法事パンってなんだ
私はこの「法事パン」の風習がある地域の出身だが、実はそんなによく知らない。……というのも、まだそんなに法事に呼んだり呼ばれたりした経験がないからだ。
けど「法事パン」という字面への馴染みは多少ある。
「法事パン承ります」という表記がある店は多いので、字面では見ることが多い。(これはパン屋に置いてあったチラシ)
元々まんじゅうだったものが、どっかのタイミングでパンになったので、定番はあんぱん。
そこから徐々に種類が増えて、今はクリーム、メロン、ジャムパンなどを法事パンとして出してる店が多い。
ひとつずつ法事パン用の袋に入れられ、箱詰め
箱に入れられ、のしが付けられる
ほとんどのお店がこんな感じなのだが、「パンと出前一丁詰め合わせ」を用意してるというギフトショップもあった。意外となんでもありか!
教えて! 法事パン
まずは少し話を聞いてみようかと、友人の友人(初対面)であるパン屋さんにお邪魔した。
松江市のキッチンおかださん。きれいな店舗。たまに買いに行くけど、お店の人と話すのははじめて
対応してもらった島貫さんは、「キッチンおかだ」の娘さん(旧姓岡田さん)で4代目。ためしにひとつ作ってもらおう。
法事パン用の袋に
あんぱんを……
手早く入れて……(あっ、早い!)
はい、できた! (こちらが島貫さん)
あっという間に出来たが、実際に注文を受けるときは3日前までの予約が必要。結構大がかりな作業みたいだ。
そうだ、お願いしたら自分の好きなパンを法事パンの袋入りで持ち帰りできるかな。
えーと、あのチョコクロワッサン(パン・オ・ショコラ)を……
島貫「え、これ??」 さくらい「はい、これを……」
法事パン・オ・ショコラできた!
島貫「けど、こういうクロワッサンって空気に触れさせないとサクサクが落ちますよ」
さくらい「え!」
クロワッサンは法事パンには向かないのか。そんな訳で、これは喫茶スペースで食べて帰ることにした。サクサクしてて美味しい。
サクサク…… チュルルル…… (無心で空腹を満たす)
こちらのキッチンおかださんでは、島貫さんのおじいさん(現在90代)ぐらいの代から法事パンをやってるとのこと。今では、どう始まったのかもよく分からないのだそうだ。
こしあん、おいしい(だいぶ食べてから写真撮ってなかったことに気付いた)
「これからいろんな店の法事パンを買って食べてたり、店ごとの袋を見る予定なんですよ」と今回の流れを伝えたところ、「それは気になる」というような反応が返ってきた。まだ法事にそんなに呼ばれる訳じゃないし、意外とよそのことって知らないらしい。
法事パンってそんなにこだわるポイントでもないんだろうし、自分のお店のやり方で昔から風習のように続けてると、あんまりよその店を意識しないのかもしれない。
怪しいモンじゃないと弁解しつつの購入
さて、色んな店で法事パン買ってみるか! そもそも単品で売ってくれるよな……? たぶん。
……と、おそるおそる問い合わせの電話をしてみたら、まずはだいたい不審がられた。
まあたしかに訳分からんわな
そこで、「県外の方に法事パンを紹介したくて……」というまったくウソではない理由をドーンと提示すると、そこそこ納得してもらえる。
なんか納得してもらえる
これを乗り切り、約束の日時に各店舗に単品の法事パンを取りに行くことに。松江~出雲近辺を8軒まわった。
中国地方の島根という県のはなしですよ、とまで言わないとみんなに分かってもらえてる気がしないので広範囲地図を載せとく
買いに行った先にあった「承ります」と書いた看板
最初もっといろんな袋があるのかと思ってたが、どうやら同じ袋を使ってる店が多い。
1~5番が一番多く使われてる定番の蓮の花の袋。6が神戸屋から出てる地域限定のパンで、7と8番は両方とも出雲市の製パン会社が出してる他社とは袋の雰囲気が違う「特別御誂(おあつらえ)パン」。
7番、レトロでかわいい。8番の家紋デザインの袋はパンの種類によって色ちがい(あんとクリームとジャム)。6番だけはスーパーで注文して取り寄せだった。
食べ比べてみよう! ……と言っても、どれも珍しさはなく
「よくある普通のあんぱん」「昔ながらのクリームパン」みたいな説明をすれば思い浮かべてもらえる味だと思う。比較する気がないわけじゃないが、どれも普通で美味しい。
あんこの風味が引き立ってきめ細やかでごまのあしらいが……とか言えなくてすいません、普通に美味しい
パン食い競争のときぶら下がってそうなフォルム
その中でも印象に残ってるのは7番の「なんぽうパン」のクリームパンがふっかふかだった。
全部法事用なので、基本的には事前注文で店舗に取りに行く形になるが、お盆や彼岸にはお供え用のが普通にスーパーで売ってたりするらしい。
あ……この企画、お盆のときにやればよかった……と今更思った。(うちはパンを供える習慣がないから、いつ売ってるとか認識してなかった)
パッケージの絵柄が気になる
パンを買い集めていくうちに、途中からパン自体よりも、レトロでかわいい蓮の絵柄について気になってきた。
定番の蓮の花の袋は各お店でまとめて注文購入してるようなので、製造業者に問い合わせればこれ以外にも種類が出てるか分かるかもしれない!? と辿ってみたが、情報を得ることはできず。
「出雲地方以外に出荷することはない」という情報は教えてもらえた
……となると、法事パンについては、これ以上パッケージの種類を見つけるのは難しそうだ。
それならば、ここらでひとまず蓮は置いといて、同じ製パン会社が出してるバラのパッケージをちょっと見てもらいたい。
法事パンはレトロな蓮デザインの「なんぽうパン」さんの「バラパン」
法事パンは家紋デザインの「木村家製パン」さんの「ROSEパン」
菓子パンにバタークリームを塗って、クルクルっと巻いてバラの花に見立てたパンで、ご当地パン界ではじわじわと有名になりつつある……らしい。
昭和の包装紙にありそうなこのレトロ感がたまらないなぁ……と思ってたところ、法事パンを買いに行ったときにこれ以外にも現役のレトロラインナップも見せてもらった。
法事パン歴40年の木村家製パンさんのこのレトロ感!
