特集 2015年11月18日

バーベキュー場にコンクリアートを建てる92歳の話

至高のバーベキューアートを堪能せよ!
至高のバーベキューアートを堪能せよ!
晩夏に訪れたバーベキュー場。皆が笑顔で肉を焼き、マスを釣るリア充な景色を灰色にして視界に飛び込んで来た鮮烈のアートワーク達。心をわしづかみにされて肉を焼く手を止め、作者をたずねた。彼は92歳だった。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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バーベキューそっちのけ物語

実家(神奈川県厚木市)の地元の友人が参集するバーベキューが開催された。集合場所は「清川リバーランド」。

厚木市に隣接する神奈川県唯一の村、清川村の煤ヶ谷(すすがや)地区を流れる渓流、谷太郎川の傍らにあるバーベキュー場である。正直いってまったく存在を知らなかった。
煤ヶ谷のバス停を降りて谷太郎川沿いに歩く。
煤ヶ谷のバス停を降りて谷太郎川沿いに歩く。
いいトカゲだ。
いいトカゲだ。
郷里の友人達に会うのも久しぶりだ。左の膝を痛めて病院で診てもらったら「いや……あなた右膝のじん帯が切れてるんですけど」と診断されたあいつは元気かな。思いをはせながらたどりついたリバーランドは明らかに異世界への入り口だった。
マンドラゴラのような流木看板のとなりに何かがいる。
マンドラゴラのような流木看板のとなりに何かがいる。
このDIY感、そして「ご無事にかえる」
このDIY感、そして「ご無事にかえる」
ビビッと心の針が左右に振れたが、まあこのようなレジャー施設やペンションなんかはオーナーの趣向が現れる事もままある事だし、まずはしいたけでも焼いて精神を落ち着けるかとさらに足を踏み入れたのだが……。
受付近くの手書き看板。黒い犬はマスコットの「リバーちゃん」との事
受付近くの手書き看板。黒い犬はマスコットの「リバーちゃん」との事
ゆるやかな坂をくだり、場内に近づくにつれて濃厚となってゆくワンダー感、高鳴る鼓動。植え込みの間や石庭に妖精のごとく存在している独特なボディバランスのオブジェと目が合いまくる。
うつろでかわいいタヌキ。後ろの石灯籠もこれ木製だな…….
うつろでかわいいタヌキ。後ろの石灯籠もこれ木製だな…….
これは……彼女の方……感情があるようなないような表情。
これは……彼女の方……感情があるようなないような表情。

アウトサイダーアートがひしめく桃源郷

場内には点在する屋根付のバーベキュースペースと宿泊用のバンガロー、人工の釣り堀が見える。若者達は焼ける肉に、子供達は水遊びに夢中、よくあるバーベキュー場の風景に確かに存在している違和感。
見える、俺にはなにかが見えるぞ。
見える、俺にはなにかが見えるぞ。
入口で見たようなコンクリートの妖精達が、圧倒的なボリュームで林立している。
「わかった。おれのバーベキューはこっちだ」
この時点で肉や酒への興味を失った私はそれらを鑑賞しながら場内をさまよった。
ゆるい笑顔が人のようにも見える「まねき何か」
ゆるい笑顔が人のようにも見える「まねき何か」
ノーガードで友愛をしめすパンダ。
ノーガードで友愛をしめすパンダ。
なんだろう、ひたすら愛らしい。
なんだろう、ひたすら愛らしい。
奥にすすむとその数はどんどん増えていく。
子供を守るバッファローのように円陣を組む。
子供を守るバッファローのように円陣を組む。
ものすごく魅かれた一体。衣装のデザインと「よろしく」が素晴らしい。
ものすごく魅かれた一体。衣装のデザインと「よろしく」が素晴らしい。
憤怒のレッドに
憤怒のレッドに
サムライブルー!
サムライブルー!
バーベキューや川遊びと同居する光景はひたすらシュール。
バーベキューや川遊びと同居する光景はひたすらシュール。
はじけている。生の感性がクラムボンのようにはじけてかぷかぷと笑っている。
ゆるっとした脱力感とユーモアが混沌としたコンクリマスコットが清川の山中に息づいている。うおー、アウトサイダーアートの桃源郷よ。
固そうなパンのヒーロー。これなにげにコンクリートで作るの大変なんじゃ……。
固そうなパンのヒーロー。これなにげにコンクリートで作るの大変なんじゃ……。
思わず駆け寄りましたよ。
思わず駆け寄りましたよ。
「これだけのコンクリ像をいったい誰が、何のために?」取りつかれたようにコンクリ像を見つめているとスタッフの女性に声をかけられた。
「あの、それがどうかしたんですか?」
――いやあ、これすごくいいですねえ、どなたが作ってるんですか?
「うちのオーナーですよ。もう92歳なんですけどね、全部自分で、どんどん作っちゃうの」
――き、92歳?あのコンクリートを?
「いやーものすごく元気よ。自分で形とか作ってね」
駐車場にもいた。マフラーがおしゃれ。
駐車場にもいた。マフラーがおしゃれ。
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リバーランド再訪

