まずは地域密着型スーパーでお買い物
氷見市でざるうどんを編むにあたって、まず最初にやってきたのは、地元民御用達のスーパーである。
今回の企画では、ざるうどんを完成させるだけでなく、ざるうどん作りを通じて、氷見の食文化を学ぶという隠れた狙いがあるのだ。
うどんの生地に練り込むもの、トッピングする具にするもの、つゆのだしとして使うもの。そういったものを氷見在住の友人に案内してもらいながら買い求める。
氷見の食文化を、一杯のざるうどんの中に編みこんでやろうではないか。
加賀藩献上御用達、江戸中期からの歴史を誇る「氷見糸うどん」があるのか。
地物の野菜売り場で見つけた「ささげ」。これ、編めないかな。
富山の食文化といえば昆布。スーパーにたくさんの種類がある中で、切れば編めそうなやつをセレクト。
地元氷見産の醤油を発見。調味料も地元にこだわりたい。となると日本酒は高澤酒造の曙だな。
新湊のイカスミ入りの塩辛いいね。黒作りは生地に練り込んだらおもしろそうだ。
贅沢に氷見牛をシャブシャブにしてざるうどんに盛ってみようかな。
私は旅行に行くと、必ず地元スーパーに立ち寄るのだが、宿泊先がホテルとか旅館だと、せっかくの珍しい食材を買っても料理することができない。
しかし今日はざるうどんを作るという大義名分と使える台所があるため、好きなだけ買い物ができるのだ。これが楽しくてしかたがない。
やはりスーパーの食品売り場は、眺めるものではなく実際に購入してこそだ。
地元の人と一緒にやります
今回うどんを編む場所は、富山県氷見市における持続的市民文化芸術環境活動をしている
アートNPOヒミングの、素敵なカフェスペースをお借りした。
ざるうどん編みを持続的な文化芸術につなげる自信は一切ないが、このヒミングの人達、そしてカフェの常連である地元のおっちゃん達と、力を合わせて一緒に作っていきたいと思う。
カフェ de 製麺。自分以外は氷見周辺在住というアウェーでのワークショップ開催。
「本日の講師を務めさせていただきますアマチュア製麺家の玉置です」 という挨拶の写真なのだが、緊張で全然笑っていなかった。
本日の流れ。テーマを「氷見を編む」と、大きく出てみた。
氷見の食文化を練り込んだ生地作り
まずはうどんの生地作りから。普通に小麦粉と塩と水だけで作るのではなく、そこにさっきスーパーで買ってきた食材を加えて作るのがポイントだ。
この作業によって、氷見の食文化を生地に練り込むという意味合いと、ざるを編んだ時の色合い的な見栄えという、2つの要素を満たすのである。
茶漉しに入れた黒作りを水で洗い、黒い液体を作成。
氷見には稲積梅という在来種の梅があるそうで、それで作った梅干しの梅酢を用意していただいた。
あまり氷見とは関係ないけど、夏らしくトマトジュースも使ってみようか。
こちらは氷見産ほうれん草のペースト。
氷見はハトムギの栽培が盛んだそうで、ハトムギの粉も加えてみることに。
昆布は持参した力強い製麺機で麺状に。この日一番のどよめきが起きた。
練り込む食材の用意ができたら、参加者にそれぞれ選んでいただき、氷見の要素が加わったオリジナルの生地をみんなで捏ねる。
うどん作りはこだわれば奥が深い世界なのだけれど、こだわらなければ適当に混ぜて捏ねるだけでもそれなりの生地になるので、こういった製麺初体験の人が参加するワークショップも可能なのだ。
イカスミの入ったパスタが存在するから、イカの黒作りが入ったうどんがあってもきっと大丈夫。
梅酢のうどんは、夏に最適な間違いのないうまさになるはず。
トマトジュース麺と氷見の未来は君に任せた!
