味ごのみがエスニック料理に
「あられをお茶漬けにして食べる」という文化が、三重県の伊勢地方にある。
以前、テレビでも紹介されたことがあるので、ご存じの方も多いかもしれない。
このたび、三重に行く機会があったので、いろんな種類のあられを現地で購入し、試食してみた。
店で食べるものではない
この「あられ茶漬け」基本的に地元の人がスーパーで売っているあられを買って、家で作って食べるものである。店で提供しているところはごく少ない。
あられ茶漬けを食べたい場合は、あられを現地で購入しおみやげとして持って帰って家で作って食べるしかない。
スーパーでは売っている
四日市市や鈴鹿市などのスーパーをめぐってみるとお菓子売り場のかなりのスペースをさいてあられが売られている。
ほとんどの商品が「田舎あられ」という商品名で売られており、一袋の量もかなり多い。価格はだいたい一袋300円前後である。
ほとんどがかりんとう型だが例外的に四角いものもあった
袋の裏には「あられ茶漬けの食べ方」という解説が描いてある。これはいわばオフィシャルとして認められた食べ方であるということがわかる。
作り方は超簡単。お湯をそそぐだけ
ベビースターラーメンをお湯でふやかして食べるみたいな、インディーズの食べ方ではないのだ。
はたしてうまいのか?
さて、このあられ茶漬け、果たしてうまいのか、どうか?
友人で、伊勢出身の漫画家トリバタケくんと、デイリーポータルZ編集部きっての米好き、古賀さんとで買ってきた田舎あられの試食をしてみた。
右が伊勢出身のトリバタケくん
田舎あられをざっくり買ってきました
まずは「ぎゅーとら」の「田舎あられ」をそのままで頂いてみた。
「ぎゅーとら」は、伊勢地方のスーパー
トリバタケくんは、この「ぎゅーとら」の「田舎あられ」しか食べたことがなく、ほかの「田舎あられ」は今まで見たことが無かったのだという。
白、ゴマ、緑、赤で色使いがきれい
ちなみに「ぎゅーとら」とは伊勢地方を中心に展開しているスーパーのチェーンで、「ぎゅーとらの田舎あられ」は「イオンのトップバリュ」みたいなものらしい。
サクサクしてる!
思ったよりサクサク!
サクサク。びっくりするぐらいサックサクだ。
見た目から「手強わそうだな」と思って噛みにかかるとあれ? っと思うぐらいサクッといく。
あられが「あー、大丈夫です!こっちで勝手に崩れますからー」と気の利くサラリーマンみたいに砕け、ほんの僅かの塩味と香ばしい米の風味が口の中にひろがる。
味がうすいので好みがわかれるかもしれないが、このままでも食べられる。
さて、これにお湯をかけると、いったいどれほどのものになるのか?
想像を超えてきた
――あられ茶漬けってのは、お茶をかけるだけでいいのかな?
トリバタケ「うちは、塩昆布いれて、お湯かけてた」
――え? お茶じゃないの?
トリバタケ「お湯だったね」
「お茶又はお湯を掛ける」と書いてある
たしかに田舎あられの袋の裏に書いてある作り方を見てみると「お茶又はお湯をかける」と書いてあるものもある。その辺りは好みの問題だろう。
せっかくなので今回は煎茶を用意し、注いで待つこと1分ほど。あられ茶漬けができあがった。
いい感じにふやけてきた
試食した古賀さんの第一声は「おほー、想像を超えてきた!」であった。
想像を超えてきた!
古賀さんはとくべつ米がすきであるからして、そこまで大げさに言ったのではないか、と思いぼくも試食してみた。
あー、なるほど
あー、なるほどー、想像を超えてる。たしかに思った以上にうまい。
お湯を含んだあられが、サクッとしつつも柔らかくなっており口当たりが心地よく、米の風味もより一層引き立っている。
じつは、前日のネタ会議で「画像検索だとまずそうな写真しかないけど、ほんとに美味しいのか?」という意見が出席者から噴出しており、心のハードルを相当下げて食べにかかったがゆえの「想像を超えてきた」である。
小腹空いたときにちょうどいい
あられ茶漬け、思いのほか米の味がしっかりしていておどろいた。伊勢の人はこれをどんなときに食べるのか?
トリバタケ「おやつ感覚で、小腹が空いた時にちょっと食べる感じかな、食事の時間ではないけれど、なにかちょっと食べたいってときにさくっと食べることがおおいです」
古賀「お湯に浸して柔らかくなっても、グズグズにならずにちゃんと形を保ってるのがいいですね、離乳食にもいいかも」
ドロドロにならない程度に形を保ってる
トリバタケ「うちでは、子供に赤ちゃんせんべいと普通のお菓子の間ぐらいにこのあられを食べさせてたんです」
田舎あられは、うす味でサクサクしているので幼児のおやつにちょうどいいらしい。
トリバタケ「でも、妻は絶対食べないんですよ、カリカリのものをわざわざふやかしてたべるのはいやだって」
たしかに食べ物に汁を掛けて食べることを厭う風潮ってある。ただ、食パンの耳をミロにつけて食べるときの食感が好きな人はぜったい好きだと思う。
いろんな種類の田舎あられを食べてみる
田舎あられは、ぎゅーとらだけではない。他にもいくつか食べ比べてみた。
風味堂「田舎あられ たがね田舎」
たがね田舎に眠っていた餅の食感が復活
ご覧のとおり四角い。四角い田舎あられはこれぐらいしかないのではないか?
