特集 2015年2月18日

寝台列車個室にマイ食堂車を作る試み

寝具が常に視界に入るディナー。
寝具が常に視界に入るディナー。
寝台特急「北斗星」が、3月でとうとう廃止となる。同「トワイライトエクスプレス」然り、食堂車連結の貴重な列車がなくなってしまうのだ。食堂車でご飯、食べてみたかったよ・・・

この悲しみをどこにぶつけたらよいのだ。考えた結果、「勝手に食堂車の旅」へ出ることにした。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:「アール・デコトラ」を作ってみた

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お客は私だ、シェフも私だ、買出しも私だ

食堂車での食事は、ぜひとも成し遂げたい夢のひとつだ。

以前、北海道へ取材に行くとき「北斗星」には乗ったことがある。しかし前日から風邪気味の上に原稿仕事も途中だったので、泣く泣く個室内で一晩過ごした苦い思い出がある。

なのでいつかは、いつかは北斗星でお食事を、と願っていたのだが、なんということだ。まだ食堂車連結の列車は「カシオペア」が残るが、ちょっとお高い。いわんや九州の「ななつ星」をや。

北海道新幹線ができることを考えるとそろそろ・・・と思いつつ、うかうかしていたら、あっという間に廃止のお知らせ。チケットを取る暇もなかった。あああ。
そこでサンライズですよ(以前の記事からの使いまわし写真。撮るタイミングなくて・・・)。
そこでサンライズですよ(以前の記事からの使いまわし写真。撮るタイミングなくて・・・)。
怒った。もうこうなったらどうしても食堂車に乗る。自分でなんとかしてやる。自分で食堂車を作る。

今まで何度か乗ってきた寝台列車「サンライズ」の個室を予約し、東京駅に向かった。
発車までの45分で買いまくった本日の食材。
発車までの45分で買いまくった本日の食材。
そう、個室内を食堂にするのだ今宵は。東京駅構内にはちょっといい惣菜や飲み物が売られているので、それらの店を回って、高級そうなメニューを組み立て、シェフ兼お客になるのだ。良い計画な気もする一方、裏では倍以上ダメな計画な気もするがそんなことは今は問題ではない。とにかく買いまくろう。

・・・何袋も提げて、駅構内のグランスタやサウスコート エキュートなどの商業エリアを回って疲れ果てた。メニューに迷って店を往復したり。早く自分の部屋で休みたい。

洋食メニューを考えているのだが、東京駅はどちらかといえばJAPAN推しなので、意外と洋食の種類が少ないと感じる。なので一層、メニュー組み立てのスキルを問われてしまう。大丈夫か。
本当に大丈夫か。
本当に大丈夫か。
実際の食堂車とのギャップもいいかと、一番狭い「ソロ」個室をとった。今からこの室内に、極上の空間を爆誕させてやる。
目玉は、紀伊国屋で購入のミニシャンパンとプラグラス入りワイン。こりゃ楽しみ。
目玉は、紀伊国屋で購入のミニシャンパンとプラグラス入りワイン。こりゃ楽しみ。
さてこのソロ個室。狭いだけあって、テーブルのようなものはもちろん無い。ひとつ上のランク「シングル」ならばちょっとしたテーブル的な台はあるのだが、こちらソロはひじかけサイズの出っ張りしかない。

そこで、家から家具を持ってきたのだ。今日の荷物が最初からやけに大きいのはそのせいである。
ほぼテーブルしか入ってないリュックである。
ほぼテーブルしか入ってないリュックである。
適当な大きさのミニテーブルを、このために買っておいたのだ。安い割には見た目も悪くなく、食堂車の什器として耐え得るようなテーブルを探した。ただし高さとか幅とかのサイズは事前にまったく確認していなかった。それがどうだ。
うおっ、ぴったし!あっぶね。
うおっ、ぴったし!あっぶね。
高さも幅も、あつらえたようにぴったりだった。ついでに色もあってる。もう公式の備品にしてもらっていいんじゃないか。

