さっそくだが、私が見つけたメソッドを紹介していこう。
メソッド1:当たりたいなら今すぐに動け!
駅のホームには鳥よけができ、公園でエサやりをするのが禁じられているこのご時世。歴史が進むにつれ鳥のフンに当たる確率が低くなっている。
現に私は小・中・高時代にそれぞれ1回、計3回当たったことがあるが以来20年間も当たっていない。当たりたいなら今、すぐに行動した方がいいだろう。
今や電線にまでトゲトゲがつけられてる。年を追うごとに鳥に厳しくなる。
メソッド2:とまってる鳥を狙え!
鳥は人間と違い、動きながらもフンをする。しかし、飛んでいる鳥のフンに当たるのはそれこそ至難の業だ。
となれば、止まっている鳥を狙うしかない。このポイントを押さえるだけで宝くじ3億円から、商店街のくじ引き一等を当てるくらいの確率に高めることができるだろう。
亀戸の交差点に止まるハトたち
メソッド3:鳥に詳しい友人をつくれ!
フンに当たりたいなら良きアドバイザーがいるといいだろう。今回は鳥好きライターの伊藤さんについてきてもらうことにした。
すると、私が考えていた行き当たりばったりプランは全て却下。その中に入れていた動物園の鳥小屋へいく案は良い線だとおもったが、そういう所はお客にフンが当たるつくりにはなっていないそうだ。そりゃそうか。
野生動物を相手に「狙う」ことの難しさを語る伊藤さん。狙うのが鳥のフンなのにとても真剣だ、ありがたい。ちなみにフンに当たったことは無いそう。
メソッド4:豆屋へ行け!
行程は伊藤さんに全てまかせることにした。
まず向かったのは創業して100年近くという亀戸の名物豆屋さんだ。豆好きのハトたちがあつまり、「
ハトに占領された豆屋」としても有名である。いきなり大本命だ。
いるいる!
トゲがあるのにお構いなしにとまるハトたち。
この日のために的つき帽子をつくってきた。当たるぞ~
まずはシャッター前で待つ。当たらない
店の前の電柱で待つ。当たらない
一番当たりそうな隣のシャッターで。当たらない!
高まる期待と不安。ハトたち、もしかして我慢してくれてる?
メソッド5:あまり動くな!
豆屋の周辺にはハトが集まる所が3箇所あり、場所をちょこちょこ変えては待機した。
しかし後で気づくのだが、これがあまり良くなかったようだ。さっきいた場所にポトリ、ポトリ、と3回ほどフンが落ちるのを見た。安易に動いてはいけないのだ!
私の頭上にいるハトの位置確認してくれる伊藤さん。真剣だ。
そんな伊藤さんの頭上にもハトがいる。当たれ! と強く念じたが当たらず。
豆屋の店主は当たったことがない
一時間フン待ちしていたところ、豆屋さんが開店してしまった。
店内にもハトが入るというこちらのお店、お母さんのこれまでの被害状況を聞いてみたところ、なんと生涯で一度も鳥のフンに当たったことがないという。
これだけ恵まれた環境にいるにも関わらず当たらないなんて。ハトたちは豆欲しさに遠慮しているのだろうか。
毎日掃除が大変、というお母さん。豆あげてないのにハトたちが来ちゃうらしい。
ハト対策にと飼われた猫ちゃん。しかしほとんど寝てるらしく効果はないそう。
そうか、毎日ハトに囲まれていても当たらない人は当たらないのか。やはり戦略なくしては当たらないのだ。
やっぱりハトが多いのは公園
伊藤さんの案内で次にやってきたのは駅前の公園だ。
亀戸駅前公園。亀に羽がはえて飛んでいきそうなオブジェが目をひく
豆屋さんほどではないが、この公園もハトが多い。街灯の周りや、近くの電線に止まっていた。
メソッド6:真下に立てるかどうかが最重要!
豆屋でも感じていたが、フンに当たるには場所取りがとても重要である。
この街灯はハトの体の2/3が隠れてるので当たりにくい。
その点、電線の方が当たる可能性UP
メソッド7:新しく止まりにきたハトがフンしやすい!?
まだまだサンプル不足かもしれないが、私の見立てによると、新しく止まりにやってきたハトの方がフンをしやすいといえる。
さっきの「メソッド5:あまり動くな!」と合わせると、新しくやってきたハトの下にずっといるのが効率が良さそうだ。
伊藤さんが突然ハトを追いかけだした。危険な人に見えて怖くなったが、追われたハトが飛び立って電線に乗った。ナイスプレー!