ペースト状のものを入れた場合の水加減がよくわからない(そして失敗)。
小麦粉に対して2割程度のハトムギ粉を加え、それをハトムギ茶のエスプレッソで練り上げる。
ダシは昆布と氷見名産のニボシを使用。冬だったら寒ブリのアラを使いたいところだ。
ここまでは粘土遊びみたいなものです。
加えた材料の色の濃さと量によって、ちょっと染まり具合にばらつきがでてしまったが、ノーマルの生地も加えて6種類が完成した。
イカスミやハトムギを練り込んだ生地は、この時点で独特の香りがあり、食べるのがとても楽しみだ。
梅酢がちょっと薄かったかな。
生地を伸ばしてカラフルな麺をつくる
ここから先の作業だが、製麺機を使えばハンドルをクルクルと回していくだけで、誰でも簡単にうどんが作れる(一応ノウハウはありますが)。
生地をローラーで薄く伸ばして、シュレッダーみたいな刃で細長くカットするだけ。
なんで私が製麺機に詳しいのかは、「
料理を振る舞える飲食系同人誌イベントに製麺機本で出る」という記事を読んでみてください。
いくつになっても夏休みの自由研究気分が味わえるのが製麺作業。
ほうれん草の麺は水加減を失敗してボロボロになってしまった。
くるくる回せば、はい、うどん。
派手さはないものの、バリエーション豊かな麺ができあがった。
うん、やはり製麺作業は楽しい。
生地に加えた食材によって、できあがった麺のツヤや粘り具合が違うようだが、さてどのような味なのだろうか。そしてどれがざるを編むのに向いているのだろうか。
うどんの生麺でざるを編む
さて普通のうどん教室だったら、作った麺を茹でて食べるだけなのだが(それで十分だという気もする)、今回の目的は、あくまでうどんでざるを編むこと。ここまでは準備段階なのである。
しかしである。ワークショップとかえらそうなことをいっているが、講師役の私がうどんを編んだ経験なし。というか、ざる自体を作ったことがないので、ここから先は講師の立場を辞して、みんなと同じ目線で参加したいと思う。
ようやくうどんが食べられると思ったら、みんなが編み物をはじめたので呆然としている定置網の網元。なんだかごめんなさい!
資料は図書館で借りてきたので、各自必要に応じて学んでください。
私は編み物のたぐいを一切やったことがなかったので、とりあえず縦と横に麺を並べて、それを交互に立体交差をさせる一番シンプルな方法で編んでみることにした。
小麦粉は強力粉を使ったこともあり、うどんが途中で切れるということもなく、予想よりも全然編みやすかった。
これは料理として考えた場合、まったく意味のない行程なのだが、作業としては気持ちよく集中することができ、とてもおもしろかった。普通に藤の蔓とかで編んでみたくなった。
製麺以降の作業は素人なので、参加者に教えていただきました。
編み物の素人でも、手を動かしてさえいれば形になっていく。さすが自家製麺である。
うどんで編み物は可能のようだ
本日参加していただいたアートNPOヒミング代表の平田さんは、編んで立体物を作るアートの人なので、たとえ材料がうどんや昆布でも、作ったものがしっかりと作品になっていた。
そしてたまたま居合わせて参加していた近所のおっちゃんも、職人のような手つきで器用にうどんを編んでいく。氷見の男たちは奥が深い。
右がヒミング代表の平田さん。こんな企画につきあっていただきありがとうございます。
カフェの二階には平田さんの作品が飾られていた。これはうどんじゃないですよ。いまのところ。
平田さんの手できれいに編まれたイカスミうどん。
うどん、ささげ、昆布で作られた、立体的な作品。
ふらっと来ていたおっちゃんが、慣れた手つきでうどんを編みだして驚いた。
おお、これぞ私が求めていたざるうどん!
本を見ながら好きなものを作り出す女性陣。ざるうどんという括りは、もはや関係なくなっている。
水引の作り方を習ってみたり。紅白のうどんでつくったら結婚式などの料理に最適かも。
どうにかうどんで編んだざるを、本物のざるで支えてみた。
氷見うどんの歴史に敬意を表して昆布と編む。乾麺でも一方向だけならけっこう折れない。
ざるうどんは茹でづらい
さあ、あとは編み上がったざるをほどよく茹でれば、リアルざるうどんの完成である。
作業場所を屋外に移し、カセットコンロで沸かしたたっぷりのお湯に、各々の作品を沈めていく。
さあさあさあ、果たしてうまくいくでしょうか!
うん、入れづらい!
