特集 2015年6月10日

二階から目薬、屋上からうどん。20m のうどん作りに挑戦

見上げるだけで首が痛くなる高さ
見上げるだけで首が痛くなる高さ
個人的キョーミで、世界イチ高価なせいろそばについて日々調べていた。ところがいまだにその世界イチ高いそばが確定できない。世界イチ高価……世界イチ高い……。

ハッ!
昔、銀座のそば屋さんに入っていたら、隣の外人さんがわたしの食べ方を凝視しながらマネていたのを思い出した。調子に乗って立ち上がってそばを伸ばしたら、彼も同じように腰を上げた。

えーと、何がいいたいかと言うと、つまり、無謀にも世界イチ長いうどんを作ってそれを誇示するために屋上から垂らして食べてみたいということです。

なぜ「そば」から「うどん」に? なぜ屋上? それは自分でもわかりません。なんでだろ。

この世は不思議で難解なことばかりです。うどんに立ち向かった日々をごらんください。
イカとタコが大好きで、食べたり被ったり本まで出版しました。
でもサイコーに好きなのはアワビだったりします。世間に対する謙虚です。

前の記事:マスクを被ってメキシカンフェスに行くとなにかもらえるのか

> 個人サイト Weekly Teinou 蜂 Woman

苦難の日々の序章(1日目)

なんとなく気楽に考えていたわたしは、まずデイリーの製麺マスターである玉置氏に「どーしたらいーかなー」と連絡をした。そして素直に、彼からのご指示通りに作った円形にカットしたうどんがコレ。

師匠に画像を送ってみた。
粘りが強く、まともに包丁が入らない。
粘りが強く、まともに包丁が入らない。
師匠からは、「ピザ?」という二文字を最後に、それっきり返事はこなくなった。

ねかせてコシを出す(2日目)

もう一度踏んでこねてをくり返し……24時間ねかせてみた。包丁はわりとスムーズに入ってくれたがまだ弾力性に欠ける気がする。
これならイケる! これならイケる! と念じながら……。
これならイケる! これならイケる! と念じながら……。
ところが、やはりはがしていく際に途中で切れてしまった。明日が本番(屋上から食べる日)だというのにどうしよう!!! でもどうにもできない! もうこれはお蔵入りするしかない!
巻いて延ばす試みだったが、これもまた途中でキレる。わたしもキレそうになる。
巻いて延ばす試みだったが、これもまた途中でキレる。わたしもキレそうになる。
あきらめきれない人。
あきらめきれない人が必死になっているのを横目に、わたしは明日撮影する友人伊藤さん宅に連絡を入れた。
「ムリだわ。やめよ」

「いいからいらっしゃいよ。秘策があるのよ」と太鼓判を押す伊藤さん。太鼓腹とはこういうことか。ちがう。たぶんちがう。けどたぶんそう。

まちかまえていた伊藤さん(3日目)

ンフフフ……。これ、20mもあるうどんなの。買っといたわよ。
ンフフフ……。これ、20mもあるうどんなの。買っといたわよ。
思わずほおずりしたくなるうれしさ。旧知の仲とはこういうことか。
思わずほおずりしたくなるうれしさ。旧知の仲とはこういうことか。
これでなにもかも上手くいくぞおおおおおおおおっ!

と大喜びしたのはこの瞬間だけであった。
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え。

き、切れてない? というか、折れてない? これ。
き、切れてない? というか、折れてない? これ。
よく見るとあちこち折れている。20mのうどんが折れていては、20mにならない! またもお蔵入りの危機が訪れた。ぐおおおおおおーーーー!

嘆くわたしに伊藤さんが言い放った。
「結んじゃえばいいんじゃない? ホレ」犬も賛同しているように見えて、実は食べようとしている。
「結んじゃえばいいんじゃない? ホレ」犬も賛同しているように見えて、実は食べようとしている。
そしてわたしたちは、犬に食べられないよう細心の注意を払いながら内職をおっぱじめた。
そしてわたしたちは、犬に食べられないよう細心の注意を払いながら内職をおっぱじめた。
小1時間かけて、1本の長さにした。結び目を考えれば20mには満たないだろうが、とりあえず1本にしたことで小さな達成感があった。

ところが、だ。
1階の屋根がジャマをして、箸で下にうどんを下ろすことは不可能だということが判明した。すっかりヤケクソになったわたしを見た伊藤さん、またも救世主となった。
なにかと得意げな伊藤さんである。