そして伊藤さんの追ったハトがすぐフンした! 止まりたての鳥がすぐフンする説の可能性高まる。
伊藤さんによると、鳥は飛ぶために常に体を軽くしなければならないので代謝がいいらしい。少しでも体を動かすだけで腸が動き、フンをしたくなるのかもしれない。
しかし私が狙ったハトはフンをしてくれない。ただただハトの尻を見続ける。首痛い。
あっ虹だ。うっすらとだけど。ハトたちからのプレゼントだね。
メソッド8:連れフンを狙え!
豆屋でも経験したことだが、どうやらハトの脱糞欲は伝染するようでポト、ポト、と隣同士で立て続けにフンをしているのを見た。
人間でいうあくびのようなものかもしれない。あくびが伝染するのは相手に気をゆるしている証拠だそうだから、きっと家族かなんかが隣でしているとしたくなるのだろう。
その後、移動しようと荷物を見たら
私の三脚袋にフンがついてた! (想定外に汚かったのでモザイク)
気づけば私の三脚袋にダイナミックにフンがついていた。
体についたわけではないので「当たった」というには微妙な線ではあるが、始めてから2時間弱。希望が見えた瞬間だ。伊藤さんと「やりましたね!」と喜びを分かち合う。
ちなみにフンが落ちそうなところにあえて荷物を置いておいたのだ。だって何も起こらないと寂しいんだもの。
嬉しいけど拭かなきゃいけないのはやっぱ嫌だな
とりあえず手応えを感じた(そして場所に飽きた)ので次に移動することにした。
やってきたのは大森海岸駅近くのしながわ区民公園だ。
ここにはゆりかもめがたくさん来るんですよ、と伊藤さん。
この「ゆりかもめ橋」がフンスポットのようだが、この日は残念ながらいなかった。
メソッド9:どの鳥のフンに当たりたいのか絞れ!
どうやら時期を誤ったようだ。ゆりかもめは晩秋から冬の時期にやってくる渡り鳥。伊藤さんはギリギリいるかも、という期待をもって来てみたようだがこの日は一羽もいなかった。
「ゆりかもめいねーなー」と声に出すお父さん。
「いないですね~」と他人事のように薄ら笑う私に、まずはどの種類の鳥のフンを狙うのかを考えるべきでしたね、と伊藤さん。そしてしっかりと下調べをしてからのぞむべきだ、と。
私は甘く見ていたようだ。大学受験直前まで遊んでた学生の気分だ。
小堺さんはどのフンに当たりたいの? と伊藤先生。すみません、まったく考えてませんでした!
メソッド10:カラスは手強いぞ!
さらに移動し、花見客でごったがえす代々木公園にやってきた。ここには生ごみを狙うカラスがたくさんいるのだ。
なにくわぬ顔をしているのは訳がある
カラスがガン見してるのだ。賢いので、変な動きをするとどっか行ってしまう。
カラスの場合、ハトとは違い警戒心が半端なかった。下から眺めたりカメラを向けるとすぐ飛んでいってしまう。
何もしませんよ、という雰囲気づくりがだいじ。
メソッド11:時には連携プレーで!
カラスのように賢いやつには連携プレーが必要だ。人間の方が知能が高いというところを見せつけてやろう。
上を見れないので位置確認は伊藤さんとの連携プレー。
無言でコンタクトを取るふたり。緊張がはしる。
花見で賑やかな公園のなか、私達だけが真剣にコトに集中していた。
カラスはハトに比べてアクティブで、すぐに方向転換したりほんのちょっとだけ動いたりしてしまう。そのたび伊藤さんがハンドサインを出してくれ、私はそのとおりに動く。UFOキャッチャーになった気分だった。
しかし、カラスがいる高さは悪く無い。いけるかもしれないぞ。
そんな時に限って「わー!」と大声を出す人がいてカラスが逃げる。見たら漫画朗読家の有名な人で、2度驚いた。
カラスは敏感なためすぐに逃げてしまうものの、たくさんいるので何度も何度も繰り返しトライした。
一時間半ほどやっただろうか。なかには、伊藤さんの指示で一歩前に出たところ、次の瞬間に背後にフンが落ちるなんていう悲しい事件もおこったりした。
指示に失敗し悔しそうな伊藤さん。見ている方が歯がゆいだろうな。
諦めかけたその時、急にカラスたちが集まりだした。
どうやら酔っ払った若者の嘔吐物を狙って集まってきたようだ。
獲物を狙うカラスと、カラスのフンを狙う図。アフリカのサバンナで見られる光景に近い。
しかしカラスが獲物をあさるのを見ていたら気分が悪くなり、結局退散することにした。
しかも伊藤さんによると雑食で油こいものも食べるカラスのフンはとても臭いらしい。色々とハードルの高いカラス。トライする場合はよく考えたほうが良いだろう。
メソッド11:ツバメ情報はTwitterで集めろ!