元々は窓に並行にテーブルを据えるつもりだったが、そうすると自分の座る場所がほとんどなく、窓に対して垂直に設置せざるを得なかったのだが、それでもベッドの横幅いっぱいで、このテーブルの高さ次第では終始ドリフのような食事になるところであった。助かった。今日の旅はついてる。
そして今日の荷物の残り半分。使うは、高級紙皿WASARAで御座います。
そして今日の荷物の残り半分。使うは、高級紙皿WASARAで御座います。
当然皿やグラス、カトラリーも持ち込まねば成立しないのだが、本物の食器では重いし、壊れると大変だ。なのでこれも、事前にオシャレ紙皿を数種と、オシャレ竹製フォーク、ナイフ、それにプラ製グラスを買っておいた。せっかくの食堂車、開店準備は大変だが、できる限りのおもてなしをさせていただきたい(自分に)。
クロスをかけて(うちにあった、イベント出店用の防炎クロスを流用。し、しわが・・・)。
クロスをかけて(うちにあった、イベント出店用の防炎クロスを流用。し、しわが・・・)。
別アングル。ぎゅうぎゅう(右側に階段とドアがいきなりある、そんな食堂車)。
別アングル。ぎゅうぎゅう(右側に階段とドアがいきなりある、そんな食堂車)。
ひじかけサイズの台は便利な飲み物置き場に。
ひじかけサイズの台は便利な飲み物置き場に。
極上の空間を、と言っておきながらもう「便利な」という言葉が出てしまったが、とりあえずはセッティング完了である。
お客様のお越しをお待ちしております(もう来てるけど)。
お客様のお越しをお待ちしております(もう来てるけど)。
終始背を丸めてのテーブルセッティング。そして場所の都合上、カメラはテーブルを挟んだ位置に置いたので、撮る時はいちいちテーブル越しに大きく腕を伸ばさねばならない、そんな素っ頓狂食堂車の誕生である。

小さいテーブルにちまちまと、なんだかおままごとのようで、これはこれで楽しくなってきた。

・・・いや、「これはこれで」とか言うな、オレの食堂車だ!これが廃止の波へのオレのアンサーだ!という勢いを思い出し、さあディナースタートだ。着座アンド配膳へと参りましょう。
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※盛り付け→撮影→飲み食い(※を繰り返し)

紙の平皿に、前菜をちょっとずつ盛り付ける。これ、やってみたかった。

いつもならそのままの量を卓に並べるわけだが、今日はほんの少量をセンス良く並べたい。

結局は自分でさっき買った食材なわけで、ネタバレもいいとこなのだが、こうしているとなんだかディナーへの期待感が膨らんでくるような気がしなくもない。
「少量」というところが意外と難しい。野菜ひとつひとつの置き方も、わずかな経験に頼るのみ。
「少量」というところが意外と難しい。野菜ひとつひとつの置き方も、わずかな経験に頼るのみ。
大量の食材は、頭上の棚にストック。ここから自分でいちいち取り出して盛り付け。
大量の食材は、頭上の棚にストック。ここから自分でいちいち取り出して盛り付け。
さてここで、本日のメニューをご覧いただこう。このようになっております。
北斗星食堂車「グランシャリオ」ならぬ「グランシャリオツ」ということでひとつ。
北斗星食堂車「グランシャリオ」ならぬ「グランシャリオツ」ということでひとつ。
がんばった。素人なりに、メニューの組み立て、がんばった。そして予想以上に盛り付けのセンスを問われ、それがネットに出てしまい、なんだか丸裸にされたような気分だ。スペシャルディナーを気取ろうとして丸裸にされるってどうよ。

いつもなら発車と同時に飲んでるわけだが、いろいろやることがありすぎて、新横浜あたりでようやくディナースタートである。
繰り返すが視界にどうしても寝具が写り込むのはご勘弁ください。
繰り返すが視界にどうしても寝具が写り込むのはご勘弁ください。
左から、季節の焼き野菜、イタリアングリーンサラダ、にんじんサラダでございます。シェフ私の精一杯のセンスでございます。
左から、季節の焼き野菜、イタリアングリーンサラダ、にんじんサラダでございます。シェフ私の精一杯のセンスでございます。
スクリューキャップのシャンパンを開ける。寝具にカンパーイ。
スクリューキャップのシャンパンを開ける。寝具にカンパーイ。
正座ディナー(後ろのエビスはセッティング中に我慢できず開けたもの)。
正座ディナー(後ろのエビスはセッティング中に我慢できず開けたもの)。
心静かに、テーブルに向かう。両手にカトラリーを持ち、しずしずと口に運ぶ。猫背である。なぜなら正座をしなければならず、よって天井が低くなるからだ。狭さ、最高潮。きらいじゃない。

そして通過駅がまだ営業中なので、ホームに人がいるときはいちいちスクリーンカーテンを降ろすという変わった趣向の豪華ディナーである。
しゃなりしゃなり。
しゃなりしゃなり。
魚料理、「海老・イカと焼きじゃがいものタルタルソース和え」で御座います。
魚料理、「海老・イカと焼きじゃがいものタルタルソース和え」で御座います。
なお盛り付けは先ほど私が担当いたしました。
なお盛り付けは先ほど私が担当いたしました。
さっきから思っていたんだが、料理が冷たい。

