布団圧縮袋考えた人天才
布団圧縮袋の便利さといったらない。
ふわふわの羽根布団を板みたいに圧縮することができるのだ。体積を得している。そんな得、他にないだろう。我が家は布団から衣替えした服まで、ぜんぶ圧縮して収納している。これぜったい家の狭い日本人が発明したと思うんだけどどうなんだろう。
放っておくといつの間にか空気が入って膨らんでることが多いけど。
あの革新的なやり口、押し入れ収納以外にも利用できないだろうか。
たとえばランチパックである。
段階を踏まずに本題に入るね。
ランチパックはたいていパンパンの状態で売られている。平地でこそこの程度だが、気圧の低い場所、たとえば富士山のふもとのコンビニとか行くと、もっとはちきれんばかりのパンパンな姿で売られている。
平地でもこのテンション。
聞くところによるとランチパックは窒素が充填されているので品質が長く保たれるのだとか。
そうか、あのパンパンにも意味があったのか。
だけど我々生き馬の目を抜くビジネスマンにとって、あの厚みは少々やっかいなものでもある。たとえばその名の通り、ランチとして会社に持参する時のことを想像してみてもらいたい。
きっとあなたのカバンはこうなるだろう。
中はほぼ窒素。
これでは書類とか携帯とか、ビジネスに必要なものが入らないじゃないか。前に電車でかっこいいアタッシュケースをシュパっと開けて、中からジャンプとコーラを取り出したビジネスマンを見たことがあるが、ああなる(他に何も入っていなかった)。
そこで圧縮収納である。方法は偉大なる先輩である布団圧縮袋さんに学ぶ。
つまり掃除機を使うということだ。
こういうおれしか買わないようなアタッチメントが売ってるんだな。
すきまを掃除するため、という先細りした掃除機用アタッチメントを用意した。これでかなり細くなったが、さらに使いやすさを考慮して先端部に曲がるストローを取り付ける。
実はストローを付ける前にすでにランチパック一つ無駄にしていることは触れない。
布団圧縮袋は掃除機で吸った空気が戻ってこない逆止弁が便利なのだが、さすがにランチパックにあれを実装するわけにはいかない。
そこでパッケージの隅をぎりぎりの大きさでカットし、ストローを差し込み、掃除機オンで空気を抜くことにした。この時気を付けることは特にない。
見たままである。
ほぼ一瞬でこうなる。
「ギュイン!」という音の中に訪れる静寂。一瞬の出来事である。ランチパックも自分の身に何が起きたかわからないうちに圧縮されたのではなかろうか。
スイッチオンとほぼ同時にこのくらい圧縮される。すばらしい。
しかし本当の闘いはここからだった。圧縮された状態で再度封をしなければいけない。
逆止弁ではないため、ストローを引っこ抜くと同時に陰圧になっていたランチパックが元に戻ろうとして穴から空気が吸い込まれるのだ。その前に再度封をする必要がある。
これには困った。
いろいろ試してこの方法に行きついた。前後にあらかじめテープを仮止めしておき、ストローを引き抜くと同時に挟み込むようにして封をする。
上の方法でランチパックを圧縮することに成功した。おかげでパンパンだったかばんはというと。
さっきまでこうだったかばんが
こうだ。
こうだった中身が
こう。なんとこれで5個入っている。
コンビニのいちばん小さい袋にランチパックが5個入る。
せっかくのふわふわのパンを、という見方はいったん置いておく。ランチパックと名乗る以上、食感以前に持ち歩けるか否かだろう。山で道に迷った時にリックのポケットから圧縮されたランチパックが出てきた時のことを想像してもらいたい。そんな時あなたはぺしゃんこだから食べたくないわ、とでも言うつもりか。
この時点で僕としてはすばらしすぎて楽しくなっているのだけれど、こうして記事にするとどうも地味さが否めないな。
無理して他にも試してみるので、どうかこの面白さを理解してもらいたい。
お菓子は圧縮できるのか
お菓子ではどうだろう。ポテトチップスとか、売られている状態では空気がパンパンに入っていてジャンボに見えるが、開けてみるとそうでもなかったりするだろう。あれはきっと中身が割れないようにとか、いろいろな理由があるのだとは思うけれど、いささかだまされている感は否めない。
今から何されるのかも知らずにのんきな表情を浮かべるキャラメルコーン。
え!なんで!空気抜いちゃうの!
ちょ、ちょっと待って!
有無を言わさず圧縮である。これもランチパック同様ほぼ一瞬で事足りる。
再度封をして完了。
空気を抜いただけなので重さ的にはほぼ変わりないはずなのだけれど、手に持ってみるとずいぶん軽くなったように感じる。ランチパックよりも硬いので板感が強い。床にコンコンと当ててしまうほどだ。
この後開けて食べてみたが、中身まで圧縮されてはいなかった。
食パンは圧縮されるのか
食パンはどうだ。
パンは基本的にイースト菌が発酵するときに発生したガスで小麦粉の生地が膨らんでいる状態を言う。
そのガス、抜いてみないか。
もう少しコンパクトならば持ち歩きも楽なはずだ。
パッケージはつなぎ目がなかった。こんなところにも技術革新が。
食パンのパッケージにはシールされたりつなぎ合わされたりした部分が見当たらなかった。これ一枚物のビニールでできているのだ、それだけですでにすごい。
熱で止められている上の部分周辺にストローの太さの穴を開けて圧縮する。
この時のパンの「え、何?」という表情がたまらない。
きゅー。
食パンは中に入っているパンの質量も体積も、それにともなうガスの量もランチパックよりかなり多いので、掃除機での吸引時間も長かった。肩の張った直方体がみるみるうちに潰れていく様には正直ちょっと興奮したことを告白しておこう。
「……。」
食パンは耳の部分がしっかりしているため、厚さ方向にはほとんど圧縮しろがない。ただ、やわらかい中心の部分がほとんど背中とくっつかんばかりに薄くなっているのがわかる。圧縮したことでパン本来の弱い部分が露呈された形である。
次で最後にします
さっきからパンを圧縮することを繰り返しているうちに、自分でもなんだかわからない興奮が得られることもわかってきた。置いてきたものは大きい気がするが、最後もう一つだけ圧縮して終わりたい。
いつも食べてるメロンパンである。
年間100個くらい食べる。
圧縮前。いいバランスである。
Pascoのチョコチップメロンパンだが、どう吸引してやろうかとパッケージを検分していたところ、シール部分に数か所タックが設けられていることに気づいた。
数か所にタックがあるのだ。
これにより自然とパッケージが丸みを帯びて、中のパンが潰れずにいられたのである。なんという気配り。工業製品にこういう人の意志とか工夫みたいなものが感じられるとうれしいものだ。
ひとしきり感動した後は、タックの部分を一つ切り取って吸引の準備を進める。
このときのパンの表情がたまらない。
今回はその一部始終をGIFアニメにてお届けしたい。実際の速度もこんなもんである。
どうだ興奮するだろう。
パン圧縮は持ち運びの利便性に加え、その行為自体にも趣味性を持ち合わせていることがわかった。圧縮される直前に表情が現れるのだ。だまされたと思ってやってみてもらいたい。
圧縮することで増す輝きがある
最近もやしとかハムとか圧縮された状態で売られていることがあるが、あれはきっと品質保持とか機能性以外にも、圧縮するのが楽しくなってつい、という部分があるんじゃないかと疑っている。