特集 2014年12月30日

ぶらり友好都市の旅~好きなところに行く

雪の横手で地味に交流してきました。
雪の横手で地味に交流してきました。
これまでの記事で何度か触れているが、私は神奈川県の厚木市に生まれ、作文で書店の有隣堂の事を間違えて順天堂と書いたり、暴走族にかつあげされたり(お金を持っていなくて逆に100円もらった)しながら青春を謳歌した。
そんな愛憎相半ばする故郷厚木の「友好都市」である秋田県の横手市に行ってきた。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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想像以上に雪が主役

本厚木駅前市政60周年のオブジェが。手前のゆるキャラは「あゆコロちゃん」
本厚木駅前市政60周年のオブジェが。手前のゆるキャラは「あゆコロちゃん」
厚木市は昭和60年に秋田県の横手市と友好都市を締結し、以来文化面や教育面で交流が行われている。
小学生がそれぞれの都市で郷里の自然や民芸を体験したりと微笑ましいイベントのニュースが散見されるが、私のような市井のおっさんが土日にひっそりと訪れる無彩色の交流があってもいいじゃないの、いいじゃないの。
東京駅が行列に囲まれとる!(あの記念suicaの日だった)
東京駅が行列に囲まれとる!(あの記念suicaの日だった)
始発の新幹線に乗り込み、トレインショップ(前の網に入ってる通販の冊子)を物色しながらうたた寝。
ウシは世界地図模様です!と言われても。
ウシは世界地図模様です!と言われても。
目が覚めると、暖房の効いた車内なのに身体を芯からじわっと冷やすような、逆遠赤外線的な冷えを感じる。
電車はすでに盛岡を過ぎ、窓の外には完全に雪がイニシアチブを取っている景色が広がっていた。
ポール星人出てくるわこりゃ。
ポール星人出てくるわこりゃ。
田沢湖付近、ラーメン46が絶賛気になる。
田沢湖付近、ラーメン46が絶賛気になる。
大曲駅で奥羽本線に乗り換えて横手市駅に到着。
横手着。雪深いところへやってきた…
横手着。雪深いところへやってきた…
駅で友好都市厚木の痕跡を探したが見当たらなかった。
横浜と鎌倉はあった。
横浜と鎌倉はあった。
観光センターの壁が横手をずばっと表現。かまくらとやきそばの町。
観光センターの壁が横手をずばっと表現。かまくらとやきそばの町。
ポストにもブロンズの精巧なかまくらが。
ポストにもブロンズの精巧なかまくらが。
知らない土地に来るとまず行きたくなる場所、市役所に向かってぶらぶら。
雪はすごいがたいていの車道はきっちり除雪されている。
雪はすごいがたいていの車道はきっちり除雪されている。
瞬速で迷った。
瞬速で迷った。
人通りの少ない路地を歩く。東京でこの雪なら歩行も相当大変だが除雪がかなり行き届いていて思いのほか歩きやすい。
市役所。中でパンフレット等、情報発信コーナーを見る。
市役所。中でパンフレット等、情報発信コーナーを見る。
残念ながら市役所にも厚木の痕跡は見つからなかった。

B級グルメ交流

気を取り直して厚木の「シロコロホルモン」と共にB-1グランプリ優勝の実績を持つ、横手が誇るB級グルメ「横手やきそば」をいただく。
四天王だと!
四天王だと!
建物もかっこいい。
建物もかっこいい。
どろっとした焼きそばの上でぷりっとした目玉焼きがもう!
どろっとした焼きそばの上でぷりっとした目玉焼きがもう!
うまい。見た目よりやさしい、さっぱり味のソースが絡んだ太麺が身体をじんわりあたためてくれる。まいった。

-2℃の外気、-10℃のかまくら室

寒空へ再び飛び込み、先ほど訪れた市役所の裏手のレンガ造りの建物へ。
異彩を放つたたずまい。
異彩を放つたたずまい。
もうひとつの横手名物「かまくら」の資料館「ふれあいセンターかまくら館」である。

横手市では毎年2月に開催されるまつり「かまくら」が有名だ。420年の歴史をもつ民族行事で、市内の各所に作られたかまくらでおしずの神さん(水神様)を祀るというもの。

