リアス、遠い
子どもの頃に習ったけど、実際に見たことのないものって意外とたくさんある。
フォッサマグナ、ツンドラ地帯、バイカル湖。
リアス式海岸もそうだ。
複雑に入り組んだギザギザの海岸線、それがリアス式海岸。知識としては知っている、でも見たことがない。見たことないのに「入り組んだ海岸線!」とか言っていいのか。おまえそれ見たの?と言われたらぐうの音も出ないだろう。
今回はこの「リアス式海岸」を見に行きたい。本当にギザギザなのか、どのくらいギザギザなのか、この目で確かめるのだ。
リアス式海岸の有名どころといえばなんといっても岩手にある三陸海岸である。
東京~新花巻~釜石。一両編成の車両が可愛い。
東京から新幹線で新花巻まで行き、そこから普通列車で海岸の方へと向かう。この路線はなにしろ長いのだが、景色がいいので飽きない。
うそ、飽きる。
いい景色を1時間くらい眺めてから2回寝て2回起きてもまだ着いていなかった。寝ても覚めてもいい景色なので環境DVDでも見ているみたいな気分になってくる。うっかり人生とか世界とか考え始めた頃、ようやく釜石に着いた。
ようやくリアス式海岸に近い釜石に到着。新幹線降りてから4時間くらいかかる。
すっかり一仕事終えた気分なのだけれど、まだ電車に乗っていただけである。
釜石駅のコンビニではウニとかイクラなんかが普通のテンションで売られていた。
もうここでウニ食べて打ち上げしたい(だからまだなにも取材していない)。
リアス、いざ!
それではさっそくリアス式海岸を見に行きたい。まさか駅を出たらすぐにリアス式というわけではなかろう。どこに向かえばいいんだ。
駅前の地図を見ると確かに海岸線が複雑な形をしていたが、「ここからリアス式」とかそういう表示はないのでどこに行けばいいのかまったくわからない。できるだけその場に立ったときにギザギザが体感できる場所がいいのだけれど。
どこに行けばいいんだろう。
駅前でタクシーに乗せてもらった。
「すみません、リアス式海岸を見たいんですが。」
「…。」
言い方まちがえた!と思ってとっさに地図で見たギザギザした半島の先にある岬の名前を告げたのだが。
「…そりゃあんた、とんでもねえぞ!」
と。
これはまずい。僕は何かまずいこと言ったに違いない。
すみません!
運転手さんいわく
「山越えなきゃなんねえですよそれ。車じゃ無理だ。」と。
運転手さんいわく、リアス式のギザギザした先端はほとんどが山なので「本気で登りにいかないと」たどり着けないのだとか。
まじか。
しかしここまできてリアス式海岸を見ずには帰られない。
とにかく近くまで行ってもらうようお願いして車を出してもらった。
しばらく走ると目の前に岩肌が迫ってきた。
まさかここを…。
その通りだった。僕がさっき指定した岬へはここを超えないと行けないらしい。こんなの鹿でも無理だ。
リアス式海岸はかつての谷がそのまま海岸線になっているため複雑に入り組んでいる。つまり海から急に山が立ち上がっているのだ。だから先端まで行くには山に入る必要がある。
ここから先は歩くことにしました。
これがリアス式海岸だ
車で入ることのできるギリギリのところまで行ってもらい、そこから歩いて海へと出た。港に突き出した防波堤の端に立って海岸線を眺める。
これが
リアス式海岸かー
いまモニタの向こうでぽかんと口を開けて「地味…」とつぶやいた読者の顔が見えたような気がする。わかる、でもちょっと待ってほしい。もともと地形なのだ、観光地ではない。お土産屋さんとか顔ハメとか、あると思うなリアス式。
しかしよく見ると特徴的な地形である。静かな海をぐるりと山が取り囲んでいるので富士山のふもとの湖のような雰囲気なのだ。よく見ると山の後ろにまた山、その後ろにも山、何層にも重なった山の稜線の内側がすべて湾になっているのがわかる。
目に見えるギザギザ具合はこのくらい。
海からすぐ山が立ち上がり、その山が何重にも重なっているのがわかるだろうか。
いいところも悪いところも
リアス式海岸はこの複雑な地形のおかげで養殖などが盛んにおこなわれているのだけれど、逆にこの地形のために先の震災では津波が増幅されて大きな被害が出た。
「震災前にこのへんにあった店はみんな流されてしまった。」
タクシーの運転手さんは言う。
海岸周辺にあったお店は、今はここから数キロ内陸に建てられたプレハブで営業しているのだとか。
いくつかの居酒屋がランチ時間も営業していた。いい匂いする。
来てくれるからやめられない
軒を連ねる居酒屋の中、一軒のお店「浜ちゃん」に入った。
ランチは刺身定食、焼き魚定食など、地元の海の幸を使ったメニューでしっかりうまい。まさかの500円。
震災でお店を失い、仮設住宅で生活をしているところに行政からこのプレハブでお店をしないか、と誘われて応募したのが始まりなのだとか。
「楽じゃないけどね、お客さんが来てくれるからやめられないのよー」と。たしかにこの安さでこの美味さなら毎日来る。
思いつきでやってきたリアス式海岸なのだが、来てみるとそこに暮らす人たちのリアリティが見えてくる。きっとフォッサマグナにも定食屋があるんだろう。
無理を聞いてくれた運転手さんに別れを告げ、さらなるリアス式を求めて、釜石から海岸沿いに走る鉄道で北上してみることにした。
その名も「三陸鉄道南リアス線」。
さらなるリアス式へ
この鉄道は「あまちゃん」に出てきたものらしく、一緒に行ったライター西村さんはものすごい興奮していたのだけれど、申し訳ないことに僕は見ていなかったので合わせられなかった。今になって思うと、たとえ見ていなくても合わせてはしゃぐのが社交性かもな、と。人生は反省の連続である。
西村さんは興奮で座っていられない。
全ての席にテーブルが完備されていた。
三陸鉄道リアス線はその名の通り三陸の複雑なリアス式海岸沿いを運行する鉄道である。そのため山の部分をトンネルで突っ切り、谷の部分が駅となっている。車窓からの風景はほとんどがトンネルの中なのだ。
複雑な地形のため路線のほとんどがトンネル。
たまに景色が見られそうな場所にさしかかると車掌さんから生アナウンスが入る。
「この区間はゆっくりと景色を楽しんでいただくため、減速して運転いたします。」
貴重な見晴らしポイントはゆっくり走ってくれます。遠くに見えるリアス式。
今の時代、いくら景色がいいからってゆっくり走ってくれる鉄道がどれだけあるだろう。
僕たちは吉浜駅で電車を降り、
スネカがやってくるまで海岸を歩いた。
リアス式海岸の複雑な地形が津波を増幅させた。4年経った今、流された土地をかさ上げ造成している。
震災で地盤が1メートルほど下がったため高潮の時には海水が町に入ってくることもあるのだとか。
明け方のリアス式海岸。
行ってみるものです
リアス式海岸は間近で見るとギザギザというより穏やかな湾のようでした。
震災で壊された海辺の町はここからまた一歩ずつ生き返ってきている。
僕の中でリアス式海岸の印象が「ギザギザ」から「魚が美味い海岸」に変わりました。行ってみないとわからないものです。
岩手のニューデイズ、安い!って思ったら東京でも同じキャンペーンやっていた。