特集 2015年7月21日

知り合いが奈良でホトケ女子を名乗りはじめた

知り合いが奈良でホトケ女子を名乗りはじめた。仏像のめぐり方教えてください
知り合いが奈良でホトケ女子を名乗りはじめた。仏像のめぐり方教えてください
奈良には大仏にかぎらず仏像やお寺がたくさんある。奈良県の高校に通っていた筆者もたまに大仏を見たりするものの(※)他は特に興味なくすごしていた。

そんな折、知り合いが仏像目当てで奈良に移り住んでホトケ女子を名乗りはじめた。なんだそれは。今までよくわかってなかった仏像の見に行き方、教えてください。

※奈良の高校生がみんな大仏見に行ってるのかは知らない
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

東京のアニメ制作会社にいた安達さん。米子の映画祭で我々をモーツァルトうどん(記事はこちら)に連れていったりしてくれたが、いまや奈良に住み、食べているのも奈良県の天理スタミナラーメンである。
東京のアニメ制作会社にいた安達さん。米子の映画祭で我々をモーツァルトうどん(記事はこちら)に連れていったりしてくれたが、いまや奈良に住み、食べているのも奈良県の天理スタミナラーメンである。

ホトケ女子ってなんなんですか

元アニメ制作会社にいた安達えみさん。静岡出身の安達さんだが仏像趣味が高じて奈良に住むという夢をかなえてしまった。

――安達さん、ホトケ女子というのはなんですか?

「吉野の仏をめぐるツアーを企画したときに名前をつける必要があって。仏女、仏像ガールというのがすでにあるのでじゃあホトケ女子ですかねと決まり……もう変えたいんですけど」

どういうのに変えたいんですかときくと「さかなクン」という。となると「ほとけチャン」か。死んでそうだな。
ちなみに興福寺境内の休憩所にガイナックス社のサイン入りポスターがあるのは、頼まれて安達さんが手に入れてきたそうだ。このお寺にアニメファンがいる…!!
ちなみに興福寺境内の休憩所にガイナックス社のサイン入りポスターがあるのは、頼まれて安達さんが手に入れてきたそうだ。このお寺にアニメファンがいる…!!

とりあえず興福寺に行け

そんな安達さんに仏像のめぐり方をきくのだが、まず初心者はどこに行ったらいいのだろう?

「興福寺は外せないですね。外せないというより外してはならない。文化財に指定されてる全国の仏像のうちの5分の1は興福寺にあるんです。質も量もすごい」

興福寺って一番良い場所にどかんとあってなんかみんな行ってるな~と思っていたがそういうことなのか。ここで最初にたくさん拝観して仏像を知るのがいいらしい。

※ぼくは奈良に住んでたわけではないのであまり詳しくない
「むかしは春日大社と一体になっていたのも意外と知られてないですね」奈良以外にどれだけ伝わるかわからないですが、ちょっと驚かせてください。……そうなんだ!!
「むかしは春日大社と一体になっていたのも意外と知られてないですね」奈良以外にどれだけ伝わるかわからないですが、ちょっと驚かせてください。……そうなんだ!!

それでみんな興福寺に行ってたのか!

興福寺で仏像を見るなら国宝館だそうだ。国宝がわんさかあるらしい。

実際、中にあるのはテレビや教科書で見たあれこれ。あ、これが有名なあれか、となるのはフランスでモナリザを生で見るのもたぶん同じような感覚ではないだろうか。いつ木造千手観音菩薩立像の前でフランダースの犬が倒れていてもおかしくはない。まめにチェックしてみよう。
国宝館。お宝だぜ!という山賊気分で見に行こう
国宝館。お宝だぜ!という山賊気分で見に行こう
仏像をめぐって安達さんからいろいろ教えてもらった。これは珍しいとかこの表現がいいとか。しかしそういう視点の前にそもそも知らないことが多すぎた。

まず仏像はいろいろあるということ。みなさま! …残念ながら話はここからなのだ。

・種類がいろいろある

如来、菩薩、明王、天部と仏さまは大きく四種類にわけられるらしい。安達さんによると「如来は"悟っている"んです!」とのこと。「あいつ悟ってるな」という状態は仏さまの世界だともう偉いことのようだ。

