特集 2014年6月5日

「トレラン」って面白いの?

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数年前から、近所のジョギング仲間が口々に「トレラン」という言葉を口にし始めた。舗装されていない山道を走るトレイルランニング、略してトレランである。

なにそれおもしろいの?走ってみました。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

始めるタイミングを完全に逃していた

おととしから去年くらいにかけて、近所のジョギング仲間が次々山へと入っていく中、僕は普通の道を走るマラソンでタイムを縮めることに注力していた。

そもそも僕がジョギングを始めたきっかけはその手軽さゆえである。それなりの靴さえ用意したらそれで準備は完了。家にある着古したTシャツと短パンで外に出てただ走ったらいいのだ。こんなに垣根の低いスポーツもない。

対して山を走るトレイルランニングはどうにかしてまず山のふもとまで行かなくてはならないだろう。つまり思いついた時に走ることができないのだ、まずこれが気に入らなかった。

※エッセイみたいな書き出しで始まったのは、今回記事にするつもりなく走ってみたら途中で面白さに感動して「これは人に伝えなければ!」と思い至ったからです。
つまりその感動の地点までの写真がないんです。
つまりその感動の地点までの写真がないんです。
その後マラソンでタイムが伸び悩み、あてもなく新しいトレーニング方法を模索していた時、僕は再びトレランのことを思い出すのだけれど、その頃にはもう周りのみんなはレースに出始めたりしていて今さら「入れて!」って言いにくい状況になってしまっていた。こうして機を逸して損するパターン、おなじみである。このへんで断ち切っておきたい。

こうなったらある程度自分で練習してから知った顔で「そうそう、おれもやっているんですよ、トレラン」といった具合に溶けこむしかないだろう。

関東で夏日を記録した週末、僕は5時に起きて初めてのトレランに向かった。

※完全に初心者のレポートです。すでに走られている方からすると「おまえトレラン知らないだろう」と思われる部分が多々あるかと思いますが、知らないです、すみません。

2014年6月1日早朝

僕のトレランデビューはJR大船駅近くにあるお寺の裏の墓地から始まることとなった。

これは前日の夜に経験者のブログなんかを読みあさり、自分の体力と照らし合わせて判断した結果、設定したコースがたまたま墓地の裏から始まるものだった、ということだ。別に夜明けの墓地を走るのが趣味ではない。
地図を読むのもトレラン。
地図を読むのもトレラン。
競技人口が増えたことで走らないハイカーからの苦情や自然破壊など、いろいろ言われ始めるようになってきたトレランだけれど、常識的な範囲で楽しむことを忘れなければ特に心配することはないと僕は思っている。お墓の前でお化けに扮して「今から走りまーす」みたいな写真は撮らずに静かに入山した。

足を着く場所すら選ぶ

山に入ると当たり前だけれどいきなり山道である。あるのかないのかわからないくらいの細さの道を覆い隠すように草が生え、誕生日会ばりにクモも巣を張っている。横は斜面で転がり落ちたら遥か下の墓地に帰着だ。うむ、予断を許さない。
どこが道なのかわからない場所から
どこが道なのかわからない場所から
がちがちの岩場まで。
がちがちの岩場まで。
アスファルトの道路を走っている分には、犬のうんこ以外どこを踏んでもたいして変わりはないので、その分自分のフォームだとか周りの景色だとかに意識を持っていくことができるのだけれど、トレランの場合、まさに踏み出せばその一足が道となる、である。次に足をどこに置くか、それを常に考えながら走った。これはものすごく集中力を必要とするんだけれど、仕事や読書で使う脳とは別の部分を使っているような気がして悪くなかった。

荷物を持って走る

僕はマラソンでは極力手ぶらで走るようにしているのだけれど、ここは山の中である。途中で雨が降ってくるかもしれないしハチに刺されるかもしれない。

近所の道を走っていて足をくじいて動けなくなったら、最悪の場合救急車を呼ぶことだってできるだろう。でも山の中に救急車は来てくれない。来てくれるのはきっと山岳救助隊である。大ごとだ。
背中にフィットするリュックなら何でもいいと思います。
背中にフィットするリュックなら何でもいいと思います。
何かあっても自力でふもとまで戻ってこられるよう、最低限の装備は持って走ることにした。滑り止めのしっかりした靴、着替え、ライト、救急装備、食糧、水など。これらをリュックに入れて自分で背負って走る。はっきり言って重くて邪魔だが、背中から何かに守られているという安心感はある。

途中で休憩しても罪悪感がない

マラソンでは立ち止まることはめったにない。信号につかまった時くらいである。レース中は給水すら走りながら行うので、練習中も走りながら水を飲んだりする。誰が見ているわけでもないのになんとなく止まってはいけない、という意識がある。
どう見ても走って登れなさそうな場所があるのだ。
どう見ても走って登れなさそうな場所があるのだ。
トレランの場合、斜面が急すぎる場所では立ち止まってよちよちと手まで使って登るし、景色のいいところに出ると感動して立ち止まる。なんというか、自然を言い訳に正式に立ち止まることが許されているのだ。これは気持ちが楽である。

