはずだが、いままで架線のいちばんはじっこは気にしたことがなかった。
滑車(?)になってる
架線のはじっこは、物理の問題で見かけるような滑車のような形になっており、架線をおもりで引っ張っている。あらためて、架線のはじっこはこんなふうになっているのかと、感心する。
こういう、普段あまり見かけない部品がズラッと並んでいるのがかっこいい。車止めも、よく見るといおもしろい。
車止めもよくみるとおもしろい
なんかゴージャス
車両基地仕様なのだろうか? 普通の駅にあるような車止めよりもごつくて黄色い。
きれいに整列しているわけではなく、ところどころバラバラなのも枯山水の石のような趣きがあってよい。
せっかく敷地内に入れたので、近寄らないと気がつかなそうな場所をいろいろ撮ってみた。
「同じようなものが並んでいる様子」はおもしろい
「入」の表示
「元住」は元住吉の略だろうなーということだけはわかる
敷地内に入れる。といっても、自由にどんどん入っても良いわけではなかったので、限られた場所から撮る写真は自ずと限界があるので、検車場の建物の中に入ってみた。
遠近感のクセが強い
検車場の建物は、電車がそのまままるごと入るので、電車よりも何回りもでかくて、長い。
外だと、遠近感の出る写真は撮れなかったが、検車場の中にはあった。
車止めが壁に書いてある
イッツコムの提供でお送りしております(手に持ってるキャラクターはイッツコムの公式マスコット「コムゾー」です)
電車をこの位置から眺めることなんて、ふつうない。改めて電車のデカさを思い知る。電車デカイ。
普段見られない電車の足回りをじっくり鑑賞できる
検車場だから、電車をくまなく検査できるように、線路が高めについており、電車が若干浮いている。だから、屈まずに車輪のまわりがどんなふうになってるいるのかをじっくり観察できるのがいい。
そこで、いつも不思議に思うのは、車輪がぐるぐる回っていることだ。これがほんとうに不思議でたまらない。
みなさんいっせいに「はぁ?」となったかもしれないが、ちょっと話を聞いて欲しい。
物と物がこすれると、摩擦でめちゃめちゃ熱が出ることは皆さんご承知だと思う。ましてや、電車。車輪の上に巨大な車体がのっている。高速で回転する車輪の上に、ただポンと車体をのせただけでは、走行中、摩擦熱でいちいち発火して大変なことになってしまうのは想像に難くない。
しかし、電車は(自動車もそうだけど)そうならない。いったいどれほどミラクルでハイテクな技術が使われているのか。
ベアリングである。
ハンドスピナーのくるくる回ってるあの部分だ。ベアリングってほんとにすごい。地面を走る世の中の乗り物という乗り物にはほぼ使われている技術だ。
古代エジプトで発明されたというベアリングだが、単純な仕組みは数千年たった今でも変わらない。
こんなふうになってんのか
電車で使われているベアリングは、玉軸受ではなく、円筒ころを用いたものらしい。
おおざっぱな原理としては、でかい石を運ぶさい、木の棒を石の下に入れてひっぱっていることがあるが、あれを、車軸ごとにやっているわけだ。
そんな電車のベアリングを間近で見られてほんとうにうれしい。
これこれ。ベアリングですよ、すごいなあ、ベアリング
このままだと、電車の車輪の写真ばかり載っている記事になってしまうので、車輪の話はこれぐらいにしておきたい。
めちゃめちゃ暑くなるので空調入れた
こちらの写真をごらんいただきたい。
象の鼻っぽいのはなにか
検車場の中だ。
電車を引き込む線路の上に、電車の屋根やパンタグラフを検査するための足場が天井から吊り下がっている。
そしてその下にブラーンと蛇腹のぶっといホースみたいなものがぶら下がっている。目立つので気になってしまう。
ここから、消毒用の何らかの気体が吹き出て、電車内を消毒するとか、清掃のさいに使う洗剤的な泡がもこもこでてくるのか……。
これはいったいなんなのか?
正解は、作業員のためのエアコンだった。
夏場になると、車検場の中は気温が40度以上に上がることもあるらしく、冬は冬で寒くなり、かなり過酷な環境らしい。
そこで、作業員が居る周辺だけでも空調が出来るよう、このようなホースが取り付けられているらしい。
この検車場の建物は、2012年にできた建物で、それ以前は空調の設備が無く、とても大変だったらしい。
いよいよ出発
検車場の中を見ているうちに、出発時間が近づいてきた。
乗り込みます
車内は、まあ、普通
当たり前だけど、車内は、とくに変わった様子はない。
しかし、窓の外が検車場内だというのはちょっとした特別感がある。この、どうでもいいけど、スペシャルな感じ、これがいいのだ。
窓の外は検車場
電車が発車した
電車が動き出した。
この特別列車は、元住吉の検車場を出発したのち、武蔵小杉駅に一時停車し、目黒駅までむかう。
電車洗うやつだ!
私鉄の貸切列車運行はよくあるらしいけれど、東急線、東京メトロ線、埼玉高速鉄道線と、他社の路線を複数経由する貸し切り運行はなかなか珍しいという。
貸し切りの特別なアナウンスがはじまった
この列車は、基本的に東急の車両だけれど、いくら貸切といえども、やはり普通の乗り入れの通勤電車のように、線路の管轄が変わるところでは、運転士は交代する。
元住吉駅の踏切で仲間の川崎フロンターレのサポーターが待っててくれた! 応援の応援ということかな。「投げコムゾー!」というダジャレに元気をもらいました
武蔵小杉駅を出発すると、目黒駅など幾つかの駅で列車は停車するものの、貸し切りなのでドアは開かない。
電車を待っている一般のお客さんが一瞬「え?」となるのが気の毒だけどおもしろい。
駅に停車するけどドアはあかない。普通のお客さんは「えっ?」となるが、サッカーの応援で埼玉スタジアム2002へ向かうために電車を待ってる人はすぐに「あ、サッカーの応援の貸切列車ね」と、手をふってくれる
貸切なので、運転士の交代でなんどか駅には停車するものの、乗客の乗降はできない。その為、スタッフの方がやたらトイレを心配していた。
電車が出発すると「終点の浦和美園駅まで、基本的には乗り降りできません。しかし、どうしてもという方がいらっしゃったら目黒駅だけでは、下車することができます。しかし、再び乗車することはできません、覚悟を持って、目黒駅で降りたいという方がいらっしゃいましたら、お近くのスタッフに申し出てください」という。人生の選択みたいなアナウンスをしていた。
ただ、目隠し用の大きめのダンボールと、使い捨ての簡易トイレは持ち込んであったので、途中で脱落者が出ても、最悪の事態に陥らないためのケアはできるよう、いちおう準備はされていた。さすがである。
目黒線内を走行中
東京メトロ線内を走行中
浦和美園駅についた!
そして、列車は順調に運行し、途中で脱落者もでることなく、1時間ほどで浦和美園駅に到着。
浦和美園駅は、サッカーのサポーターでごった返していた
見かたをかえるということ
ふだん、金網越しにしか見られない場所に、近寄って見られるということは、なかなか得難い体験だ。
さらに、いつも見慣れている電車も、足元から見上げることでやっと気づくこともおおい。
視点をかえる、とか、ものの見かたをかえるというのは、いろんなアイデアを考える中でよく言うことだけれど、じっさい、ほんとうに、リアルに変わった場所から見慣れているものを見るというのは、いろいろな発見があるし、なによりも純粋におもしろい。
「視点をかえる」という行為の、重要さを改めて思い知った。
遅刻したのは、本当にすみませんでした。