アグレッシブなカラーリング
まずはとにかく地下鉄構内がどんなかご覧ください。
ぼくが魅入られるポイントはたくさんあるのだが、まずは見ての通り、赤い。赤というより朱色か。いずれにせよこの大胆な色づかい。すばらしい。
そしてこの空間のTUBE具合がたまらない。シンメトリーで真ん中が階段っていう異国情緒もいい。
"Mind the gap"っていう言い方も同じだ。さすが元イギリス領、というわけか。地下鉄にかつての歴史が表れる、って面白い。
それにしてもどこもかしこも朱で徹底されている。すごい。かっこいい。地上にでて灰色を見たら補色の緑が浮かぶのではないか。
エスカレーターに乗って横を見ると、こんな感じ。
あがって、ふり返る。いい。すばらしくすてき。
改札フロアも、このように全体的に赤い。
赤い中に、地元小中学生の絵の展示。こういうのって日本と同じなのね。
以上が Tai Koo 駅。
別の駅、こちら Jordan 駅はまた全然違う色。そう、駅によって色が違うのである。
車内から駅が一目で判断できていいな、と思う。ときどきアナウンス聞き漏らして、駅着いても駅名の表示が見えなくて困ることが、日頃よくあるので。
あと、改札の中と外とでおしゃべりしている人たちをよく見かけた。
一転してシックな色合いでぼくをうっとりさせる、Mong Kok駅。この色も、いい。
こういう、間のフロアをスキップしていくエスカレーターって、なんかいいよね。上野駅とか、京阪の京橋駅とか。
ほかの駅でもちょくちょくこういうスキップするエスカレーターをみかけた。いい。なぜかどきどきする。
ある理由から、こういうスキップするエスカレーターが香港の地下鉄には多い(後述)。
このどきどきする感じは、東京モノレールが、昭和島駅と整備場駅の間で、高架から水面に開いた穴に飛び込んでいって、水の下に入っていくあの感じに似ている。
よく分からない喩えで申し訳ない。
細かいタイルがいい。これが今回最も言いたいことです
このように、まず色に惚れた。徹底してどこもかしこもテーマカラーで統一しているのがいい。すばらしいと思う。
そしてこれらがタイルであるのがポイントだ。細かいタイルなので、さわり心地が良い。つるつるとざらざらの両立。
建築とか空間のデザインって、もっぱら視覚によって語られ・味わわれがちだが、「触りたくなる」ってだいじなんじゃないかと思った。香港の地下鉄は、触りたいデザインだ。それはタイルだから。
とはいえただ、けっこう痛みがきているようで、改修に伴ってこのタイルも消えつつあるようだ。
たとえばこのAdmiralty駅。こちらはブルー。ご覧のように他の駅と同様、びっしり貼られたタイルがキュートなのだが……
いくつかの柱が、こんなことに。タイルじゃないのー!?
忍び寄るパネル化の波。まあ、パネルの方がらくちんですよね……わかるけど。タイルいいのになー。
改修工事のお知らせと、タイルをはがされた後とおぼしき光景をちょくちょく見かけた。
「香港の地下鉄といえばカラフルなタイル」というのも、もうしばらくの間だけかもしれない。タイル好きは今のうちに見に行った方が良いと思う。
ちょっと前まで東京メトロでもこういう細かいタイル貼りがあちこちで見られたが、いまやほとんど残っていない。結果として、あまり触りたいと思えない。まあ、そんなのメンテナンスの簡便さに比べれば二の次以下なのは承知しておりますが。
ところで、乗り換えがちょう便利
ここでちょっと色や空間の形、タイルの官能などから話を脱線させます(列車の話題で「脱線」ってちょっとなんだかあれですね)。
このAdmiralty駅には3つの地下鉄線が通っているのだけれど、その乗り換え経路が興味深い。
乗り換える線が降りたホームの向かい側にある。べんり!
上の写真のように、同じホームに別の線が入ってくるのだ。
こういう駅が香港地下鉄にはちょくちょくある。
このPrince Edward駅も同様。乗り換える線が、ホームの向かい側に来る。べんりだ!
