マイタケはタンパク質を分解する
私が魚肉ソーセージを崩壊させてしまったのは今から6年ほど前。両者を一緒に炒めたことで起きた。
朝いちばんで料理し、炒めてすぐは大丈夫だったのだが残りを夜食べようとしたところ崩壊が起きたのだ。
調べてみるとどうもマイタケにはタンパク質分解酵素というものが含まれており、それが作用したのではないかと思われる。
調査のため、魚肉ソーセージを3種類買ってきた。こちらは普通にスーパーで買ったもの
もうひとつは6年前に崩壊したのと同じメーカーのもの(当時母が生協で買ってくれたもの、スーパーなどにはない)
マイタケのタンパク質分解酵素の作用については、「茶わん蒸しの具に生のマイタケを使うと茶わん蒸しが固まらない」という事象が有名なようだ(
こちらのページが実験もしている)。
そしてこの酵素は卵のほか、魚肉ソーセージにつなぎとして使われる大豆たんぱくのような植物性たんぱくも分解するのだという。
それにしても最近の魚肉ソーセージって本当にむきやすくなりましたよね。フィルムにソーセージがめりめり付着することもない
火を通せば酵素の力は失われる?
しかし、そのたんぱく質分解酵素の力は加熱で壊れやすいらしいのだ。茶わん蒸しにマイタケを使う場合も、下ゆでやレンジにかけてから使えば卵液は固まる。
かつての崩壊は炒める過程で火が通る前のマイタケが魚肉ソーセージに作用して起きたということだろうか。
せっかくなのでここで魚肉ソーセージ3種食べ比べ。ニッスイ「おさかなのソーセージ」(左)はフィルムは赤いが中はピンク。身が軟らかくてどこかスパイシー。
バリュープラス(メーカーはマルハニチロ)「おさかなソーセージ」(右)は身がしっかりしていてちょっと甘めだった。
生活クラブ生協(メーカーはこちらもマルハニチロ)「おさかなソーセージ」は弾力があり、他2種に比べるとケミカルさがない。素朴だけどパンチはある不思議な味
マイタケと魚肉ソーセージを炒めるレシピの存在
その前に、じつは世の中にはマイタケと魚肉ソーセージの炒め物のレシピが多数存在する。みんな魚肉ソーセージをマイタケと炒めているのだ。
たんぱく質分解酵素VSレシピの存在。
真実は一体どこにあるのか。
ここまででつかめた事実
・マイタケと魚肉ソーセージを炒めて12時間後に食べたら魚肉ソーセージが崩壊した
・マイタケにはタンパク質分解酵素が含まれており、この酵素は魚肉ソーセージの組織も分解し得る
・しかしそのタンパク質分解酵素は熱には弱い
・マイタケと魚肉ソーセージを炒めるレシピはたくさんあり、日々たくさんの人がマイタケと魚肉ソーセージを炒めておいしく食べている
なにしろ、炒めてみよう
はたして、魚肉ソーセージが崩壊したのは呪われた私んちだけなのか。
崩壊を経験してから今まで魚肉ソーセージとまいたけを一緒に炒めるのはやめていたが、一度やってみよう。
3種類の魚肉ソーセージをそれぞれマイタケと炒めてみた。
マイタケはこちらの雪国まいたけのものと、ホクトのものを用意して混ぜて使った(以前崩壊した際に使ったメーカーは失念!)
味付けは塩コショウのみで
直後・12時間後・24時間後
試食は炒めた直後、12時間後、24時間後に行った。
過去の崩壊の際は、炒めた直後ではなく12時間後に起こっている。
「たんぱく質分解酵素は熱で壊れる」のであれば炒め上がってから時間をおいても変わらないのかなと思うのだが、実際はどうなのだろう。
直後
直後
火を通し水分も入ったことで魚肉ソーセージたちはどのメーカーのものもやわらかくなった。が、弾力はあり崩壊は一切感じさせない。
マルハのものはもともとの味が濃いからか、マイタケとよく合う。
12時間後
12時間後
ニッスイ、バリュープラスで若干ホロッとしたように感じる。生協のものも、生や炒めた直後のブリンとした弾力はなくなったように思われる。
24時間後(写真はたっぷりのマイタケの中から取り出したもの)
24時間後
ニッスイのものについては半日のところから変化はない。バリュープラスは若干崩壊が進んだか。
24時間後、生協
一番の崩壊を感じたのは24時間後の生協のものだったが、上記の通り写真で分かるほどのぼろぼろ感はない。
崩壊を念頭に置いて食べなければ分からない程度かもしれない。
結果、若干弾力がなくなるなど崩壊に近づいたような兆候はあったが、6年前に体験したほどの完全崩壊は再現されなかったのだった。
ぐっと力を加えると、ズズズッと崩壊したあの魚肉ソーセージは幻だったのか?
