特集 2015年4月21日

二級河川の水源地めぐり

なんだか切ない響きの二級河川、その源流に迫ります
なんだか切ない響きの二級河川、その源流に迫ります
水源と聞いて思い浮かべるのは、やはり山々が連なる山岳地帯ではないだろうか。

確かに川の源流をたどってみると、たいていは山へと行き着く。飲料水に用いられるような、大きな河川ならばなおさらだ。

そのような重要な河川は一級河川に指定されている一方、二級河川というなんだか残念な感じの河川も存在する。

一級河川と比べて若干ランクが落ちた感のある二級河川。その流れは一体どのような場所から始まるのか、二級河川の水源地を見に行った。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:「自動車会社の側ではカッコ良い車をよく見かける説」を検証する

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市街地に囲まれた水源地

調べてみると、一級河川とは国土交通大臣が重要な水系として指定した河川とのことだそうで、二級河川は都道府県の知事が重要な水系として指定した河川のこと。

道路で例えると一級河川は国道、二級河川は県道といったところだろうか。

私は以前、「近所のドブ川を源流まで遡る」という記事を書かせていただいた。その時にたどった比留川は準用河川であり、これは道路にすると市道にあたる。
神奈川県綾瀬市を流れる準用河川「比留川」
神奈川県綾瀬市を流れる準用河川「比留川」
最終的に行き着いたのはマンホールであった
最終的に行き着いたのはマンホールであった
比留川の源流は雨水のマンホールであり、その水源地は近隣の住宅地一帯という、なんともぼんやりしたものだった。

二級河川もどうせそんな感じではっきりとした水源地なんて分からないだろう……と思いきや、意外とそうでもないらしい。

神奈川県大和市と藤沢市を流れる二級河川「引地川(ひきじがわ)」をたどってみると、きちんと水源の池が確認できるのだ。
衛星写真に切り替えてみるとハッキリ分かるが、木々が生い茂る水源地のすぐ側まで住宅街が迫っている。

市街地のなかにポツンとある水源地。気になる存在ではないか。

河口からたどる二級河川「引地川」

というワケで、引地川の水源地を見にいくことにした。直接行っても良いのだが、せっかくなので河口からたどってみよう。
日本のモンサンミシェルこと江ノ島を望む引地川の河口
日本のモンサンミシェルこと江ノ島を望む引地川の河口
源流を目指していざいざ出発
源流を目指していざいざ出発
川沿いは公園として整備されている
川沿いは公園として整備されている
JR東海道線の下を通って北へ北へ
JR東海道線の下を通って北へ北へ
製鉄所のような巨大工場も良いけど、こういうさりげない感じの工場も好き
製鉄所のような巨大工場も良いけど、こういうさりげない感じの工場も好き
護岸が鉄板というのがなんとも二級河川らしい
護岸が鉄板というのがなんとも二級河川らしい
護岸の改修工事では、川を半分埋て重機を入れるらしい。ダイナミックだ
護岸の改修工事では、川を半分埋て重機を入れるらしい。ダイナミックだ
この時期は菜の花の黄色がよく映える
この時期は菜の花の黄色がよく映える
釣り人もいる。いつも思うのだが、なにを釣っているのだろうか
釣り人もいる。いつも思うのだが、なにを釣っているのだろうか
ちょうど八重桜が見ごろだった
ちょうど八重桜が見ごろだった
湘南台のあたりは、地元の人しか知らないであろう超ローカルな桜スポット
湘南台のあたりは、地元の人しか知らないであろう超ローカルな桜スポット
その対岸では遊水地を整備中
その対岸では遊水地を整備中
引地川や周辺の二級河川には、かなりたくさんの遊水地が設けられている。

