「もっと食べなさいよ」お説教はだいたい泣く。そして母になぐさめられて母を信頼する。父にいつまでも威厳がない
圧倒的にお母さん大勝利
「お母さん大好き!」
5歳くらいの娘を持つお父さんはだいたいお母さんにぶっちぎりで離されている。そしてこの先も勝てる見込みはない。
だんだんわかってきたぼくは、愛情ではなく父の威厳方面を伸ばすことにした。
そんなとき取材で仏像の光背という部位を知った。後光を表すものらしい。そうかこれだ。おれに必要なのは。母は愛情方面で、父は仏像方面でがんばるのだ。
※取材はこの記事→『
知り合いが奈良でホトケ女子を名乗りはじめた』
どうしたら父の威厳が……先日の仏像めぐり取材で「光背」というものを知った。仏さまの後光を表す部位だそうだ。これだ。
画材屋でスチレンボードと金の紙を買ってきた
ボードの上に金紙をはりつけ、その上に仏像の光背のコピーを
あとはひたすら切り抜くだけだが……光背のデザインはここが腕の見せ所とばかりに複雑なものが多い
後光さすのも大変だ
光背を作るためにスチレンボードを買ってきた。やることは簡単だ。これを光背のデザイン通りに切り抜いていけばいいのだ。
だが仏像というのはここが仏師の腕の見せどころとばかりに複雑なデザインをしている。光背もうねうねの細かい切り抜きが100個くらいある。
一つ切り抜くとこの作業のたいへんさがわかった。
「都合の良い友人がほしい」とTwitterに書いた。見知らぬ都合の良い友人からの返信はなかった。
二日目、昼間から仏像の光背を作る
……思った以上に終わらない!! 三日目突入決定
大変だからこそ父親が神々しい
それにしてもなんでこんなに複雑な形なんだ。
「こんなものはめったいにない=ありがたい」ということなのだろうか。そうか、信心を獲得するためにこの複雑さは必要な作業なのだ。
そんな思いと(父親に信心いらねーだろ)という思いが拮抗する。天使と悪魔のささやきである。がんばれ天使。おれは仏像として生きていくのだ。
Maker Faire Tokyo 2015へ。娘への工作を展示する
展示中も切り抜く切り抜く、お客さん声かけられない声かけられない
父の威厳を展示
作業三日目。Maker Faire Tokyo 2015という電子工作を中心としたイベントがはじまった。ここで娘にむけた工作を展示したのだが、父の威厳は間に合わず会場で作ることにした。
「それ今作ってるのなんですか?」
会場できかれるたびに「父の威厳です」と答えてはキョトンとされていた。威厳はスチレンボードなので軽い。切り抜くとゴミもよく出る。
作業三日目。うわー、終わった…
できた。これが父の威厳である。軽くて持ち運びやすい威厳だ
父の威厳アップはLEDで
作業三日目に光背はできた。なかなかいい。だがこれだけならただの仏像のコピーにすぎない。仏像を超えるような父の威厳を演出するにはどうしたらいいだろうか。
LEDである。後光を足してしまえばいい。近所に住んでる池田くんに相談してみるとテープライトをくれた。それもギンギンに光るやつだ。
おれはこういう下品な威厳を求めてたんだよ、ありがとう池田くん。
テープライトをもらってきた
これが父の威厳か。お父さんは今輝いてるよ…
父の威厳は仏像体験装置として来場者にも人気だった
もっともよく似合っていたのはこの人。おめでとうございます
MFT2日目から帰宅、娘は寝ている。おれはこれからやることがある
さあ威厳背負って枕元に立つぞ
父の威厳はできた。ここからはこの威厳を娘に見せつけるのである。
どうやるのが効果的かと考えていてやはり仏っぽく枕元に立つのがいいのではないかと思った。「お父さんを大切にしなさい」と仏さま(おれ)が言えば娘も納得することだろう。
ということでまずは仏さまの声を録音することからはじめた。
「娘よ……お父さんだよ……お父さんを大切にしなさい……」など1分くらいのメッセージをループさせたものを作った。
「娘よ……お父さんだよ……」ナレーションを録音して天の声風に処理をする
ラジカセにつないで鳴らすことにした
そして父の威厳と、後ろからはさらなる父の威厳、照明LED600球である
一旦寝て、起きだしてきました午前2時。仏像は金色らしいので、ユニクロのゴールドの下着を着てきました
よっこい、
せっと(ビカーッ!!)