まつりの日程以外でかまくらを見るならここ。かまくら館では本物のかまくらが冷凍室で展示されており、1年中かまくらを体験できるのだ。
ファンタジックなエントランス
ファンタジックなエントランス
ライトなコスプレもできます。
ライトなコスプレもできます。
頑強な2重トビラの向こうにかまくらが。
頑強な2重トビラの向こうにかまくらが。
さむい!でかい!
さむい!でかい!
中にはあったかそうな火鉢が!
中にはあったかそうな火鉢が!
ダミーだったか(当たり前)…
ダミーだったか(当たり前)…
この「かまくら室」は常に-10℃ほどに保たれており、寒い外に輪をかけて寒い。かまくらが細長かったらコールドスリープできるんじゃないかと思った。
恋人の聖地認定でラブい社も完備!
恋人の聖地認定でラブい社も完備!
物産店も併設しており、特産品や民芸品などのショッピングも楽しめる。
横手やきそばキャラ「やきっピ」グッズ(シール・バッヂ・クリアファイル)と横手やきそば音頭をゲット
横手やきそばキャラ「やきっピ」グッズ(シール・バッヂ・クリアファイル)と横手やきそば音頭をゲット
通りがかりのおもちゃ屋でこれもゲット。「古くて汚れてるから」と100円まけてくれた。
通りがかりのおもちゃ屋でこれもゲット。「古くて汚れてるから」と100円まけてくれた。
入場券(100円)は他の3つの主要観光施設との共通券で、同日であれば1枚のチケットで全て見学可能。
入場券(100円)は他の3つの主要観光施設との共通券で、同日であれば1枚のチケットで全て見学可能。
横手公園の展望台は冬期閉鎖となっているが近いのでちょっと行ってみよう。
え、ここ?
え、ここ?
ちょっと歩いたら側溝に落ちた。
ちょっと歩いたら側溝に落ちた。
雪国の洗礼を受けてあえなく退散。
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厚木とつながった!

移動で街並や住宅地をぶらぶらして見かける雪対策は大変だなあと思いつつも、関東でノンシャランと暮らして来た私の目には新鮮でいろいろ見入ってしまう。
消火栓は雪に埋もれても位置がわかるように旗が付けられている。
消火栓は雪に埋もれても位置がわかるように旗が付けられている。
頑強な植栽の冬囲い
頑強な植栽の冬囲い
かなり規模の大きいやぐら。
かなり規模の大きいやぐら。
鉢用のポータブルタイプも。
鉢用のポータブルタイプも。
ブロンズ像がかえって艶かしい事に。
ブロンズ像がかえって艶かしい事に。
エアコンの室外機にも屋根が。
エアコンの室外機にも屋根が。
のぼりのベースも雪による折れ対策だろうか、のぼりホール(のぼりを差し込む穴:勝手に命名)に補強してあるタイプをたびたび見かける。
黄色いプラスチックのパーツ。
黄色いプラスチックのパーツ。
ここにも。東京では見た事がないタイプだ。
ここにも。東京では見た事がないタイプだ。
中でも興味深かったのがプロパンガスのボンベ達。
関東でもおさまりや配置が味わい深いものはあるが、この多様さは地方ならでは。
シングル屋根。
シングル屋根。
いいおさまり。
いいおさまり。
和モダンテイスト。竹の格子がおしゃれ。
和モダンテイスト。竹の格子がおしゃれ。
エレファントマン!
エレファントマン!
これはすばらしい。プロパンガードの滝。
これはすばらしい。プロパンガードの滝。
これもかわいい。お地蔵さまっぽい。
これもかわいい。お地蔵さまっぽい。
路地の入りたさとマルフクの看板は厚木も横手も変わらない。
路地の入りたさとマルフクの看板は厚木も横手も変わらない。
かっこいいスナックにかっこよく配置されたプロパン。
かっこいいスナックにかっこよく配置されたプロパン。
歓楽街や商店街をしばらくぶらぶらして体もめっきり冷えちょっと体温もやばいしそろそろ横手駅方面へ戻ろうかという時、奇跡の出会いがあった。
いわゆる焼き肉居酒屋だが店の正面に何やら掛け看板が。
いわゆる焼き肉居酒屋だが店の正面に何やら掛け看板が。
おお、シロコロホルモンの文字が!
おお、シロコロホルモンの文字が!
厚木市のB級グルメ、シロコロホルモンを売りにする店があるではないか。この寒空の下、高く積もった雪を溶かし尽くすようなアツい友好関係が今ここに可視化されたのである。
厚木市のゆるキャラ「あゆコロちゃん」クラブ会員証とツーショット
厚木市のゆるキャラ「あゆコロちゃん」クラブ会員証とツーショット
これはいかなくてはと夜になって問い合わせたら地元ではかなりの人気店らしく、すでに満席。ここで食事する事はかなわなかった。
どこかで見たような…
どこかで見たような…
これだ!(冒頭で登場した新幹線や特急に備え付けの通販誌「トレインンショップ」)
これだ!(冒頭で登場した新幹線や特急に備え付けの通販誌「トレインンショップ」)
夜ももちろん横手やきそば。
夜ももちろん横手やきそば。
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後三年の駅から後三年の役資料館へ

翌朝、奥羽本線に乗り「後三年駅」へ。
建て替えたばかりの駅舎は周囲の街並になじんでいない。
建て替えたばかりの駅舎は周囲の街並になじんでいない。
駅前のすばらしくかっこいい時計店。
駅前のすばらしくかっこいい時計店。
こからタクシーで、「後三年の役資料館」へと向かう。
「後三年の役」とは平安時代の後期1083年から1087年に陸奥・出羽(東北地方)を舞台にして起った合戦である。

