同級生の田村圭介くんと歩きます
今回一緒に歩くのは、昭和女子大学准教授の田村圭介さんである。3月に「
新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか」 という本を出版した。
だが今回は田村さんをくん付けで呼びたい。なぜなら同じ学校の同級生だからだ。
左から、林、田村くん、田村くんの本を編集した石塚さん(SBクリエイティブ)。 全員同じ学校の同級生。
僕は3年前、デイリーポータルZの企画で渋谷駅の立体の地図を作った。
このときにどこかの大学の先生がやっぱり渋谷駅の立体地図を作っているという話を聞いた。世の中には似たような人がいるのだなと思っていたのだが、それが田村くんだった。
田村くん作・硬そう
そのときは同級生とは知らなかったのだが、今回知って震撼した。
世の中に渋谷駅の地下の模型を作ったひとがふたりいて、同じ1987年から1989年のあいだに都立西高校という学校に通っていたのだ。
きっと学校で「卒業して25年経ったら渋谷駅の模型を作れ」という催眠術をかけられたに違いない。記憶を消されて憶えてないけど。
そのふたりが新宿のおれだけがいいと思ってるスポット、マイ秘境を紹介することにした。待ち合わせは新宿の目である。
田村「これ作ったの、宮下芳子さんというシュールレアリズムのアーティストなんだよ。」
いきなりいいこと聞いた。昔からあるから気にしなかったけど、言われてみれば前衛である。
1・新宿駅には隠れた滝がある(林)
目からすぐのマイ秘境は新宿駅西口の滝である。ほとんど見えない場所にあるのだ。
中央の岩場のようなところに滝がある
西口地下のロータリーの奥にあって正面からはほとんど見ることができない。横からだとかろうじて見える。幻の滝である。
上から見ると、まんなかのスロープが別れるところ…
ここ!
かつて手前の植え込みに水があったのでその名残かと思っていたが
「これねえ最近なんだよ。」と田村くん。
たしかに
建設事務所のページを見ると平成23年(2011年)にリニューアルして設置したと書いてある。
昔は目立つところにあって徐々に目立たなくなった、ということではないのだ。最初から見えにくい場所に作った。まさに秘境。
ちなみにかつてロータリーに池があったために、少なからず地下広場は冷やされていたにちがいない。と田村くん。
田村くんは建築が本業なので詳しい。
この滝もそうなんだろうか。
2 京王線には1時間50分しか開かない幻の改札がある(田村)
7時10分から9時までのあいだだけ開く出口専用の改札があるのだ。京王線乗り場に通じる細い通路、C&Cカレーの向かいである。
昼はこのように花屋にしか見えないのだが
朝はこの通り!
花屋に擬態しているようすは隠し扉と言っていいレベルである。僕も本を読むまでここに出口があることに気づかなかった。
改札口の入り口は花屋の花壇も一緒にまわる回転扉だと最高なのだが、シャッターだった。
ちなみに向かいにあるC&Cは本店である。
コネタ・JR改札上の通路にある手すりが親切
絶妙なカーブでコインロッカーにつながる
3.天井が低いイベント会場
僕も田村くんも気になっているのが新宿西口地下にあるイベントコーナーである。よく古本や靴を売っている。
ものすごく天井が低いのだ。
2mもないのではないか
どうやらこの植え込みの下が低くなっているようだ
上から見るとここ
そんな単純な話だったのか。
田村くん曰く「このイベントコーナー、もともと車両プールだったという話があるけど、実際に使われた記録が残ってないんだよね」とのこと。なるほど、確かにこの低さは車用だと考えると納得ができる。
でも証拠がない。
この原稿を書いている最中に、「1968新宿(渡辺眸)」という写真集に載ってる写真にはイベントコーナー手前に「駐車場入口」と書いてあるとのメッセージをもらった。
おお、やっぱり!(
この動画の2分40秒過ぎ、奥に車が停まっているがこれも現イベントコーナーではないか)
凄くテンションあがったのだが伝わりにくいので緑に覆われている通気口をどうぞ。
通気口だと言われるまで気づかなかったよ
4.あの低いガードが実は青梅街道(田村)
新宿駅の北寄りに角筈(つのはず)ガードという天井の低いガードがある(新宿って天井が低いところばかりだ)。怪しくて僕も好きな道だが、実はここが青梅街道だと田村くんが本に書いている。
ざっくり図を描いた
かつての青梅街道は新宿三丁目の交差点を起点にいまの新宿通りを北西(地図だと左上)に向かっていた。そこを突っ切るように線路ができたので下をくぐるガードになったそうだ。ガードをこえて小田急ハルクの裏を通っていまの青梅街道になる。
言われてみればガードもハルク裏の道も真っ直ぐで自然である。道幅が細いのも車がない時代の旧道らしい。
ハルクの裏の切通しのような道が旧青梅街道
あとから作ったのかと思ったらこっちが本家だったとは!
