特集 2017年4月10日

調味料を燻してなんでも燻製味にしたい

煙臭くてうまい豆腐のカプレーゼ風。
煙臭くてうまい豆腐のカプレーゼ風。
煙なんていうものはケホンケホンと嫌われる存在なのに、その匂いを吸収した燻製は煙たいのにうまい。とても不思議である。

そんな燻製は何時間も燻さねばあの味になってくれないので、作るのがなかなか面倒臭い。ならば調味料を燻製にして煙臭くさえしておけば、どんな料理を作っても燻製味になるのではなかろうか。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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燻製風味のマリネがうまかった

持ち寄った料理で祝う友人の誕生会で、ある参加者がタコと魚のマリネを持ってきたのだが、これがナマモノなのに煙臭い。燻製の味がするのだ。

どういうことかと尋ねたら、オリーブオイルを燻製にして、それで和えてあるとのこと。
そんなお洒落料理はインスタ風に加工してやる。
そんなお洒落料理はインスタ風に加工してやる。
塩や醤油を燻製にした調味料ならどっかで聞いたことがあるけれど、油も燻製にできるのか。

ならば私もいろいろな調味料を燻製にして、シャレオツでインスタ映えする料理を追求してみようじゃないか。

というのが事の発端である。

普通の調味料を燻製にする

用意した調味料は、家で普通に使うものを一通り。油類はオリーブオイル、胡麻油、キャノーラ油、それに塩、一味唐辛子、胡椒、醤油である。

燻製にした後に元の入れ物へと戻すことを考えて、コンパクトサイズを買い揃えてみた。
なんでもかんでも燻製にしてみよう。
なんでもかんでも燻製にしてみよう。
この他に買ってきたのは、燻製にするためのスモークウッドと、ステンレスのキッチントレーをたくさん。
スモークウッドとはオガクズを押し固めたようなもので、火をつけるとお線香みたいに煙を出しながら燃え続けてくれる便利アイテム。
スモークウッドとはオガクズを押し固めたようなもので、火をつけるとお線香みたいに煙を出しながら燃え続けてくれる便利アイテム。
周囲に洗濯物が干されていない雨上がりの午後を狙い、家にあった適当な道具で組み立てた台座にスモークウッドを乗せて着火。

どれくらいの時間燻すべきか謎なのだが、このスモークウッドの1/3で90分持つらしいので、とりあえずそれでいってみよう。
ゴー。
ゴー。

何種類もいっぺんに燻したい

調味料を1種類ずつ燻製するのは大変なので、全部まとめて燻したい。そこで人類の英知を発揮しよう。

ステンレスのトレーに調味料を1種類ずつ入れて縦横を交互に積み上げれば、一度に何種類でも燻すことができるのだ。

っていうのはマリネを持ってきた人に聞いた工夫だ。あいつ頭いいな。
トレーなら表面積が広いので、煙をしっかり吸収してくれるはず。
トレーなら表面積が広いので、煙をしっかり吸収してくれるはず。
驚異の七段積み!
驚異の七段積み!
これに段ボール箱でもかぶせたら、2時間後にはめでたく燻製調味料の完成だ。

火を通すのが目的ではないので、内部の温度管理は不要と思われる。
同人誌即売会の往復で疲れ切ったダンボール。万一の消火用に水も用意しておこう。
同人誌即売会の往復で疲れ切ったダンボール。万一の消火用に水も用意しておこう。
だがすぐに火が消えてしまうエラーが頻発。どうやら酸素不足らしい。密閉して燻したいのに空気が通らないと火が消えるという罠。あちらを立てればこちらが立たず。

ならばとダンボールの下に隙間を開けたところ、調子よく燃え続けてくれた。煙は上に上るので、下からはそんなに漏れないっぽい。
燃焼には酸素が不可欠。理科の授業をちゃんと受けておいてよかったなと思った。
燃焼には酸素が不可欠。理科の授業をちゃんと受けておいてよかったなと思った。