赤色や緑色のものにはそれぞれえび、あおさが入っており、海鮮の風味がつよい。
お湯をかけると、餅の頃の記憶が蘇ったような歯ごたえがあり、あ、餅だこれ。ってなる。形状記憶合金みたいなあられだ。
福助「しょうゆ田舎」
しょうゆ味がしっかりする
基本的にうす味の「田舎あられ」においてアプリオリに醤油がコーティングされた「しょうゆ田舎」。そのままでも十分おいしい。
お湯をかけてもあられにしっかりとしょうゆ味が残っていた。
ぼくは味が濃くて好きな味だったが、古賀さん、トリバタケくんは、そのままでうまいのでわざわざ茶漬けにするほどでもない。との意見であった。
コンビニで売っているもので再現できないか?
さて、いままでさんざん「田舎あられ」を紹介してきたわけだが、残念ながら伊勢地方以外ではなかなか入手しづらい。
もちろんお取り寄せすることは可能だが、それよりも、そのへんのコンビニに行けば売っているような米菓で、この「あられ茶漬け」を再現することはできないだろうか?
柿の種、横綱あられ、味ごのみにお集まりいただきました
柿の種、横綱あられ、味ごのみ。いずれもその辺のコンビニで取り扱っているものだ。いずれもほぼ米からできているといっても過言ではない。
あられにお茶を掛けただけでうまかったのであれば、これらもうまくなってしかるべきである。
まずは横綱あられからお茶をぶっかけてみたい。
ジョボボボー
お茶を注いだ瞬間から「ジョワー」という発泡する音、そして油。
油だらけ!
横綱あられのあまりの異形っぷりに閉口。脳内信号に黄色が点った。端的にいうと、まずそうである。
お湯に溶けはじめた!
あられ自体もフニャフニャになり、溶け始めた。完全に赤信号だ、ものすごい速さで明滅している。
こりゃ駄目だ!
油の浮いているお茶をすすっているような感じで、さすがにオススメできない。
ただ、食べた瞬間に「うわー」となって笑える。というところだけはいい。鳥人間コンテンストでいうところのコミックエントリー部門、カブトムシか何かの扮装でジャンプ台から飛び降りるやつである。
見かけの変化は、ない
お茶を注いでしばらく置いてみたものの、変化は特にない。恐る恐る口に入れてみると、なんというか、温かい柿の種。というほかない。
まったくふやけないのだ。そのため、食感はあまり変わらない。
柿の種とお茶を食べてるよう
注いだお茶と一緒に食べると、熱のせいで唐辛子の辛さがわずかばかり強調された。うまいともまずいともなんとも言いがたい。ただ一点だけ、ピーナッツがゆでピーナッツみたいになったのは良かった。
これは犯罪にならないだろうか
味ごのみにはあられだけではなく、かたくちいわしや、やきえびせんといった米菓ではないものも多数混入しているため、期待はしていなかった。が、その予想は裏切られた。
うーん
当初、あまり期待せずに食べていたものの、えびせんを食べた古賀さんが「あ、これ面白いですよ!」といい始めた。
ぷりっぷりしてる!
えびせんがプリプリしているというのだ。たしかに、お茶を含んだえびせんは、プリプリした面白い食感に変化している。
かたくちいわしも、お茶を含んで棒鱈の煮付けみたいな歯ざわりになって、魚本来の風味が増している。
なにか、なにかものすごく近い食べ物を食べたことがあるような気がする……。
トリバタケ「そうだ、トムヤンクンだ、酸っぱくないトムヤンクンじゃないかなこれ」
そうだ。言われてみればたしかにエスニックなスープの味に近い。いちど言葉が定義されると、たちまち評価が上がる。
これ、いちばん期待してなかったけど、いちばんうまかった。
さらなる感動が
以上、あられ茶漬けの試食とコンビニで売ってる米菓のお茶漬けを試す。という実験は終わった。……つもりだったのだが、後日、古賀さんからこんな連絡がきた。
味噌汁にあられか!
あられ茶漬けのあられを、味噌汁に入れるとかなりおいしい。という情報だ。ああ、味噌汁か! 盲点だった。 あられと味噌汁。確かにまずくなる要素なんかない。これはぜひためしてみたい。
田舎あられにインスタントの味噌汁をかける
見た目はあられ茶漬けと変わらないが……
テーレッテレー
お麩よりも歯ごたえがしっかりしてて米の味もする。味噌汁の味に負けてないけど、喧嘩はしてない。お互い協調して高め合ってる。
これ、あられをちょっと多めに入れて食べれば、これだけでもいいかもしれない。
前言撤回。いちばんうまかったのは「味ごのみ茶漬け」じゃなくて、「あられ味噌汁」でした。
空前絶後の記事
あられ茶漬けに関してこんなに詳細なレポートは、いまだかつて無く、さらにインターネット史上初ではないだろうか?
いずれにせよ、あられ茶漬けはうまい、あられ味噌汁はもっとうまいぞ。ということである。
今、検索してみたところ、砂糖と牛乳とあられを混ぜて食べるという食べ方もうまいと書いてあるブログを発見した。
砂糖、牛乳、あられ。
あられの部分を餅と考えれば雪見だいふくみたいなものだ。これも意外といけるかもしれない。
あられの、もっと言えば餅の万能さにはただただ頭が下がるのみである。