わかりきっていたことなのだが、改めて気づいた。普段ならこの冷たさでいいのだが、なまじテーブルや皿をちゃんと用意してしまったもので、それだと冷たさが際立つのだ。発見である。

しかし実際に酒を飲みつつ進行しているので、時間の経過とともにその問題は沈静化した。つまり酔った。
本当はこうやって飲みたい。これではまるで一人暮らし1Rのアパートである。
本当はこうやって飲みたい。これではまるで一人暮らし1Rのアパートである。
さて次の料理はどんなだろう。実はまだこれは見ていない。
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結局のところ部屋飲みである

いよいよメインディッシュ、肉料理である。「ツバメハンブルグステーキ」で御座います。どこで買ったか丸わかりである。
ソースのどろっとした感じ、写真からも冷たさが伝わってくる。温めたい・・・!
ソースのどろっとした感じ、写真からも冷たさが伝わってくる。温めたい・・・!
ちなみにこうやってちゃんと保温されていました。
ちなみにこうやってちゃんと保温されていました。
温かかったらなぁ・・・とも思うが酒も進んでワインの登場である。もう関係ない。

そして寝落ちに備え、寝巻きに着替えてディナー継続。これが個室のいいところである。
ルネッサーン。ひとりでこうしてても問題ないのが個室のこれまたいいところ。
ルネッサーン。ひとりでこうしてても問題ないのが個室のこれまたいいところ。
ワインはすかさず安定したカップに入れ替え、淡々とディナー続行。
ワインはすかさず安定したカップに入れ替え、淡々とディナー続行。
添えたパンが思いのほか旨く、ワインに合う。ワインに延々とパンを合わせるのが好きなので、灯りを消してしばし「パン&ワイン」飲みをしてしまった。外はいつの間にか雨。
なんだかんだけっこう楽しんでいる。
なんだかんだけっこう楽しんでいる。
お腹いっぱいですがデザートで御座います(一人二役ならではのセリフ)。
お腹いっぱいですがデザートで御座います(一人二役ならではのセリフ)。
・・・(酔いを表すショット)。
・・・(酔いを表すショット)。
酔ってしまえば後は一緒。いつものパターンに。
酔ってしまえば後は一緒。いつものパターンに。
グダグダしながらSNSチェックしたり取材ノートに「合理性なんてマボロシ(原文ママ)」と廃止への思い?を書きなぐったりして、いつの間にか寝て起きたらもう瀬戸内海だ。
そうです今回はサンライズ瀬戸だったのです。
そうです今回はサンライズ瀬戸だったのです。
高松到着。私は確かに昨夜、これの食堂車にいた。
高松到着。私は確かに昨夜、これの食堂車にいた。
高松駅内の立ち食い讃岐うどんで締める。朝だけど。
高松駅内の立ち食い讃岐うどんで締める。朝だけど。
少量ながら、少しづついただく食堂車風豪華チックなメニューに最後はお腹いっぱいになった。

と思っていたが朝になればそれなりに腹はすいており、ここに寄れば必ず食べるうどん屋で締めの一杯だ。ディナーもいいけどやっぱりこれだよね。

夜が明けてしまえば、昨夜のひとときも夢かマボロシのようだ。でもテーブルは意外といい方法かもしれない。じっくりと寝台個室を堪能できるような。「豪華」メニューになるかはさておき、だ。

やはりいつかは本物を

走る車内なのに固定されたテーブルで食べることの面白さが、食堂車にはある。それは味わえたと思う。
「走るレストラン」ならぬ「走る自分ち」風味になってはいるが。

さて「合理性なんてマボロシ」と書いた真意はもう忘れたが(何が“マボロシ”なのか)、心情的にはやはり、食堂車に乗る機会が減るのは寂しい。一般民でも乗れるような機会の発展的な創出を望む、とだけ書いておきたい。

そうだ、今夜のメニューの、総額を記しておこう。計3,730円(酒込み)だった。ちなみに北斗星の本当のディナーは8,500円(酒ナシ)。高いか安いか。
(ちなみにいつものサンライズ用持ち込み食料がこれだ。さすがに恥ずかしい。車内販売がないことに怯えすぎである。)
(ちなみにいつものサンライズ用持ち込み食料がこれだ。さすがに恥ずかしい。車内販売がないことに怯えすぎである。)
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