海を見て「フーッ!!」といいたい。内向的な3人がそんな旅に挑んでみた
青い海を見て思わず歓声を上げる。そんな旅をしてみたいものだと思う。
先日、海が見えた瞬間にフーッとおそるおそる声を上げてみた。すぐに裏返った。問題は旅じゃなかった。自分にあったのだ。
かんたんに歓声を上げられる側の人間になる必要がある。練習だ。歓声を上げまくる旅に出よう。
フーッが裏返る人生
石垣島で自転車に乗り長い坂をくだった。青い海が見えた。(…こういうとき「フーッ!」とかいってみたほうがいいのかな?)と思い、おそるおそる声を上げた。
ほひーっ。
息を吹き込みすぎたリコーダーのようだった。これまでにフーッといえない側の人生を歩んできたのだなと実感した。一度このフーッ!を練習しておきたい。そう思って声をかけたのはバンドマン二人。
イエーッ!と叫んでるやつらだ。
左右の花池(左)は15分、トリプルファイヤーの吉田(右)は30分の遅刻。酒の匂いがしていた
バンドでイエーッ!と叫んでる2人
二人のバンドマン、花池と吉田。それぞれのバンドでVo.として活動(花池はBa.兼)する彼らは日頃よりステージ上で客をあおっているのだろう。
彼らと旅をしながらフーッ!なりイエーッ!なりの出し方を学んでいけばいいのではないか。
そう思って11時渋谷に集合。花池は15分、吉田は30分遅れてくる。基本的に彼らはポンコツである。彼らのポンコツっぷりはなぜか人を安心させる(※)作用があり、動画コーナーでは連載もある。
※たぶん下には下がいるなと思っている
あの辺がいいと吉田が指さした先は四街道駅。千葉だ。それしか知らない。行ってみよう
知らない街に行こう
さてどこに旅に出ようか。
なんでもない街でフーッ!と歓声上げられたらそれはもう歓声上級者じゃないだろうか。石垣島の坂なんて余裕だ。
どこでもいいから指してくれとたのまれた吉田が路線図の前で目をつぶって指をさす。千葉県の四街道駅。三人とも行ったことがないしイメージもない。
じゃあ四街道に行こう。そしてできるだけ歓声をあげよう。そういってJRの改札にICカードを当てる。全員無言である。
改札で旅のはじまりにフーッ!といえるような人間になりたい
レッツパーリィ!と言ってみたい
さて一口に歓声といっても難易度がある。その最難関は「レッツパーリィ!」ではないか。
なんせ「さあパーティーをはじめよう」である。そこはパーティじゃないのに、だ。現実をパーティーに丸め込むのである。
「レッツパーリィ!なんてブランキーでしか聞いたことがない」と吉田はいう。バンドマンの彼らでもそうなのか。なら君らはふだんなんて言ってるんだ?
「レッツパーリィ? パーティーじゃないのに!?」たしかにそうだ
バンドマンの煽り事情
「オイ!を他のバンドはブレイクで言ってるのでマネしてみたら会話の『おい』になりました」という花池。「イエーならいいますね。声が小さくてもサマになるのがイエー」と吉田。
呼んだはいいものの、彼らも歓声を上げられない側の人間だった。
「でも今日で心からレッツパーリィ!といえるようになりたいですね」と花池。「今日はここまで走ってくる途中に心と体がバラバラになりそうでした」と吉田。
吉田はたまに関係のないことをしゃべりだす。
スカイツリーが見えた瞬間にだれかが「レッツパーリィ!」とつぶやいた。あとの二人は「うん」だった。ちがうなあ…
席がようやく空いて座れたタイミングで「レッツパーリィ!」(花池)それはパーティーではない。
徐々にパーティーに慣れていく
電車の中ではスカイツリーが見えたときに、そして席が三人分空いたときにそれぞれ「レッツパーリィ!」とだれかがいった。残りの二人は「うん」といった。
「うん」じゃないだろう、「うん」じゃ。ここで協議があり、「レッツパーリィ!」といったら残りの二人は「フーッ!」と言うことになった。何事も打ち合わせである。
在来線のまま四街道に着く。見渡すかぎり通常営業の街。旅気分が盛り上がらない。歓声を上げるにはどうしたらいいのだろう。