・時代によってちがう

仏像は時代の権力者の影響を受けるらしい。貴族文化の平安時代の仏像は「みやび~!」って感じで武士の鎌倉時代になると「力強い~!」になる。江戸時代くらいになると出しつくしたのか(そんな仏さまがいたの?)というのまで出てくるらしい。

・お釈迦さまは大体いっしょ

同じ仏さまでもお寺によってちがう。そういうのを見分けるのが楽しいらしい。

ところが一番のメインであるお釈迦さまには三十二相という「こういう形をしている」きまりがあるので仏像もそんなに差がない。

きまりには「全身が金色で光ってる」とか書かれている。他には「手足の指の間に水掻きのような膜がある」とか。泳ぐのめちゃめちゃ速そう……
安達さんが言うには興福寺の瓦にウド鈴木がいるという。これだ。なるほど、あんまり似ていないな……(珍しさをよくわかっていない)
安達さんが言うには興福寺の瓦にウド鈴木がいるという。これだ。なるほど、あんまり似ていないな……(珍しさをよくわかっていない)
他にも「阿弥陀さまとお釈迦さまを見分ける方法は手でOKサインを作ってたら(※1)阿弥陀さまだよ…」とか「千手観音は骸骨とかはたき(※2)とか意外と手にへんなものを持っているよ…」とか「八部衆にはゾウのパーカーを着てる神様がいるよ…」などなど横から天の声(安達さんからの)が聞こえてくるのでおもしろい。

ふむ~、おもしろい。安達解説のおかげもあるが、背景に膨大な量の情報があるのだろう。検索で調べながら拝観していってもおもしろそうだ。

とりあえずは先に進もう。ここは入り口だ。

※1 印相
※2 はたきに見えるものは払子(ほっす)
取材用の興福寺の腕章を貸してもらって興奮中の安達さん。厚手のフェルトに刺繍がしてあり「やっぱり1000年くらいもたす気なんですよ…!」と、もうホックホクのおいもさん状態だった。胸につけてるのは自作の仏グッズ。仏モチーフの服飾雑貨を作ろうとしてるらしい
取材用の興福寺の腕章を貸してもらって興奮中の安達さん。厚手のフェルトに刺繍がしてあり「やっぱり1000年くらいもたす気なんですよ…!」と、もうホックホクのおいもさん状態だった。胸につけてるのは自作の仏グッズ。仏モチーフの服飾雑貨を作ろうとしてるらしい
取材協力 興福寺

国宝館
9:00~17:00(入館は16:45まで) 年中無休
大人 (一般・大学生)600円
学生(中学・高校生)500円
小人(小学生)200円
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雰囲気を味わうには小さなお寺へ

質、量ともにナンバーワンの興福寺が終わったら次はどこへ。

「ここ見た上で小さいお寺に行くとよりディープなとこが見えたり、静かに落ち着いて楽しめるので。雰囲気を味わうのは小さいお寺がいいです」

斑鳩町に移動して融念寺というお寺。ここのお地蔵さまが有名らしい。前もって電話しておくと見せていただける。
融念寺というお寺。ここのお地蔵さんが有名らしい
融念寺というお寺。ここのお地蔵さんが有名らしい
電話しておくとお堂を開けてくれる
電話しておくとお堂を開けてくれる
右側に観音さまと左側に地蔵菩薩像、お地蔵さんらしいが… ※普段の撮影は禁止らしいですが特別に撮らせてもらいました
右側に観音さまと左側に地蔵菩薩像、お地蔵さんらしいが… ※普段の撮影は禁止らしいですが特別に撮らせてもらいました
おおおおお美形! これがお地蔵さんか、きれいなジャイアンみたいだ!
おおおおお美形! これがお地蔵さんか、きれいなジャイアンみたいだ!

