きっかけは先日書いた「かえるにくがゆ」
きっかけは先日書いた「
うまいゾ!かえるにくがゆ」という記事。コンビニで見かけた「かえるにくがゆ」という製品が意外と美味かったという話なのだが、こうしておかゆになるくらいに親しまれる、カエルの立ち位置そのものに興味が出てきたのだ。
まずは、カエル肉が売られる場所に行ってみたい。よく通訳をお願いしているユエンさんに聞くと、「ベンタイン市場にあるよ」とのこと。ベンタイン市場!値切ろうがぼったくろうが上等の姿勢で知られるホーチミン最大のお土産市場じゃないか。そんな身近にあったのね。
ベンタイン市場のー。
市場北側にある生鮮食品売り場!
魚、カニ、エビ、肉、ありとあらゆるものが売られており、混ざりあった生臭い匂いが胸にズシ~ンと来る。
ベンタイン市場のお客さんはほぼ外国人旅行者だが、この売場だけは近所の住人たちの普段使いといった様子で、外国人の彼らを寄せ付けない空気が流れている。もし見かけるとすれば、通訳がいっしょのお店の仕入れだ。
お!
いたいた!
カエル、まごうことなきカエル!
カエル肉は、日本の食肉のように加工された状態では売られていない。牛や豚と違って小さく持ち運びが出来るため、生きた状態で売られている。鶏やアヒルも生きたまま店頭に並べられることが多いが、こうすることで鮮度が保たれる。生きてるから当たり前なんだけども。
あまり目を見つめると…情が移りそうで逸らします。
カエル肉をさばく手順は、頭ズドン!足ズドン!内蔵ポイッ!皮を残すかはあなたの好み!
店員のお姉さんにカエル肉のことを聞いてみた。
私「すごい数!一日にどれくらい売れるんですか?」
店員さん「10数キロは売れてるね、だいたい60~70匹」
私「多いなぁ」
店員さん「仕入れは30kgだから、余った分は翌日分さ」
私「へー、保存方法は?」
店員さん「生きていれば10日くらいは元気だよ」
そう言って「余り分」を赤い袋に詰め込む、ドナドナ…。
私「価格はおいくら?」
店員さん「養殖1キロで8万ドン(およそ400円)、野生なら13万ドン(およそ650円)」
私「お、養殖でスーパーの牛肉豚肉と大差ないんだ!お客さんみんな、家庭料理用に買うんでしょうか?」
店員さん「いやー、店の方が多いね!6:4!ベンタイン市場のカエル料理は全部うちから仕入れてるよ」
私「カエル料理、ベンタイン市場にあったのか…」
なお、このまま売る訳ではなく直前にさばく(解像度低め)。頭と足を落とし、内蔵を取り出す、皮は基本的に剥がすが、人によっては「食べたいのでそのまま残してほしい」と頼む人も。
そうして剥き身の肉と化したカエル(解像度低め)。 さっきまで動いてたカエルが。うーん、命の勉強になる…。
私「お姉さんはここで働きはじめてどれくらい?」
店員さん「7,8ヶ月かな」
私「あれ、数年とかだと思ってました」
店員さん「いろんな仕事をしてきてね」
私「この仕事、最初はどうでしたか?」
店員さん「はは、怖かったよ!」
私「え、怖かったの!?」
店員さん「でも慣れだよね、カエルは噛まないし」
「ホラ!」と袋から取り出して見せてくれた。大人しそうに見えますが、写真だから分かりづらいだけでかなりジタバタと暴れています。
売り場を見る限りだと、あくまで日常光景としてカエルが売られていた。それならば、食の現場を見てみよう。カエル肉の専門料理店へ向かった。専門料理店、です。
カエル料理はうまい!間違いなくうまい。ただ…。
カエル料理専門店、「Ech Xanh Restaurant」。
王冠を頭に載せたキュートなカエルちゃんが目印です。
このお店、直訳すると「緑色のカエルのレストラン」。ベトナムは有名なお店でも、「おいしいレストラン」なり「94番店」なり、店名へのこだわりのなさはすごい。もうなんかちょっと、頑張らないSEO対策みたいだ。
店頭のメニュー…これ全部カエルなの!?
今更だが、市場から同行してくれているユエンさんはカエルが苦手で、取材中も「ヤダ~!」「怖い~!」とか言いながら、なんだかんだでシッカリと通訳してくれた。で、私を含めそんなカエルに抵抗がある二人でお店に行っても食べ切れないだろうということで、合計で四人分の胃袋(人数)を引っさげて行くことに。
ユエンさん「ちなみにこのお店、前に来たことあるよ」
私「え?さっきから苦手って言うてたやんか」
ユエンさん「いや、店頭のカエルが可愛くて」
私「カエル料理と思ってなかったってこと?」
ユエンさん「うん」
私「最悪ですな…」
席に座って、なるべくおいしそうなメニューを頼む。
・竹の上の焼きカエル
・カエル炒めのヌクマム(魚醤)和え
・カエル皮フライのレモングラス塩和え
こうして並べてみると、改めて「カエル」の存在感がすさまじい。「鶏肉炒めのヌクマム和え」や「カキフライのレモングラス塩和え」なら、いかにおいしく読めたことか。「竹の上の焼きカエル」に関しては、カエルじゃなくても何のことなのかよく分からないけど(写真がおいしそうだったので注文した)。焼きカエルの語感がヒキガエルに似すぎて、どうも調理されたものが出てくる気がしない。
メニューを待っているとちらほら席が埋まってきた。 えー、ほんと?みんなカエルに?すごいな…。
竹の上の焼きカエル!
