すごい。
まずはとにかくコンベアの雄姿をごらんいただこう。
こんなすごいものが仮設っていうのがすごい。(大きな画像は
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後ろにずっと連なるダイナミックさ! デイリーポータルZの画面幅がこれだけしかないのが悔しい。横20,000ピクセルぐらいはほしい。(大きな画面は
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てっぺんに載ってる小屋の大きさでスケールが分かるだろう。でかい!
このすごい構造物が、こういうふうに道路と平行したり交差したりしてそこら中に伸びているのだ。(大きい画像は
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コンベアが横断している近くに近づくと、こんな感じ。すごいなあ。(大きい画像は
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背後の山並みとの対比もすごい。(大きな画像は
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瓦礫も撤去されて、一面なにもないところに伸びているのでスケール感が狂う。(大きな画像は
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説明もなく写真を並べ立ててしまってすまない。とにかくまずはこのすごさをお伝えしたかったので。ちゃんと伝わっただろうか。写真だとなかなかなー。ほんと5月の連休あるいは夏休みに見に行ってほしい。こんな光景他では見られないよ。
さて、この工事とコンベアの説明を簡単にします。
台地を人の手でつくる
ここ岩手県の陸前高田は東日本大震災の津波で街がまるごと流された場所だ。1800名におよぶ死者・行方不明者が出て、今も多くの方が仮設住宅で暮らしておられる。
コンベアが運んできた土でこうやって「台地」をつくっているのだ。(大きな画像は
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街を再建するために、気仙川の西側にある愛宕山を削り、そこに高台をつくる。そこで出た土をこのベルトコンベアで川の反対側へ運び、10mあまりも全体をかさ上げするのだ。
なぜコンベアを使うかというと、山から送られる土の量は1,000万立方メートルにもなり、これをダンプカーで運んでいるとたいへんなことになるからだ。すごい話だ。
場所はここ。南西にあるピンの場所が愛宕山。左岸のエリアにコンベアがその土を運んでいる。
削られたかつての愛宕山というかもはや山ではない。向かって右に見える2つの構造物は破砕設備(後述)。左手に見えるのがコンベアの始点だ。
かさ上げの材料になる愛宕山は、120mの高さがあったが、現時点でもはや山ではなかった。最終的に最大80mも削るそうだ。くらくらする。
とにかくみなさん現地行って見てみて!
と、さっきからむじゃきに「すごいすごい」と言っているが、実際には難しい問題やさまざまな感情があるのは重々承知している。
ここがかつての山の中腹、コンベアの始点左の先に少し見えるのが川を渡る橋。
でもぼくがこの圧倒的な光景に惹かれちゃったのでしょうがない。そしてぼくと同じように感じる人が少なからずいるのも知っている。そういう人は、むずかしいことは置いといて、とにかく見に行ったらいいと思う。それはすてきなことだ。なにより、今回陸前高田市の「
まるごとりくぜんたかた協議会」さんがノリノリで見せてくれたのだ(これについては後ほど)。
上の写真の右側にあるのがこれ。先ほどの遠景で見えていた破砕設備だ。
ぼくが写真というものを気に入っているのは、それが現場に行かないと撮れないからだ。
ぼくは軽率でうかつな人間だが、それでも現場に立つと、いろいろなことを考える。
こうやってがんがん山を削って高台をつくっている。圧倒的。すごいとしかいいようがない。
現地にある時間をかけて滞在する、ということの効用は、うかつな考えだけではいられなくなる、ということだと思う。あいかわらず軽率なことも考え・感じるが、それとはまったく反対のことも思う。
削った土砂・岩石をかさ上げの材料として使えるように砕いて大きさを整えるのが、破砕機の役目。これはその「替え刃」。
現場に立つとき、人はひとつの意見・感情をもつだけではいられなくなってゆらゆらと揺らいでしまうのだ。だから写真はすばらしい。
山の上から見ると、コンベアたちはこんな風に見える。かさ上げの様子もよく分かる。すごい!
ただまあ、そういううかつでないことはみなさん現場に行っていただいて各人感じてください。ここはデイリーポータルZなので、断固として軽率な感想だけを綴ります。
以上、なんとなくそれっぽい話をすませたところで、「すげー!」の続き行くぜ。
コンベアで運ばれてきた山の土はこのように借り置き場に落とされ、でかい重機(でもこうやって見ると大きさがよく分からない。
八戸キャニオンを思い出す)たちがそれをかさ上げ工事現場まで運ぶ。すげー!
「復興ドボク見学会」
で、今回はご覧のように破砕設備を見たり、削ってる山に登ったりした。これはもちろん通常立ち入ることはできない。どのような経緯でおじゃまできることになったのかをご説明しよう。
のがなあつしさんによる被災地の道路を訪れ撮った写真集。(詳しくは
こちら)
今回はふらりと陸前高田を訪れたのではなく「復興ドボク見学会」という催しへの参加だった。
主催したのは道路好き(という趣味があるんです。詳しくは→「
世界一分かりづらい趣味」)として活躍している のがなあつし さんだ。
彼はその名も「
Road Japan」というすばらしい道路趣味のサイトを運営している。そして東日本大震災後しばらくして、被災地の道路をたびたび訪れるようになり、そしてみんなにも見てもらおうと企画したのがここ陸前高田を訪れるという催しというわけだ。すばらしい。
前ページの破砕設備見学などは前述した「
まるごとりくぜんたかた協議会」さんが提供するツアーを利用した。この協議会、コンベアを「観光資源」としているのだ。すてきだ。すばらしい。
「
まるごとりくぜんたかた協議会」の越戸(こしと)さん。現地案内と参加者のマニアックなコンベアに関する質問に答えていただきました。「こんなに食いついてもらってうれしいです」と言っていただきました。こちらこそありがとうございます!
