ほんとに油絵ばかり売ってる
深センの地下鉄にのって、大芬という駅にやってきた。油画村は、この駅から歩いて5分ほどのところにあるという。
深センの中心部から地下鉄で20分ほど
大芬は、うっかり「おおいた」と発音しそうになるが「ダーフェン」と読むらしい。どうでもいい話だが、芬の字をどうやって変換すればよいかわからないので、さっきからずーっとコピペしている。
大芬は、郊外にある街だけれど、巨大なショッピングモールや、スーパーなどが立ち並んでいる。東京だと高島平にショッピングモールがあるような感じにちかい。
あそこかな?
油画街。オイルペインティングストリート。わかりやすい。
ここがオイルペインティングストリート
たしかに油絵だらけだ!
油画だ。たしかに油画ばかり売っている。
電気街とか、古書街ってのは聞いたことあるし、いろんな町にあるけれど、油画街ってのは、なかなかない。骨董街とかではなく、この村は油画専門なのだ。
この地図のエリアが油絵村らしい
ちょうど築地の場外市場ぐらいの広さの村に、油画専門の店がぎっちり密集している。
ウィキペディアの情報によると、1980年代の終わり頃、複製画を商っていた香港の画商が、コスト高騰のため、職人たちとともに、もともと農村だったこの地に移転してきたのが最初らしい。
今では、世界中で流通する複製画の6割ちかくは、この村で生産されているという。
モネの「印象日の出」だ
毛沢東だ
ゴッホのひまわりだ!
店の中で実際に絵をみるとさすがにアガってくる。これがあの58億円した絵……の複製画か、というワンクッションある遠回りな感動がこみ上げる。
絵は、木枠にはめられておらず、画布に描かれたものがそのまま売られている。この店にあった「ひまわり」はけっこう大きく、ポスターぐらいの大きさのものだ。
店の人に値段を聞いてみた所、300元だという。日本円で約4800円。安い。58億円に比べると鼻くそみたいな値段だか、悲しいことに今持ち合わせがない。というか、買っても使いみちがちょっと思い浮かばないけれど。
モディリアーニかなこれ
ラッセン?
そこらじゅうで絵を描いている
村のなかを散策すると、路地で油画を描いているひとがいっぱいいる。
タイの寺院っぽいものをかいている青年
観光客が足を止め、絵を描いているところを見物するのだが、絵描きのひとはまったく動ずること無く黙々と絵を描き続けている。仕事している姿が、半ば見世物のようになっているけれど、これがなかなかおもしろい。
最近は、漫画家が絵を描く所を見せるテレビ番組もあるし、昔は「ボブの絵画教室」みたいな番組もあったことを考えると、「ひとが絵を描いているところ」というのはちょっとしたコンテンツになるのかもしれない。
山水画っぽい絵を模写してる青年
中には、iPadで写真を確認しながら絵を描く人もいた。これは、おそらく肖像画を発注されたものだろう。
iPadをみながら絵を描いている
中国共産党のプロパガンダ絵画みたいなテイストになるのがおもしろい
こういった、絵の職人は、いまではこの村に1万人ちかくいるらしいが、あらためて考えると、絵描きの人が1万人住んでる村である。夕張市の人口より多い絵描きが住んでいるのだ。
レゴとプレイモービルの油画だ
ざっと見てみたところ、ゴッホの複製画が非常に多い。売っている複製画の4割ぐらいはゴッホのような気がする。
そんな中、たまにリキテンスタインとかムンクとかをみかけるとおぉ、と思ってしまう。コイキングばっかり出てくるところでミニリュウが出てきたような感じである。
リキテンスタインっぽいけどなんか雰囲気が違うな……
ムンクとモナリザ……だけど、モナリザがなんか違うな
奈良美智が人気あったけど、オフィシャルなものかどうかは不明
岳敏君の絵も多かった
やっぱりなんか買いたい
25?
「絵は、買っても必要ないし、高いからいいか」などと思いながらフラフラ歩いていると「特価25」の文字が飛び込んできた。
25元。約400円ぐらいだ、400円なら俄然買う気がわいてくる。だってちょっとしたキーホルダーより安いじゃないか。油画が400円ってどんな世界だ。
店に入って物色してみる。
クリムトの「接吻」だ
クリムトの「接吻」を発見。画用紙サイズに縮小されているところに油絵の具で描いてあるのでなんとも形容し難いチープさは否めない。
値段は45元(約720円)だという。じゅうぶんやすいし、油画村のお土産だと思えばなんてことない金額だけど、微妙な値段だ。
更に探すと、こんどはゴッホの「ひまわり」と思しき作品がでてきた。こちらは15元だという。でました。240円! 立ち食いのかき揚げそばより安い油画。なんなんだこの世界は。さすがにこれは買うしか無い。
お買上げー(240円)
絵は、くるくる筒状にしてわたしてくれるので、思いのほか、かさばることはないが、広げてみてみると、灯油を薄めたようなにおいがする。
油画は、いつも美術館に展示してある「さわってはいけない物
としてしかみないが、買ったものを実際に触ってみると、絵の具が塗られた部分は、弾力をもった凹凸があり、触るとなんだかきもちいい。
これで、晴れてゴッホの絵画のオーナーになった。安田火災と方を並べたことになる。複製画だけど。
しかし、持ち帰ってあらためて見てみると、ゴッホの「ひまわり」かどうかあやしくなってきた。
ゴッホは、花瓶にささったひまわりの絵を
何枚か描いているのだが、ぼくの買ったやつは、それのどれとも似てないのだ。雰囲気はちゃんとゴッホだが、ひまわりの数や向きがどれとも似ていない。
あらためてみると雑な絵だ。これが240円の油画の世界です
おそらく、ものすごいスピードで描いたのだろう。
複製絵画工場は、分担作業でもってものすごいスピードで大量の複製画を描くらしいので、この雑さはそのためだ。きっとそうだ。
見比べると絵に個性が
複製画といっても、絵をひとつづつを見比べてみると、微妙な違いがあっておもしろい。
ちょっと高いやつ
400円ぐらいのやつ
画面が小さくて安いやつは、雑さがすごい。
下の方の絵は、錦鯉が泳いでる池の上に、ティンパニが置いてあるカフェテラスのような絵になってしまってる。
ゴッホが多いのは、わりと雑に描いても遠目でみるとそれなりに見えるからかもしれないとちょっと思った。
オリジナル絵画も増えている
油画村では、複製絵画の製作だけではなく、オリジナルの作品を創作する画家も増えてきているらしい。
オリジナル作品?
絵の具を適当に塗っただけのように見えるが、よく見てみると、馬や鯉に見えてくる。おそらく、これは複製画ではなく、オリジナルの作品だろう。たぶん。
この絵を売っていた店のお姉ちゃんに「ホース? カープ?」と、中1一学期レベルの英語力で質問した所、その通りだ。とのこと。
「ディス、カープ、オリンピックカラー」と言ったら笑ってくれた。
しょうもない冗談も、言葉の壁を越えると妙にうれしい。
予想以上におもしろい油画村
香港に比べると、グッと来るような観光スポットが少ない深センだが、大芬油画村は観光地としてじゅうぶんおもしろい。
油画が240円で買えるなんて経験、なかなかできない。