以前よりもきれいになって壁にも青梅街道のことがたくさん書いてあった。全然気づかなった。だいたい酔ってるときに通るからか。
!!ふと気づいた。
そういえば東口の広場に馬が水を飲むための蛇口があった。あれも街道沿いだからだろうか。新宿の発祥である新宿通りの内藤新宿は馬が多かったと聞くし。
これ、馬水槽という案内がある
奥の説明には昭和39年に設置されました、と書いてある。昭和39年?新しい!馬の時代じゃないじゃないか。旧青梅街道に全然関係なし!
こういうめちゃくちゃさが新宿らしい(まけおしみ)。
ちなみに角筈ガードを出てルミネエストの資材置き場は西武新宿線用に確保した土地じゃないかと盛り上がった
西武新宿線を延伸して新宿駅につなげる予定だったのだが、駅2階のスペースが足りずに立ち消えになった。この駅前の一等地がいつまでたっても資材置き場なのはその名残りかもしれない。
新宿線延伸の話は
日経新聞のこのページが詳しい。
上記ページの見どころはいまのルミネエストが新宿民衆駅ステーションビルという名前だったことである。今後、通ぶってルミネエストを民衆と呼びたい。
5.アルタ裏の背が高い自動販売機(林)
田村くんの唸るような秘境が続いたので僕からのアンサーはこれである。
手が届かない自動販売機
これは僕が見つけたネタではない。デイリーポータルZのライターの爲房新太朗さんに教えてもらったのだ。ありがとう!
(爲房さんの底上げ自販機についてのフィールドワークはこちら。「
底上げ自販機を見つけて楽しもう」)
記念写真
最上段のコーラ、爽健美茶、リアルゴールドは垂直跳びの要領で買うことができる。ぜひ近くに通りかかった際は楽しんでもらいたい。
新宿の今いちばんホットなスポットと言っても過言ではない。
コネタ・サントリーラウンジの看板が過保護
6.背が高くなる場所(林)
続いても僕からの秘境である。新宿駅の丸ノ内線の上を通る地下道、メトロプロムナードで写真を撮ると背が高く見えるのだ。
a) 普通に撮った写真
b) 背が高く見える写真
2枚目の写真は全員180cmぐらいに見えないだろうか。見えますよね。見えるということで話を続けるが、天井が低くて奥行きがあるので下から撮ると背が高く見える。
こちらはa)の写真を撮っているようす
こっちはb)の写真を撮っているところ
煽りで、ちょっとズームを使うのがいい。自動販売機の高いところのボタンが押せないうっぷんはメトロプロムナードの写真で晴らしてほしい。何の解決にもなってないけど。
7.サブナードのアシュラ男爵
新宿東口、靖国通りの下にサブナードという地下街がある。水商売風ドレスを売る店や肝臓の薬が充実した薬局があったりと新宿らしい場所である。
龍生堂薬局ビルと東進ビルという2つのつながったビルから地上に出ることができるのだが、その地下の入口がきれいに対照になっているところも見逃せない。
アシュラ男爵かと思うほどの色違い
ちなみにサブナードの筆頭株主は伊勢丹だが2番目は小林平三商店、つまり三平ストアである。すごいな三平ストア。そんなに力を持っていたとは。
8.新宿三丁目の交差点の地下は十叉路(田村)
さて最後は田村くんの秘境である。新宿三丁目は地上は交差点、つまり4方向に道があるが、地下になると10にも増えるのだ。
新宿三丁目に副都心線ができて複雑になったと思っていたが、そんなに大変なことになっていたとは。
地下でパノラマ写真を撮ってみたがまったく伝わる気配がない
こんなに分かれている(「新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか」より引用)
クールな田村くんも魔の十叉路とまで書いてノリノリである。図で上に伸びる花園神社への地下道は存在を知らなかった。これがやたらと長いのだ。地下の案内図を見てもその異様さが分かる。
本来であれば右に続く道が下に書いてある
右に伸びる地下道が長すぎて案内図に収まらず、二段に書いてあるのだ。天気予報の日本地図における南大東島のような扱いである。
「どこにでるの?」地図を見て僕が思ったことは先回りして誰かが書いていた
魔の十叉路にふさわしい魂の叫びである。出た先は新宿区の保健所という意外さである。
新宿は秘境だらけ
田村くんも都市に興味をもつようになったのは高校のときの地理の先生の影響が大きかったと話していた。僕の地理好きもそういえばそうだ。そうだよねー○○先生、と言ったらぜんぜん違う名前だった。
おかしな地理教師がふたりもいたのか、だいたい1学年に地理の教師が二人もいるなんてことがあったのだろうか…。やっぱり記憶を消されているのかもしれない。