美形のお地蔵さま

――これがお地蔵さんですか、びっくりしました

安達「すごい美形でしょ。ヨーロッパ系の顔立ちしてますよね」

住職「この方、モデルは女性やと思うんです。めっちゃべっぴんさんやったんやろうなあって。彫らはった方が外国の人やという可能性もある。体型もね、観音さんはだいたい当時の体を反映してますがこれは明らかに出元がちがいますよね」

道でよくみる丸っこいお地蔵さんはデフォルメされたものだったのか。そうだこち亀の両さんも連載が進むにつれどんどん丸っこくなってったよ、たしか。
やっぱり最初は拝むらしい
やっぱり最初は拝むらしい

仏像めぐりでモテる

――安達さん、お寺を訪ねたときはまず拝むんですか?

安達「最初に拝みますね。そのあと座ったまま下から見てます。こういうのって下からきれいに見えるようにデザインされてるんじゃないかなと」

住職「おもしろいもんでね、仏さま拝んできはった方はね、後ろ姿でわかるんですよ。見た目からして変わってきます。

ここにいらっしゃるからじゃなくてお店で会った人もね、お寺まわり好きでしょときくと『わかりますか!』って。言葉ではうまく言えないですけどね、お寺まわりしてはる人なんやろなあと。仕草や所作からきてるのかわかりませんけどね」

住職は仏像めぐりしてる人がわかるらしい。とくに背筋がピンと伸びてる人は「べっぴんさんやなあ」と思うとのこと。仏像めぐりによるモテ、あるぞこれは。

しかし男はそうでもないという。おっさんの所作はやっぱり「よっこいしょってやるでしょ」というものらしい。(女性限定でモテ効果があるなら、ホトケ女子という名称もあながちまちがいではないのか。)
うしろからもどうぞ、と特別に見せていただいた。ふだん見られない部分でもちゃんと彫ってある。布の重なりとかはてしなくめんどくさそうなのにふだん見られない部分
うしろからもどうぞ、と特別に見せていただいた。ふだん見られない部分でもちゃんと彫ってある。布の重なりとかはてしなくめんどくさそうなのにふだん見られない部分

本来は信仰のためにあるもの

――そもそもこういうふうに見なさいというのはあるんですか?

「細かいところよりも、この仏さまなんか好っきゃわ~、素敵やわ~、と思えることがもう吉祥(めでたいこと)ですわ。そういうんで信仰がはじまっていくと思います。仏さまも自然と手を合わせたくなるようなものですしね」

――作ってる方もそう意識してデザインしてるんですかね?

「仏師の方も誰かに見せようという思いだけでは彫らへんと思うんです。それはもう信仰がないと彫ろうと思わん世界やと思いますわ」

ところで最近ぼくは信心なく石で仏を彫っていた。それもただなんとなくだ。申し訳ない。
娘に仏を彫ったらおもしろいかなくらいの理由で仏を彫っていたので耳が痛い…
娘に仏を彫ったらおもしろいかなくらいの理由で仏を彫っていたので耳が痛い…

大沢たかお似という雑念

住職の話によると仏さまのよさが信仰につながると。そもそもが信仰のためにあるものなのでふざけたりしてはいけないのだなと思う。

たしかにおだやかな顔の仏さまを拝んでいると安らかな気持ちにもなる…もしやこれが信仰心?

住職「でもこのお地蔵さん大沢たかお似や…という人もいますね」
安達「大沢たかおさんときくと大沢たかおさんにしか見えなくなってきますね…」

いつのまにか大沢たかおにしか見えなくなっていた。まったくふしぎなものである。
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ご住職の話がおもしろい
ご住職の話がおもしろい

戒名を考えるのも大変らしい

その後住職からは、お坊さんが扇子を前に置くのは結界をして自分を下座にしてるという話や、戒名を考えるのはたいへんで寝ずに考えることもあるという話も。

お坊さんはみんな話が上手だ。ぜいたくな体験だなと思う。ただし安達さんによると、仏像めぐりでお坊さんに会うことはあんまりないとのこと。
最後は長岳寺というお寺へ。庭が広い。
最後は長岳寺というお寺へ。庭が広い。

