パッと見、ごくごく普通な街のお肉屋さん
こういうお店のコロッケやメンチカツってメチャクチャ美味しいですよね
……って、あれ!?
なんか肉と関係ないものがいっぱい売ってるー!
というか、ギターがいっぱい! どうなってるんだ、この店!?
そうなんです。
こちらのお店は、お肉屋さんと中古ギター屋さんが、なぜかニコイチになってしまっている謎すぎるお店なんですよ。
看板に輝く「MEAT & GUITAR」の文字!
「ミート&フィッシュ」「ミート&ベジタブル」もしくは「ピアノ&ギター」「ビール&ギター」あたりだったらまだ想像できる組み合わせですが、「ミート&ギター」って……。
決して出会うはずのなかった2大スターががまさかのコラボレーション! 小室哲哉&YOSHIKIによる夢のスーパーユニット・V2みたいなもんですな!?
肉売っててもつまんないから
こちらが店長さん。……で、どうしてこんなことに!?
「この店、もともとはウチの親がやってる普通の肉屋だったの。で、オレが継ぐことになって手伝いはじめたんだけど、肉を売ってるだけじゃつまんなくてさぁ~」
……ええーっ! そんな、元も子もない。
「ちょうどイカ天ブーム(バンドブーム)の頃だったんだけど、友達が宇都宮で音楽スタジオをはじめるっていうんで、『ちょっと楽器を置くスペースを貸してくれないか?』っていう話になって。店の一角が空いてたから、そこに楽器を置くようになってね……」
奥のスペース。もはや肉屋の面影は皆無!
肉切り器とギターが同居しているのも、なかなか衝撃的な光景です
いやいや、いくらスペースが空いていたからって、お肉屋さんの一角を楽器の倉庫代わりにするなんて……両親は反対しなかったんでしょうか?
「『好きにすれば?』って感じだったね。それから、ただ置いておくだけじゃなくて、ギターを修理したり売ったりもするようになって。そしたら、そっちの方が楽しいからさぁ~。どんどんギター屋のウェイトが大きくなってきて、こんなことになっちゃった。親は、『肉屋さえつぶさなければ何でもいい』っていってくれてるけどね」
それからは、看板も変えちゃったりとやりたい放題!
何の店だよ、これ……
「ミート&ギター」ってことで動物たちが演奏をしているのまでは理解できるけど、牛が卵から生まれているのは理解不能
そして、こちらの石製の看板は……?
「これはね、親父が死んだときに、ウチの名物だったコロッケ型のお墓を作ってやろうと思って石材屋に注文したんだけど……ちょっと形が気に入らなかったんで、看板にしてここに置いてあるんだよ」
ということは元・墓石が店先に置いてあるということ!?
ザ・フリーダム
「コロッケ」「和牛切り落とし」と同列で「Gibson」「Martin」(ギターのメーカーね)の値札が並ぶ
肉屋だけにギターも298(にくや)円から販売中!?
店長、色々ねらいすぎですよ! 「面白いだろぉ~?」
「変な店があるってことで、観光バスがウチの前で停まったりするからね」
確かに気になるもんなぁ~。
しかしこの店、面白いというだけで注目されているわけでもないようです。
肉とギターを物々交換!?
聞いたことないメーカーも多いけど、とにかく値段が安い!
1960~80年代の古いギターが1万円くらいからと、やたらと安い値段がつけられているこの店。普通、ギターの世界って古いものほど価値があるというイメージがありますが……?
「ウチにあるのは、外国産のギターじゃなくて、日本産のギターが多いからね。もともとは安物のギターだったんだよ。最近になって『ジャパニーズ・ビンテージ』なんて珍しがられているみたいだけど」
かつては、GibsonやFenderといった、いわゆる海外の有名メーカーのギターも取り扱っていたらしいんですが、それがどんどん値上がりして、気軽に買えない値段になってしまったため、海外のものを日本のメーカーが真似して作っていたような時代のギターを中心に扱うようになったんだとか。
当時は「安物」というイメージが強かったため、コレクターも少なく、今となっては逆に「珍しい」と価値が出ているギターもあるみたいです。
国産の安物ギターが必要ということで、映画『ALWAYS 三丁目の夕日'64』の撮影にも貸し出されたんだとか
しかし、もともと安物とはいえ、それだけ年代物を探し出すのは大変そうですが、どうやって仕入れているんでしょうか?
「この辺は、蔵や納屋を持っている家が多くて、加山雄三なんかのエレキブームの時には、納屋で練習してた人が多かったんだよ。それがいまだに残ってて『引き取りに来てくれ』なんていわれることも多くてね」
納屋の中に放置されていたギターだけに状態はよくないので、お金を払って……というよりは、「ただでもいいから持って行ってもらいたい」というケースが多いそう。
さらにはこんなパターンも。
まさかの物々交換!
確かに、わずかなお金をもらうより、お肉もらった方が嬉しいかも知れないですけどね。
そんな感じで仕入れたギターですが、そのまま売れるような状態のものは少なく、こっちのパーツをこっちのギターに流用して……と、複数のギターからパーツを寄せ集めて、1本のギターを作り上げることも。
お店だけじゃなくて、ギターもニコイチなんだ!
「この人にギターを貸したけど、まだ返ってきてないなぁ~」ホントかよ!?
納屋の奥から蘇らせたギターを「若い子にも手軽に家って欲しい」ということで格安の値段で販売しているこのお店。
ギター好きの間では口コミで広がっているらしく、「珍しいギターがある」ということで、有名ミュージシャンや海外のミュージシャンが突然訪れることもあるそうです。
そうなると、気になる店の売上げですが……。昔は肉とギターが8:2くらいだったのが、今では6:4くらいまでギターが増えているとのこと。スゲエ!
名物のコロッケをご馳走になったんですが、ギターの展示スペースで油っこいものを食べるのはちょっと罪悪感が……味はおいしかったです!
「つまんないよ」っていってたのに!
取材を申し込むため、電話をかけた時には何度も「ウチなんかに来てもつまんないよ。何てことない店だからねぇ~」といわれていたんですが、実際に行ってみたら、何てことないなんてとんでもない! メチャクチャ面白い店じゃないですか!
若い子のために安いギターを……という思いは、地元のミュージシャンをちゃんと育てているようで、メジャーデビューもしたキャプテンストライダムというバンドはこの店の元常連。「肉屋の娘」という曲は、この店のおばあちゃんをイメージした曲なんだとか!?
ちなみに店長さん、最近ではギターの修理だけに飽き足らず、ギター用のエフェクターまで自作しているそうで「上カルビ」「上ロース」「サーロイン」なんて名前のエフェクターを販売しているそうです。……どんな音がするんだ!?