コラボ企画 2014年11月13日

綱引きで国境を決める飯田市と浜松市が仲良しすぎる

綱引きは真剣、でも仲良しー
綱引きは真剣、でも仲良しー
「国境を決める」という言葉の重みを考えて欲しい。

古来より、人は国境を決めるために、争い、憎しみ合い、時には悲劇をひき起こしてきた。

「宇宙からみれば、国境なんて見えない」なんてことをいう人もいる。

しかし、人が言葉をもち、文化を築き、経済を動かし、社会を成り立たせている以上、国の境目は決めなければならない。

でも、戦争はもう、こりごりだ。

じゃあ、綱引きで決めよう!

※この記事はイーアイデムとのコラボ企画
じもwww:地元ルネサンス 仕事ルネサンス
との連動企画です。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

綱引きで「国境」を決めるイベント

綱引きで「国境」を決める……これは、長野県飯田市と静岡県浜松市の県境、兵越(ひょうごし)峠で毎年10月末に行われている「峠の国盗り綱引き合戦」という祭りだ。

遠州軍(静岡県)と信州軍(長野県)が、兵越峠で綱引きを行い。勝ったほうが「国境」を1メートル相手側の方に動かし「領土」を広げるというのだ。

この祭り、以前より県境マニア界隈では噂になっており、かくいう県境マニアの端くれであるぼくも、一度この目で確かめておきたい祭りであった。

しかし、この兵越峠というものが曲者やっかいな存在なのだ。

兵越峠でピンと来るひとはよほどの国道好きか地元のひとか。どちらかであろう。
兵越峠は、国道152号線の未通区間として有名な青崩峠の迂回路として使われる峠である。

青崩峠に関してはこちらの記事でご覧頂くとして、兵越峠。

イベント会場のある兵越峠まで、公共交通機関で行く場合、豊橋を朝六時に出発する飯田線に乗り、2時間をかけて水窪駅まで行き、そこからイベント会場まで運行しているシャトルバスに乗るしかない。

とにかく、とんでもない山奥なのだ。

県境マニアが今まで行きたくても行けなかった祭り。それが「峠の国盗り綱引き合戦」だった。

公共交通機関のみで兵越峠をめざす

前乗りで豊橋に宿泊し、夜が明けない家にホテルを出る。
人影まばらな早朝の豊橋駅
人影まばらな早朝の豊橋駅
日の出前に出発
日の出前に出発
豊橋を出た時は、そこそこ乗っていた乗客も、豊川を過ぎた辺りから少しづつ降りて行き、水窪駅直前では乗客はぼくひとりになってしまっていた。

朝8時過ぎに水窪駅に到着。駅のすぐ横には川があり、町に出るには吊り橋をわたらなければ行けない。
しっかりした感じの吊り橋だ
しっかりした感じの吊り橋だ
20人でやばいのか
20人でやばいのか
ゾザーッという容赦ない渓流の音、揺れる吊り橋。しかも20人までという制限が微妙にこわい。

シャトルバスでさらに30分

この水窪の町からシャトルバスに乗りかえ、兵越峠を目指す。このシャトルバスは、祭りのために運行されているもので、普段運行している兵越峠までの公共交通機関はない。
地元の観光協会が運営しているシャトルバス
地元の観光協会が運営しているシャトルバス
バスはグイグイと山奥に……
バスはグイグイと山奥に……
バスは途中、工事中の道路を横目に見ながら山の谷間をグイグイと進んでいく。

30分ほどでイベントの行われる兵越峠に到着。
雨が降っても、雪が降っても通行止めになる
雨が降っても、雪が降っても通行止めになる
落石への注意をうながす看板、雨、積雪で通行止めになる旨の看板が峠の苛酷さを物語っている。
手前が静岡県で、奥のほうが長野県である
手前が静岡県で、奥のほうが長野県である