東京でいうと、赤坂見附駅と同じだ。あの駅で銀座線と丸ノ内線を乗り換えるときは、列車を降りて向かい側に行けばいいだけ。子どもの時からあれすごいな、と思っていた。
こういう形式を「対面乗り換え」というらしい。
Wikipediaにも項目がある。それによると台湾も同様らしい。こんど行ってみよう。
香港地下鉄にはちょくちょくこの「対面乗り換え」形式の線・駅がある。
ただ、赤坂見附駅の向かいのホーム、必ずしも乗り換えた後行きたい方面ではないよな、と思っていた。
具体的に言うと、銀座線に乗って渋谷から銀座線に乗ってきて、赤坂見附で丸ノ内線に乗り換えて四ッ谷方面に行きたいときだ。この場合、ホーム向かいに来る丸ノ内線は逆方向なので、別のフロアに移動しなくてはならない。
ところが! 香港の場合これも解決されている。乗り換えた後、どちら方向に行きたいかによって、乗り換える駅を選べば、ちゃんと向かいにその線がやってくるのだ。すごい!
つまり2つの線が接続している駅が複数あって、行き先によって選べるようになっている。それぞれ、ホーム向かいにお目当ての線がやってくる。すごい!
はじめて香港で地下鉄乗ったときは「なんでこんなに連続して同じ線と接続しているんだろう?」と不思議に思った。謎が解けたときは感動した。
話を元に戻します(たぶん)
閑話休題。話を元に戻そう。タイルがだんだんなくなって、パネル化していく、という話に。
こちらオレンジ色が眩しいNorth Point駅。ここもパネルになっている。
エスカレーターまわりはタイル。それにしてもカラフルだ。
あー、すみません。やっぱりまだ脱線したいことがあります。このNorth Point駅近くに Chun Yeung Street という通りがあって、ここがすごいのでご覧頂きたい。
これがChun Yeung Street。いかにも香港らしいぐっとくる集合住宅と、その1階部分の充実した商店街。
ご覧頂きたいのは、この活気ある商店街の前にトラムの線路が敷かれている点。
トラムが警鈴を鳴らしながらすれっすれに走ってくる。みんな退く気配がない。見ててひやひやする。だいじょうぶなのか。
おばあちゃんとかまるでトラムが存在していないかのように、一別もしないまま平常心で歩いている。その脇をトラムがすれっすれに走り抜けていく。
トラム車内からの風景。まるで人の海の中をかき分けていくような感じ。
有名な通りなので、このありさまをご存じの方も多いかと思う。ぼくも話には聞いていたが、実際見るとやはりたいへんエキサイトした。香港、楽しい。
脱線ついでにこの通りの商店たちがいかにも香港の商店らしくてすてきだったので、ご覧頂きたい。
ほとんどが食材の店で、商店街というより市場だ。とにかくカラフルで、赤い照明ががんがん照らしてて。その活気は「他の都市が滅亡するときも香港だけはしれっと生き残ってそう」と思わせる。
「そこ、階段室ですよね?」って場所にも店が出てる。
通りのすべての店を撮影したので、ほんとうは全部お見せしたいのですが、自重しました。
どうやらこの通りを研究対象にしたらしい大学生とおぼしきふたりの女性が、撮影と調査の段取りを打ち合わせしてた。「わかるー! こりゃ調査しがいがあるよね!」って思った。友達になりたかった。
タイル好きなんだな、香港
こんどこそ話を元に戻します。地下鉄の官能的なタイルの話ね。
渋い色。さきほどの対面乗り換えシステムでおなじみの Prince Edward駅。この色もいいなー。そして若干さわり心地が他の駅と違う気がする! たぶん気のせいだけど。
そうそう、前述したスキップするエスカレータがちょっくちょくある理由は、つまり対面乗り換えだからというわけ。
そしてここでも内と外でおしゃべりする人たちが。
Sheung Wan駅は大人な色。現在はパネルになっているTUBE状の部分も昔はタイルだったのではないか。
それにしてもこの構内の色彩統一具合。まっとうしててほんとうにすばらしいと思う。
色と、タイルによる表面の手触りもさることながら、このマッシブな、厚みのある造形も大好物である。角の丸みもグレイト。
よく見ると、タイルを補修した跡がちょくちょくあって、それにもぐっとくる。
こちらはまた別の駅。3段階に渡る補修の跡がわかるだろうか。キャリブレーションがなっていないが、色が違っちゃってるの、嫌いじゃない。キュートだと思う。でもこういう補修を繰り返した結果「あまりにもたいへん」ってことでパネル化することになったんだろうな、と思う。