道に迷うと死ぬ

とはいトレランがマラソンよりも楽というわけではけっしてない。レース中や練習中に道に迷うと最悪死ぬ。そんな状況、マラソンではほとんど考えられないだろう。
紫があらかじめ設定していたルートで赤が実際に通った道。ものすごい迷走したあげく正しい道まで戻ってきた時の感動の記録である。
紫があらかじめ設定していたルートで赤が実際に通った道。ものすごい迷走したあげく正しい道まで戻ってきた時の感動の記録である。
今回僕が最も恐れた点もこの道迷いだった。前日に作ったルートマップをアイフォンに入れて常に自分の位置を確認しながら走ったのだけれど、それでもことあるごとにルートから外れるのだ。

もともと道があるのかないのかわからないような場所なので、今自分がルートを外れているのか、単に地図上の誤差なのか、判断できないまま惰性で進むとそのズレがじわじわと広がっていく。すると頭の中はもう死のイメージに支配される。38歳男性、流行りのトレランで遭難し死亡、である。
ルートがわからなくなると、本能的に山を下りる方向に足が向き、いつのまにか人んちの裏庭に出てほっとしたりもした。
ルートがわからなくなると、本能的に山を下りる方向に足が向き、いつのまにか人んちの裏庭に出てほっとしたりもした。
あと僕はよくマラソン大会でおなかがいたくなるのだけれど(トイレ的な意味で)、山でこれが適用されると危険を伴うのでしっかり調整した方がいいとも思いました。

なにしろ下りがすばらしい

トレランにおける下りはいい。すごくいい。落ち葉の積もったスロープを全速で駆け降りるスリルはサーフィンで波をつかまえた時の興奮と似ている。スピードを上げるにつれ情報が目からバンバン飛び込んできて、次の一歩の置き場所を瞬時に判断するために脳がフル回転する。耳からは弾む自分の息づかいだけが聞こえ、まるでカモシカにでもなって誇らしげに崖を駆けているかのような気分になる。これは留保なしに気持ちがいい。
飛び込んでくる情報を全速力で解析していく快感。
飛び込んでくる情報を全速力で解析していく快感。
しかしその裏には登りのきつさがあることも忘れてはいけない。マラソンにももちろん坂道はあるのだけれど、基本的に走って越えられない坂はない。

しかしトレランは山を走る。山は容赦ない。つらい、登りはとにかくつらい。

随所で達成感が得られる

これも当たり前なのだけれど、山には随所に景色のいい場所、開けた場所など、見どころが存在する。

生い茂る草むらをかき分けて登りきると目の前がぱーっと明るくなって、はるか向こうに海が見えたりするともうそれだけでリュックからポカリ出して木の幹と乾杯でもしたくなる。ロードレースだとゴールした瞬間くらいしか基本的に喜んでいいポイントがないので、それを思うとこれは贅沢である。
こういう開けた場所に出るとつらかったこととか全部忘れる。
こういう開けた場所に出るとつらかったこととか全部忘れる。

人と会うとうれしい

最近はトレラン人口が増えたとはいえ、道を走っている人に比べればまだまだ少ない。

僕が今回走った山でも、何人かのランナーとすれ違いはしたが、出会うと少し緊張する、くらいの数だった。そしてその全員と挨拶を交わした。

「おはようございます!」。

中には「がんばりましょう!」というさわやかな告白を残して風のように駆け降りて行った若い女性もいた。こういうテンションはマラソンにはない。せいぜいすれ違う時に手を挙げてお互いを控えめに鼓舞するくらいだ。マラソンの多くが修行で構成されているのに対し、トレイルランニングには旅の要素がある。
ところで自転車で登ってきた人がいたがどういうことなのか。
ところで自転車で登ってきた人がいたがどういうことなのか。

また行くだろうな、という期待

トレランを体験して2日経ってみて、思い返すと気持ち良かった部分ばかりが優先されがちだけれど、目線を下げると思った以上に足腰がボロボロであることに気付く。

全行程20キロほどだったはずなのに、40キロのマラソンを走った後くらいの筋肉痛と、体中に切り傷と打ち身がたくさんあった。

僕は面倒くさがりなので、たぶんこれから先も手軽なマラソンの練習を優先させると思うのだけれど、たまにはトレイルを走ってまったく違った感動を味わうのも悪くないな、と思いました。

面白かったよ!トレラン

初心者のくせにいろいろと偉そうなこと言ったけれど、初めてでもこのくらい感動できるのがトレイルランニングという競技のようです。

一度体験してみるといいところと気に入らないところがわかっていいんじゃないかと思いました。

また行くと思います。
途中で見つけた自動販売機。自然に触れると人の優しさに敏感になる。
途中で見つけた自動販売機。自然に触れると人の優しさに敏感になる。
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