落とし穴が多すぎる……

ご指導通りグルグル巻いてみたものの、今度は移動中に棒の下に下がってしまった。しかも乾燥気味でむやみにさわると切れそうになってしまう。
いきなり人の食べ物に、園芸用のシャワーをかけだす伊藤さん。「大丈夫。水道水ですから」
いきなり人の食べ物に、園芸用のシャワーをかけだす伊藤さん。「大丈夫。水道水ですから」
切れた。
切れた。
今度は上からヒモを垂らして、うどんをひっぱりあげようという伊藤さん。
今度は上からヒモを垂らして、うどんをひっぱりあげようという伊藤さん。
やっぱり切れた。
やっぱり切れた。
ちなみに、うどんが入っているのはこのカゴ。
「大丈夫。洗濯カゴだから、キレイなもんよ」とにかく伊藤さんちは何でも大丈夫なようだ。
「大丈夫。洗濯カゴだから、キレイなもんよ」とにかく伊藤さんちは何でも大丈夫なようだ。
しかし「まあ洗濯前の服も入れるけど」と小さな声で言ったのをわたしは聞き逃さなかった。

絶対にあきらめない伊藤さんと作戦会議

必死にアレコレ案を出してくる伊藤さん。犬もおこぼれにあずかろうと必死である。わたしは園芸用の水をぶっかけられて、洗濯カゴに入れられていた結び目うどんを必死に食べていた。それぞれ思いは異なるけれど、必死さが伝わっているだろうか。
必死にアレコレ案を出してくる伊藤さん。犬もおこぼれにあずかろうと必死である。わたしは園芸用の水をぶっかけられて、洗濯カゴに入れられていた結び目うどんを必死に食べていた。それぞれ思いは異なるけれど、必死さが伝わっているだろうか。
それぞれが必死な状況から出た案が、コレ。




小麦粉、水、塩をこねて、うどんの「繋ぎ」をつくる。
小麦粉、水、塩をこねて、うどんの「繋ぎ」をつくる。
乾麺の折れたところをていねいに繋いでいく。また内職か。
乾麺の折れたところをていねいに繋いでいく。また内職か。
フフフ……。不敵な笑み。これなら大丈夫そうだ。
フフフ……。不敵な笑み。これなら大丈夫そうだ。
けなげにもちゃんとつながっている。
けなげにもちゃんとつながっている。
結論を言えというなら……。
つなぎ目が重くて切れた。切れたんだよーー!
つなぎ目が重くて切れた。切れたんだよーー!
切れて落ちた分は死守。何の味もせず、大変なまずさだった。
切れて落ちた分は死守。何の味もせず、大変なまずさだった。
それなら最終兵器、当サイトでもおなじみのライター麺の達人「玉置先生」にお越しいただきましょう!
ドドーン! まさに真打の玉置氏。この貫禄!
ドドーン! まさに真打の玉置氏。この貫禄!
玉置さんがいるだけで、なぜだかもう成功したような気になっているからフシギだ。
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真打登場で、決起する我々(4日目)

前日、玉置さんからこんな画像が送られてきた。夜中の3時をまわっていた。わたしが呑気にカラオケをしているころ、彼は必死にうどんをこねていたのだ!

うわぁーーー!
すみませんすみません!
送ってきた1枚。オイルで浸けているのだそうだ。
送ってきた1枚。オイルで浸けているのだそうだ。
予備にとこちらも持ってきてくれた。
予備にとこちらも持ってきてくれた。
オイルじゃない方を延ばしていったのだが……。
オイルじゃない方を延ばしていったのだが……。
まるでサナダ虫(ギョウ虫)のようになった。
まるでサナダ虫(ギョウ虫)のようになった。
よく新鮮野菜にある『わたしが作りました!シール』みたいになった。うどん袋に貼りたい。(実際は円のなかの友人が延ばしたのだが)
よく新鮮野菜にある『わたしが作りました!シール』みたいになった。うどん袋に貼りたい。(実際は円のなかの友人が延ばしたのだが)

茹でて味付けして、いざ、ビルの屋上へ!

サナダムシ的ビジュアルのうどんだが、きれいに延ばすことができた。これを茹で、ごま油・醤油で味付けしたものを持ってビルのある新宿へ向かう。
自身に満ちあふれている伊藤さん。 こうも堂々と歩くひとをわたしはほかに知らない。
自身に満ちあふれている伊藤さん。 こうも堂々と歩くひとをわたしはほかに知らない。
タクシーの運転手さんに計画を説明した。降りる間際になって「そりゃムリじゃねえのー」と言われる。
タクシーの運転手さんに計画を説明した。降りる間際になって「そりゃムリじゃねえのー」と言われる。
どーん! 6階建てのビルは、見上げるだけで首が痛い。
どーん! 6階建てのビルは、見上げるだけで首が痛い。
いっくよーーーー!
いっくよーーーー!
はいっ!
はいっ!
ところが……。
玉置師匠渾身のうどんにも関わらず、次々と切れていってしまう。そもそもボウルのなかで切れているのも多い。