調味料の燻製ができあがった

めでたくスモークウッドが燃え尽きて、調味料とトレーが冷えたところで味と香りのチェック。

見た目こそ灰を少しかぶったくらいであまり変化はないけれど、ちゃんと燻製の香りも味もするじゃないか。これを舐めながら酒が飲めるな。
見た目は変わらないけど、ちゃんと煙臭いね。
見た目は変わらないけど、ちゃんと煙臭いね。
一番下段の塩はスモークウッドの熱でこんがりキツネ色に。
一番下段の塩はスモークウッドの熱でこんがりキツネ色に。
これらを元の容器に戻したら、下ごしらえは完了だ。
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みんなに試食をしてもらおう

せっかく作った燻製調味料だから、どうせならみんなに試してみてもらいたい。そこで適当な食材と一緒に、デイリーポータルZの集まりへとやってきた。

私の計算では、なんにかけてもオシャレな燻製味となり、すごいですね!とチヤホヤされるはずだった。
スーパーで買ってきた適当な食材を燻製した調味料で食べる会。
スーパーで買ってきた適当な食材を燻製した調味料で食べる会。
試食会の準備をすると、さっそくみんな燻製した調味料に興味津々、お鼻クンクン。

「このオリーブオイル、もうこれだけでスモークサーモンの匂いがする!」とか、「この塩やべー!超うめー!」とか大興奮だ。
どうだい、煙いだろう。
どうだい、煙いだろう。
まずはサーモンの刺身から。

これを燻製したオリーブオイルと塩で食べれば、スモークサーモンになるのは当然の成り行きだろう。
たっぷりとオリーブオイルを絡めて塩でいただくという、意識の高い食べ方。
たっぷりとオリーブオイルを絡めて塩でいただくという、意識の高い食べ方。
昨日スモークサーモンを食べたばかりだという編集部の藤原さんが試食。
昨日スモークサーモンを食べたばかりだという編集部の藤原さんが試食。
「……おいしいです」
「……おいしいです」
でた、首をひねりながらのおいしいです。

「おいしいかどうかじゃなく、スモークサーモンかどうか!」と橋田さんが詰問するが、おいしいですとしか答えようとしない。

おやおやおやと担当編集の古賀さんが食べてみると、「ちがうね!」とバッサリ。
「ここまではスモークサーモンなんだよなー」
「ここまではスモークサーモンなんだよなー」
「食べると違うね。スモークが消える!」
「食べると違うね。スモークが消える!」
どうやらスモークの風味は口の中で一瞬で消えてしまうらしい。忍者か。

スモークは煙だけに消えてなくなりますって、そういうトンチはいらない。
チーズはスモークチーズになるんじゃない?
チーズはスモークチーズになるんじゃない?
「いないね。食べる瞬間までスモーチーズだけど」
「いないね。食べる瞬間までスモーチーズだけど」
スモークといえばベーコンだよね。
スモークといえばベーコンだよね。
「いないよー。スモークがいないんだー」
「いないよー。スモークがいないんだー」
当初のイメージと違う感じで会がざわざわしてきた。笑えない方の失敗である。

サーモンもチーズもベーコンも、本物の燻製された味を知っているだけに、匂いから期待する味に対してのガッカリ度が高いようだ。期待しすぎたバーチャルリアリティーみたいな寂しさ。

ならば燻製では普通食べないポテトサラダ、海苔巻き、唐揚げ、プリンはどうだと試したが、どれも一瞬で燻製味が不在になる切なさたるや。
「ここまでは燻製なんだけど、酢飯の味に負けるんだよなー」
「ここまでは燻製なんだけど、酢飯の味に負けるんだよなー」
「ポテサラは一秒でマヨネーズの味に上書きされちゃう」
「ポテサラは一秒でマヨネーズの味に上書きされちゃう」
舌の上でそよ風のような煙が儚く消えていく。

風の味と書いて風味。これこそを燻製風味と呼ぶべきなのか。

ようやく燻製の味がするものを発見!