「娘よ…お父さんだよ…」
スイッチオン。自分がまぶしい。
LEDのテープライトは主に横方向の輝きなので、後光強化として後ろからLED照明を足した。安いが600球ある強い照明である。光背の穴から照明が透けてなかなか良い。父の威厳は600球だ。
カメラをセットし、音声をラジカセから流す。
「娘よ…娘よ…」
見ろ、娘! 夢枕に立つ仏さまはお父さんだし、ついでにいうとサンタクロースもお父さんだよ(言ってしまった)!
「娘よ…」
「お父さんだよ…」天の声が聞こえる中、後光のさしたお父さん登場である。これが600球LED製の威厳だ!
まったく起きる気配ねえな……
「娘よ……」「娘よ……」ラジカセに近いところまでひきずりだしてきた。それでも起きない(ところでふすまがボロボロなのは娘が毎日の寝相で蹴り破いたものだ)
おい、おい、「お父さんだよ……」叩いて起こそうとするも起きる気配はない
動画だとこんな感じでした。音声が仏っぽい
寝た子は起きない
子がいっこうに起きない。深夜に子を起こしたことがなくてここまでだとは予想してなかった。
そういえばぼくは4人兄弟で川の字に並んで寝てたがどうやって弟たちが生まれていくのか知らなかったし、兄弟全員サンタクロースも信じていた。
子供の寝る力はそれほどまでに強いのである(保健の授業があって本当によかった)。父の威厳がいくら600球LEDだろうと子供の寝力の前には及ばない。子の生命力こそ偉大だ。
午前5時ふたたび起きだしてきて父の威厳を背負う。朝方なら早起きとして起きることだろう
おはよう「お父さんだよ…」もはや仏さまなのか起こしにくる人なのかわからない
ぐいーっと伸びをして起きた。しかし起きたままじっと見ている。
娘、父の威厳をものともせず
朝の5時20分頃、二回目の枕元にチャレンジ。だがもう朝日も上っている。夢枕に仏さまが立つというよりは、朝早く起こしに来た修学旅行での先生感が強い。
娘はぐいーっと伸びをして起きてこちらをじーっと見ている。口を開いたと思ったらこうだ。
「いつまでつづくの!」
あっ、あっ、親離れだ……もう来たか!!
「いつまでやるの」「まぶしいから消して」などという
カメラに気づいて遊びはじめた。後ろに父の威厳がうっすら見える
自分もやってみたいという。父の威厳が……!!
娘、父の威厳を奪いとる
娘はカメラに気づいてひとしきり遊んでブリッジしたりごろごろしたりしてたがいよいよ体も起きだしたのか自分もその光背をつけてみたいという。
せっかく作った父の威厳が今奪いとられようとしている。そして背負った彼女はサイズがぴったりで(おっ、似合ってるな!)と思ってしまう。
ついに我が子に威厳が出てきてしまった。
子の威厳になろうとしている!
たしかにサイズ的には子供用の方がいいな…
「背負ってみるといいねえ」だそうだ。おじいさんかお前は
お父さんはすごい(工作が)ということに
「背負ってみるといいねえ」としみじみ言う。なにがいいんだと思ったら「穴が開いていて気持ちいい」という。通気性のことをいってるのかそれは。やめろ、ナイキのスニーカーじゃないんだ。おれの威厳なんだ。
しかしその後彼女なりに「どうやって作ったの?」「すごいねー」など工作として褒めてくれた。
こうしてささやかながら父のポイントをためた。結局我々父たちは、ポイントカードのポイントをためて彼女たちから威厳と交換してもらうしかないのか。
いや待てよ、LED600球2発などの強烈な威厳ならそれもまた……
その後父の威厳はイスに設置され
父の威厳が日常的になりました
もしかして威厳と反対のことやってないか
その後彼女がとくに言うことをきいてくれたという事例はない。イスに設置された光背にたいして何かいうこともとくにない。ただ部屋だけが明るくなった。
部屋の片隅には去年西部劇で作った等身大のウマの頭がある。ベランダには塩ビ管で作った自転車がある。そしてイスには光背がついた。
もしかして威厳とはまったく正反対のことをやっているのではないかという懸念がある。
来年は彼女も小学校だ。学校から帰ってきて「おかえり、威厳がLEDでできたよ」と聞かされてどう思うのだろう。
交わす言葉はへるだろうし、おれが何か作る頻度もへるだろう。だが心配はいらない。わが家の未来は明るい(LEDで)。
光背のことなどどうでもよくダンボール人形であそびはじめた娘。うちには威厳と真逆のものがたくさんある