何度も言ってしまいますが、見渡す限り構内が一色、ってほんとにすごい。そしてこの角アールのマッシブ造形。一日中タイルをなで回していたい。
キエフの地下鉄でも思ったが、東京の地下と違って、地下水にそれほど悩まされていないのが印象的。「
駅もれ」をひとつも見かけなかったし。
そういう地質環境と、このタイルっぷりは関係があるのだろうと思う。
ただ、べつやくさんの記事『
香港の「ありがたランド」』を思い出し、「もしかしたら香港の人、やたらタイルが好きなだけ?」とも思った。
『
香港の「ありがたランド」』より。観音像など縁起物を集めたテーマパークとのことだが、それらが圧倒的なタイル貼りなのだそうだ。べつやくさんは「タイルすごい」と当該記事を締めている。
思えば、香港で団地を愛でて回ったときも、
タイルで仕上げられている棟がたくさんあった。
この団地とか、まるっきり地下鉄風タイルだ。
この団地も、そのカラフル具合といい、
タイルで仕上げられている部分といい、地下鉄に通じるものがある。
これら室外のタイル貼りは、耐候性に優れているがゆえの多用だろう。ともあれ今回思ったのは「香港はタイルの街」ということだ。
そして、ビルも「細かいテクスチャ」に見えた
タイルタイル、かわいいよタイル、と思いながら街を歩いていると、だんだん香港のビルの「テクスチャ」が気になってきた。タイルみたいだ、と言ったら言い過ぎだが。
この「テクスチャ」! 身長数百メートルの巨人になって、そっと手で触りたい感じ。わかりますかね、この官能。わかんないか。どうかな。
さきほどのChun Yeung Streetのビルも、このざらざらのテクスチャが「撫でたい欲」を掻き立てる。
そうやって見ていくと、ビルの建てられた年代や用途の違いによってテクスチャが異なっていることに気づく。左のつるつると、真ん中のざりざり。
香港特有のこのざらざら・ざりざりテクスチャは、要するに、圧倒的な室外機群によるもの。
他にもこのビルのように、
力強いひさしの出っ張りによる、彫りの深さが醸し出すテクスチャもいい。
こちらも同じタイプ。
夏の暑さが厳しい気候ならではのひさしの出っ張り。まるで蜂の巣のよう。撫でたい。
上と下で異なるテクスチャを備えた名品。
考えてみたら、エアコンの室外機って、人間の汗腺のようなものだ。皮膚に並んだ熱交換機。ビルを「撫でたい」と感じるのは、皮膚に触りたいと思うようなものだ(←極論)。
このテクスチャとかほんとにどうかしてるぐらいかわいいし、撫でたい!
キュートきわまりない。これで生地作って、シャツ作りたい。
ビルの新旧によるテクスチャの違い。というか、良い写真だなこれ。自分で言うのも何だけど。
「テクスチャ」観点で見ると、香港の都市風景の特徴がよく分かる。つるつる、ざりざり、ざらざら、かさかさ。
真ん中のビルは、代官山のツタヤみたいだな、と思った。いや逆か。できた順番からすれば、あっちがこれみたいだ。
香港名物の竹の足場も、さわり心地を想像すると、またひと味違う。慎重に触らないとトゲがささる感じ。
この足場に囲われた状態、かっこよかった。
ざくざくの中につるつるが見える。
やっぱりタイルが好きなんだな
地下鉄のタイルの話のはずが、ビルの写真ばかりになってしまった。ともあれ、地下鉄のタイルをなで回していたら、つられて香港の風景が「テクスチャ」に見えてきて、結果的に「香港は手触りの国なんだな」って思った、ということです。
最後にもうひとつ地下鉄駅を。
Shau Kei Wan駅は群青色。
「地下にいる」って感じでよかった。
改札フロアも群青一色。その中で、なにやらだだをこねて座り込んでいる子供。
エスカレーター空間もあいかわらずかっこいい。
ふと見ると、その脇にモザイクタイル画が。タイルだらけのただなかに、タイル画。やっぱり香港、タイル好きか。
ぎりぎりアウトで変態っぽい内容になってしまった。でも聞くところによると、目の見えない方の脳の視覚野って、ものを触ったときに活動しているとか。つまり触ることで「見て」いるのだ。だから見ることと触ることは同じなのだ。
なのだ、って。どっちにしろ変態っぽいか。
風水に基づいて角が丸くなったこういうビルも、その角部分を触りたいと思うようになった。