動画コーナーが出す恒例の本気
バリバリの画面が気になるのはわかる。しかしなぜ映画化するのだとお思いだろう。
私たちプープーテレビはデイリーポータルZの毎日1分の動画コーナーで年に1回特別企画で長いのを撮る。
昨年は『
迷惑メールを実写化してみた』である。そして今年のテーマは『バリバリのiPhone』。
そんなもの映像化してどうするんだという方、しょうがないんです。もう作ってしまったんです。とりあえずご覧いただきたい。
2016年のプープーテレビ年始企画です。本編はまた年末に公開します
以降、どのように作られたかのご紹介です
ああ、今年も終わった…。いや、終わってはだめだ。この3分を作るのに1ヶ月はゆうにかかっているのだ。うまみを搾り取られるだけ搾らなければ…
ここからはなぜこんなものができたのか、作られていく過程を見ていこう
年末に何を撮るか、プープーテレビ内で案を募集する
11月後半テーマが決まる「バリバリのiPhone」
去年の迷惑メール実写化がウケてしまったために今年も長編をやることは決定していた。11月に何を撮るか企画会議が行われた。
しかし企画はなかなか決まらなかった。
出た案でいえばたとえば「空撮の寅さん」。ドローンで上空から撮った寅さんをやる。人情はわからないが位置関係だけしみじみわかるのだ。だが本当におもしろいのかは別だ。
他にも「電話ボックスで起こった密室殺人事件」など。これは電話ボックスに10人くらい入ったとにかく密にこだわった密室殺人事件である。しかしキャッチーさがない。
どうせインターネットに載せるのだから世界中で共感できるものにしよう。そんななか出てきた意見が「バリバリのiPhone」である。
ああ、たしかにいるいる。(えっ…それ使えるの!?)と思うような電話の人がいる。たぶん世界中にいることだろう。
しかしそこには重要な問題がある。それを一体どう映画化するのだ? iPhoneと最後まで競った案は「WindowsUpdate物語」である。こっちの方がつらい。しょうがない、バリバリiPhoneでいこう。
そんな折、自分のiPhoneを地面に落として割る。大切な理由などなくうっかりだった。慣れてしまえばバリバリでも使えるものだと実感
どうiPhoneが割れるのがおもしろいのか、プープーテレビ内で募集する。ほぼこの辺りから採用している
12月に入り制作が進行する
企画の本格的なゴーサインを出したのが12月頭。ここから台本作りと人と衣装ととロケ地と小道具の手配を同時進行していく。
ところで前年に私たちが覚えた悪しき手法として場面のギャグというものがある。状況や設定で笑わせるののだ。
これがくびをしめた。多いほどおもしろいので今回の撮影は18場面ある。
エクセルに必要なものを書き出していく。70個を超えたところでそこから先の行はフォントの色をどんどんうすくしていった。 もう見たくないからだ。
だからおれ嫌なんだ、これ作るの。大変だから。とここから1ヶ月ぶつぶつ言うことになる。
土下座をするゲスト、撮影と録音の大北、それを撮る主役の藤原。基本的に3人行動。
撮影開始、泥沼を進行
手配が終わらないまま初日の撮影に。
去年は近所に住む音声さんの池田くんに来てもらったが、さすがに18場面分の予算もない。
ということで撮影にはカメラ兼録音の大北、主役の藤原、相手役のだれか、という3人で行動することになった。これ以上ないほど最小人数である。
この日の撮影はヌンチャクの達人谷口マサトさんにiPhoneを割ってもらう。難航した。これがあと17回か…。この先はどうなってるんだろうかと沼をながめているような気分である。おれは道に進みたいんだ、道に。
翌日、ライターの西村さんと息子さんと少年野球でiPhone割る場面。ボールを投げるNGが出まくる。演技ではなく物の撮影のエグさを知る
有名な人も俳優さんも素人も出ている
出演の大半は周囲にいる人の友情出演である。制作費がかぎられているのだ。
もちろん素人にはむずかしいぞというところは俳優さんに頼む。SMの女王さまに井神沙恵さん、フランダースの犬のネロとして萱怜子さん、そしてスティーブ・ジョブズを名乗るホームレスとして古関昇悟さん。メンヘラな彼女役にヲガワササノさん……素人にむずかしいというか変な役ばかりである。
俳優の古関昇悟さんはぼくらのやってる明日のアーを見てなんか一緒にやりましょうと声をかけてくれた。やりましょう! ホームレスを!