麺が浮いてこないように、上からも本物のざるで押さえる。
茹ったところで素早く引き上げたいのだが、これがなかなか難しい。
どうにかこうにか氷水の中へ入れて麺を締める。
今後の人生に役に立つかどうかはわからないのだが、ざるうどんを茹でる場合は、寸胴型の鍋を使うよりも、中華鍋みたいな浅い形の方がよさそうだ。
そんな私の失敗を見守っていた平田さんは、ざるを紐で吊ったつるべ落とし方式の茹で方を編み出した。
こうして氷見に新しいうどん文化が誕生しました。
これが本当の「ざるうどん」だ!
氷水で締めたざるうどんを盛り付けてみる。イメージしていたざるうどんとはちょっと違うけれど、なにか不思議な完成度の高さを感じさせる料理として仕上がった。
ざるうどんというよりは、うどん細工という感じだろうか。
下側は完全にほどけてしまったが、上側にざるっぽさを感じられるよね。よね!ね!
こちらは平田さんの作品。茹でて打ち粉がとれたことで、イカスミ由来の黒さがはっきりと表れた。中央に盛られたのはイワガキだ。
こうして出来上がったざるうどんだが、食べてみると、想像以上に食べづらくて笑えた。
うどんというものはズズズっとすすって食べるものなのだが、編まれたうどんはすすれないのである。
まるでうどんに根が生えたようだ。
食べられることを拒絶するうどん。
「じゃあ俺はトマトでいいや」
「ごめんね、食べたいよね。いまほどいてあげるからね」
うどんは茹でると膨れるので、しっかりと編み込んだうどんは、分厚くなりすぎるようだ。
おにぎりみたいに手でつかめるうどんができました。
うどんの形は置いておいて、それぞれが練り込まれたものの味がふんわりとして、麺自体はなかなか味わい深かった。
特にハトムギの粉を練り込んだうどんは、少しざらっとした独特の口当たりがおもしろく、今度はぜひ編まずに食べてみたいと思わせる味だった。
切れにくさ重視で強力粉を使ったので、氷水で締めて食べるにはちょっと硬いかな。
水引うどん。冠婚葬祭にどうでしょう。
あまったうどんは普通に茹でました。食べやすさなら普通が一番!
でも普通だと悔しいので、網っぽく盛り付けてみたりして。名付けて氷見の定置網うどん。
楽しそうな食事風景だが、やっていることは素っ頓狂。
せっかくなので揚げてもみました
編んだうどんに火を通す方法だが、通常通り「茹でる」という方法とは別に、せっかくなので「揚げる」というのも試してみたい。
揚げを乗せてきつねうどんにするのではなく、うどんを揚げてきつね色にするのだ!
どうなることやら。
なんだか本物の蔓細工みたいな質感になった。
油で揚げたうどんは、茹でた時のように膨らむことがなく、カッチカチに固まった。実用的なざるを作るための加工法としては、こっちの方が正しいと思われる。
これなら保存も効くだろうし、ハロウィンのときに作るカボチャのお面とか、正月の鏡餅みたいな、ディスプレイ用としての方向で活躍できるかもしれない。
その辺に置いておくとゴキブリに齧られそうだが、そこは逆手にとってホウ酸を練り込むというのも手だろう。
ただし、味はちょと塩辛いそうです。酒のつまみとしてはいいかもね。塩じゃなくて砂糖を練り込めばよかったか。
たぶんこれはワラジとして編まれたものだと思うのだが、適当に組み合わせたら、爬虫類みたいになった。
ゾイドみたいでかっこいい。がおー。
こちらは揚げた氷見うどんと昆布のざるの上に、若鮎の天麩羅を跳ねさせてみた。
うどんでざるを編んだらざるうどん。
そんな思い付きをはるばる富山県氷見市で形にできて、私はとても満足している。そういえば氷見牛を乗せるの忘れたな。
うどんじゃなくてそばを編んで「ざるそば」にしたほうが、それっぽくなっただろうと、今更ながら気が付いた。
その土地の食材を集めて作るワークショップは楽しい
うどんでざるを編む作業はなかなか興味深かったのだが、一度経験できればもういいかなと正直思った。
翌日は麺を編んだりせずに、氷見の食材を使った冷たいラーメンをみんなでつくったのだが、こっちの方が味はもちろんワークショップとしても評判がよかった。
ということで、今後もいろいろな土地にいって、その土地の食材・食文化を集めて、ご当地ラーメンやうどんを作っていきたいと思う。もうざるは編まない。
夏の氷見らしく、イワガキとクロダイのつけ麺でキメてみました。