燻製の燻す時間が短かったのだろうか。もう一度燻りなおしてこの日の出来事はなかったことにするかと思いはじめたところで、橋田さんがいつまでも燻製風味がいる食材を発見した。

パンである。
バターロールにオリーブオイルを吸わせる。
バターロールにオリーブオイルを吸わせる。
「いる!これは消えない!」
「いる!これは消えない!」
どうやらパンのように元々の味が薄く、そして油を吸収するような食材だと、ちゃんと燻製の味がしてくれるらしい。

もはやうまいかどうかではなくて、煙がそこにいるかどうかという判断になっているのが気になるが。

続いて煙の存在が認められたのは、そろそろ処分しようと思っていた刺身のツマだった。
編集部の藤原さんがふとツマをつまんだ。
編集部の藤原さんがふとツマをつまんだ。
燻製醤油につけて食べると、「これはいます!」と太鼓判。
燻製醤油につけて食べると、「これはいます!」と太鼓判。
刺身のツマかよと思いつつ食べてみると、毛細管現象でたっぷりと燻製醤油を吸い込んだツマがうまいのだ。

大根の燻製風味だから秋田名物のいぶりがっこ風かというとそんなことは一切ないのだが、ツマだけを食べた時に感じる一抹の寂しさを適度な煙たさが埋めてくれる。

橋田さん、藤原さん、ファインプレーをありがとう。
「いるね、確かにいるわ」と私もようやく安堵。
「いるね、確かにいるわ」と私もようやく安堵。
皆さんには失敗作ばかり食べさせて申し訳なかったが、この実験で燻製調味料を活かすべき道が見えた気がする。
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もやし炒めで再挑戦のスタート

そして後日、燻製した調味料を使った料理実験を自宅で再開。

この風味を生かすためには、元々の食材の味が薄いものがベターだろうということで、まずはもやし炒めから。
燻製にしたキャノーラ油で炒め、燻製した塩と胡椒で味をつけてみた
燻製にしたキャノーラ油で炒め、燻製した塩と胡椒で味をつけてみた
なるほど、これはいるね。煙がこの皿の中にいる。

燻製とは違うけれど、焚火で炒めたような味。目を閉じればそこは広大なキャンプ場。食べれば食べるほど煙の味が口に蓄積されていく。

茹で玉子に燻製塩とかどうだろう

続いては茹で玉子。燻製タマゴという大先輩がいるが果たしてどうなるか。
燻製した塩をたっぷりと掛けてみた。
燻製した塩をたっぷりと掛けてみた。
これもいる。燻製タマゴよりもフレッシュな燻製風味。普通の塩よりも味に複雑さをもたらしてくれる。塩に色がついているから、どれくらいかけたかわかるのも素晴らしい。

ただ燻製味にしようとたくさん掛け過ぎたのでちょっとしょっぱい。もっと時間を掛けて燻製した塩を使うか、燻製オイルなどと併用すればバッチリだろう。

豚バラを簡易ベーコンにしてみようか

簡易ベーコン作りなんてどうだろう。市販のベーコンに掛けても微妙だったが、一から作ればまた違うはず。

豚バラ肉に燻製の塩と胡椒をたっぷりと掛けて冷蔵庫で一晩寝かせて、それを焼いてスパゲティに仕上げてみようか。
きっとベーコンっぽくなってくれるはず!
きっとベーコンっぽくなってくれるはず!
この肉を焼いて出た油に燻製オリーブオイルを加えてネギと茹でたパスタを炒め、味付けは燻製塩を少々。

加熱することでグッと燻製の香りがアップ。全体から漂うスモーキーな雰囲気が素晴らしい。

ベーコンとパンチェッタの中間みたいな肉となったが、この香りづけはアリだと思う。
煙たい油と塩で仕上げた炭水化物の破壊力すごい。
煙たい油と塩で仕上げた炭水化物の破壊力すごい。

唐揚げだって燻製風味にしてみたい

続いては唐揚げだ。お惣菜の唐揚げに燻製塩を掛けても全然だったが、下味から燻製の塩と胡椒と醤油を使えば違うはずだ。
このまま焼いてもうまそうだ。
このまま焼いてもうまそうだ。
これを燻製した油で揚げれば完璧だが、そこまで油の量はないので、普通に揚げて仕上げに燻製油をドバドバと掛ける、追いオイル方式を採用。