破砕設備とコンベアの稼働状態を示すコントロールパネルも見せてもらった。これ、かなりぐっときた。
削られた愛宕山にも特別にのぼらせてもらった。ここの上に山の岩石・土が聳えていたわけだ。すごく不思議な気分。
ここからコンベアの全体像を見下ろすと、こんな。さっきからずっとこの姿は何かに似てると思ってたんだが、
尾形光琳の「八ツ橋図屏風」だ! 余白にカクカクと印象的に伸びるコンベア。光琳がいまの陸前高田訪れたら絶対絵に描くと思う。
9月まではこのコンベアを使った工事が続くということで、のがな さんはまたこの復興ドボク見学ツアーを催す予定だそうだ。興味ある方は彼の Twitter アカウント
@roadjapan をフォローするといいだろう。近々次回告知があるはずだ。
あるいは10人以上の参加者を募れば、見学ツアー「まるごとりくぜんたかた協議会」が提供する
見学ツアーに申し込むこともできる。
いずれにせよこの風景も今年の秋までだ。絶対見ておいた方がいいよ!
これは説明会場にあった模型。分かりやすい。かわいい。
「奇跡の一本コンベア」
見学ツアーに参加しなくてもコンベア群を堪能することはできる。コンベアが活躍するエリアに「見晴台」という名でかさ上げされた場所が用意されているのだ。
ここから見た風景が圧巻だ。
これが「見晴台」
登れます。かさ上げの規模を実感。これはすごい。
落とす土の位置を変えるためにコンベアの先端が首振るようになっているのが分かる。この巨大なコンベアを動かすのかー! つくづくすごいな!
コンベアの先端も間近に!
のぼってみたい! コンベアで運ばれてみたい!
で、ここから見えるものがもうひとつ。(大きな画像は
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そう、あの「奇跡の一本松」だ。コンベアとの組み合わせがいい。そしてよく見ると避雷針付いてるのな。
松もいいが、ドボク趣味のぼくとしてはこのコンベアの方こそ「奇跡」だと思う。人間のやることはすごい。「奇跡の一本コンベア」と呼びたい。
正確には一本とは言い難いけど、松が枝分かれしているのと同じようにコンベアも山からの幹が枝分かれしていると見ることもできよう。
で、この奇跡の一本松からもコンベアがすばらしくかっこよく見えるのだ。
後ろも見ようぜ!
すごい風景なのに、多くの人はスルーして「奇跡の一本松」に向かっている。
こっちもよく見て! ほらほら!(大きな画像は
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こんなだぜ!
ベンチも一本松方向を向いていて、
ベルトコンベアには背を向けている。もったいない!(ちなみに背後にいるのは今回のツアーに参加した仲間たち)
人間って「これが見るものです」って示されると素直にそれだけ見る。それではもったいない。いたるところに奇跡はある。
なんせ一本松は処理を施され残されたがコンベアは残らないのだ。いまのうちだ。
このツアーで起こった「奇跡」
ぼくはいままでいくつかのインフラ工事の現場を見せてもらって気づいたことがある。それは土木のいちジャンルに「時間を止める」というのがあるな、ということだ。
大地というのは遷移している。植物は長い目で見ると生えるものが変わっていく。もっと長い目で見ると気候も変わる。そして川も流れを変え、地面を削ってその形を変えてしまう。
たとえば河川の護岸工事は、その遷移を止めるために行われる。流れで護岸が崩れちゃうと人間の都市生活は成り立たないから。つまり、都市はお天道さまの時間をストップさせることでどうにかこうにか成立しているのだ。それを土木は担っている。
そしてこの陸前高田のかさ上げ工事は逆に「時間を進めている」のだな、と思った。何万年かの時間をかけて形が変わるはずの山を、たった2、3年で削り、同じように人間にとって膨大な時間をかけて堆積するはずの地面をあっというまにかさ上げする。それも人間にとって都合のよい形で。これが奇跡でなくて何だろうか、と思う。
陸前高田に向かう途中でセメント工場を鑑賞するというすばらしいツアー行程!(大きな画像は
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で、今回ツアーをコーディネートした のがなあつし さんは、陸前高田に向かう前にセメント工場を愛でる行程を盛り込んでいた。これにぼくは「あっ!」と思った。
やっぱりセメント工場はかっこいいなー(大きな画像は
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岩手県は石灰石が豊富な土地だ。いたるところにセメント工場がある。のがなさんが狙ったのかどうなのかは不明だが、このセメント工場とセットで見ることで、あのかさ上げ工事がまた違ったように見えてくるのだ。
このセメント工場も、山が対岸にあって原料はコンベアで川を渡ってやってくる。偶然にも。
日本中の石灰岩の「山」が削られ、それを材料にして都市ができている。ビルや橋などの材料であるセメントはいわば山を材料にしているのだ。都市は石灰岩によって「かさ上げ」されている。
つまり、陸前高田のあの風景は、それが必要な理由も、規模も、かけられる時間も、すべて今まで日本中で起きてきたことを濃縮して見せているのだ。だからぼくは魅入られたんだなあと思った。
また陸前高田に行くぞ
なくなってしまう前に、もう一回はコンベアの姿を見に行きたい。そしてもっと見たいのは、ここがふたたび街になった姿だ。このコンベアの雄姿を見るとその成果も見たくなる。コンベアのかっこよさの意義はそこにもあると思う。
「まるごとりくぜんたかた協議会」さんがお土産にくれたのが、ヒマワリのタネと陸前高田の土。自分ちのそばにちいさな「かさ上げ」を。コンベアの姿を見て、その意味を考えた後だとこのお土産は、浸みる。