たまたま入った喫茶店で驚いた
富山氷見市という場所は、それはもう都心から遠く離れているのだが、東京、新宿、池袋あたりから乗れる長距離バスが出ているので、乗り継ぎなしでいけてしまったりする。片道8時間とか掛かるけど。
今回そんな氷見にバスでやってきたのには、ある巨大生物を捕まえて食べたいという目的があったのだが、そんなことよりも紹介すべきは帰りのバスに乗る直前に出会ったランチである。
元々はこのでかいイカを浜辺で探すという目的があってやってきたのですが、接岸のタイミングを完全に読み間違えて来年の課題になりました。
目撃者によると、こんな感じでミミをパタパタさせながら、ラッコのように浅瀬を泳いでいるらしいです。
今の日本では、ある程度遠くの地方までいったとしても(たとえば佐渡島とか)、新しく整備された幹線道路沿いにはおなじみのチェーン店が並び、私の住む埼玉と対して変わらないような景色が続いている場合が多い。
しかし、昔から続く独自色の濃い商店街というのも探せばまだまだ残っているもので、氷見の街にも1キロくらいはありそうな長い商店街が健在だ。
だいぶシャッターの降りてしまった商店街で、氷見最後の食事となるランチを食べられそうな店を探し歩いてたどり着いたのが、マイケルという喫茶店だったのである。
商店街の端っこにある喫茶店、マイケル。
きっと「ママさん」と呼ぶべきであろうおねえさんがキッチンに立つこの店は、話題のブルーボトルコーヒーの創業者も知らないであろう、ある意味で日本の古き良き喫茶店の空気が流れていた。
なんとなく誰かの実家っぽい雰囲気が、旅先ながらも落ち着く喫茶店なのである。
カウンターでは地元のおねえさま達がヒルナンデスを見ていた。
畳の席には、実家の床の間や玄関先っぽいディスプレイ。
漫然と積まれた漫画本はワンピース。
まず、これがマイケルのカレーライスです
このようにとても居心地の良い喫茶店なのだが、昼食にと予定していたお寿司屋さんが満席で入れず、さまよった末のマイケル来店だったので、残念ながらあまり長居をしている時間がない。
そこで私は早く出てきそうなカレーライスを頼んでみた。
遠くまできたものだなあと感じるカレー。写真が雑ですまない。
ご飯が隠れるほどにたっぷりと掛かったルーには、マッシュルームやコーンが入っていた。量はともかく、見た目がお子様用カレーっぽい。
しかし食べてみると、意外なことにしっかりとスパイシーで、目指しているベクトルが私の知っているカレーの範囲を超ええつつも、きっちりと美味しいカレーになっていた。家のカレーでもなく、ココイチのカレーでもなく、まぎれもなくマイケルのカレーだ。
確か氷見には「氷見カレー」というB級グルメがあり、その条件が氷見産のニボシを使うことなのだが、これはその氷見カレーの輪に入っているのだろうか。
なんだろう、焼きカレーうどんって
ここまでは、まあよくある話の範疇なのだが、一緒に来ていた友人が頼んだメニューが、「焼きカレーうどん」だったのだ。なんだよ、焼きカレーうどんって。
焼きうどんは知っている。カレーうどんも知っている。でも焼きカレーうどんは知らない。焼きうどんのカレー味ならイメージできるが、カレーうどんを焼いたものだとすると謎である。わかった、焼きうどんにカレーのルーを掛けたものだ!
そんな想像を楽しんでいたのだが、私の頼んだカレーライスから少し遅れてやってきたそれは、予想を遥かに超えた存在だった。
これが衝撃の焼きカレーうどん!
なるほど、こう来たのかと膝を叩いた。
思わず「焼きカレーうどん」という言葉の意味を考えてしまうルックスである。どうも焼きうどんのソースの代わりに、カレーのルーをたっぷりと使ったようだ。子供の頃に母親が作った、ミートソースと炒めたスパゲティみたいである。
「こってりして香ばしくて美味しかったです。モチモチした麺がカレーに負けていませんでした」
これが後から聞いた食べた人の感想である。一口もらえばよかったなと思いつつ、友人をマイケルに残して帰りのバスへと向かったのだった。
実は焼きカレーというのも存在している
この話を氷見在住の友人にしたところ、マイケルには「焼きカレー」というメニューもあり、そっちの方が有名らしい。
せっかくなのでその焼きカレーの写真を送ってもらったのだが、これがなかなかすごかった。
ドリア的なアプローチなのだろうか。
なんだろう、この「カレー」と「焼きカレー」と「焼きカレーうどん」の力関係は。どういう進化の過程を経てのメニュー展開なのだろう。
この調子だと、もしかしたら独自の「カレーうどん」と「焼きうどん」もあるのかもしれない。メニューをちゃんと撮影してくればよかった。
多くの喫茶店では、いろいろなお客さんをもてなそうとするあまりに、どうしても無難かつ似通ったメニューになっていくものだが、立地的に常連さんしかこないような店では、独自の進化を遂げる場合があるようだ。ちなみに氷見駅前にもこの商店街にも、チェーンの喫茶店は一軒も見当たらなかった。
友人の話だと、氷見の喫茶店は独自メニューがやたらと多いそうで、この現象を「喫茶店のガラパゴス化」と呼んでおり、喫茶店に限らず「なんでこうなったんだろう?」と首を傾げたくなる文化が多数あるのだとか。
またこの街に来た際は、ダーウィンになった気分で、氷見のガラパゴス喫茶におけるメニュー進化の謎を解明したいと思う。
氷見のコネタ5連発
そんな喫茶店での衝撃的な出会いがあった氷見という街へ、何度も来たからこそ知ることができたであろう地元の人もスルーしていそうなコネタを、5連発で紹介してみたいと思う。
初めてきた人でも観光するであろう藤子不二雄A先生のネタ(ハットリくんの巨大からくり時計とか)などは省略してみた。
コネタその1:油臭い温泉が気持ち良い
臭い温泉というのは日本中に数々あるが、その多くが硫黄の臭さなのに対して、富山湾の海岸沿いにある民宿「あおまさ」の温泉は、なんと油臭いのである。いい意味で!