山岳地帯に源流がある大きな河川の場合は山林に保水機能があるし、なんならダムを作ることもできる。大雨が降っても増水量は比較的穏やかだ。

一方で、そのような保水機能のない二級河川の場合、雨が降ったらダイレクトに河川へと注ぎ込む。急激に増える水を逃がす為の遊水地が必要になるのだろう。

二級河川には二級河川なりの水害対策が必要なのだ。
シンプルなコンクリートの橋。凄く好みなたたずまいだ
シンプルなコンクリートの橋。凄く好みなたたずまいだ
この橋の欄干のサビ具合も素晴らしい
この橋の欄干のサビ具合も素晴らしい
鉄板で作った焚き火の入れ物がクール
鉄板で作った焚き火の入れ物がクール
桜ヶ丘にある桜並木。新緑が爽やかで気持ち良い
桜ヶ丘にある桜並木。新緑が爽やかで気持ち良い
大和市屈指の桜スポットらしく、4月上旬はこんな感じ
大和市屈指の桜スポットらしく、4月上旬はこんな感じ
川沿いの墓地では手押しポンプの井戸が現役だった
川沿いの墓地では手押しポンプの井戸が現役だった
江ノ島の海岸から始まり、藤沢市を過ぎて大和市まできた。川幅はだいぶ狭まってきたものの、周辺はまだ全然市街地だし、水源地が近いようには見えない。

源流の光景が想像できない河川を遡るというのも、なかなかおもしろいものである。
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相変わらずの住宅地を行く
相変わらずの住宅地を行く
いつの時代も子供の冒険は変わらないようだ(私もこういう場所に入って遊んでいた)
いつの時代も子供の冒険は変わらないようだ(私もこういう場所に入って遊んでいた)
ゴミ拾いをしている方々もいた。頭が下がる思いである
ゴミ拾いをしている方々もいた。頭が下がる思いである
やけに天井の低いトンネルを屈みながら抜けると――
やけに天井の低いトンネルを屈みながら抜けると――
そこは公園だった。護岸もなくなり、いよいよ源流っぽい感じに
そこは公園だった。護岸もなくなり、いよいよ源流っぽい感じに
これも増水時に水量を調節する為の施設だろうか、堰があった
これも増水時に水量を調節する為の施設だろうか、堰があった
親水公園として整備されており、多くの人で賑わっている
親水公園として整備されており、多くの人で賑わっている
国道246号線の高架をくぐると――
国道246号線の高架をくぐると――
フェンスによって阻まれた
フェンスによって阻まれた
ここが引地川の水源地なのだ
ここが引地川の水源地なのだ
地図上では周囲のほとんどが開発されており、水源地といっても公園の池に毛が生えた程度の存在かと思っていたが、実際に行ってみるとかなり本格的な水源地である。

どうやらここは台地にできた谷間のどんづまり、周囲から一段低くなっており、その斜面を縁取るように木々が生い茂っている。

なので谷底の水源地からは台地上の住宅街が見えず、源流点らしい静謐な雰囲気が保たれているのだ。
水質を守るため、水源地付近は立入禁止
水質を守るため、水源地付近は立入禁止
近寄ることはできないものの、遠目で池を確認できた
近寄ることはできないものの、遠目で池を確認できた
振り返れば木々の向こうに透けて見える住宅街
振り返れば木々の向こうに透けて見える住宅街
ちなみにこの水源は、平成4年(1992年)まで近隣地域の飲料水として利用されていたそうだ。現在はもしもの際の非常用水源として水質が維持されているらしい。

周囲が市街地として開発された中に残るオアシス。付近からは寺院の跡や縄文時代の遺跡も発見されており、昔から人々に利用されてきた、なんとも身近な水源である。
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鎌倉の二級河川「滑川(なめりがわ)」

二級河川とはいえ、引地川の源流は確かに水源地というべき場所だった。それでは、他の二級河川はどうだろう。

続いては、鎌倉を流れる滑川の源流をたどってみることにする。
由比ヶ浜から相模湾に注ぐ滑川
由比ヶ浜から相模湾に注ぐ滑川
看板のフレームが塩ビ管っぽいのが哀愁を誘う
看板のフレームが塩ビ管っぽいのが哀愁を誘う
海と川の境がぼんやりとした感じなのも二級河川っぽい
海と川の境がぼんやりとした感じなのも二級河川っぽい
というワケで、水源地を目指して遡ろう
というワケで、水源地を目指して遡ろう
河口付近はそこそこ川幅があったものの、内陸に入ると極端に細くなった
河口付近はそこそこ川幅があったものの、内陸に入ると極端に細くなった
鎌倉という町は、南を相模湾に面し、それ以外の三方を山によって取り囲まれている。源頼朝が思わず幕府を開きたくなってしまうような、守りに適した地形なのだ(詳しくは、以前書かせていただいた記事「古都鎌倉の神髄は城壁にあり」をご覧ください)。

