きっかけは「舞茸で魚肉ソーセージ崩壊」
今回おうかがいしたのは全国的にも数軒しかないというきのこ専門の卸問屋であるバイオコスモさん。
先日「
舞茸で魚肉ソーセージが崩壊した過去」という、舞茸と魚肉ソーセージを一緒に炒めたら魚肉ソーセージがぼろぼろに崩れた過去の思い出を再現する記事を書いた。その際にご協力いただいたきのこの情報サイト「
きのこのじかん」を運営する会社だ(ちなみにご協力のおかげで魚肉ソーセージは全壊した)。
その際に送っていただいた写真。魚肉ソーセージは舞茸と水に一晩ひたすとぼろぼろになった。肉をやわらかくするのに十分応用できそうなテクニック
きのこの夏の苦戦をアイスでなんとかできないか
魚肉ソーセージ記事公開のあと「『きのこのじかん』では今度きのこのアイスを作ろうと思っています」とご連絡をいただいたのだ。
お、おう……。
と一瞬ひるんだが、唐突にノリでいっているのではないようである。サイトの運営担当である露木さんによると、
「きのこは秋冬に売れて、夏はほとんど売れないのです。”夏にどうきのこを売っていくか”というのが長年のきのこ屋の命題です。
会議の様子の熱い写真も送っていただいた
九州の生産者さんがソフトクリームに椎茸せんべいを割って振りかけた椎茸ソフトクリームを作って好評と聞き、どのきのこがアイスに一番合うか、選手権をやってしまおう! ということになりました」
ということで思いは切実なようである。
そもそも私は夏場にきのこ業界がそんな苦戦を強いられているとは思いもしなかった。
お話も聞きたいし、きのこアイスの味も気になると勇んで乗り込んだのだった。
応接間にはきのこのじかんのキャラクターマスコットが。キノコはキャラ化に強みがある農産物ですな!!
じつはきのこ業界は現在低迷中
迎えてくれたのは露木さんと、代表取締役でいらっしゃる市岡さん。
きのこアイスの前にまずお話を聞かせていただいた。きのこが夏にそんなに苦戦されているということ、思いもよらなかったです。
市岡:夏の苦戦もありますが、きのこ業界というの自体が実は今すごく低迷していまして…。危機的状況といってもいいですね。毎年何軒ものちいさなきのこ農家さんがやめていってるんですね。
左:露木さん(キャラ作りのだてめがね! 写真に反射するからということでレンズも入っていなかった) 右:市岡さん
一番よかったのが平成2年でそれをピークに年々きのこの値段が下がっていきまして。もう半値から下手すると4分の1以下になってしまっていて。
反面、資材の値段は上がってきちゃっていて苦労なさっている農家さんが多いです。
がびーん! そ、そうだったの。きのこ、そんなに大変なことになっていたのか。
消費はむしろ上がっているのに
農林水産省の資料を見ると平成元年に19万戸あったきのこの生産戸数は平成21年には4万5千戸まで落ちていた。なんと……。
同じ資料には消費に関するデータもあり、昭和40年には1人あたり400gだった年間のきのこ消費量は平成10年以降1人あたり3.2kgと激増であるものの、その後は微増しつつキープという状況のようだ。
上岡さんのお話もあわせまとめると、きのこの生産消費の傾向は
・小規模な生産者がどんどん減少
・大規模生産者は増え生産量は増加
・消費量は激増後、微増しつつ横ばい
・きのこの単価がどんどん下がっている
・しかし資材の価格は上がっている
ということのようである。
きのこ業界、かなりハードボイルドなことになってる。
お話をうかがいつつ、その後出庫チーフの和田さんにご案内していただいた倉庫の写真もはさんでいきましょう。これ、全部きのこ!当たり前だけどすごい
確かに、秋の味覚という感じむんむん
野生のきのこは秋が旬のものが多い。店頭にならぶきのこは施設栽培のものがほとんどで年間を通じて生産され、栄養素も変らないわけだが、それでもきのこの旬は秋、秋~冬に食べてこそという意識がやっぱりあるのだ。
秋の味覚フェア的な食材である、イメージ。きのこ業界にとってこの「イメージ」という目には見えない敵は強すぎる。
市岡:天候に左右される農作物とちがって、きのこは施設栽培ですので計画的に必ず作れる、食品工業に一番近い作物なんですよね。
農家さんでは夏に売り上げが伸び悩んでも夏だけ従業員さんに休んでもらうわけにはいかないですよね。安くしか売れないのを承知で数を減らして生産して、それでさらに赤字になっちゃうんですよね。
そういうお話を聞いてから眺めるきのこの語りかけてくることよ
こちらでは小さな生産者さんがつぶれてしまわないように、夏も冬も一定の値段できのこを卸してもらうようにしているそうだ。え、えらい……。
市岡:やっぱり値決めで買いたいんですよね。それで生産者さんたちと一緒にきのこ業界を盛り上げたいと思っています。
お客さまにも相場じゃなくて同じ値段で1年中買いというところは多いんです。原価計算しやすいから。
薄利多売というのじゃなくて良いきのこを少しでも高く買ってもらえたらっていうことをやっています。
そんな、きちんとした値段で買い付けたきのこたち。倉庫で卸す先をチラ見させていただいたところ主婦悲鳴の高級宅配食材サービスの名前が軒並み……であった。うおお。
そうか、きのこの卸問屋というのはきのこのセレクトショップということか。
聞いたら主婦が真後ろに倒れるようなブランドサービスが続々
露木さんによると「価格勝負で安く安くという取引にしたくないので、理想があって良い物を高くても理解して買ってくださるお客様というとおのずと営業先もかぎられてきちゃうんです」とのことである。
ひとつ世の中の仕組みを理解した!