そして今年はTOKYO No.1 SOUL SETのBIKKEさんと小説家の道尾秀介さんが出てくれた。
二人ともプープーテレビのプカデミー賞のゲストに来てくれた人だ。
ちなみに道尾さんは撮影前日に累計500万部突破したとSNSに投稿していた。翌日、寒風吹きすさぶ川原で風船にからまったテグスをほどけと命令されるとは思ってもいなかったろう。いつか川原で延々テグスをほぐす小説が出たらこのことだなと思ってほしい。
しかし恐縮していては身がもたないのでぼくはもうこのことは忘れた。
作家の道尾秀介さんが出てくれてます。風船にテグスがからまりまくる歴代でナンバーワン級の大変な撮影となった
ソウルセットのBIKKEさんが酔っぱらい役で登場。「飲んでないけど酔っ払ったふりしてたら楽しくなってきた」と酒飲みの新境地に
小道具や衣装の手配も大変
小道具や衣装の手配が追いつかず、編集部の古賀さんに手伝ってもらった。
古着屋に行ったりネットオークションで細かく落としたりしていく。SMの女王様は衣装の点数が多くてたいへんだった。しかしなぜか全体的に安いのである。ムチや首輪など7点入って1,000円ちょいだ。
うわ~、お得だ~! と感動したのだが、要るのかこのお得感。
SM小道具セットがAmazonで1000円くらいだった。お得だな、SM!
ホームレス役の古関さんのために服をボロボロにする。ドリルで穴をあけて小麦粉をはたくという方法をあみだす。使いみちないのでここに共有しときますね
りんごにありがとうを言い続けると腐らないですよ、という役の岩沢さん。自分で服を用意してくれたのだが、長いヒゲ、前歯がない、謎の衣装と誰も思いつかない役作りである
小道具のリストに「くさったリンゴ」というものがあり、編集部の古賀さんが加湿器のそばにリンゴを置いて作ってくれた。りんごを腐らせない方法を検索して全部その逆をやっていったそうだ。
りんごを腐らせる方法はネットに載せても使いみちないものな……
古賀さんが「りんご 腐らない 方法」で検索してその逆をやってきたもの。臭くはなくただ甘い香りがする
そういえばiPhoneを割らないといけない。ためしにiPhoneのモックを買ってきて割ってみる。ぜんぜん割れない。
どうやらプラスチックなので割れないようだ。中に重りが入っていた。なんて用途のないものなんだ
交換用のガラスだけ買ってモックにかぶせ割る。よし。重要な場面以外はこれでいこう
iPhoneは割ろうとすると割れない
今回の撮影の目玉はiPhoneが割れることにある。せめて本物を一回は割りたい。
さいわい古賀さんが下取りできないと言われたiPhoneを持っていた。どうせ捨てるなら…と撮影で割らせていただいた。
しかし実機は一台でチャンスは一度。12月23日、はじめてiPhoneを割る場面がやってきた。
渾身の力をこめて金槌を振り下ろす藤原。ガチン! だが割れない。NGである。ガチン! またNG。
意外とiPhoneの画面は割れない。NGを出すこと6回。これはもう割れないのではないかと困りつつあったころ、ようやく割れた。
現場では(やった!割れた!)という空気に包まれたが世界の歪みを感じた。
ようやく割れたが割れ過ぎである。こんなに細かく割ってる人見たことない
物の撮影がエグい
iPhoneは割れた。しかしここからだ。今回は物の撮影のNG量がすごかった。
たとえば所定の位置にボールを投げてから撮影開始だとか。「へたくそ、おれがやるから」「やっぱりぼくがやる」と西村親子が代わる代わるボールを投げていた。笑い飯の漫才みたいだなと思った。
道尾さんが来た川原で風船とテグスの撮影は歴代ナンバーワンの大変さだった。
他にもルンバが大変だった。ヘボコン(ヘボいロボットコンテスト)を主宰している編集部の石川くんに工作をお願いしたのだが、ほんとにヘボいルンバを作ってきたのである。
タイヤがすべて外されていてめちゃ遅である。現場でみんなで作りなおした。
工作をお願いしたルンバ。ガムテープとダンボールで留められてる上にタイヤが全部外されている。当然めちゃ遅である。こちらもガムテープで現場で再改造する
たいへんだった撮影、フランダースの犬。シベリアンハスキーが暴れまくる。ぼくらにできる再現度はこの辺りだと早々にあきらめてOKにする
ロケ地で張り込んだのが教室風の撮影スタジオ。14,000円。
教卓にはノートも入っていたのだが、警察の志望動機が書かれていた。どういうリアリティなの!