実際に県境が動く……わけではない

実際に県境のある場所は道幅も狭く、木立がトンネルのように生い茂っている。
現在の県境と「国境の状況」
現在の県境と「国境の状況」
県境はこんな感じ
県境はこんな感じ
こちらが現在の県境と「国境」の状況だ。

現在、信州軍が三年連続で勝利しており、「国境」が3メートル静岡県側に食い込んでいる。
「三」の部分が現在の「国境」
「三」の部分が現在の「国境」
実は、というか、当たり前であるけれど、綱引きで「国境」を移動させるといっても、実際の県境が移動するわけではない。
あくまで冗談です
あくまで冗談です
つまり、これは壮大な冗談なのだ。

そもそも、野球などで交流をはかっていた静岡県水窪町(当時)と長野県南信濃村(当時)の商工会の青年部が「国境(県境)をかけて綱引き合戦をしたら面白いんじゃないか?」というアイデアから1987年に始めたイベントだ。

実際の県境は動くわけじゃないけれど、勝てば1メートルだけ相手の領土に「国境が動く」ということにして、毎年綱引きをやる。真剣にやる。

この祭り、そんな冗談を毎年すこしづつ積み重ね、今年ついに「サントリー地域文化賞」という賞を受賞した。
つるっつるな盾が展示されていた
つるっつるな盾が展示されていた
受賞理由は「行政区画と山で隔てられた隣接する二つのまちが、大人の遊びとしての「綱引き」に真剣に取り組むことで、かつての交流を取り戻しつつあることが高く評価された。」

冗談も真面目に取り組んで30年近く続ければ、賞がもらえるのである。

冗談の積み重ねで賞がもらえる街もある。


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高速道路完成を願う祭り

さて、実際の綱引きの会場に入ると、会場の準備は着々と進んでいた。
幔幕の県章、市章が家紋みたいでかっこいい
幔幕の県章、市章が家紋みたいでかっこいい
忍者と戦国武将が打ち合わせ中
忍者と戦国武将が打ち合わせ中
綱引き会場の横には、各地域の物産品や、きのこ汁の販売などが行われており、そちらを見物しているうちに、綱引き大会の開会式が始まってしまった。
両市の青年部長による開会宣言
両市の青年部長による開会宣言
開会式では、浜松、飯田両市の商工会議所の会長があいさつを行う。

そのあいさつによると、この「峠の国盗り綱引き合戦」は、もちろん合戦という体はとっているものの、三遠南信地域(三河(豊橋)、遠江(浜松)、南信濃(飯田市))の交流を深め、そして、青崩峠で未開通となっている国道の早期改良、そして三遠南信自動車道の完成を願ったイベントであるらしい。

昔の人が、お祭りで無病息災や子孫繁栄などを願ったように、現代は高速道路早期実現を祭りで願う。峠の国盗り綱引き合戦は、国道や高速道路の整備を祈念するためのお祭りなのである。

ノリノリの両市長スピーチ

それぞれ遠州軍、信州軍の総大将役を務める浜松市長と飯田市長がスピーチを行う。

まずは飯田市の牧野市長のスピーチ。

賞を受賞したこと、道路の整備が着々と進んでいることなどを述べた後、綱引きの勝敗に関してこんなことを言い出した。
真ん中の代官風の方が牧野飯田市長
真ん中の代官風の方が牧野飯田市長
「私共、信州軍からみますと、浜松城の開城を申し入れることになるのか、それとも投降して、打ち首獄門になるのか、わかりませんがそれはまさに、今日のこの一戦にかかっているのです」

ぶ、物騒! でも、この物騒な国境ギャグが、観客にはウケる。

市長という立場の人間が、代官風のコスプレをして、真面目な顔で「打ち首獄門」というだけで笑いがとれる。真面目のアドバンテージだ。

とにかく、信州軍は海が欲しい。絶対に負けられない。と綱引きの選手にハッパをかける牧野市長。

ちなみに信州軍が遠州灘の海を手に入れるには、直線距離で6万5千連勝しないければいけないので、少なくとも6万5千年はかかる。

そして、そのスピーチをうけての浜松市、鈴木市長はこう言う。
浜松市の鈴木市長
浜松市の鈴木市長
「たった一本の綱から、両地域の交流が始まりました。素晴らしいイベントになりました。これからもこの綱をどんどん太くして、地域の交流が深まることを期待したいと思います」