灯油のような、油粘土のような、とにかく今までに温泉で嗅いだことのない独特の匂いなのだが、硫黄臭い温泉は良くて、油臭い温泉だと悪いというのは食わず嫌いというものである。ウニは好きだけど、ホヤは食べたことがないけど苦手みたいな。
カメラの不調で怪しい写真になってごめんなさい。
モワーンと立ち込める油臭さに衝撃を受けました。
油臭いのだが、油が浮いている訳ではない。
入浴後、わかりやすく肌がスベスベになっておもしろい。
入るのに若干の勇気を必要としたのだが、ドプンと入ってしまえば油臭さは気にならず、「千と千尋の神隠し」の薬湯にでも浸っているような気分になれた。そしてこのお湯がとろりと柔らかいのだ。
ちなみにちょっとなめてみたら、「ホロ苦さと塩辛さと油臭さと~」なんて一曲歌いたくなる味だった。
民宿なので基本的には宿泊客用の温泉なのだが、空いている時間なら立ち寄り湯も可能となっている。
あおまさ
住所:富山県氷見市窪3203-1
電話番号:0766-91-5157
コネタその2:夜の商店街で孤独を味わえる
昼間でも人通りはそれほど多くない商店街は、夜になると人の気配がほぼゼロになる。
夜中にちょっとコンビニでもいこうかなと携帯だけ持って出歩いてみたのだが、この世界に自分だけが取り残されたような孤独感がすごかった。
藤子A先生の故郷なのに恐縮だが、さいとう・たかを先生の「サバイバル」というマンガを思い出した。
これは昼間の様子。
夜になるとこうなる。
人のいない商店街。ちなみにまだ12時前。
「誰かいませんかー!」と、心で叫ぼう。
藤子A先生の人形は夜にこそ輝きを増す。
これらは歩きながら携帯で撮影したものだが、ちゃんとした人がちゃんと撮れば、おもしろいなにかになるかもしれない。
ところで本当に携帯だけ持って宿を出たので、コンビニまでいってから財布がないことに気が付いた。
コネタその3:定置網をモチーフにした遊具がある
氷見といえば定置網漁が盛んなのだが、子供が遊ぶ遊具も定置網だ。
正確には定置網をモチーフにしたネットの遊具なのだが、これがものすごく大きい。ザ・ガラパゴス遊具。
すっごいでかい。いきき元気館というところにあるよ。
この遊具で遊べば、自分も定置網という巨大迷路に迷い込んだ魚になった気分が味わえるかなと思ったのだが、実際に入ってみると、重力の関係だろうか、メスのジョロウグモが張った大きな巣にやってきたオスのクモになった気分だった。
楽しいことは間違いないです。漁具押しの博物館も超おすすめ!
コネタその4:ガンダムMk-IIにモップが掛かっている
商店街にある閉店したホビーショップに、ガンダムMk-IIの壁画(と呼んでいいのかな)があるのだが、そこにはモップが掛かっている。
なんだか自分が子供の頃、この店でプラモデルを買ったような気がしてくる、記憶を捏造する程ノスタルジーのある景色だ。
モップが掛けられたガンダムMk-II 。
ちなみに2012年にも同じ写真を撮っていた。モップも同じだ!
コネタその5:魚屋で10キロのブリが売っている場合がある
冬の氷見といえば脂の乗ったブリで有名だが、そんなブリの街らしく、魚屋でブリを丸ごと売っているのを見かけた。
商店街の魚屋さんに、なにかがポーンと置かれているなと思ったら……
10キロのブリ!45,000円!
今思えばそれだけの話なのだが、これを見かけたときは、「うおー!ガラパゴス魚屋だー!」と、心の底からおもしろかったのである。
ちょっとだけ仲良くなった犬の写真でサヨウナラ!
同じ場所に何度もいくという楽しみ方
ある目的があって氷見へと再訪したものの、その目的を完全に外してしまい、初日から絶望と退屈が訪れたのだが、その先に新しい喜びと味わいが待っていたという話だったのだが、こうして文章にまとめてみると、それが本当に面白かったのか、そして他の人も面白がるかというと、まったく自信がない。
それでも、その瞬間、その場所で感じたことは、きっと本物だったのだと思う。私はあの焼きカレーうどんが無性に食べたい。
氷見は海から朝日が昇るから、海沿いに建つ高澤酒造の酒が「曙」という銘柄になったのだという話を聞いたりもした。