そして最強の敵ピタゴラ装置へ
今回の撮影で一番インパクトありそうだったのが「ピタゴラ装置でiPhoneを割る」というものである。
これはぜひとも実現したい。しかしピタゴラ装置なんて作れるんだろうか? 思い悩んで知り合いのつてをたよりピタゴラ装置を大学時代に実際に作ってた人に相談した。
ピタゴラブックを持参して、これとこれとこれのギミックなら作りやすいと教えてもらう。よし、できる気がしてきた。
しかし作る時間がない。しょうがないので知り合いの美大の学生さんに制作をお願いした。打ち合わせをして進行の確認をしたりして、いよいよ撮影最終日の12月27日。
一度も成功したことのないピタゴラ装置が現場に運び込まれた。
電車で運んできたら途中で壊れたらしいピタゴラ装置。ビニールテープで固定されてるところに不安しか感じない!
レンゲのギミックは作りなおす。しかしうまくいかない
出演者も全員で何度も直す。そもそもちゃんと動いたことが一回もないのである。そんなピタゴラ装置を撮影するなんて!
ここの重さが足りないから電池を置いて……成功率を上げるためにギミックがどんどん増えていきセッティングが異様にシビアになっていく
一回も成功しないピタゴラ装置を撮影しようとしているのである。そんな絶望的なことがあるだろうか!
終電があるのでクランクアップ!
「そもそも成功したことないピタゴラ装置」である。そんな地獄の撮影があるだろうか。
撮影時間はどんどん延びていく。知ってる……これ年始のテレビのかくし芸大会でよく見るやつだ。
地道に改良をかさねてようやく訪れた成功の瞬間……撮影に失敗。全部で5秒もないのに5ギミックくらいある。ピタゴラ界のF1みたいなものである。
撮れてないけどこれでいいと撮影は終了した。なぜなら終電があるからである。私たちの長い長い12月は電車の時間によって終了した。
撮影が終わると編集に。プープーテレビのロゴを作ってくれたグラフィックデザイナーの
大伴亮介さんから今年もタイトル文字が届く。なんかハムの人みたいになってきた
そしてラジオを作ってる
オービチューンの岡田さんが今年もナレーションを送ってきてくれた。予告編っぽさの大半はこれのおかげです
iPhoneは割れてても使えます
すべての撮影が終わったあと、本物のiPhoneを可能な限り割ってみた。ひびがどんどん細かくなっていき、ガラスの破片が落ちていく。
次第にタッチパネルがきかなくなった。画面も半分以下しか見られない。しかしそれでも画面は生きているのである。
その電話使えるの?とバリバリの人に対して思っていた。だがあれはなかなか壊れないのである。
そもそも使えるものをどうして替える必要があるのか。替える必要なんてない。スティーブ・ジョブズは傷ついたiPhoneは美しいとして、ケースを否定したそうである。
使えるなら使おう。私たちはバリバリのiPhoneを応援しよう。高潔な意志と強靱な精神力を持ったすばらしい人達だ。
しかし成功しないピタゴラ装置と川原での風船とテグスは金輪際応援しない! 絶対にだ!