特集 2014年10月2日

案内サインは必死によびかける

必死にぼくらを案内する
必死にぼくらを案内する
右に行くとトイレで、まっすぐ行くとエスカレーター。 ビルとか駅とかで見かける行先案内を、案内サインというらしい。

よく見ると実は必死にぼくらに呼びかけていたんだってことに気がついた。
1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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案内サインってこういうの

まず、よくある案内サインの例を見てほしい。
よく見るでしょ
よく見るでしょ
これは、区役所の中にあるサイン。あー、こういうのあるよねと思ってもらえるだろうか。左奥に行くとトイレがあるんだなとかが分かる。

次は、サインのデザインに関する賞も取ったという京王線調布駅の案内サイン。
でっかくエレベーターのサイン
でっかくエレベーターのサイン
階段の壁にでっかくサインが書いてある。遠くからでも向こうがエレベーターだとすぐ分かるし、確かに洗練されていると思う。

必死な案内サインの例

いっぽうこちらは、何の賞も(たぶん)取ってないけど、個人的に好きな案内サイン。
ヒカリエはこちら
ヒカリエはこちら
渋谷ヒカリエの案内が、見えてるだけで3つある。ヒカリエは乗り換えの場所だから重要だし、JR渋谷駅の駅員さん、何度も何度もヒカリエの行き方を聞かれるんだろうなあということが想像できる。
これも投げやりなヒカリエがすごくいい。
これも投げやりなヒカリエがすごくいい。
これは都営三田線、巣鴨。
これは都営三田線、巣鴨。
この案内で、右下の「とげぬき地蔵」だけ矢印もふくめて全部手作りなのに気づくだろうか。とげ抜き地蔵は、巣鴨にきたおばあちゃんの99%が行くところである。

これを見て、そうか、案内サインて必死なんだということに気づいた。場合によっては手書きでもなんでもいい。とにかく分かりやすく案内して、毎日の問合せを少しでも減らしたい。そんな感じが伝わってくるのだ。
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分かりにくい案内サインには必死さが足りない

ところで、分かりにくい案内サインというのがかつて話題になったことがある。
新宿の某ビル内の案内サイン
新宿の某ビル内の案内サイン
このサインを見ても、トイレがどっちなのか分かりづらい。まっすぐのような気もするし、左手のような気もする。

周りを見渡すと、左手にトイレがあることが分かるので、結局作者の意図としてはこんなふうに見て欲しかったんだということが分かる。
作者の意図
作者の意図
上から1段めは右手方向、2段めは左手方向・・、みたいなことだったのだ。ここからサインのデザインの問題を論じてもいいのだが、ぼくとしては必死さが足りないんじゃないかと言いたい。

上の案内サインだって、巣鴨駅の駅員ならもろにテープで枠線を書いちゃうと思う。だってそれが分かりやすいから。洗練はいらない。とにかく必死なのがいい。

駅員の必死な作品

その片鱗が伝わってくる、渋谷駅駅員の作品がたとえば次のものだ。
「こちらもご覧下さい」
「こちらもご覧下さい」
お分かり頂けるだろうか。上部の手作りサインは、オフィシャルのサインの上に「こちらもご覧ください」として置かれているのだが、きっと内心は「こちらこそご覧下さい」である。

分かりにくいオフィシャルの案内サインはいらない。俺がお客様を案内する!という心意気を感じるのだ。

いっぽう、都営三田線の巣鴨駅駅員の作品もまたすごい。
上部のオフィシャルサインの下に「とげぬき地蔵方面」を手書きするところまでは想定内として・・
上部のオフィシャルサインの下に「とげぬき地蔵方面」を手書きするところまでは想定内として・・
その下にはなんと、お地蔵さんに通じる商店街の入口の写真が。
その下にはなんと、お地蔵さんに通じる商店街の入口の写真が。
こんな写真の下にでかでかと出口の名前が書いてあれば、それは迷わないだろう。正直、そこまでやるかという感じはあるが、それをやるのが巣鴨駅駅員の心意気、と同時に必死さなのである。
出口専用っていったいいくつ書いてある?(答:4つ)
出口専用っていったいいくつ書いてある?(答:4つ)
出口専用の改札なのだが、よっぽど入口と間違えられるのか、「出口」の文字がいたるところに書いてあり、まるで耳なし芳一のお経のようである。巣鴨駅駅員は、平家の怨霊ではなくおばあちゃんの逆流が怖いのだ。
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こっちではない、ということを必死によびかける

