おいおい、この路線図かっこよすぎだろ
皇居、山手線の丸を中心に、縦横の直線と、曲線のみで構成された東京の路線図。
東京の路線図は、オフィシャルやアンオフィシャルなものなど様々に見かけるけれど、これほど大胆に曲線を多用して、しかもかっこいい路線図は、今までちょっと見かけたことがない。
東京の鉄道路線図はよく「カオス」だなんて言われているけれど、その「カオス」な路線図を、うまく整理してかっこよく仕上げてる。
調べてみると、韓国ソウル在住のデザイナー、キム・ジハンさんがデザインした路線図だという。
キムさんのウェブサイト
「ZEROPERZERO」を見てみると、これだけではなく、もっとたくさんのかっこいい路線図があるようだ。
すっかりキムさんの路線図に魅せられてしまった、これはぜひ、ソウルに行って路線図を買いたい。
というわけで、韓国に行った。
路線図を買いに、ソウルへ
ソウルです
キムさんの運営している店舗「ZEROSPACE」は、ソウル市の西側に位置する、望遠駅(マンウォンヨク)の近くだ。
望遠って駅名がかっこいいぞ
駅から歩くこと10分ほど。住宅地のなかに「ZEROPERZERO」の店舗「ZEROSPACE」はある。
あそこが店だ!
キムさんが出迎えてくださった
ひとまず、東京以外の「かっこいい路線図」の作品を見せてもらう。
かっこいい路線図は東京だけじゃないぞ
ハート型のニューヨーク
ニューヨーク地下鉄路線図の一部を拡大したポスター
手書きバージョンまである!
ハート型のニューヨーク、通常バージョンだけでなく、アップをポスターにしたものや手書きバージョンのものなど、いくつもある。
もちろん、モチーフはアイラブニューヨークのあれですよね。しかし、ちゃんとハート型に路線図がよく収まったなぁと感心してしまう。
パリの路線図だ。エッフェル塔ですよね
またぐらのアーチ部分がセーヌ川だ
ソウルの路線図。太極旗がモチーフだ
漢江を太極旗の陰陽の境目に見立ててるソウルの路線図。漢江の奇跡がここにも。
アムステルダム。これはチューリップだ
アムステルダムは、中心部から運河が何重にも重なっているけれど、その様子がチューリップの花弁にあわせて表現されており、うなるしか無い。
うすい波線部分が運河ぶぶんだ
一見、なにがどうなってるの? と思うのがバルセロナの路線図。
普通にしかみえないけど
遠目にみると、普通の路線図じゃないかと思いがちだけど、よく見てみると。
タイル状になってる
裏面の地図。金色のインクを使ってて、なんだかゴージャス
裏には、バルセロナ市内の地図が掲載されているけれど、そもそもバルセロナ市内の都市の作りがガウディのタイルっぽいということに気づかせてくれる。
もちろん東京の路線図もあるが、書籍に載っていた黒バージョンだけでなく、白バージョンの路線図もある。
白いバージョンの東京だ
北海道!
北海道だから、雪の結晶だ。
北海道を表すのに、こんなにぴったりなモチーフはない。しかし、デザインに凝りすぎて、情報がおろそかになっているということもない。
函館の路面電車!
札幌の路面電車もちゃんとループになってる
関西地方だ
路線図のテープだ! これは、使うのがもったいないな
路線図のパスタグ
路線図ポストカード
路線図をモチーフにしたグッズは、たまに東京駅なんかのお土産売り場なんかで売っているのは見かけるけれど、これだけかっこいい路線図グッズを売ってる店は見たことがない。ここは路線図ファンにとっての聖地といってもよい。
これはたまらない。ロッテワールドとかよりも、ぜんぜんたのしいぞここ。ロッテワールド行ったことないけど。
「おもしろい感じ」にデザインした
いったいぜんたい、なぜ路線図をこんなにかっこよくデザインしようとおもったのか?
さいわい、キムさんは日本語がペラペラなので、安心してお話が伺える。
改めて、デザイナーのキムさん
「ZEROPERZERO」は、路線図のデザインだけをやっているわけではないが、韓国内でも、「ZEROPERZERO」といえば、路線図。というイメージがあるほど、この一連の路線図デザインの人気は高い。
キムさん、日本語がペラペラなのでインタビューに心配がない
――そもそも、どうして、路線図をデザインしようと思ったのですか?
