「かわぐちタイポさんぽ」
参加したのは「かわぐちタイポさんぽ」というワークショップ。主催しているのは埼玉県川口市の図書館に併設されている
メディアセブンという施設。ワークショップや講演を定期的に行っているところだ。
今回の講師は藤本健太郎さんという方で、『タイポさんぽ』という街中のかっこいい文字をたくさん集めた本を出している。
講師の藤本さん
『タイポさんぽ』表紙の文字がすごい
藤本さんの仕事はグラフィックデザイナー。文字のデザインのことをタイポグラフィーというのだが、その辺りのことは本業である。
藤本さんは、古い文字を集めると仕事の役に立つかな、と思っていたのだが、だんだん文字を集めること自体がおもしろくなってきてしまったらしい。(ちなみに集めた文字は全然仕事の参考にならなかったそうだ)
ワークショップの参加者は老若男女あわせて25名。寒い日にみんな物好き!
タイポ収集のキモ
・いつでもカメラを持ち歩くこと
・いつもと違う道を通ってみること
・歓楽街はいいタイポが落ちている(夜はこわいので昼間に狙おう)
・スーパーや八百屋さんの野菜のダンボール箱もいい
・ホームセンターや手芸店の商品にもいいタイポが多い
・店の中が撮影禁止だったらタイポ収集のために商品を買うべき
藤本さんからかなり具体的なアドバイスが出てきた。とくにホームセンターや手芸店は「外敵が少ないから(商品のパッケージデザインが)シーラカンスみたいになってる」そうだ。
確かにいわれてみれば!
知らない人と班を組みます
今回のターゲットは西川口駅と蕨駅の周辺になる。どちらも古く怪しい商店がたくさん残っているし、歓楽街もある。藤本さんは「下調べしたけれど、そうとう魚影は濃い」といっている。
今回僕と一緒の班になった人たち
4人で一つ班を作り、それぞれの場所を分担する。僕たちのチームは「蕨駅東口方面」になった。
「それではみなさん、底引き網漁みたいな感じで集めてきてくださいー」静かだが、熱のこもった掛け声が出てきた。底引き網?!
なんとなく案内を見上げながら、知らん人同士で現地まで電車移動
蕨駅に降り立ってすぐ、僕らが色めき立ったのがこちら。
「モナ」の文字がモナッとしてる
「モナ、すごくいい」
「あの女もなんだろうなあ」
「モナだけじゃなくて、ぬくい駐輪所も含めて全部いい」
「うん、ぬくいもいいですねえ…」
班の人たちは初対面なのに、ずいぶんと好みが合う。話しているのは、文字の丸みや太さの違いみたいな、ちょっとフェチっぽいようなところなのに。意見が合うのはうれしいんだけれども、すごく変な感じだ。
ジョジョ立ちみたいなこの女
それをまたいいカメラで写す人々
にしても文字だけじゃなくて、変な女の絵があったり、「ぬくい駐輪所」とか変わった名前だったりと、ちょっと最初からおもしろの要素が多い。ゴージャスすぎる。だんだんこの建物がマハラジャの宮殿のように見えてきた。
モナみたいな大規模おもしろさとは逆に、ぎゅっとかっこよさが凝縮しているやつもある。
全部の文字が全部かっこいい、楕円でぎゅっと囲まれている感じも最高
こんな小さなシールも見逃さない
単純にデザインがかっこいい。正にこういうのを見つけたかった。
「リード!」
「おお、リードですね…」
「ああ、いい…」
意味をなさない感嘆の言葉ばかりがあがる。また満場一致でわかりあってしまった。なんなんだ、これ。
ザっと駆け寄る
駄菓子屋のゲーム、たまらん
こうなってくると駄菓子屋のゲームなんて、文字の宝箱である。これを見つけた瞬間、集中線が走り、みんなの目がカッと見開いた。
オーバーヒートは煙を出してコミカル
残像出てるスピード違反。待機しているパトカーが思いのほかリアルで、行政処分や罰金などのいやな手続きを想像させる手の込んだ仕組みになっている
情けなくもなぜか力強い。どうしようもないね、って雰囲気出てる
みんな宝箱の中身を検分して大満足である。盛り上がった後は、お店に悪いと思って一応お菓子を買った。
珍しい「マコロン」というお菓子。ピーナッツとメレンゲを混ぜて焼いたものらしい
買ったガムをみんなに分け与えている
制限時間は1時間半だったのだが、こんなことをやっていたらあっという間に過ぎた。かなり細かく見ているので、全然キリがない。
戻ってみんなの写真をスライドショーで観る
おもしろい文字、大漁
みんなで撮ってきた写真をプロジェクタで写して、みんなで観る。みんなの「細かい視点」が圧倒的なボリュームで押し寄せてきて、クラっとした。ちりめんじゃこがあまりに大漁で船の底が抜けました!って感じである。大変。
その中でも特に会場がワッとわいた文字をご紹介。カッコの中のコメントは会場で誰かがいってた言葉です。(写真はクリックで大きくなります)
大胆なサンタフェ。出た瞬間、会場から「イヤー」「キャー」という黄色い声援が出た
近未来サイバー感ある地域の保育園
「おお、とっくりが出てきた…」「これで読めちゃうのが不思議」
もはやビオランテと化している「花」
今回一番会場がわいた「ペペルモコ」。まったく未知のバランス感
今回一番会場がわいた「ペペルモコ」。まったく未知のバランス感 「ペペルモコ」マイナーチェンジバージョンみたいのもあった
「コザカイ洋品店」がリアルドロップシャドウしている
「poem」という喫茶店。「手の形がmと韻を踏んでいる!」
「昔の酒屋は洋酒なんかを街に紹介していて、文化の最先端みたいなところあった」
「ザ・押入?」「文字はともかくとして『ザ・押入』がおもしろいと思って撮っちゃいました」
文字全部すごいんだけれど、「店」の文字にコーヒーカップが入ってる
「『ゆ』をこういう形に持ってくるのはすごく好きですね」
タイポグラフィー関係ないけど、よくみると細かくパンチラしている
「十字」がわずかに上方面に歪んでいる
両脇の建物が「パーマしらぎく」の額縁のよう
「はかなすぎる」
こっちも相当はかない
外に出なくても、このメディアセブンの書き文字が相当かわいい。みんな解散してからまずこの文字を撮影してた
壁面いっぱいのスケール感!
どんどん感覚が過剰に
路上の文字のデザインをひとつひとつ確かめてゆくと、だんだんと細かいことに過敏になってくる。僕は今回のターゲットとなった西川口に住んでいるのだが、こんなおもしろ文字だらけの街で暮らしているなんてことが、信じられない。
ワークショップが終わって家に帰る途中、スライドショーで出た看板の現物をいくつも見た。今までは見過ごしてきたその文字の一つ一つにものすごい存在感を感じてしまう。
正に路上観察の醍醐味。でも毎日のことなので脳が疲れる。