案内サインの役割は、こっちだよということを伝えることだけじゃない。 こっちじゃないよ、ということを伝えるのも大切な役割だ。

たとえば浅草橋駅。
JR総武線 浅草橋駅
JR総武線 浅草橋駅
浅草と間違える人が多いのか、「浅草はこっちですよ」という案内がある。
「雷門・浅草ヘは地下鉄へ」
「雷門・浅草ヘは地下鉄へ」
この案内があるのは、出口まで約100メートルの地点。

「まさか浅草と間違えて来た訳ないと思うけど、一応お知らせするね」という余裕がまだここにはある。
「浅草まで徒歩で30分」
「浅草まで徒歩で30分」
それが出口まで50メートルになると「なお、浅草までは30分~40分かかります」と、ちょっと強い言い方になる。

それだけかかるってことは、暗にここは浅草じゃないってことだ。でもおっちょこちょいな人なら「浅草って駅から遠いんだね」くらいに思うだけもしれない。

ついに最後通告が行われるのは出口まで30メートル、階段の途中だ。
ここは浅草ではありません!
ここは浅草ではありません!
ついに言ってしまった。ここは浅草ではない。必死だ。自分でそんなことを言わなければいけない浅草橋の気持ちは、想像すると若干せつない。

毎回浅草と間違えられる駅員の気持ちも、若干せつないが。

だんだん必死になる系

こんなふうに、出口に近づくにつれてだんだん必死になる、というのは案内サインのパターンの1つだ。
出口は両国方です
出口は両国方です
例えばこれはJR錦糸町駅。分かりづらいけど、奥のほうで出口に見える階段は出口じゃなくて、隣のホームに連絡してるだけなのだ。

でも、この段階ではまだ「出口は両国方です」と、若干ソフトな、分かりづらい表記だ。
さらに近づくと、背景が赤くなってUターンマークがついた。
さらに近づくと、背景が赤くなってUターンマークがついた。
最初黄色かった背景が赤くなると、JRは本気なのだ。背景色のせいで文字が読みにくいのが難点だけど。
階段直前で最後通告となる
階段直前で最後通告となる
そして最終的には「出口ではありません」と宣告する。こうやってだんだん必死になって案内してるんだけど、残念ながら途中のはなかなか目に入らないんだよね。
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逆にアイデンティティを訴える西荻窪

浅草橋みたいに駅を間違える「まちがえき」問題に対して、また別のアプローチをするのがJR西荻窪駅である。この駅では、改札から出ようとするところにこう書いてあるのだ。
ここは西荻窪駅です
ここは西荻窪駅です
西荻窪駅で降りようとしたら「ここは西荻窪駅です」と言われる、という逆にちょっと難しい状況である。

おそらく、となりの荻窪駅と間違える人が多いので、荻窪じゃないですよといいたいんだろう。でも「荻窪ではありません!」とは書かない。静かに自らのアイデンティティを訴える。それが西荻という街の矜持なんだろう。
「ちいさい秋みつけ田」「飽きたなんて言わせない」
「ちいさい秋みつけ田」「飽きたなんて言わせない」
改札横のディスプレイに創意工夫があふれる街でもある。

階段への謎の必死さを見せる三鷹駅

単純にこりゃ必死だなという例もある。
これはすごい
これはすごい
よっぽど右側通行が守られないんだろうか。とにかく駅員さんの必死さが強烈に伝わってくることは確かだ。

スカイツリーへの謎の必死さを見せる錦糸町

JR錦糸町駅は、スカイツリー駅への最寄り駅じゃない。むしろけっこう遠い。
スカイツリーまで徒歩20分
スカイツリーまで徒歩20分
でも駅の構内には、むしろここがスカイツリーへの入口ですぐらいの気持ちで、徒歩での時間が書いてある。20分は結構な距離だ。
「タワービュー通り」とある
「タワービュー通り」とある
錦糸町駅からスカイツリーまでの道は、正面にずっとスカイツリーが開けて見えるということで通称タワービュー通りというらしい。

スカイツリーの開業後、地元の商店街に観光客が増えるかと思ったら、みんな最寄りのスカイツリー駅に直に行っちゃうんで辛いという話もあり、町おこしとして電線の地中化なんかも進めているそうだ。
たしかに
たしかに
行ってみると確かに奇麗だ。地元商店街が活性化してほしい、という気持ちもこめての案内サインだったのかもしれない。

作り手の気持ちに案内されたい

いままで特に目に入っていなかったこれらのサイン。そこには作り手の気持ちが入ってるんだということに気づかされた。

分かりづらいもの、洗練されたもの、必死なもの。これからも等しく案内されたいと思う。
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