果たして、からあげクンのフレーバーに燻製味があったらこんな感じだろうなという味となった。普通の唐揚げよりも味に深みを感じるが、ニンニクやショウガを多めに使ったら負けるかな。
スモーク・オン・ザ・オイリー。
スモーク・オン・ザ・オイリー。

サッポロ一番燻製塩ラーメン

ちょっと方向性を変えて、サッポロ一番の塩ラーメンを燻製風味にアレンジしてみようか。

元々の粉末調味料を半分に減らし、代わりに燻製した塩と一味唐辛子と胡麻油を加えるという戦法だ。
一味唐辛子の使いどころが全然なくて、ここで無理矢理入れました。
一味唐辛子の使いどころが全然なくて、ここで無理矢理入れました。
これは微妙だけどちゃんといる。インスタントラーメンの代名詞であるサッポロ一番塩ラーメンに、少しだけアウトドアな変化を与えてくれるのだ。

どの料理もそうなのだが、一度この燻製調味料を使うと、使わないとなんだか物足りなくなりそうだ。
見た目で伝わらないこの煙の味!
見た目で伝わらないこの煙の味!

カプレーゼだって燻製味にしたい

切れてるプロセスチーズはダメだったが、燻製のイメージがないモッツァレラチーズはどうだろうか。

そこでトマトとモッツァレラに、たっぷりの燻製オリーブオイル、塩、胡椒を掛けてみた。バジルを買い忘れたのでドライバジルだが、一応カプレーゼということで。
豆腐じゃないですよ。
豆腐じゃないですよ。
食べてみると、トマトもモッツァレラもフレッシュなのに燻製風味という違和感が楽しい。

これがうまいのかというと思考が停止するが、面白味に溢れている一皿。私は好きだ。

モッツァレラが合うなら豆腐でもいいじゃないか

モッツァレラが豆腐っぽいなと思ったので、豆腐でも試してみた。

醤油を加えたカプレーゼ風冷やっこである。
これは流行るかもしれない。
これは流行るかもしれない。
豆腐といえば味のない食べ物の代表格(ありますけどね)だけに、モッツアレラ以上に燻製風味が生きてくれる。

この食べ方だと、しっかり水切りをすれば豆腐をモッツアレラと間違えるかもしれない。原価も安いし最高じゃないか。

アジとスモークサーモンのマリネ

最後はアジの刺身とスモークサーモンの切り落としを使ったマリネ。

スーパーで買ってきて、燻製したオリーブオイルで和えて、塩と胡椒をして寝かせてみた。これを燻製オイルと相性抜群のパンに乗せていただこう。
こんなのうまいに決まってる。
こんなのうまいに決まってる。
うん、これは想像通りにちゃんとうまい。この使い方が一番かも。

アジには燻製風味という意外性がプラスされ、スモークサーモンは格段にスモーキーさがパワーアップしている。そしてその味を受け止めるパンの頼もしさよ。
刺身のツマと海鮮サラダにしても良し。
刺身のツマと海鮮サラダにしても良し。
一周回って最初に食べたあの日のマリネがやっぱりうまいという話に戻ってきている虚しさはあるが、試すことでまた料理の幅が広がったと思いたい。

楽しいよ、燻製調味料

燻製の味とは、煙臭さだけではなく、下処理として塩漬けにしたり、燻す前に乾燥させるからこそ引き出される独特の味。燻製した調味料を使っただけでは再現はできないが、これはこれで香りのアクセントとして楽しめると思う。ただもうちょっと長く燻製した方がよかったかな。

全部の料理に使うと煙の味に慣れてしまうので、その日の料理の一品だけに効かせた方が効果的かもしれない。きっとクリスマスイブのご馳走にも最適だ。クリスマス燻(いぶ)す、ということで。
海苔巻きの横に焼きプリンを置くと、いなりずしにしか見えないという気づき!
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