お寺の規模をしめす単位がすごい

安達「大体お寺めぐりをするときは一日3つくらいまでですかね、4つだと疲れちゃうので。奈良だと車はあったほうがいいですね」

次に向かったのは長岳寺。立派な庭園があり、ここもかなり大きい。住職が「かつて僧兵が300いた」とおっしゃっていた。僧兵が300。大きさをはかる単位がすごいよ…
目に水晶が入っているものの中ではここが最古だそうだ。(ところでこの日カメラがこわれてしまって全部携帯で撮っています)
目に水晶が入っているものの中ではここが最古だそうだ。(ところでこの日カメラがこわれてしまって全部携帯で撮っています)

お坊さんが自分のお寺の仏さまを語るときがアツい

住職「この仏さまは平安時代の末期、平安時代というのは貴族がおさめられた時代ですからみやびなものが喜ばれた。ですからこの仏さまも非常に上品な顔をしてらっしゃいますなあ……こんな言い方したら他の仏さまが上品でないことになってあれですけど」

他のお寺のご住職もそうだったが、お坊さんというのは自分のお寺の仏さまについての語り口が愛にあふれていて驚く。ひゅーひゅーと冷やかしでも入れたくなるほどだ。

住職「蓮の花びらに布がかかってるところまで表現してあるんですね。どうぞお近くでご覧になってください」
布が蓮の花弁にひっかかってるところも表現しててすごいと。「どうぞお近くで」どれどれ…
布が蓮の花弁にひっかかってるところも表現しててすごいと。「どうぞお近くで」どれどれ…
ジリリリリリリリ!!!??ななななな!?
ジリリリリリリリ!!!??ななななな!?
近くで見たため警報が鳴り、あわてて切りに行くご住職。すいません、どろぼうは私です!!
近くで見たため警報が鳴り、あわてて切りに行くご住職。すいません、どろぼうは私です!!
外国のお客さんがのんびりしていた。「サッキドロボウハイッタミタイネ…」言ってたことだろう
外国のお客さんがのんびりしていた。「サッキドロボウハイッタミタイネ…」言ってたことだろう

ビッグ癒やしがある

――外国のお客さんが。たしかにここ気持ちいいですね

「入場料払ったらずっと居てられますしね。そうめんも抹茶も出してくれるし」

縁側で猫が寝ている。よく見ると猫がやたらにいる。立派な庭だが京都のお寺とちがってそれほど混まないらしい。

くわ、たしかにいいぞこれは。大いなる癒やし、ビッグ癒やしがここにある。これで警報が鳴らなかったらぼくはぐでんぐでんに癒やされてもうとろとろの茶粥になって奈良の名物として生きていくところだった。
ビッグ平和
ビッグ平和
安達さんおすすめの長岳寺の仏さまはこちらの普賢菩薩像。大きなゾウを支えるために小さいゾウがめちゃめちゃいる。子象に乗る親象だろうか、システムの見直しを訴えたい
安達さんおすすめの長岳寺の仏さまはこちらの普賢菩薩像。大きなゾウを支えるために小さいゾウがめちゃめちゃいる。子象に乗る親象だろうか、システムの見直しを訴えたい

たしかに知らなくても癒される…

安達さんはフィギュアが好きで仏像をフィギュア感覚で見ることからずぶずぶハマっていったらしい。なるほど、バリエーションも背景の歴史も死ぬほどあるからハマりがいもあるだろう。

信仰心もなく、造形に対する興味も少ない筆者だったが、お寺をめぐっていろいろな話をきいてるうちに癒やされたり面白くなってきたりとなるほどこれかと感じるものがあった。

思い出した。高校生のころ大仏見に行っていたのは当時お経みたいなテクノの歌が流行り(…これ聴きながら大仏見たらめちゃめちゃいいにちがいない!)という高校生らしい浅い考えで大仏見ながら(効いてる効いてる…)といい気分になっていたのである。あれはなにに効いていたのかはさっぱりわからないが。

仏、いいかも……こうして人はよっこいしょよっこいしょと腰をあげながらおじいさん趣味に突入していくのだな。
こういう風景は中金堂再建中の今だけですよ!と熱くいわれたのだが、まあ工事のおっちゃんだしな…という思いが
こういう風景は中金堂再建中の今だけですよ!と熱くいわれたのだが、まあ工事のおっちゃんだしな…という思いが
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