後日、私は冷たい雨が降りそぼる中をリバーランド目指して歩いていた。今回は1人、ノーバーベキューだ。
すっかり晩秋の装いを見せる谷太郎川。
すっかり晩秋の装いを見せる谷太郎川。
私を虜にしたあのコンクリ像の作者に会うためである。雨で来客も少なめ。前回は車でごったがえしていて見えなかったところが見えてくる。
駐車場の向こうになにかいるな……。
駐車場の向こうになにかいるな……。
威厳のありすぎるたたずまい。森の王だ。
威厳のありすぎるたたずまい。森の王だ。
明らかに何もなかった場所に塗装までした新作が置いてあるのに驚く。
着実に増えてる!
着実に増えてる!
リバーランドの向かいにある自宅に案内され、お会いした作者の岩沢 清(いわさわ きよし)さんは大正13年生まれの92歳。失礼ながら「歳ごまかしてる、でなければ間違えてるでしょ!
」と疑いたくなるほどバイタリティにあふれていた。
岩沢清さん。ここまで紹介した全てを作った人だ。
岩沢清さん。ここまで紹介した全てを作った人だ。
「リバー(リバーランド)にあるやつか。あれを作りはじめたのは確か3~4年くれえ前だな」
92歳のお年寄りと聴いてから、頭の中にうっすらと存在していた「仕事をリタイヤしてから結構な年月をかけて研鑽をかさねた」みたいな予断が、パリンとくだけた。丁寧になめてうすくしたチェルシーが口の中で割れたみたいな感じだ。3~4年前って90歳近くですよ。
自宅の庭にも味わい深い作品が。
自宅の庭にも味わい深い作品が。
「最初に作ったのは入口のところのカエルだ。伊勢の二見浦の夫婦岩に旅行に行った時に店で信楽焼のカエルを売っていて、”あ、これは無事帰るって事だな”と思ったんだね」


「それでいちばんでかいのをゆずってくれと言ったら、これは店の看板だからゆずれねえと断られた。じゃあそんなら作っちまうかと」
――えー、そんならって、よっぽどカエル気にいったんですね。
「そうそう、無事かえるってのがいいなと。うちのお客さんにも無事かえってもらおうってんでね。それで作りはじめたんだ」
すべてはここからはじまった。
すべてはここからはじまった。
しかし、作っちまおうはいいが、でかいカエルの信楽みたいな置物なんて、さっと作れると思ったのか。岩沢さんは造形などの美術や建築系の教育を受けた事はないという。
「昔の家あるだろ、あれは壁が今と違って泥壁じゃんか。竹を組んで上から泥を塗って、それにヒントを得たわけ。あれを応用して作れねえかなあと」
「泥壁」こんなイメージです。
「泥壁」こんなイメージです。
「で、やったのが、中身のだいたいの形を発泡スチロールで作って、その上から金網をかぶせるわけ」
下手なうえに暗黒感のある図ですんません。まあこんなイメージ。
下手なうえに暗黒感のある図ですんません。まあこんなイメージ。
「それでこの上から泥のかわりにセメントを塗って固めるとあんな感じになるわけだ」
で、こんな感じに。子供が乗っかったりして遊ぶと危ないのでフェンスで囲っている。
で、こんな感じに。子供が乗っかったりして遊ぶと危ないのでフェンスで囲っている。
さらっと言うけどすごい発想である。そもそもなぜ発泡スチロールなのか。
「いや、スチロールだったら軽いからね。形を家で作って現場へ持っていけるだろう。木じゃあ重たくってどうしょうもねえじゃんか」

自宅の作業場。奥に見えるのが発泡スチロール。ここで形を作り、設置場所へ持って行く。
自宅の作業場。奥に見えるのが発泡スチロール。ここで形を作り、設置場所へ持って行く。
また、リバーランドで仕入れた食材を入れた発泡スチロールが有効活用できるという利点もあるそうだ。ていうか梱包材を組み立てて形を作っているのか。それもすごい。
「魚屋いって箱もらってきたりもしたよ」
――魚屋さんは自分のとこの発泡スチロールがカエルやパンダになってるとはゆめ思ってないでしょうねえ。
作れるな、と思ったらそれが合図。
作れるな、と思ったらそれが合図。
――どのくらい時間をかけて作るんですか?
「そうだなあ、ものにもよるが1体1週間くらいで作っちまうなあ」
――はやっ!
この独創的すぎる手法で4年たらずの間に40体近くのコンクリ像を作った。図面もスケッチもなく、感覚のおもむくまま、フリーダムに。
――ちなみにモチーフはどうやって決めるんですか?カエルのほかにはパンダとか動物が多いですね。
「ぬいぐるみとか絵本見て、お、これ作れそうだなと思ったら作るわけよ」
――なるほど、だから時々キャラものっぽいのもあって。あのウサギはミッフィーですかね?
待ってるバスが来ないみたいな感じ。
待ってるバスが来ないみたいな感じ。
「いや、なんだかはわかんねえけどあれは絵本見て作ったよ」
――でも絵本って当たり前だけど平面ですよね。
「凸凹は想像でやるしかねえな」
ウサギを2Dにデフォルメしたキャラをウサギに戻す試みである。ほんとに少し戻った。
「あれは足を付けるのが難しくてな。安定も悪りいから、だんだん座らせたりするようになった」
なるほど、試行錯誤の末の座りポーズ。
なるほど、試行錯誤の末の座りポーズ。
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――あとは川の方にあったダルマが好きです。あの表情がなんともいえない。
七転八起。胴体のグラフィカルな塗装もナイス!
七転八起。胴体のグラフィカルな塗装もナイス!
そしてこの表情。
そしてこの表情。
「ああ、あれか。あれはダルマだからもっときつい顔にした方がいいと思ったけどな。
目は難しいな。目は口程に何とやらだけど、目の付け方で印象が決まっちまう。あと、ちょっとさみしいから帽子をかぶせたんだ」

