特集 2015年9月9日

セミの羽化がセクシー!

ちょっとだけよん♡
ちょっとだけよん♡
夏の暑さを増幅させる音響装置として、セミは今年も鳴きまくった。

セミの幼虫は夜に地上に抜け出し、羽化をして成虫になる。褐色のボディから白無垢の成虫が飛び出し、流し目でのけぞる羽化のシーン。あれを艶やかに演出したらセクシーすぎてやばいのではないか。はたして我が家はセミエロスがほとばしる狂艶の夜と化したのだった。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

偶然の出会いから一夜をともに

8月初頭、深夜残業からの帰り道で昼間の熱気をまだ保っている歩道をのたのたと横切る小さな生物を見つけた。アブラゼミの幼虫である。
ほんとうに無防備。
ほんとうに無防備。
約6年にも及ぶ地中生活を生き抜き、成虫になる(羽化する)場所を探してさまよっていたのだ。

子供の頃、夜の公園で蚊にがんがん刺されながらセミの羽化を眺めていたのを思い出した。久しぶりに羽化を見ながら一杯やるか。
「君、ちょっとウチで羽化していかない?」
金曜深夜の出会いはアバンチュールへと発展し、私は幼虫を家に連れ帰った。
へー意外にお部屋キレイにしてるんだー
へー意外にお部屋キレイにしてるんだー
カウンターの壁をのぼり、羽化の準備をしている。
このセミが生まれた2009年は鳩山民主党内閣が誕生し、オタマジャクシが空から降ってきた年だ。それから2015年の今まで、君が土中にいる間にいろいろな事が起きた。すっかすかのグルーポンのおせち、鳴り響くブブゼラ、東日本大震災。3GSだったアイフォンは6sになった。4Kどころかテレビが地デジになっている事も知らないだろう。
おお、出てきた!
おお、出てきた!
6年間の空白を埋めるべく、その間の出来事を語って聞かせているうちに背中に亀裂が入り、成虫がその姿を表しはじめた。
時折けいれんするように小刻みに体を震わせながら、窮屈そうに古い体を脱いでゆく。
なんか幽体離脱感ある。
なんか幽体離脱感ある。
やがて体の大部分を露出すると、誘うような目でこちらを見ながらのけぞる。
でました「セミ反り」!
でました「セミ反り」!
悩ましく反り返ると、足をばたつかせて体を起こしながら自らを拘束していた殻を脱ぎ捨て、開放されたように美しい白い羽を伸ばす。
徐々に褐色に色づいていく。日本ではアブラゼミが有名だが、世界的には羽が透明でないセミのほうが珍しい。
徐々に褐色に色づいていく。日本ではアブラゼミが有名だが、世界的には羽が透明でないセミのほうが珍しい。
だんだん体が固まり、アブラゼミ色に。
だんだん体が固まり、アブラゼミ色に。
こうして2時間程で羽化を終え、朝まで体を休めてすっかり大人の体になるとアブラゼミは新たな出会いを求め、大空へ飛び出していった。
タイムラプス動画も撮影したので、今までの写真が意味なくなるけどどうぞ。

もっと美しい君が見たい

日に日にセミの鳴き声がやかましくなるにつれ、あの幻想的な一夜が忘れられなくなっていた。体をびくつかせながらタイトなスーツを脱ぎ捨てるセミが内に秘める、甘美なエロティシズムをもっと解放したい。
よくわからない欲望に突き動かされるままに、空間を演出するための小道具を用意した。
16色のムーディーな明かりを灯すLEDライト。
16色のムーディーな明かりを灯すLEDライト。
バザーで買って押し入れの奥に眠っていたディスコライト。
バザーで買って押し入れの奥に眠っていたディスコライト。
使用時の様子。デジカメ2台とタイムラプスカメラ1台で動画も撮影。
使用時の様子。デジカメ2台とタイムラプスカメラ1台で動画も撮影。
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夢のような夜はやってきた。

出会いを求めて夜の公園へ。この時期は羽化のピーク、次々と穴から這い出した無数の幼虫達が落ち葉をかきわけて歩き回っている。
帰省ラッシュのパーキングエリアのようなの混雑っぷり。(写真はほぼ抜け殻です)
帰省ラッシュのパーキングエリアのような混雑っぷり。(写真はほぼ抜け殻です)
君、いいねえー。
君、いいねえー。
1匹の幼虫に声をかける。
「すみません、今からあなたをあられもない感じで観察します。そのかわりといってはなんですが、天敵や荒天の心配のない環境で安全に成虫になっていただけます」