こうなったらもう長さはいい。本格的に『二階から目薬』ならぬ『屋上からうどん』にトライすることに決めた。
負けて、勝つのだ。何にかは知らないけれど。

しかし、というかやはりというか、6階はそんなに甘くはない。屋上から望遠で撮ってもらった写真を見て愕然とした。
口に入れるのが難しすぎて、舞踊家のようになってしまっている。ちょっと画期的なダンスを考案した気分だ。
口に入れるのが難しすぎて、舞踊家のようになってしまっている。ちょっと画期的なダンスを考案した気分だ。
首も腰も痛くなるという悲劇のなか、うどん残数あと数本というところで奇跡は起きた。
もうぜったい逃がさないぞ! スッポンのようにわたしはうどんに食らいついた。
もうぜったい逃がさないぞ! スッポンのようにわたしはうどんに食らいついた。
歓喜のダンスをごらんください。(恥をしのんで……)
歓喜のダンスをごらんください。(恥をしのんで……)

いや、このままでいいのか。自問自答に入る

人間は欲深い生き物だ。成功してよろこんだのもつかの間。

「キャッチではなく、長いうどんを読者の方々に誇示するためにこの企画を思いついたのではなかったか」
と、同行者らの迷惑も考えず自問自答をした。

家にはまだ玉置さんの残しているうどんがある。そうだよ。もう1回やってみようじゃないか。長いうどんを、自慢しようではないか。
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玉置先生の巧みな技に一同うっとり

家に戻り、すぐに手を動かしたのは玉置さんだった。重ねないように円にした太めのうどんを、手で細くしながら沸騰した湯に入れていくのだ。
均等の太さにするのがむずかしい。
均等の太さにするのがむずかしい。
その職人技に一同ほれぼれ。しかも初めてだと言う。母などは何度も顔を出しては「あらーすごいわーあらーあらー」と、まるでアラーの神のように崇拝していた。
Youtubeで見た技だそうだ。
Youtubeで見た技だそうだ。
ここから垂らすのがいいんじゃない? 女性陣はロケハンなど。
ここから垂らすのがいいんじゃない? 女性陣はロケハンなど。
玉置さんのロングうどんも完成し、ロケハンもした。準備は万全だ。あとは途中で切れないことを祈るのみ。
なにがそんなにおかしいのか。
なにがそんなにおかしいのか。
「短いのいくよー!」『はいっ!」「長いのいくよー!」『はいっ!」
「短いのいくよー!」『はいっ!」「長いのいくよー!」『はいっ!」
撮影してくれた友人は、「まるで運動部のようだ」と言っていた。たしかにそうだ。こういうスポーツがあってもいいと思う。

そしてわたしたちは同じ陸上部でリレー選手だっただけに、息も合っているはずだ。失敗は許されない。
近所の子どもたち。「なにやってるのー?」「ん? やってみる?」 「いや、やんないやんない」
近所の子どもたち。「なにやってるのー?」「ん? やってみる?」 「いや、やんないやんない」
そしてついに、くるべきときがきた。
おっ? おっ? これはキタんじゃないの!?
おっ? おっ? これはキタんじゃないの!?
は、は、はいったーーーーーーーーーー!
は、は、はいったーーーーーーーーーー!
たるむ余裕まであるロングバージョンうどん。
たるむ余裕まであるロングバージョンうどん。
最初からみんなに「6階からなんてムリ! 20mなんてムリ!」と言われたこの企画だが、実はわたしだってうすうすは感づいていた。

でもやるんだよ! やって、本当にダメなのかたしかめたかったんだ。

そしてわたしは今、屋上からキャッチしたこと、二階から垂らしたうどんを読者のみなさんに見せられたことに大変満足しているのだ。

いいじゃないか、それで。
作ったのは玉置氏だとしても。

協力してくれたみんな、本当にありがとう。円陣を組んで勝利を分かち合いたいけど、忘れていたのでまた今度。
実はここでも何回も失敗していたのだ。服の汚れがそれを物語っている。
実はここでも何回も失敗していたのだ。服の汚れがそれを物語っている。
ごま油にまみれ、テカテカに輝く顔面。メイクは崩れていたが意外と美容にいいかもしれない。
ごま油にまみれ、テカテカに輝く顔面。メイクは崩れていたが意外と美容にいいかもしれない。

落としたうどんはキレイに洗って、伊藤家の犬と、うちの犬モッシュ君とで仲良く分け合いました。おいしくいただいたかどうかは知りませんが、ガツガツ食べてましたので大丈夫でしょう。
1度目はみんなが来てはしゃいでいたくせに、2回目は「あんたたち、またきたのー?」とシカトをキメ込む老犬モッシュ君。
1度目はみんなが来てはしゃいでいたくせに、2回目は「あんたたち、またきたのー?」とシカトをキメ込む老犬モッシュ君。
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