山に囲まれた土地なので平地が狭く、滑川もすぐに先細りとなる。両岸に家々が迫る住宅地を抜けると、自然豊かな山沿いの川となった。
もはや渓谷というべき趣きである。秋はさぞ紅葉がキレイなことだろう
もはや渓谷というべき趣きである。秋はさぞ紅葉がキレイなことだろう
細い谷間の住宅街に入る
細い谷間の住宅街に入る
すると、二手に分岐した
すると、二手に分岐した
このうち、左の川は鎌倉霊園の敷地内に入ってしまう。鎌倉霊園は墓参り以外立入禁止とのことなので、その先をたどることはできなかった。

という訳で、右の川を追うことにする。
川沿いに坂道を登っていくと
川沿いに坂道を登っていくと
程なくして山道となる
程なくして山道となる
ちょっとした滝も見られ、歩いていて楽しい
ちょっとした滝も見られ、歩いていて楽しい
既に川ではなく水の流れという感じだ
既に川ではなく水の流れという感じだ
そして、その流れもここで途絶えた
そして、その流れもここで途絶えた
この石の隙間から染み出ているようだ
この石の隙間から染み出ているようだ
この鎌倉市と横浜市の境に位置する峠付近が滑川の水源地である。二級河川といいつつ、割とガチな源流だ。

ちなみにこの山道は朝夷奈(あさいな)の切通しと呼ばれ、鎌倉と横浜方面を結ぶ生活道路として昔から使われていた。

川の流れを追っていたら、いつの間にか古道に迷い込んでいた。なんとも鎌倉らしいオチである。
水源からさらに坂を上ると、人工的に山を掘り切ったダイナミックな峠に出る
水源からさらに坂を上ると、人工的に山を掘り切ったダイナミックな峠に出る
なお、この付近の山々は他の川の水源地にもなっている。

峠を越えた横浜側には、「いたち川」という二級河川が流れているようだ。ついでに見に行ってみようではないか。
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横浜の山から流れる二級河川「いたち川」

鎌倉と横浜の境に広がる山々は、数多くの二級河川の水源となっている。その中でもはっきりと源流が確認できるのがいたち川である。

いたち川は大船付近で二級河川「柏尾川」に合流し、さらに藤沢市の中心部で二級河川「境川」と合流、江ノ島の付け根から相模湾に注ぎ込む。

二級河川の支流の支流という末端極まりない川ではあるものの、その名前は鎌倉時代の吾妻鏡にも見られる、由緒正しき二級河川である。
大船近くのいたち川はこんな感じだが――
大船近くのいたち川はこんな感じだが――
上流域になるとこうも自然が剥き出しになる
上流域になるとこうも自然が剥き出しになる
その流れは住宅街を横切り――
その流れは住宅街を横切り――
「横浜自然観察の森」という公園にたどり着いた
「横浜自然観察の森」という公園にたどり着いた
横浜というとハイカラな街並み、みなとみらいなどの都会をイメージしがちであるが、そんなのは海沿いのごく一部だけだ。

場所によっては畑もあれば、このような山だってある。
小川沿いに公園の坂道を上っていく
小川沿いに公園の坂道を上っていく
川沿いに道が整備されているのがありがたい
川沿いに道が整備されているのがありがたい
そうしてたどり着いた先には池があった
そうしてたどり着いた先には池があった
ここがいたち川の源流だろうか
ここがいたち川の源流だろうか
うむ、源流のようだ
うむ、源流のようだ

二級河川の水源も、ちゃんとした水源だった

以前たどった準用河川の源流がマンホールだっただけに、二級河川の源流も大したものではないだろうとタカをくくっていたのだが、想像以上に水源という雰囲気だった。

二級河川は確かに一級河川と比べると短いし、水の量でも劣っているけれど、コンパクトにまとまっているのでたどりやすい。そして何より源流を身近に感じられる。

もし近くに二級河川があるのであれば、ちょっとした散歩やピクニック感覚で水源地をたどってみるのも一興ですよ。
随分とニッチなところを攻めるファンクラブがあった
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