キムさん「私は交換留学で、多摩美術大学に行ったんですが、最初は学校のプロジェクトで『東京のお土産を作る』というものがあったんです」
――課題のテーマだったんですね。
キムさん「そこで、グラフィックデザインで何が作れるか考えた時、鉄道路線図が、会社別で別々になっていてわかりにくい、外国人が旅行するときに1枚にまとめた路線図があれば便利だとおもったんです」
――たしかに、JR、地下鉄、私鉄が一枚に収まった路線図は……各鉄道事業者が配っているものではなかなか無いです。
キムさん「それで、普通の地図よりもちょっと『おもしろい感じ』になるような、そんなデザインで作ってみようと」
――なるほど「おもしろそうな感じ」か。「お土産になるもの」ですもんね。ふつう旅行さきの路線図って、帰ったら捨てちゃう人も多いんじゃないかな……ぼくは捨てませんけど。
キムさん「私も捨てませんよ」
――あ、集めてらっしゃいます? ですよね。路線図デザインされてますもんね。まあ、でも、一般的には破棄しちゃう人も多いと思いますけど『おもしろい感じ』にデザインされた路線図なら「記念にとっとこうか」ってなるかもしれないですもんね。
路線図を『おもしろい感じ』にしたい。という率直な動機がじつにすてきだ。
この、お土産が『おもしろい感じ』であることは、けっこう重要かもしれない。かたむけると女の人が裸になるボールペンとか、やたら巨大な鉛筆とか、そういったお土産の根底には『おもしろい感じ』というのはある。
そして、われわれ人類は、旅先での『おもしろい感じ』に弱く、つい買ってしまうこともしばしばである。
キムさん「世界ではじめて路線図を現代的にデザインしたハリー・ベック(※)さんが、距離を無視して等間隔で駅を入れて路線図を作ったんですが、そこからもう一度考えて、路線をちょっと変更しても、駅の位置や乗換駅が合っていれば路線図を見るのには問題ないので、見て「おもしろく」「たのしい」旅行をする感じで見られる路線図を作ったんです」
※ハリー・ベック/現在のロンドン地下鉄路線図の元のデザインをした人物。電気技師だった彼は、電気の回路図を見て、地下鉄路線図を簡略化してデザインすることを思いついたという。
ただ、おもしろさ優先ではあるものの、実用に支障がないよう、路線図の裏には、実際の地形に近い地図も載っている。
キムさん「路線図の方で、どこにどうやって行くのかの計画を立ててもらって、そして裏の地図で正確な位置を把握してもらう。そういう使い方を想定しています」
裏は普通の地図だ
築地市場は魚のアイコン
ランドマークは同じアイコンを使って、場所を対応させている(築地市場は魚のアイコン)
以前
「路線図」というアプリの作者・横山さんにインタビューしたことがあるけれど、「路線図」アプリの方は簡略化しつつも、実際の地形に近づけるデザインの絶妙さがあった。しかし、キムさんの路線図はそれとはまったく逆で、とにかく形としてのおもしろさを優先してデザインしている。
いずれも、できあがった路線図を見てみると、それはそれとしての良さがあり、たしかにおもしろい。
路線図には、ルネサンス美術や落語のような“まったく同じ素材(テーマ)を、どう表現するか”というおもしろさがあるのではないか。
毎年少しづつアップデートしている
――しかしこれ、最初に制作されたのは東京ですよね? 制作したのはいつだったんですか?
キムさん「たしか2006年ごろですね」
――ということは、もう10年以上まえということですね……特に東京だと、変わってしまったところもあるのでは?
キムさん「いちおう、毎年少しずつアップデートはしています」
――更新はしているんですね。なるほど。ということは、副都心線が開通したときは大変だったんじゃないですか?
キムさん「大変でした、一部デザインをかえました」
あとから入れたとはいえ、違和感なく入っている
路線図における「副都心線問題」がこんなところにも。
先日、
都営地下鉄のオフィシャル路線図をデザインされた大西さんに話を聞いたときも、副都心線は苦労したとおっしゃっていた。
ただ、日本は新規路線がそんなに増えないから、まだいい方だという。
――北京なんかは、いま地下鉄ポンポンできてるから大変じゃないですか?
