水ヘボコン、レースに見えない
新競技・水ヘボコンの舞台は、長さ3mのプールだ。ルールはコイン運びレース。プールの端から反対側の端まで速くたどり着いたほうが勝ちで、ただしロボット(というか船というか)の上に乗せたコインを途中で落としてしまうと負け。スピードとバランス、2つの性能が求められる、難度の高い競技だ。
障害物として下から水が噴き出したり、上からの放水が飛んできたりする
事前にルールを決めるとき、3mってちょっと短すぎないかな…と思って、けっこう悩んだ。しかし結果的に、それは完全な杞憂であった。
まずはひとつ、試合の様子を動画で見てみてほしい。
ガンバ号(チームめがね) vs ヒゲライブ!(わわわ)
これが「スピードとバランス、2つの性能が求められる、難度の高い競技」のようすだ。
感想を一言でいうと「プカプカしてるなー」である。リゾート感覚かよ。
くわえてロボットのデザインがスイカだったりガーデニング風だったりしてなおさらのリゾート(スイカフグ(こがもハウス) vs カエルとヘビのいる庭(ダメリーマン))
別の試合から。左のロボはスピードが遅いだけでなくバランスの悪さも兼ね備えている(桃太郎(松本ジュンイチロー) vs ガンバ号(チームめがね))
スピードが遅いだけでなく、各機ともまっすぐ進めないというのも、レースらしく見えない原因か。
これらの特徴はもちろん参加者の技術力のなさゆえのこと。つまりは「ヘボい」のだ。
ただ、無理に良くいえば、「レース=速い」という先入観を打ち壊した画期的な競技であったといえよう。
工夫が命取り
水ヘボコンを語るうえで欠かせない製品がある。タミヤの水中モーターだ。
写真手前側の黄色い部品。モーターに防水ケースと、スクリューが付いている
小さな部品だが思いのほか強力な推進力があって、たとえば空のペットボトルにこれをくっつけてやれば、それだけで高速艇ができあがる。
水ヘボコンでもFacebook等で水中モーターの紹介をしたので、出場者はみんなその存在を知っているはずである。なのになんでこんなに遅いのか。
水中モーターの代わりに、電動歯ブラシを使っているから(3人家族(ツカヤ))
歯ブラシを3本も搭載しているのに、推進力はほぼ皆無だった。
水中モーターの代わりに、風船の空気を噴射して進んでいるから(クイーントマトマン1号(ホイコーロー))
水中モーターの代わりに、風船の空気を噴射して進んでいるから(2)(ガンバ号(チームめがね))
前進するだけでなく、ネズミのおもちゃに舵がつながっており、その動きに応じて進行方向が変わる。はずだったがそれも効いていなかった。
水中モーターの代わりに、帆をうちわで扇いで進めているから(名称不明(うちだじゅり))
モーターとかじゃなくて操作者の筋力で頑張るタイプ。
水中モーターの代わりに、足踏みポンプで空気を送って進めているから(へまぼこ(アバ))
こちらも筋力で頑張るタイプだが、送風方法が効率化されているのでちょっと速かった。
水中モーターの代わりに、ドライアイスの煙を推進力にしているから(和風きのこパスタ(明比建))
「攻撃を受けるほど(ドライアイスに水がかかって)パワーアップする」という設定までは完璧だったのだが、いかんせん推進力としては一切作用せず、水流に流されながらモクモクするのみであった。
水中モーターの代わりに、ヒモで引っぱろうとしたらすぐ切れたから(ちくわ号(チームいしはら))
船体につないだヒモをUSBファンで巻き上げて前進する予定だったが、瞬時にヒモがはずれ同時に船体がバラバラになるという壮絶な最期を遂げた。
……などなど。総じて、すべて水中モーターを使わず、自分で工夫したせいで、著しく性能が低い。
人類は工夫をする生き物。文明の発展は、言い換えれば何千年にもわたる工夫の積み重ねであった。
しかし技術力の低い人に限っては、「工夫」は「台無し」と同義なので気を付けてほしい。
「よっしゃ、ここは一丁、俺が工夫したるか!」
その心意気が命取りなのである。
水中モーターを使ったとて
「工夫」は水中モーターを使わないことだけにとどまらない。
下記のロボットは、いずれも水中モーターを使っている。それなのに、なぜ速く動かないのだろう?