ここまではまあ、普通だ。しかし、国境ギャグは忘れない。

「しかしですね、三連敗はいけません! 最近、杭を持つ役が多い気がします。(綱引きの後、敗者が国境の杭を持ち、勝者が木槌で打ち付けるセレモニーがある)今年こそは、勝って杭をおもいっきり叩きたいなと……ついでに牧野さん(飯田市長)の頭をポコっと、やりたいと、こう思っております」

ここで観客がドッと笑う。
両市長による、鉄板の打ち首獄門ギャグ!
両市長による、鉄板の打ち首獄門ギャグ!
市長が、隣の市の市長を木槌で殴りたいと公言しているのに、このほのぼのとした雰囲気はなんなのか?

さらに鈴木市長は続ける。

「浜松城は今年、天守門というすばらしい門が(復元)完成しまして、牧野さんの首を晒す、準備があいととのっております、明日、投降された牧野さんを打ち首獄門にして、我が誇りとなる天守門に高々と掲げたいと、決意を新たにしています。仮に負ければ、この場で私が切腹しなければなりません!」

こうやって、文字に書き起こすと不穏すぎるスピーチだが、おばちゃんたちは笑っており、現場は至ってアットホームな感じである。

この落差はなんなのか。

ははーん、ホントは仲がいいんだろう! 仲がいいから言い合える軽口。打ち首獄門ギャグ。なんだこれ!羨ましいぞ!

中立の立場から、豊橋市が行司役を

さて、すでにお気づきの方もいるかもしれないけれど、幔幕の中になぜか「豊橋市」の市章があったのはお気づきだろうか?
真ん中の臼みたいなマークが豊橋市章
真ん中の臼みたいなマークが豊橋市章
これは、この綱引き合戦を中立の立場でジャッジするため、三遠南信の三河の仲間である豊橋が行司役をかって出ているということなのだ。

仲の良い浜松市と飯田市を暖かく見守る豊橋市。は、これは、擬人化すると萌えちゃうパターンのやつじゃないか?
左から浜松市長、豊橋副市長、飯田市長。仲良し三人組である
左から浜松市長、豊橋副市長、飯田市長。仲良し三人組である
豊橋市副市長の「私は木村といいますが、庄之助ではありません、今日だけ庄之助で公正にジャッジしたいと思います」というスピーチもウケてた。
もっとも、そのまえに「信州軍」というべきところを「遠州軍」と間違ったときに「違った、行司差し違えですね」と取り繕った時のほうがもっとウケていた。

そして、まだ綱引きははじまらない。

自治体同士の仲の良さに萌える。


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まずはアトラクション

各来賓のあいさつが終わると、本番の綱引きの前に、アトラクションが披露される。まずは和太鼓の演奏。
地元の子供達による和太鼓の演奏
地元の子供達による和太鼓の演奏
そして浜松のご当地アイドルH&Aの歌唱。
一生懸命盛り上げてくれる浜松のご当地アイドル
一生懸命盛り上げてくれる浜松のご当地アイドル
両市長と副市長が、フナのような目をしていたのはきのせいか
両市長と副市長が、フナのような目をしていたのはきのせいか
遠山郷(長野県側)のゆるキャラ、とおやま丸
遠山郷(長野県側)のゆるキャラ、とおやま丸
浜松のゆるキャラ、家康くん
浜松のゆるキャラ、家康くん
武将隊と忍者隊
武将隊と忍者隊
和太鼓、ご当地アイドル、武将隊、忍者隊、ゆるキャラ、と、およそ今の考えうるすべての地域おこしネタを全部やっていた。