次は登戸駅と稲城長沼駅に移動してツバメの巣を狙った。
ツバメの巣の良いところは、巣が固定されているためフンが同じような所に落ちるということ。そして、風物詩的なものとして皆がTwitterに書き込むため情報が得やすい所にあるという。(
#駅ツバメで投稿情報が見られます)
登戸駅の改札前。いたいた! すぐ飛んでっちゃったけど…。
ツバメが巣をつくるのは5~6月が多いらしい。難しいのが、一斉に作るわけではないことや、マゴマゴしていると人間がフンよけを作ってしまうところである。
ツバメの巣があちこちに作られている長沼駅前飲食街。去年の巣が残ってたが、ツバメはまだいなかった。
それにしてもディープ過ぎるスポットだな。
フンを追い求めることで、まさかこんなに鳥についての知識が増えるとは思ってなかった。正直、鳥はフン以外興味なかったもんな。
その後、生物博士のライター平坂さんに急きょ連絡を取り、大量のインコが現れる場所を教えたもらった。川崎の等々力競技場である。
メソッド12:タイムリミットは夕暮れまで!
日暮れが近く、時間が無いので途中からタクシー。もう誰も私達を止められない。(近いと思ったら3500円もかかった)
平坂さんは今からではもう見つけるのは厳しい、とアドバイスもくれていたが、一日中フンを追っていた我々を止めることはできない。まだ日没まで時間がある。可能性がある限り諦めたくないのだ。
しかし、競技場について倒れそうになった。めちゃくちゃ敷地が広いのだ。伊藤さんと別れ、手分けしてインコの集団を探したが結局見つけることはできなかった。
伊藤さんが頑張って撮ったコウモリ。鳥じゃない。
開始から9時間。この日フンに当たる事はかなわなかった。
こうして、広範囲に及び、様々な種類の鳥を追った一日が終わった。
期待と緊張が何度も交錯し、時に喜び、時に反省しながら過ごした一日は、飽きることなく、日が沈みさえしなければもっとやりたかったくらいだった。
しかしどうだ、振り返れば伊藤さんと見つけた12ものメソッドが残っている。これを活かしてリベンジを果たそうじゃないか。
<メソッドまとめ>
・カラス難しいからやめとけ
・豆屋のハトが圧倒的に狙い目
・止まりたてのハトの下で粘り強く待つ
一週間後。例の豆屋にやってきた。今回は一人だが自信がみなぎっている。
嵐前の強風が吹くなか私は一人で豆屋に立ちハトの動きを見定めた。
あとは自分を信じ、ジッと動かずに待つのみ。
待って、待って、スマホをいじりながら待って、雨降りそうだからもういっかなあ、となったその時、ついに!!
待つこと51分…
左上腕部に当たった、当たった! 白の絵の具のように綺麗なフンが。
伊藤先生やりました!
という訳で私は無事、鳥のフンに当たることが出来た。諦めなければ夢は叶う。私はいま、ものすごい達成感を感じている。
おさらい:当たるまで豆屋にいろ!
鳥のフンは、平凡な日常へのスパイス
フンに当たる人生と当たらない人生、どっちがいいのだろうか?
人によっては鳥のフンに当たらないまま生涯を終える事もあるだろう。それはラッキーなことなのだろうか。いや、私は違うとおもう。
当たった瞬間は不快かもしれないが、その思い出は深く記憶に刻み混まれ、のちに懐かしさや、笑いというポジティブな感情となって何度も思い返される。会話に困った時の一つのネタにもなるだろう。
鳥のフンは、平凡な日常へのスパイス。天からの贈り物といってもいい。鳥のフンに当たった方が人間としての魅力が高まるのだ。きっと。
帰りに駅前でスクラッチやったら初めて当たった!600円かけて200円だけど。
伊藤さんの感想
フンに当たりに行くと聞いた時は「フンに当たりたくなければ、フンに当たりにいけ」という格言があるくらい(うそだが)難しい上に、当たったところでくさいしドロドロしてるし心が虚無になるだけでは?と思ったが、実際に小堺さんを鳩やカラスの下にナビゲートし、見守っている時、明らかに私の心は高揚し、両手を握りしめ、鳥達のタイムリーな排泄を心待ちにしていた。
上体を反らせて大量の排泄物をビシャーッと浴びる。ライティングは逆光ぎみ。ハイテンションで流れるBGMは映画「フラッシュダンス」。
そんな恍惚の場面を思い浮かべながら、カラスのフンが惜しくも彼女のすぐ後ろに落下するのをなすすべなく見送った時、カラスもまた悔しそうにクチバシを枝にこすりつけていた。あの瞬間、鳥も人もみんな、フンよ当たれと確かに、ひとつになっていたのだ。