キムさん「そうですね、北京は大変です。ただ、1年か2年先の予定までは折り込み済みでデザインしています」
北京のモチーフは?
――北京のこのデザインは、なにがモチーフなんですか?
キムさん「これは、漢字の中ですね」
――あ、中でいいんだ。
中国銀行のシンボルマークに似てたから、お金かなにかかと思いました。
キムさん「北京は、地下鉄に環状線がふたつあるんです」
――そのふたつで中を表現したんですね……ちなみにですが、ベルリンの路線図。これはなにがモチーフなんだろう……。
キムさん「わかりますか?」
なにがモチーフなのか?
――んー、なんだろう?
キムさん「これは、クマなんです。左を向いている」
――クマ? あ、黒いところが目だ!
ベルリン中央駅のところがちょうど目になってる。こんなところでアハ体験するとは……。
ここが目だ
ベルリンのシンボルでもあるクマの横顔と、偶然にもベルリン環状線の形が似てるなんてなかなか気づかない。
おそらく、どんな形にしてやろうか? という気持ちで地図を眺めてないと絶対おもいうかばないだろう。漫然と地図をながめててもだめだ。
まずはコンセプトありき
キムさんの路線図は、2006年、学校のプロジェクトではじめた東京の路線図のデザインだが、最初は、制作のノウハウもまったくなく、情報の探しかたさえもわからず、とても苦労したという。そのため3ヶ月の期限内には完成しなかった。その後、ソウルに戻ったキムさんは、2007年に東京・ソウル・大阪の三つの路線図作品を完成させ、展示会で発表した。
しかし、この時発表した路線図は、ローマ字表記のみだったり、私鉄の駅が全て省略されていたりして、今よりももっとコンセプチュアルなものだった。
しかし、実際の使用にもじゅうぶん使える路線図にするため、少しずつ改良を続け、最終的に現在のバージョンに落ち着くまで、2、3年かかったという。
路線図作品は特に人気が高く、以降、継続的に世界各地の路線図を出し続けている。
――北海道で雪の結晶とか、たとえ思いついたとしても、なかなかうまくデザインできるものではないですよね?
キムさん「そうですね、まずはこのコンセプトが重要なので、それがうまく思いつかないところはやらないですね」
―パリの大胆さもすごいなあって思います。
キムさん「パリは、最初からやりたかったんですが、エッフェル塔が細くて、どんなふうにデザインするのか、難しくてなかなか取りかかれなかったので、そういう意味で時間かかりました。
―エッフェル塔、細いですからね……。
キムさん「2012年頃に、セーヌ川と塔の足の部分を合わせればできるかなと、思いついてできました」
パリのメトロをエッフェル塔に押し込む発想がすごい
――大阪はなにがモチーフなんだろう?
キムさん「大阪はちょっと難しいかもしれないですね」
大阪はなにがモチーフなんだろう
――うーん、日の丸ではない? なんだろう。
キムさん「大阪は、タコですね」
――タコかー。大阪のたこ焼きかー。
構想中の都市は?
――いま、言える範囲で構いませんが、現在制作中の都市はどんなものがありますか?
キムさん「最近は、一年にひとつ、新しい都市を制作していたんですが、今年はまだ、できてないです、最近はアジアの都市に注目していて、例えば上海、シンガポール、香港といった都市の路線図を作りたいと考えていますね。ただ、リニューアルの作業も大変なので」
――そうか、古いもののアップデートもされているんですよね……作ったら作りっぱなしとかそういうわけじゃないんですよね。
お土産どっさり買ってしまった
かっこいい路線図をいろいろ見せてもらい、あらためて路線図デザインの奥行きの広さを再確認してしまった。
実際、そこにある鉄道路線は、誰が見ても同じものである、しかし、それをどのように表現するのかは、路線図を作る人のおもいによってずいぶん変わってくる。
路線図の何がおもしろいのかというと、その違いをいちいち鑑賞するのがおもしろいのかもしれない。
なお「ZEROPERZERO」の路線図は、店舗で直接買うだけでなく、
サイトでの通販や、一部の路線図の商品に関しては、東京駅の駅ナカにある雑貨店などでも取り扱っている。