渋滞してるなら、跨げばいい
昨年の夏頃、ネット上で話題になった中国の乗り物のことは覚えているだろうか? 乗用車などの車をまたいで走る「巴鉄(バーティエ)」という乗り物だ。
ほんとかよこれー
道路を走る路面電車や路線バスは、しばしば渋滞に巻き込まれ、定時運行がむつかしくなる。しかし、高架や専用の軌道を作るのも大変だ。そうだ、車をまたいで走る乗り物をつくればいいじゃないか……という、直球すぎるアイデア。
これ、おもいつくところまではわかるけれど、おもいついただけではなく、実用化も視野に入れて、ほんとにプロトタイプを作って、試運転までさせちゃったらしい。その様子を伝える中国のニュース映像は
こちら。
すげえな中国。いきおいがあるってこういうことなんだろうな……と、ここまでが昨年の夏頃までの話。
その後、秋になると、なんだかあやしい噂がきこえてきた。実はあの巴鉄は、投資家にお金を投資させるためにつくったもので、実用化なんてできる代物ではない。とか、いちど試運転しただけで、関係者と連絡がとれない……といった話だ。
そしてあの、プロトタイプの巴鉄は、放置されたままになっているという。
おぉ! あの、ネットのニュースで見たやつ!
くすんで見えるな
ネットのニュースでさんざんみたやつが、ほんとにあった。
あんまりにも感動してしまったので、調子に乗って、自撮り写真も撮ってしまう。
ヒゲを剃れという話ですねこれは。すみません。
この「あー、テレビでみたやつだ!」という興奮はいったいなんなのか? 今回はテレビじゃなくてネットのニュースだが、その感動の質は変わらない。テレビやモニタで見たことを、現場で確認しているだけなのにはしゃいでしまう。
観光というのは、知っていることの確認作業でしかないとよく言うが、そのとおりである。
でかい。これが動いてたのか
正直、近づいてベタベタ触りたい。あわよくば中に乗りたい。
実際、昨年の試運転のさいには、地元の人が招待されて乗ったらしい。そのときの映像が
こちら。
しかしながら、いちおう立ち入りはできないようになっており、コンテナで作られた監視小屋に人が詰めている雰囲気があったので、近づくのは控えた。
人が見てる
カメラのレンズを望遠に付け替え、ていろいろ撮ってみる。
なんらかの電源?
ゴムタイヤ?
なるほど、こうなってるのか
足回りがどうなってるのか、ちょっときになっていたのだけど、2本、平行に掘られた溝に小さい車輪をさしこみ、その車輪がタイヤをガイドするような形になっているようだ。
日本の法律に当てはめて、考えると、さしづめ「案内軌条式鉄道」だろうか。
TEBのロゴマークかっこいい
実験線の駅
この巴鉄は、駅前のまっすぐな直線道路の一部4から500メートルが実験線となっており、駅が2つ設けられている。
水たまりのシミがひどい
臨時駅周辺には巴鉄とスローガンの書かれたポスターがベタベタ貼ってある。
理想
現実
股下の高さは2メートルらしい
巴鉄は、放置されているという噂どおりに放置されていた。施設は傷み、車体はホコリをかぶったままである。たった1年経つかたたないかぐらいの間でこんなになる? というぐらい、施設は傷みが進んでいた。
この雰囲気、夜逃げした店舗を外からのぞいてみた感じに近い。関係者が雲隠れしているという話もうなずける。
巴鉄はどこにあるのか
巴鉄の実験線があるのは、北戴河という町である。海水浴場があることで有名らしいが、駅のあるあたりは海からは離れており、海は見えない。
駅がめちゃめちゃデカい
北京から北戴河までの乗車券
中国の新幹線、和諧号
北戴河は、北京から新幹線の和諧号に乗って2時間ほどである。新幹線で2時間ということは、東京と名古屋ぐらい離れている。しかし、運賃は81.5人民元、1400円ほど、桁がひとつ違うんじゃないかと思うぐらい安い。
実は、北戴河におりたったとき、具体的に巴鉄がどこにあるのかはよくわからなかった。
ネットで実際に行った人の情報をみると「駅から歩いてすぐのところにある」としかかいてなく、駅を出てあたりを見まわしてもそれらしきものは見えなかった。
普通のバスしかないぞ
ええい、ままよと、勘で歩きはじめたものの、歩けど歩けどそれらしいものは見つからない。
目的地がわからない心細さったらない
さて、こまった。これは、そのへんを歩いているひとをつかまえて場所を聞くしか無いと思ったそのとき、荒野の向こうに青い建屋が見えた。
もしかしてー、巴鉄の倉庫だ!
あ、あれだ! と、目的地が見つかった安堵と興奮がいっしょにやってきた。
なぜか自然と小走りになり、建屋までダッシュで駆け寄り、時系列的には、最初の自撮りのくだりに続く。
動いているところを見た
巴鉄を見た後、近くの食堂に入った。客はぼくだけであった。
ワンタンスープと、肉饅頭的なものを頼んだ
軽い食事を頼むと、店の兄ちゃんが「どこからきたの?」と尋ねてきた。「日本から、巴鉄を見にきた」というと、苦笑していた。
せっかくなので、スマホの翻訳アプリを介してもうちょっと詳しいことをきいてみた。「バス(巴鉄)が、動いてるところをみましたか?」ときいてみると、「イエス、見た」という。うらやましい。ぼくも動いてるところを見たかった。
店の兄ちゃんは、翻訳アプリでさらにいろいろ教えてくれた。
お金の問題だ
不便なのか
資金だけでなく、技術的な問題もいろいろあったということか。
転向できない……
転向が大きな問題、つまり、巴鉄は、カーブを曲がることができなかった。なぜ、最初に気づかなかったのか……。
完成予想のプロモーション
動画では、華麗にカーブを曲がる巴鉄がでてくるが、よく見ると、車体自体が羊羹みたいにくにゃりと曲がっている。これぐらいなんとかなるとおもったのだろうか?
曲がることができなくても、まっすぐならいけるわけだから、大阪の御堂筋みたいなところで、梅田となんばを往復する形で導入すれば、御堂筋線の混雑緩和にもなっていいんじゃないかというきもするけれど、どうだろう。
撤去されたらしい
以上、ぼくが北戴河に巴鉄を見に行ったのは6月上旬だったのだが、しばらくすると、なにやら巴鉄が撤去されるという話になってきた。
中国の
ニュースサイトを見ると、このまえぼくが行って見た巴鉄がたしかに撤去されはじめている。
さらに、巴鉄の関係者が、違法な出資を行った疑いで公安(警察のこと)に逮捕されてしまったらしい。