美味しいのでインド人もびっくり
この店オリジナルの袋、フォントがクリームパン感を醸し出してる
こういうのを見てると、
かっこいい文字集めの記事を思い出す。この記事を読んだ後、この「タイポさんぽ」の本を買い、それを参考に自分でも趣味でレトロ文字を作る練習をしてたことがある……という程度にはこういうのが好きだ。この手のレトロ感には弱い。
こういうパンをもっと探したい……! と思ってざっくり調べてみると、どうやら比較的栄えてる地域(松江や出雲)の外側に何軒かあるみたいだ。
郊外のほう(黄色のあたり)にちらほらあるっぽい?
ローカルパン袋収集旅
パンの袋を探し回るのがだんだん面白くなってきて、このあと5軒行った。
お店の人に「珍しいですよね」と言うと、「昔からずっと変えてないだけなんですけどね……」と言われた。単純に「変えてない」というだけの店が、郊外のほうに多く残ってるだけなのかもしれない。
行ったお店をいくつか簡単に紹介しよう。
「なつかしいパン」「やさしいパン」「メロンパン」の文字が印象的な古川製パンさん(出雲市の端っこのほう)
お店で作られたパンが、袋入りで売られてる
ここのクリームパン袋は楽天でも売られてるのを見つけたので、多く市場に出回ってるタイプなんだろうと思う。全部買うのは無理なので、お願いして1枚ずつ袋をもらう(もしくは買い取る)ことにした。
つぎはちょっと離れた安来市の「杉本パン」さん。何軒かまわってると、見たことあるのが出てくるようになるが、初見のもいくつかあった。
「ベビー」というのはマヨネーズパン
ヨーグルトパンと、左のバラのパッケージはバタークリームだった
パラ柄の袋に「スペシャルスウィーツ」って書いてある……。良い。
この日行けなかったお店のパンが道の駅に売ってて買えた。これもバタークリーム。「高級」って堂々と書いてあるところが良い。
そして鳥取県に入って、境港市の伯雲軒さんの「ブドーパン」。うわー、このパッケージたまらんな! と感激してたら、これ、わりと有名どころだったらしい(
コロカルでも特集されてた。)
これは鳥取県のスーパーならどこでもあるらしい、ということでスーパーで購入。
東京の鳥取のアンテナショップでも買えるらしい。ほんとは伯雲軒さんに袋ももらいに行きたかったけど、土曜でお休みだった
さいごに立ち寄った店で再び……
ついに最後の一軒。境港市の「モンマルトル」さん。あんぱんとクリームパンの袋がレトロな店らしい。
辿り着いてみると、あっ……なんか70?80年代っぽい! 軒テントの配色や形状のファンシー加減が好みすぎる。
この外観をずっと維持してほしい
中のこの昭和っぽさと宇宙っぽい照明のバランス加減も好きだ
葉が生い茂る喫茶スペース。ここでお茶をしたい
雰囲気が好みだったので、余計にジロジロと内装まで見渡してしまったが、そういや目的のパンが見当たらない。
袋に入ったあんぱんとクリームパンはないか聞くと、「その2つだけは事前に注文を受けて作ってます」と言われた。
え、注文?
たまたまそこにもうすぐお客さんが取りに来るあんぱんがあったので撮らせてもらう。
予約済みあんぱん。袋に「高級」って書いてある率高いなー
「あ……! もしかして予約ってことは……法事パンですか? これ」と聞くと、
「そうですよ。うちではこれが法事パンの袋なんです」
まさかの法事パン!! 最後の最後で、こんな流れでまためぐり合うとは!
また会えたね法事パン。「上クリームパン」の「上」の英語表記が「JOU」というのも良い
「蓮の花の袋は使わないんですか?」と聞くと、「よく言われるんですけどね。蓮の袋がなくて、うちではずっとこれなんです」と返ってきた。
まだ探したい、パン袋
集めたパン袋をひとまずズラッと並べてみよう(重複省く)。
ある程度の量が集まったので、見ごたえも出てきた気がしてる。
ズラッと! カラフルで見てて楽しい
この収集に関しては、今回だけで終わらず今後も少しずつ続けていこう。
ちょうど尾道あたりにふらっと行きたいと思ってるところなので、そのあたりにレトロなパン袋がある店があれば教えてください。珍法事パン袋ももしあれば情報待ってます。
ファイリング方法に悩む
せっかくなのでパラパラと絵本のように閲覧出来たら楽しいかな、とファイリングの仕方を考えてるが、どうにも上手くいかない。
あと、新品がもらえたパン袋はいいが、パンが入ってたものは若干あぶらっぽいので。やっぱりファイリングするのを躊躇してしまう。ちゃんともう一度もらいに行くべきなのかもしれない。