水中モーターを使っているけど、上にダンスステージがあるから(ヒゲライブ!(わわわ))
よけいなものを乗せたせいで図体がでかくなり、水の抵抗が大きすぎるのだ。障害物にもすぐ引っかかる。
水中モーターを使っているけど、上で人形が高速回転しているから(水ポールダンスロボ(アニポールきょうこ))
遠心力がかかってせっかくの推進力が相殺されてしまう。
工夫にもいろいろな方向性があるが、不器用な人たちはどっちを向いてても結局裏目に出る、ということがわかっていただければ幸いである。
審査員がマジ
ところで、ヘボコンはトーナメント戦の形をとっているが、優勝者はそんなに偉くないことになっている。技術力の低いロボットの集まりとはいえ、優勝は比較的、技術高めなロボットが獲得してしまいがちだからだ。
「ヘボい者が偉い」という価値観だから、優勝より審査員賞のほうが偉い。そう決めている。そんなカルチャーのもとに、プロの視点で毎試合「最もヘボいロボット」を決定してくれたのが、
審査員の増田さんである。
NPO日本水中ロボネット 増田殊大さん。学生時代から戦車・潜水ロボット・人力飛行機などを製作し、現在では水中ロボットの広報・啓蒙活動を行うとともに、本業では海底探査機などの設計・制作も手掛けている。
いわゆる、本職の人である。
試合中は解説を担当していただいたのだが、ヘボいロボットを愛でつつも、その構造や機能面について技術的な説明を加えてくれる。そのロボットが「どうヘボいのか」丸裸にしてしまうという、圧倒的なコメント力であった。
イベントの様子をダイジェスト動画でどうぞ。
審査員賞
桃太郎(松本ジュンイチロー)
練習段階ではいい走りを見せたが、重心が高すぎてバランスを崩しやすく、試合開始と同時にコインを落としてしまったこちらのロボットが審査員賞。バランスをとるため周りに「浮き」っぽいものが付いているが「これは機能してませんねー」(審査員・増田さん)
優勝
流れそうめん(OG技研)
水中モーターの推進力でそうめんを落としながら進む、流しそうめんをコンセプトにしたマシン。
審査員の増田さん曰く「飛行機でも船でも細長い形のほうが流体抵抗が小さく安定性を保てる」そうで、偶然にも理想的なフォルムを実装していたマシンである。
決勝戦の様子(流れそうめん(OG技研) vs ヒゲライブ!(わわわ))
みんなが工夫して作ってきたマシンの数々を、たまたま偶然いい形だっただけの流れそうめんが次々打ち破っていく様は、「知性の敗北」といった趣があった。
審査員賞
和風きのこパスタ(明比建)
「使いようによってはペットボトルくらい余裕で吹き飛ばすパワーを持つドライアイスなんですが、にもかかわらず、それを『ザルに入れて水をかけただけ』というおざなりな使い方をした」(増田さん)ということで、こちらのロボットが審査員賞を受賞。
優勝
一夜漬け号(福井創太)
もはやヘボコンレベルを超越して普通に完成度が高かった優勝機。水中にスクリューを装備しておらず、推進力はホバークラフトのような後方上部についたプロペラのみ。にもかかわらずかなりのスピードを実現していた。
決勝戦の様子(一夜漬け号(福井創太) vs へまぼこ(アバ))
審査員賞
名称不明(うちだじゅり)
最終回は食品トレーとペットボトルを組み合わせた、夏休みの工作っぽいロボットが多数登場。そんな中、審査員賞は「もっとも『学校に持っていく間に壊れそう』だった」(増田さん)こちらのロボットが受賞。
優勝
戦艦ホイホイ(店長)
船体が紙、という童話なら真っ先に沈むであろうスペックのマシンが意外にも優勝。水中モーターでなく、ギアボックスを使って自力で実装したパドルホイールの馬力が効いたか。(水中モーターは電池1本、こちらはたぶん2本)
決勝戦の様子(戦艦ホイホイ(店長) vs 名称不明(うちだじゅり))
ちなみにギアボックスを使ったマシンはほかにも何体かいたのだが、全員、水中対応してない部品を全く気にせず水に沈める、という男気あふれる実装だった。
ヘボコンの原初を見た
初開催の水ヘボコンは、まだノウハウが蓄積されていないといった感じで、ヘボコンの原点に立ち返ったような楽しさ/ヘボさがあった。主催者サイドとしては大変感慨深いイベントでございました。
次のページからは同時開催のミニヘボコン。こちらはいつものロボット相撲スタイルです。
多様化するロークオリティ
技術力の低さはそのままに、回を重ねるにつれてバラエティに富んでいくヘボコン。
水ヘボコンのページでも紹介した、よけいな工夫。それらが発揮される方向性が、推進力だけでなく見た目だったりストーリーだったり、どんどん多様化してきたのだ。