日本史の授業では「前九年の役」とセットでさらっと流され、平安時代と鎌倉時代の狭間に咲いた一輪の白糸草のようにはかない扱いだが、その後100年にわたる奥州藤原氏の栄華を作るきっかけとなった重要な事件だ。
こういう事です。「平泉文化の源流」
こういう事です。「平泉文化の源流」
10年ほど前、友人から「パソコンの調子が悪い」と相談された。調べてみるからOSの種類とバージョンを教えてくれと聞いたら「えーと、たしかウィンドウズ…1000!」と答えた。なんだそれは、鎌倉時代にもなってないじゃないか。ちょっと待て、鎌倉時代の少し前ってなんかあったけ。
(ウィンドウズ2000の勘違いだった)

それ以来、西暦1000年ぐらいの頃の事件のひとつであるこの合戦が気になっていた。その舞台となった横手には、さまざまなゆかりの地名や史跡、施設が存在する。
駅の掲示板より。ザ・古戦場というロケーション。
駅の掲示板より。ザ・古戦場というロケーション。
後三年の役金沢資料館。三重の宝塔をモチーフに作られた木造の建物。
後三年の役金沢資料館。三重の宝塔をモチーフに作られた木造の建物。
資料館で地元の郷土史家でもあった画家、戎谷南山による合戦絵巻の模写などを閲覧する。

ざっくり言うと合戦の発端は、この地方で覇を唱えていた清原氏の当主である真衡(さねひら)の養子の結婚式に、彼の叔父の吉彦秀武(きみこのひでたけ)が祝いの品を届けに来たが真衡は囲碁に興じてこれを無視。怒った秀武が贈り物を投げ捨てて帰ると、「なんだそれ、なんですかそれ、ふざけんなよ。無礼だろ!」と逆ギレした真衡が軍を起こした事だという。

それが結局弟2人と源義家を巻き込んだ一大内輪もめを引き起こしたのである。
駅の掲示板より。派手に内輪もめた図。
駅の掲示板より。派手に内輪もめた図。
なんなんだ真衡(さねひら)は。軍とか起こす前に「あれどういうことだったんですかね」とかちょっとしようよ。

ちなみに真衡は戦の途中にさっくりと病死してしまい、事は残った弟2人の仲違いに発展、源義家の介入でなんとか収束する。義家は恩賞を求めるが朝廷からは「いや、お前が勝手に他家のもめごとに首つっこんだだけだよね」とそもそも発注してないし、みたいな事を言われ恩賞はゼロ。義家は部下への報酬やその他原価を自腹で負担せねばならなかった。

莫大な経常赤字、イッツ・ア・スモールワールドならぬイッツ・ア・ブラックカンパニーである。
隣接する金沢公園にはなんと「納豆発祥の地」という碑が!行ってみよう!
隣接する金沢公園にはなんと「納豆発祥の地」という碑が!行ってみよう!
冬期閉鎖だった…
冬期閉鎖だった…
しかし収穫はあった!
しかし収穫はあった!
数々の貴重な歴史的資料を閲覧し、習得した知識が結局清原真衡へのつっこみに帰結した(すいません)後、踵を返し、横手を挟んで逆方面の十文字駅へ。途中から雪が激しく降り出した。
腹ごしらえはたれパンダみたいな横手やきそば。
腹ごしらえはたれパンダみたいな横手やきそば。
昼食で入った横手やきそばの店のおばちゃんに「横手ではねー。じっくり見て行きなさいよー、雪を」と言われた。いや、さんざん見てますから。
死にそうな感じに降ってきた!
死にそうな感じに降ってきた!
十文字着
十文字着
この雪の中、十文字までやって来た目的は「横手市増田まんが美術館」である。
駅の三平顔ハメ看板。
駅の三平顔ハメ看板。
館内では釣りキチ三平で有名な横手出身の矢口高雄氏をはじめとした著名な漫画家の原画がスロープ状の回廊に所せましと展示されている。特に矢口先生のフィールドワーク展示や90年代の代表作「蛍雪時代」の原画は思わずひゃあと声が出る。
当然館内は撮影禁止なのでこれで…
当然館内は撮影禁止なのでこれで…
十文字駅界隈はもっとぶらぶらしたかったのだが、雪がますますやばさを増していたので早めに退散。
雪中を走る電車のかっこよさよ。
雪中を走る電車のかっこよさよ。
東京はものすごくあたたかくてこりゃ寒さ耐性がついたかなと喜んだが、ツイッターで東京の人達が「今日あったかいねー」とつぶやいていた。

こうして横手を見てきた厚木出身のおっさんが一人増えた。
こんど厚木に帰省した時に横手の痕跡を探してみよう。
プロパンガスやのぼりのベースなどが好きな、草の根どころか地底人レベルの交流を推進するおっさん大使の誕生である。
横手駅の西口は幹線道路にアオキや幸楽苑などが並んで厚木の246号沿いっぽかった。
横手駅の西口は幹線道路にアオキや幸楽苑などが並んで厚木の246号沿いっぽかった。
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