ソウルで焼き魚定食を食べる
眠らない町、東大門のキラキラした表通りから、すこし裏道に入ったところに、ひときわ煙たい通りがあった。
煙が光ってる
東大門の焼き魚通り
2、30軒ちかくの食堂が軒を連ねているけれど、いずれの店も軒先で魚を焼いている。
「魚を焼いて提供する」という食堂が2、30軒も密集しているのだ。
同じ調理法の同じようなメニューを同じように提供する同じような店舗がこれだけ密集する場所は、東京だと月島のもんじゃストリート以外、ちょっと思いつかない。
店の入口では、アジュンマ(おばちゃん)が、いろんな形の魚をジュージュー焼いている。もうもうと立ち上る炭火の煙。魚が焼ける時に発生する脂の香ばしい匂いに辛抱たまらんとなり、店に入ってしまった。
かー、うまそう
韓国料理というと、プルコギやタッカルビといった肉料理を思い浮かべがちだが、魚もよく食べる。
ただ「焼き魚」なんてのは、魚を焼いただけであるからして、世界中のどこにでもある魚の食べ方だ。
わざわざソウルまできて焼き魚を食べるというのも、なんだかもったないない感じがするかもしれないが、見た目と匂いに負けてしまった。この感じ、完全に「目黒のさんま」の殿様である。
店内は1階と2階があり、2階に通された
座敷だ
だいたい700円から1000円ぐらい?
ハングルのメニューである。
さっぱりわからない。しかし、このお店は、日本語が併記されたメニューを持ってきてくれたので、指差しで注文することができた。
おすすめはサワラ(サムチ)の焼き魚だと言われたけれど、サバ(コドンウォ)が食べたかったのでサバを注文する。7000ウォン。
まずは、ごはんとお味噌汁の他に、おかずが次々に運ばれてくる。
韓国の食堂だとこれぐらいのおまけがつくのが普通
20数年前、はじめてソウルを訪れたとき、食堂に入って注文すると、メインディッシュ以外で次から次へと小皿でおかずを出され、このおかずをすべて食べきらないと失礼かとおもい、頑張ってぜんぶ食べたりしたこともあったが、どうやらこういったおかずは、食べきれないのであればふつうに残していいらしい。
続いてメインディッシュの焼きサバである。
はいきました
サバを持ってきてくれたアジュンマによると、醤油にわさびを溶いてつけて食べろという。
焼き魚にわさび醤油。
仮にも、魚の食べ方においては、他国人よりも一家言ある日本人として、「焼き魚」に「わさび醤油」を付けて食べるというのはかなりインパクトがでかい。まったく想定外であった。
え、うまいのそれ? と半信半疑でわさびの入っている容器をあけるとこのありさまである。
油粘土っぽい
おもわず「油粘土かよ」と声を出してツッコんでしまった。ただ、見た目は油粘土だが、香りは一応わさびである。
恐る恐る醤油に溶く
魚の身をほぐして、わさび醤油でいただく
うわ、こりゃうめえ
焼き魚にわさび醤油。わさびが若干毒々しい色ではあるものの、この組み合わせ、なぜ今まで誰もやらなかったのだろうか? というほど、ぴったりの組み合わせだった。焼き魚の食べ方の正解が、こんなところにあった。
サバの脂の旨味をわさびがさらにひきたてる。最高じゃないかこれ。
そして、飯をかきこみ、キムチの付け合せを口直しで食べる。ほんとうにうまい。
日本だと、焼き魚にすだちやレモンを絞るというのもよくある。しかし柑橘系の風味は魚の臭みに負けて今ひとつ感じないことが多かったけれど、わさびはつよい。しっかり存在感をしめすものの、魚の旨味を殺さない。
いま、声を大にして言いたい。焼き魚にはわさび醤油! これは絶対だ。
完食しました
焼き魚はわさび醤油に限る
日本人として、魚のうまい食べ方は知り尽くしているつもりに勝手になっていた。
焼き魚もわさび醤油も、どっちかというと日本の方でよく消費されているものなのに、この二つを組み合わせることを、まったく思いつかなかったというのはとんだ夜郎自大であったことを猛省しなければいけない。
これからは焼き魚はわさび醤油でたべよーっと。