家の壁で、自由に場所を選んで羽化を始めたところで機材をセッティング。
扇情的なライトがツヤツヤした飴色の殻から飛び出したみずみずしい成虫の体を妖しげなピンクに染める。
ほのかに赤らんで見えるのは照明か、それとも羞恥心か。
ほのかに赤らんで見えるのは照明か、それとも羞恥心か。
ジーとかすかな動作音をたてながらよろよろ回転するディスコライトの安っぽい光がどうしようもない場末感を演出する。

足をゆっくり開くと、びくんと身体が小刻みにふるえ、ゆっくりと、じらすように頭を下に向ける。前半の山場「セミ反り」に入ったのだ。
完全にステージを支配。
完全にステージを支配。
色香を振りまき見る者(私なんですが)を骨抜きにする。
色香を振りまき見る者(私なんですが)を骨抜きにする。
生涯で最初にして最後のステージ、はじめは恥ずかしげにもぞもぞしていたが、ここまでくると大胆に、自らの全てをさらけだすように身体をいっぱいにそらし、聴衆(私なんだけど)を挑発する。
息を飲んでシャッターを切る。
息を飲んでシャッターを切る。
暗い土の中でモグラやケラなどの天敵から身を隠し、木の根から樹液を吸って生きのびた地味で長い幼虫時代。今、ライトを浴びながら脱ぎ捨てているのはそんな自らの過去だ。
身体を起こしていよいよ腹を引き抜く
身体を起こしていよいよ腹を引き抜く
それを象徴するのは背中についた白い羽。エメラルドグリーンの脈(翅脈)に体液が流れ込み、大きく伸びた時、過去の自分との決別は完了する。様変わりした彼女を待っているのは新しい生活、青い空、森や街、そして大人のラヴ。
全部脱いだ!
全部脱いだ!
白い羽もライティングで一層妖艶さを増す。
白い羽もライティングで一層妖艶さを増す。
ロデオスタイルもイカす。
ロデオスタイルもイカす。
昭和感あふれるムード歌謡をBGMに、妖艶に反り狂うムービーでその雰囲気をリアルに感じていただきたい。できれば音付きでどうぞ。
なんかセミがどうこうより自分の内面をさらけだしているみたいではずかしい。
羽化したてのセミは羽も身体も柔らかく、傷つきやすいので「おさわり」は厳禁である。そのような禁制も妄念をかき立てる燃料となる。
固くなるまで待ってね
固くなるまで待ってね
艶やかなエロスに彩られた夢のような一夜は更けていく。よし、このままオールナイトだ、でもあれだなちょっと休憩しよう、とソファに持たれかかると、そのまま意識がすっとんだ(寝落ちました)
素敵な夜をありがとうございました。
素敵な夜をありがとうございました。
朝が来ると、すっかり成虫となったセミを公園に放した。昨夜の事など忘れたようにそっけなく樹に止まって他のセミ達と交じると、まったくもって単なるセミで、何か魔法が解けたような気分になった。

翌日、セミの種類を変え、ミンミンゼミを羽化に誘った。透明に透ける羽はアブラゼミとはまた違った淫美さで夏の夜の花となっていた。
ぽかんとするほど美しい。
ぽかんとするほど美しい。
こうして見つめあうとなんか…
こうして見つめあうとなんか…
セミの声がいろいろと心にしみ入る夏となった。

夏はいろいろと内に潜む魔性が顔を出しやすい季節だ。気をつけなければいけない。そう思って自制してきたが、毎年見飽きているはずのセミに惑わされるとは思わなかった。
ここを旅立った子らは他のセミとはひと味違った魅力でモテにモテまくり、はやばやと子孫繁栄をキメているに違いない。6年後、大人になった子供たちは、またおじさんとアバンチュールしてくれるかな。6年後もセミをピンクに照らしてウハウハ言っている自分はあまり想像したくないけどな。
なんだかんだで5匹のセミが旅立ってゆきました。 (半分近くオスでしたが)
なんだかんだで5匹のセミが旅立ってゆきました。 (半分近くオスでしたが)
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