駅前のシンボルはパチンコ屋。どこまでも通常営業の街、四街道。
シンボルで記念写真を撮る。偽りであるはずだが、こみ上げるものもある。これだ。旅気分は記念写真で醸成される
むりやりパーティー感を高めていくしかない
旅気分ないなと思ってなんでもない場所で記念写真を撮ってみた。これは……たしかに、盛り上がる。ただのパチンコ屋の新装開店なのに、だ。
吉田と花池が次にとった手は「思いついたら走りだす」というもの。これは……ただ疲れる。彼らにリードをつけたい。
ガムを配る進駐軍を見つけたかのように突然走りだす二人
そこに進駐軍はいない
なにかを食べたあと、感想としての「フーッ!」はおどろくほど頭が悪そうに見えた。
小籠包をやぶって「レッツパーリィ!」といってみた。汁が出てきた。これはたしかにパーティーかもしれない
財布じゃなく全財産らしきものを持ち歩く吉田
シブすぎる観光地に歓声を上げよう
四街道市のHPで見どころを探るとルボン山という山を見つけた。ほかにめぼしいものもなく、このルボン山を今回の観光の目玉とした。ここで歓声をあげまくろう。
ここまで電車や記念写真や小籠包などこまめにレッツパーリィ!といってきた。最初は照れくさかったがだんだんと口もなめらかになってきた。
ラーメン屋に行こう行こうと思っていざついたら休業。これは「もう口がラーメンになっている」状態であるが、今は「もう口がパーティーの口になっている」と言ってもいいだろう。
あの角を曲がればルボン山がある。この旅の目的地ルボン山である。よく知らないがたぶん限りなくパーティーに近い山なのだろう。なら叫ぼうじゃないか。レッツパーリィ!と。
この人たちはもうパーティーが待っていると思っている
待ちに待ったルボン山は明治期の練兵場でした。しかし完全にパーティーと混同している二人にはおかまいなし
ここで吉田が何かをひろった。あぶらとり紙らしきものだそうだ
拾ったあぶらとり紙で躊躇なくあぶらをとる吉田(※)。限りなくハイリスク・ローリターンな行動もパーティーならでは ※演出なし
「レッツパーリィ!」と叫んで駆け足でルボン山を登る二人 。なれたものだ
吉田はそのまま頂上でJリーグ黎明期の飛行機ポーズに移行
「あ、レッツパーリィ」なにかを発見した吉田号
「こんなにぐっしょり濡れてるのにエロ本じゃないなんてスゲエ…」どういう感動なんだ
ビーンズパーティー!の掛け声とともに藤棚の豆をさわりまくる二人。どういうことなんだ
これはもうパーティーだ
いたるところでフーッ!やレッツパーリィ!と叫んでいると、さすがになれてきた。
二人のバンドマンはしきりにパーティーだ、パーティーだといっている。この練兵場の山には沖縄の海のような美しさや楽しさはさすがにないが、今やパーティーに近いのはこちらだ。
ふと我に返ると毒キノコでも食べたかのような集団だ。しかし知らない方が幸せなこともある。とにかくパーティーをつづけよう。
気軽に「レッツパーリィ!」と言った先には
砲兵学校跡である。私たちはもうパーティー・ピープルだといってもいいだろう
ほっとくと寝ていた二人であるが
そろそろ行こうと促すと開口一番「レッツパーリィ…」と。パーティーの夢見やがって…
トリプルファイヤー吉田と左右の花池がともだちを探して旅に出る動画連載
私たちパーティー・ピープル
これで今後レッツパーリィ!といえるような気がしますと二人はいう。たしかにこれだけレッツパーリィ!といっていくと、だんだんサマになってきた。パーティーがはじまるんだなという気さえしてくる。
すると旅が楽しくなる。歓声は旅を楽しむための装置としてもはたらく。海に歓声をあげていた側の人たちは、より旅を楽しんでいたのだろう。
藤棚の豆をさわりながら、ダンゴムシたちが集う雨にぬれた文庫本をつつきながら、(こんな楽しみ方があったなんて…)と実感する一日。
おれたちはもうパーティー・ピープルだ。