やっと綱引きがはじまります

アトラクションも無事におわると、綱引きが始まる。とは言っても、まだ本気の綱引きははじまらない。

その前に、一般参加者が気軽に参加できる綱引きや、子供綱引きなどが行われる。

勝敗には関係ない綱引きなので、かなりゆるい雰囲気でイベントは進む。
静岡県側と長野県側の子供たちの綱引き
静岡県側と長野県側の子供たちの綱引き
一般の人が自由に参加できる綱引きは「綱引きしたいひとはどうぞー」という司会の掛け声がかかると、観客が一斉に縄に飛びつき、かなり大雑把な綱引きが始まった。
当然ぼくも参加した
当然ぼくも参加した
せっかくなので、ぼくも飛び入り参加したのだが、あの遠隔操作しているような綱引きの感覚が蘇ってきた。
ぼくの居る方がどうやら勝ったらしい
ぼくの居る方がどうやら勝ったらしい
綱引き参加者にお菓子を配る小学生に大人が群がる
綱引き参加者にお菓子を配る小学生に大人が群がる
ありがとうございます
ありがとうございます
さて、いよいよメインイベントの「国盗り綱引き」が始まる。

ここからが本番!勝つのはどっちだ。


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ピリピリしてきたぞ

メインイベントの「国盗り綱引き」はまず、両軍のリーダーのじゃんけんから始まる。
力が入るじゃんけん
力が入るじゃんけん
綱を引く場所を決めるためらしい。じゃんけんに勝った遠州軍は場所を交代し、いよいよ取り組み開始。

ここまでくるのに長かった……。
すごいななめ!
すごいななめ!
綱をひいている人の顔が無表情になるのがすごい
綱をひいている人の顔が無表情になるのがすごい
綱をひいている人の顔をみると、どの顔も無表情なのが印象に残る。本当に力を入れると人って無表情になるんです。
歓声が綱引きと一体化してる
歓声が綱引きと一体化してる
勝負は3回行い、一回目は遠州軍が勝ち、二回目は信州軍が勝った。一対一の同点。最後のこの一番に勝ったほうが今回の勝者となるのだ。
勝って気合を入れる信州軍
勝って気合を入れる信州軍
いよいよ最後の取り組み
いよいよ最後の取り組み
最後は時間無制限で勝負がつくまでやることになる。
会場の盛り上がりも最高潮に達する
会場の盛り上がりも最高潮に達する
小学生が「信州軍がんばれー」と悲鳴に近い絶叫をしていた。もう、冗談なのだか本気なのだかわからなくなってきた。

あ、と思った瞬間、どうやら遠州軍が勝ったらしい。

おぉーという歓声、そして拍手。
今年は遠州軍の勝ちとなりました!
今年は遠州軍の勝ちとなりました!
冗談とはいえ、この綱引きに限ってはみんな真剣なのだ。冗談がどこかへ吹き飛んでしまっている熱気があった。

国境の杭を打つ

峠の国盗り綱引き合戦、今年は遠州軍の勝利に終わった。

国境の杭を、総大将の両市町が打ち付けるセレモニーが県境で始まる。
鈴木市長、今年は念願の杭を打ち付ける側に
鈴木市長、今年は念願の杭を打ち付ける側に
フォトセッションでは、牧野市長の頭をコツンとしている風のポーズをとる鈴木市長。んもー、仲いいんだから!

仲がいいからこその真剣勝負

家康くんと記念写真やっぱり仲がいい
家康くんと記念写真やっぱり仲がいい
津軽と南部、鳥取と米子等、日本全国には同じ県であってもその関係が微妙にこじれている場所も多いのに、この浜松市と飯田市&豊橋市はとても仲が良さそうに見えた。

「仲がいい様子をみると萌える」という話があるが、こういうことなのかと、その気持が少しだけ理解できたような気がする。

そして、その仲の良さがあってこその綱引きの真剣勝負、そしてジョークとしての「国境」移動。

この感じ、どこかで見たことあるような……あ、ダチョウ倶楽部の熱湯風呂芸だ。

もはや新しい伝統。


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