私「う、美味そうじゃないの!」
醤油ダレと竹の香りが混じり合い、食欲をそそる。おいこれ鶏肉でつくろうや絶対うまいぞ。が、あいにくこれはカエル肉の企画。茶色いソースが全体を覆っていることもあって、カエル感はないのでよしとしよう。
では…いただきます!
私「んぐ、んぐ、ん…う、美味いよー!!」
美味い!文句なしに!予想通りの鶏肉感!と思ったら、自分はもっと近しいものを知っている。これはあれだ、昔食べたフグだよ。高校の頃だったか、父親の仕事関係の人だろう、保冷ケースに入れられたフグが送ってこられ、その日の夜はフグ鍋に舌鼓を打ったことがあった。
鶏肉のようなガツッとしたタンパク質を感じる一方で、歯ごたえは湯がかれてプリップリに張ったタラのよう。それが私にとってフグ。グルメの人からするとバカ舌扱いされることは承知の上でー、カエル肉はフグである。少なくともこの品種は。少なくとも私にとっては。
友人たちにも、
大好評!
カエル炒めのヌクマム(魚醤)和えも美味かった!隙がないぞ、カエル肉!隙がない…と、思っていましたら!
カエル皮フライのレモングラス塩和え!
カエル皮フライのレモングラス塩和えの!!
全員「カエル感すげぇー!!」
黙っていた、場を一気に凍らせかねないので最後まで黙っていた言葉があった。「見た目ゴミじゃないか!」と。市場で見たあのカエルの模様そのままの、皮。これまでおいしいおいしいと食べられていたのもカエルなのにカエルを想像させない調理だったからで、こうもあからさまに「カエルでございます!」と強調されると…違うんですよ。
頼んだから食べるけどさー。
私「オイシイネ…」友人「それ本音?」
いや、味は美味しい、間違いなく美味しい。こういう鶏せんべい食べたことあるもん。でも分かった、本物の鶏は「鶏」という安心感もいっしょに食べていたんだな。パリッパリッシャクッシャクッ…までは良いとして、最後の最後に顔を出す「ヌルッ」という歯ざわりが辛い。本当に辛い。俺、この五年くらいは、自分にだけは嘘をつかないように生きてきたつもりだけど、今はじめて嘘ついた。「これは鶏である」って一生懸命嘘ついた。
カエル料理はブルーオーシャンだった
店長のDuongさんに話を聞かせてもらえた(左から二番目)。 お顔がどことなく、カエルっぽくあられる気もします。
私「このお店はいつからやってるんですか?」
店長「8年前からだよ」
私「へー!その頃からカエルを?」
店長「いや、最初は牛とか豚とか…とにかくいろいろ」
私「え!?どういう経緯で…」
店長「その中でちょこっとカエル料理もあったんだけど、それがえらく売れるもんで、5年前に思い切ってカエル料理専門店にしたらこれがすごい評判になったんだ」
Duongさんによると、平日は周辺で働いている会社員がランチにカエルを食べ、週末はファミリー客がカエルを食べ、いつも満席状態らしい(実際昼時にはそんな状態だった)。なんと!正直インターネットで調べて見つけただけだったのだけど、かなりの人気店だったのか。
店長「ほかにカエル料理を出すお店はなかったからね、カエルを食べたいって人がここに集まったんだろう」
私「そもそも店が少なかったんですねー」
メニューの最初にある、カエルがいかにコレステロールが低く栄養豊富で、多くの薬草に合うかという説明。
カエル肉は日本で言うところのラム肉ではないか
そのあとで友人たちに聞いてみると、ベトナムにおけるカエル肉の立ち位置がうっすらと見えてきた。
・カエル肉は牛豚鶏に比べてやはりマイナー、しかし好きな人は好き。
・すぐに使える牛豚鶏に比べて、カエル肉は骨も多いため調理が面倒。
・生息地である水田の多い平地で食べられる、高原地域出身の人間は親しみがなく食べる家庭は少ない。
・一方で、「かえるにくがゆ」というシンガポール料理があり、それは高級料理と認識されている。
・カエル肉は、食習慣に地域性もあり苦手な人も多い点で、日本で言うところのラム肉に近いかもしれない。
なるほど。「日本で言えばラム肉」ということは、ポンとヒザを打つ意見だった。北海道ではジンギスカンとしてよく食べられるが、ほかの地域ではそうでもない。独特の臭みもあるので(鮮度にもよるが)、苦手な人はとことん苦手。カエル肉に臭みはそれほどなかったが、苦手な理由が味ではなく見た目であるという違いだけだ。
最後にかえるにくがゆはシンガポール料理という情報が飛び出したが、そもそも今回のきっかけになったインスタントのかえるにくがゆは、高級感あふれる外国料理というイメージありきの商品だったのかもしれない。ちなみに、公開後に分かったことだが、メーカーはドライフードをつくりつづけているアスザックフーズという、なんと日本の会社だった。ベトナム人にシンガポール料理とは、相当ベトナムに根ざさないと出てこない発想だと感心する。
食べられる・食べられないの線引きってセンシティブ
何度も言うけど、カエル肉は美味かった。美味かったにも関わらず、模様が分かってしまう皮を食べることには抵抗を感じてしまう。「なんでイヤなんだろうね?」と根本的な話をしていると、「沼地にいるから」「ヌルヌルしてるから」「手足が人間に似てるから」という意見が出てきた。自分は意外と、みっつめの理由なのではないかと思ってる。
市場の売り場には、豚のホルモンから脳みそまで並んでいた。意外とベンタイン市場は命の勉強になる。