何しろうまそうである
きのこは断トツえのきが作られてるし食べられている
硬派な話が続いたところで、一気にやわらかい話題も。そういえば、いま一番売れているきのこって何なんだろう。
昭和50年代生まれの私にとって子供のころ食卓のきのこといえば椎茸一択であったが、いまやきのこはよりどりみどりの世の中になった。
露木:1位はエノキですね。生産量が断トツで多いので。
市岡:2位がブナ(ブナシメジ)かな、3位がしいたけ
露木:昔はしいたけが1位でしたが平成に入ってエノキに逆転されました。エノキの生産量なんてこんな(急カーブを手でかいて)急上昇です。
エノキは大規模生産者が多いんですね。瓶栽培といって機械化しやすいんです。
倉庫でもエノキだけはパック詰めでない「エノキ10キロ箱」というのがあった。興奮!
ちなみに野生のエノキはこんな感じ(野生に近づけて施設栽培されている商品だそう)
舞茸とエリンギの攻防
当サイトのウェブマスター林が「大人になって初めて食べたもの」の代名詞としてよくピスタチオをあげるのだが、エリンギもその一つではないか。私が子供のころにはなかった食材だ。
露木:いまエリンギは5位ですね。マイタケがギリギリで4位。
またまた農林水産省の資料をひもとくと、確かに平成19年からマイタケとエリンギはギリギリのラインで攻防を繰り広げているようである。きのこの上位争奪戦、知らないところでかなりエキサイティングなことになっていた。
倉庫には力強く「エリンギイ」と書かれたダンボールがかっこよかった
露木:エリンギはもともと日本では自生しないキノコなんです。最初はカオリヒラタケとかシロアワビってそんな名前で売られていたんですけれども。エリンギって名前でCMが打たれてどかんと売れたんですよね。
市岡:しいたけとエリンギは夏場にも強いんですよ。バーベキューで食べることが多いので。夏場の需要が減らないんですよね。
確かに、バーベキューには椎茸とエリンギのイメージがある。やっぱりこういうイメージが強く購買を左右するのだなあ。
そして柔らかい話をしていてもやはり夏場の苦戦に話が戻ってきてしまう。それぐらい業界にとっては悩みのたねなのだ。
ちなみにエノキは乾燥させたものも人気だそう
かわったきのこもたくさん見せていただいたのでここでちょっとまとめてご紹介。「黄金タモギ」はサプリもあるくらい健康効果が高いと人気のきのこ
「柳まつたけ」はあの松茸とは違う種類のきのこだが香りが松茸に似ているといわれてそういう名前に。「でも香り似てないと思うんですよね。しゃきしゃきした食感でスープに入れるとおいしいです」(露木)
「ヤマブシタケ」は山伏の胸についているぼんぼりの形からきた名前。「細かくしてから揚げ粉まぶしてあげると本当に鶏肉を食べているみたいになりますよ」(和田)
次世代きのこの決定版と銘打たれているのは「ハナビラタケ」
味が淡白なので見た目要因としてゼリーなどに入れてもよいそう。このあとのきのこアイスの試食投票にもエントリーされていた
そしてきのこアイスへ……
きのこ業界の苦労、夏の苦戦、ここまでがっちりお話を聞かせていただき私も腕まくりできのこのアイスを推していこうという気概にあふれざるを得ない。
この日はきのこを使ったアイス6種類を「きのこのじかん」の記事にするため社員のみなさんで試食、投票するという。
さきほどまでインタビューで使っていた応接室が投票所に! 凝ってる
ならんだきのこアイス6種類。全部手作り
わざわざ作り方を一度目の前で実演してくださった。ちゃんとした手作りバニラアイスをベースにきのこを混ぜていく
アイスを作っているのは先ほど倉庫を案内してくださった、きのこの出庫チーフである和田さん。
「きのこのじかん」ではアイス以外の記事でも和田さんが調理と撮影を一手に行い、普段は営業をしている露木さんが更新やサイトの開発周りを担当。マスコットキャラを作るのは事務担当の方で、こんどECサイトをはじめるにあたって独自商品を開発したのはお惣菜部門の工場長の方だそうだ。社員のみなさんが実務を越えて特技を発揮しているのだという。
きのこ問屋の面々がなんとかきのこを盛り上げようときのこのサイト作りに挑む。なんだかシチュエーションコメディのドラマの設定みたいなのだが現実なのだからすごい。
撮影の様子もすこし見せていただいたのだが、露木さんはキノコアイスの準備をしながら受けた電話でキノコを売っていた。
失礼ながら、やっぱり(シチュエーションコメディっぽい…)と思ってしまったのだった。
「いつでも便は走るのでいつでもおとどけ可能ですが。はい。○○円で大丈夫です」
さて、アイスは私も試食させていただいたのだが、美味しかった! のが2つありました。
詳しくは「きのこのじかん」の
企画ページに掲載されていますぞ。
きっとこの夏はきのこのことを思い出す
きのこって心静かに考えてみると食べ物としてちょっと謎だ。だって菌類である。露木さんに聞いたのだが、きのこが生えることを「発生」というそうだ。発生するのだ、きのこは。
たとえば私は理系全般にまるで疎いのでなんで飛行機が飛ぶのか全然分からない。今まで、きのこにもそういう理屈を分からずして結果だけ享受している感じがあった。
好物ではあるもののそういうふわっとした存在だったが、生物としての成り立ちをすっとばしてリアルな流通の現場を知れて、ちょっと分かったような気持ちにもなりました。