こちらは西洋料理屋風に。しかも一番狭いソロ個室にて。がんばった。
乗った列車は、現在唯一定期運行する寝台列車「サンライズ出雲・瀬戸」だ。ここに、今度はマイ・寿司屋を開店させようと思うのである。
それには、実はひとつ心当たりがあった。
下の写真を見ていただきたい。
めったに乗れないシングルデラックスであります(震え声)。
右端に、窓に沿ってちょっとしたテーブルというか台が備わっているのが見えるだろう。これが、寿司屋のカウンターっぽいなと常々思っていたのだ。
ただしこのシングルデラックスは、運賃と特急料金に加え、寝台料金が13,730円もするのである。よほどのアブク銭が手に入らないと、私は乗れないのである。
一方、下写真のノビノビ座席は寝台料金はタダ。しかし、窓際にはカウンターっぽいしつらえはなく、心もとない。
それに間仕切りがないので、ここで「ヘイラッシャイ!」は勇気が要るのである。
最初に戻って、ソロ個室のカウンターはどうか。これが、とても短いのである。
1人分だけのカウンターなら問題ないが、そんな寿司屋はこの世にないのである。
というわけで、シングル個室をとることにした(過去のアルバムひっくり返してみたが、なぜか写真はなかった。なので次のページにて)。年の瀬だ、もう満杯だったらどうしようかと恐る恐る、シングルの空いている日に限定してみどりの窓口にチケットを買いにいったところ・・・クリスマスイブ、24日夜が空いていましたイヤッホゥコンチキショウ!
これは忙しくなってきた。あまたの準備をしていかなければならない。まずは寿司下駄である。寿司をタンッと載せる、文字通り下駄型の台である。上の写真でわかるとおり、缶ビール1本分の奥行きしかないので、ここは手作りしてしまいたい。
いつか使えると思ってとっておいたかまぼこの板。うまい具合に、幅が違う2種類あった。
幅の狭いほうを足にすべく、ちまちま切断。
表面をヤスリでなめらかに。
おままごとサイズの寿司下駄、完成。
次は、寿司職人の服である。このために買うのもなぁ、と記憶をたどれば、昔のある記事で白衣を買っていたではないか。それをちょっと加工することにしよう。
紺系の手ぬぐいとともに、白衣。もうおわかりですね。
そうですこうやって襟から身ごろにかけて縁取っていくのです。
写真ではわかりにくいが左半身を右半身の中に滑り込ませて、服を半分にする。
それらしい加工をしたのち、なぜか半身にするのは、イブの夜に寝台個室で寿司屋と客の一人二役をするためである。おおぅ。
帽子も、コピー用紙と梱包用紙を使って半分だけ作った。
適当に切って貼って、それらしくなった。
以後、「何が悲しゅうてイブに」などの発言は封印する。
さあ24日がやって来た。
サンライズ出雲・瀬戸号(東京駅で撮り忘れたので岡山駅で)。今夜、この一室が寿司屋になるという。
勝手にグルメトレイン(しかも2役)
発車時刻の22時より2時間も早く東京駅にやってきた。駅構内で持ち帰り寿司を買うためにだ。今日はイブだし、万が一にも買いっぱぐれないようにという懸念からである。
駅のデリコーナーは、これから家でクリスマスをというお客さんでごったがえしていた。
しかし、いつもサンライズ乗るときにツマミを買うエリアで、いきなりいいラインナップのが買えた。
しかも200円引き!(左のは運ぶ途中で“寄さって”しまっただけで、まだ手はつけてないぞ)。
もうあとはビールとお茶を買うだけ。あと1時間半以上もあるので、間違えてハヤシライスを食べてしまった。何やってんだメリークリスマス!
さて乗り込もう。乗車、でなくてこの場合、開店準備である。
何回目かのシングル個室。今日はここで仕事と寿司だ。
このカウンターである。申し分ない広さ。
さっそく、このカウンターに私の考えた精一杯の寿司屋小道具を並べたい。ほぼ回転寿司しか行かないもんで、合ってるのかどうかその辺はよくわからないが、イメージとしてはこんな感じではないか?