――あ、そうそう、帽子とかネクタイとか、小物がおしゃれでかわいいですよね。
自宅にいる熊。ちょっとナポレオン・ソロかと思った。大きなネクタイが素敵。
自宅にいる熊。ちょっとナポレオン・ソロかと思った。大きなネクタイが素敵。

リバーランド自体がアトリエ

岩沢さんはこの煤ヶ谷で、先祖代々より続く炭焼き農家として暮らして来た。戦後はシイタケ栽培、茶畑などを営むかたわら、昭和30年代に谷太郎林道の開通に尽力、45歳からは清川村の村会議員を3期にわたりつとめるなど村の発展にアクティブに携わっている。
――で、その後にリバーランドをはじめたんですか?
「そう。といっても23年前だから、俺が69歳の時だな。」
――ろ、69歳から。僕をはじめ僕の周りなんか40でもう転職はムリとか言ってるのに。
「山村振興事業の一環でな。造成前はここ一帯田んぼだったからね。とにかく何でも自分で作った」
バーベキュー用の屋根や看板も全て岩沢さんの自作である。
書体がかっこいいんだこれがまた。
書体がかっこいいんだこれがまた。
――もはや愚問なんですけど、釣り堀のところの噴水も……。
「ああ作ったよ、素人が噴水なんか作るもんだから詰まって大変だった」
「自然の美」すばらしいデザイン。「はーっ」て声でましたよ。
「自然の美」すばらしいデザイン。「はーっ」て声でましたよ。
「ちょうど取り壊す家があってな、屋根とかもらってきたんだよ」ひたすら恐れ入るしかない。
「ちょうど取り壊す家があってな、屋根とかもらってきたんだよ」ひたすら恐れ入るしかない。
リバーランド全体を包むどこかゆるくてピースな雰囲気。それは岩沢さんがここにあるすべてのツールを使って、創作意欲のはじけるままに表現した彼一流のイッツ・ア・スモールワールドなのだ。
「またのご来場を」子供達にもかなり人気だったトラ。かわいい。
「またのご来場を」子供達にもかなり人気だったトラ。かわいい。
「まあ、俺もこの歳になって考えるんだけどなあ、こうしてリバーランドができて、若けえもんと話ができるっちゅうのは幸せだなあと思うんですよ。普通ならできねえよ、今の世代じゃあ。それを思うといやあ、幸せだなあと思うよ」
「年寄りになると昔話ばかりになっちまう」なんて岩沢さんは自嘲気味に言っていたけれど、リバーランドでは今、彼が見て、「作りたい」と思ったものが現在進行形で増え続け,その形を変えている。「かわいい」、「おもしろい」、「こわい」、見た人がいろいろ心を動かしてコミュニケーションが生まれる。みずみずしい感性を持った表現者だからこそ使える魔法に他ならない。

――そういえば入口のパンダの後ろにブルーシートがかかってましたけど……
「ああ、あれは今作り中のやつだよ」
ひゃー気になるなる。
ひゃー気になるなる。
また見に来ます!

女性スタッフの方いわく
「おじさん(清さん)の周りにもの置いとくとみんな像作っちゃうからどけろ、なんて言われた事もあったのよ」92歳の常識を覆す岩沢さんのバーベキューアートを眺めながらぶらぶらする。渓流の空気はおいしいがそれとは別に、マイナスイオンでもプラスドライバーでもない、情緒の根源にじわっと作用する癒しがここには確かに存在する。またここに来たい。次は落ち着いて肉も焼ける気がする。
これがなんだったか思い出せない(あえて調べない)
これがなんだったか思い出せない(あえて調べない)

■ 取材協力:清川リバーランド


神奈川県清川村煤ヶ谷2450
TEL:046-288-3715
営業時間/AM9:00=PM5:00
サービスやアクセスの情報はホームページで
http://www.h2.dion.ne.jp/~kiyokawa/
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