崩壊仲間、集まる
私のかつての経験が夢だったとか幻だったということは考えにくいのだが、ここまで微妙な結果だと不安である。
慌てて他に同じような体験をした人はいないか声を上げてみることにした。
「魚肉ソ」という略が適当だったかどうかは今は置いておきたい
すると、なんと2人の方からリアクションがあったのだ!
お一方は同様に魚肉ソーセージを、もうお一方はなんとちくわを崩壊させてしまったことがあるということだった。
ちくわも大豆たん白や卵白をつなぎとして使われていることが多いようだ。おそらく、魚肉ソーセージの崩壊と起きていることは同じだろう。
いた! いたのだ、仲間が! 魚肉ソの崩壊は夢でもなく幻でもなく事実だったのである。
ああ、この記事がミュージカルだったらこのタイミングで歌い出すのに!
ちくわも、となると練り物の皆さんも人ごとではないぞ!(写真はイメージです)
プロに話を聞いてみよう
ということで、魚肉ソーセージや練り物などでタンパク質分解酵素の作業を受けやすいものをマイタケと炒める際は事前にマイタケをしっかり加熱する、また調理後はすぐに食べきったほうがよさそうだ。
と、一応の結論はつけた。
しかし完全なる崩壊をこの目でみられなかったのはやはり心残りである。そこで、キノコに詳しい方にどうしたら完全崩壊は起こるのか話を聞いてみることにした。
お話を伺ったのは先ほどリンクも紹介した、きのこの卸問屋さんの運営するきのこ情報サイト「
きのこのじかん」から、露木啓さんである。
きのこポータルとしてとんでもないきのこ情報量を誇る。しかもすごく読みやすい
マイタケのタンパク質分解酵素は水溶性
魚肉ソーセージがマイタケのタンパク質分解酵素で壊れるということはあるのでしょうか。
「はい。壊れると思います。ただまいたけのタンパク質分解酵素は加熱すると弱くなるのと、水溶性で水に浸けると溶けだすという性質があるようです。
ですので、マイタケ水(マイタケに水を加えたもの)に漬けてから炒めると魚肉ソーセージが壊れるのではないでしょうか」
完璧すぎるほど完璧な回答をいただいてしまった。す、すごい。
しかも露木さん、なんとご自身でも調理してみてくださったのだ……!
写真提供:きのこのじかん
美しすぎる写真もご提供いただき、頭は上がらないどころか地中深くめり込んだ。
上の写真は「2時間マイタケに浸けた魚肉ソーセージ」、「浸けないでマイタケと一緒に炒めた魚肉ソーセージ」、「魚肉ソーセージのみ」。
これだと「魚肉ソーセージの見た目、食感ともあまり変化ありませんでした」とのこと。
さらにお送りいただいたのが「一晩まいたけと水に漬けこんでから炒めたもの」の写真である。
あっ! 写真提供:きのこのじかん
完全崩壊はまいたけ水に漬けこむと起きる
これだ……。私がかつて体験した魚肉ソーセージの崩壊の図、まさにそのものである。
露木さんも
「見事崩壊といっていい感じになりました。
びっくりする位、ボロボロです。箸でつまむとぼろっと行きます」
とのこと。
まいたけ水に一晩漬けた後の状態。すでにかなり崩壊しているのが分かる 写真提供:きのこのじかん
つかめた事実
・マイタケにはタンパク質分解酵素が含まれており、この酵素は魚肉ソーセージの組織も分解し得る
・しかしそのタンパク質分解酵素は熱には弱い
・そして水溶性。水に溶けだす性質がある
→まいたけと水に魚肉ソーセージを漬けるとあからさまに魚肉ソーセージは崩壊する!
日常生活での崩壊は、まれ
この結果から考えると、普通の調理においてマイタケで魚肉ソーセージが崩壊するということはあまりなさそうである。
私を含む崩壊経験者は調理中や調理後になんらかの要因があって酵素パワーの影響を受けたのだろう。
崩壊した魚肉ソーセージは実は味はかなり落ちてしまったのを覚えているが、そう思うと貴重な体験をしたのかもしれない。
そんな貴重な崩壊魚肉ソの写真を最後に載せて終わりにしようと思います。 写真提供:きのこのじかん
魚肉ソーセージは崩壊する
最終的に完全にプロの手に助けられまくった展開になった。あらためて「きのこのじかん」の露木さんにはお礼申し上げます。
それにしても、結果を知るとただ炒めただけにも関わらず崩壊を起こしたあの過去には我ながら驚く。これはもはやなにか運命的なものが作用したとしか思えない。
運命…! そうか運命か! となるとミュージカルではないがもう歌っちゃってもいいのではないか。舞茸で魚肉ソーセージが崩壊した歌を。
魚肉ソーセージといえば、スープの具として煮るとびっくりするほど膨らむことも忘れてはいけない