最後の「あがり」用に濃そうなお茶、100円ショップで買った湯飲みと小皿。そしてここはスーパードライで。
本当は瓶ビールがあれば寿司屋っぽいんだが(と思っている)。探し回った駅ナカでは缶ビールしか発見できず(ありそうな店は全部改装中だった・・・)。せっかく栓抜きも持参してきたのだが。
まあそれは置いといて、さて次は衣装だ。
半寿司半客。新しい怪物誕生である。
あるときは女性のおひとりさま、またあるときは珍しい女性寿司職人。こんなスパイいやだ。
準備は整った。さぁご着席ください。
ところがひとつ、ここで問題があった。
とにかくまず予約を、と手に入れたのが、2階建てのシングル個室の上階のチケット。しかしここは窓が曲面なのだ。下階だったらもっと平坦、もしくは平屋の部屋だったら平らな面だった。そこはちょっと失敗した。
なぜなら、曲面窓だと像が伸びてコック帽のようになってしまうからだ。
そう、今夜は「窓の外に映った職人」と「手前にいるお客」とで、この寿司屋が成立するのである。さぁやることがややこしくなってきた。
「さてどうしますか、ひとわたり握ります?」
「そうね、お願いするわ」(発車直後、リハ時の写真ですみません)。
と言って、なんのことはない、パックから自分で寿司をミニ寿司下駄に並べるのである。
横浜までは、車窓にはまだ人のいるホームがたびたび流れていくので、半職人半客はさすがに恥ずかしい。横浜過ぎたあたりから撮影に本腰を入れるべく、職人は右側から窓の外を、客は左側から、撮影テストを繰り返すのである。もう、ヒーターがんがんに効いてた室内なのと1枚余計に着ているせいで、汗だくである。
でも絵的にはそれなりに満足。サーモンにエンガワというのも私的にアガる。
寸劇の前に、もうひとつ地味に大変なのが、窓の向こうにいる職人さんの撮影である。
ムンク「叫び」みたいに縦に伸びるのは既出。
流れる街の灯が私の顔に重なる。歌詞みたいだが全然詩的ではない。
流れるトンネルの照明。これはこれで、寿司屋の冷蔵ケースっぽいかもしれないが、顔が相対的に暗くなる。
そんなしなくてもいい苦労と格闘すること、数十分。やっと戸外が静けさを得て、1人寝台寿司も佳境に入ってきた。
繰り返すが、絵的には最高じゃないか。
間が持ち過ぎて、イブ
寝台列車でカウンター席で寿司。夢のようなシチュエーションのはずだが、いかんせん職人も自分である。とにかく忙しいのである。
「へい、お待ち!」左隅の手は見なかったことにしてもらいたい。
(あまりに帽子が伸びて映るので、ものすごく低姿勢になってみた。なぜ私はこんなに背中を丸めなければならないのかと思って、やめた)
「いいネタ入ったわねー!いただくわ」
「次、何握りやしょう」。
「マグロ、あとイクラある?」 右手が職人なのを忘れて差し出してしまった。
「こらテメエ、ボサッとしてねぇで動け!」(と弟子に指図する)。
「うーん、大将エンガワ最っ高!」の顔(繰り返すが1人である)。
「お注ぎしましょうね」
「いやーすみません大将」。
いいんだ、お寿司は美味しかったから。
こんなショット撮らなくても良かったかもしれないが、せめてもの賑やかし。イブだし。
暑さと忙しさと酒酔いと列車酔いで汗ダルマになって最後は好きに食べた。
普段寝台列車に乗るときは、多くのツマミとお酒を持ち込む。22時から飲み始めて、やがて暗い車窓にも飽きて、結局は室内灯を消して横たわってスマホいじったり残りの酒をちびちびやって眠りにつく、のだが。
このような「1人2役寝台寿司」は、そんな飽きる隙など与えてくれなかった。むしろ大忙し、大繁盛である。
1日に1組しか入れない料理屋ってあるだろう。憧れの存在だが、実はこうすることによって、いつでもそのシチュエーションが手に入るのだ。
「寿司と乗り物」を大好きな寝台列車でいっぺんに消化したのが今回の試みである。長く気になっていたあのカウンターをネタにできたのが収穫であった。
寿司だけに。
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