動物図鑑を隅から隅まで見ていると、「え、猿なのに飛ぶの!?」的に変な動物に出会ってびっくりすることがある。で、よく調べてみるとそれは猿ではなくて、ヒヨケザル目とかいう、その種しかいない目(もく)に分類されていたりする。あれ、ほんとは「その他」にしたいけどそんな分類作れないから仕方なく独立したカテゴリを作ってるのではないか。
ヘボコンを見ていると、そんな「その他」の動物ばっかり集まった動物図鑑を見ているような気分になる。
しかも、それが戦う。これは技術力の低い人限定ロボコンであると同時に、究極の珍獣バトルでもあるのだ。
ヘボコン界の三葉虫
さっき紹介したマシンたちがヒヨケザル的な珍しさだとしたら、こっちは三葉虫とでも言うべきだろうか。
昨年のミニヘボコン同様、今回も多くの子供たちが出場してくれて、数々の原始的なロボットを作り上げてくれた。
大人は物を作るときについつい全体のバランスを気にしてしまうのだが、子供はそういう分別がない。彼らの工作はすべて足し算であり、制限時間いっぱいまで、接着可能な部品を貼りつけ続ける。
子供といえどそのスキルはなかなか侮れず、左右のタイヤに別のモーターを付けて有線コントローラーで遠隔操作、みたいな複雑な仕組みを自作してしまう子もいる。
それはもちろん素晴らしいことなのだが、それよりもむしろ、そのコントローラーが食品トレイとガムテープでできていることにオーディエンスが湧く。そういう磁場の空間なのだ、ここは。
各賞発表
というわけで各回の決勝戦の様子と、賞の発表。
ミニヘボコンは昨年も開催したため、今回は第7~9回となっております。
「部品にプラモデルのライナー(部品を切った後に残る、枠)を使っています。これいつも余るから使いたくなるんだけど、使ってしまうと絶対ヘボい見た目になってしまう。でもその欲望に忠実に従っており、共感しました」(審査員:デイリーポータルZウェブマスター・林雄司)
でかさと馬力で押し勝ったこのロボット。うつろな目をしたパンダが土下座の体制でにじり寄ってくる様子は、何とも言えないジットリとした気迫があった。
試合を重ねるにつれてまっすぐ前に進まないことが判明し、決勝ではあらかじめ右に傾けた状態でスタートするなど、その場しのぎのフォローも功を奏しての優勝である。
「マシンの出来としては皆さん甲乙つけがたく迷ったのですが、歴史的名勝負が出たということで、今回はこのロボットに」(審査員:株式会社タミヤ・石崎隆行さん)
歴史的名勝負については、このあとご紹介しましょう。
ゴキブリホイホイを改造した「ヘボコンホイホイ」で相手をおびき寄せ、近づいてきたところで回転ノコギリ
を浴びせる凶悪なマシン。2つのキットを組み合わせたギミックがよくできており、ヘボコンには珍しく工夫が正の方向に作用したロボットである。
それから、第8回からもう1試合。審査員コメントでも言及されていましたが、ヘボコン史上に残る名試合が登場したのでご紹介したい。
試合開始と同時に突進してきたコードアームズさんに、ヘボコンホイホイの回転ノコギリが炸裂。
そのままホイホイ優勢かと思われるも、コードアームズの積み荷に引っかかった回転ノコギリはなんとアームの根元から曲がってしまう。
しかしアームの突っ張りでなんとか踏ん張り、コードアームズのキャタピラを浮かせたホイホイ。外れかけのアームを使って、コードアームズのキャタピラのゴムを外した!
こうしてコードアームズはキャタピラの片方を、ホイホイは回転ノコギリを失ったが、最後には足回りのダメージが少なかったヘボコンホイホイが、コードアームズを押し出して勝利。
1分という短い制限時間の中で、これほどまでに多くの駆け引きがあった試合はヘボコン史上初。まさに殿堂入りの名試合であった。
最終回の審査員はテクノ手芸部のおふたり。ひとりずつ、2本の審査員賞を選んでいただいた。
「コントローラーを手作りしていた点と、それが電池に銅線を直付けだったところ、あとコントローラーに『前』『後』って書いてあったんですが、構造上絶対に後ろに行かないんですよ。そこが良かったです。」(審査員:テクノ手芸部・かすやきょうこ)
「凶暴なところ、相手を倒す気で来てるぞ、という心意気が良かったので、審査員賞を差し上げます」(審査員:テクノ手芸部・よしだともふみ)
6足歩行キットを使用し、倒れづらい安定した足回りとコントロール性能のよさを確保したこのロボット。先端に張り手用の手がついているが、ガムテープで貼ってあるだけなので敵に当ててもペコッと曲がるのみであり、攻撃力はほぼ0に近い。
試合直前の調整が災いしたか、車輪が空回りしてしまうアシモ。まさロボの張り手を浴びるまでもなくバランスをくずし転倒、勝負は決した。ふつうのロボコンなら決勝戦とは思えないヘボ試合だが、本大会のラストバトルにとしてはこれ以上ない、ヘボコンらしさあふれる閉幕となった。