特集 2014年3月17日

庭に滝、納屋にスナック~ボラのおっちゃんのすべて~

「ボラのおっちゃん」はただのおっちゃんではなかった。
「ボラのおっちゃん」はただのおっちゃんではなかった。
先日、知り合ったおっちゃんがすごい人だったので報告したい。

ボラのおっちゃん、と親しみを込めて呼んでいたその人、じつは「男の夢」をすべてかなえたような人だった。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

前の記事:つぶらな瞳でパコパコ泳ぐ、深海のアイドル私はメンダコ

> 個人サイト むかない安藤 Twitter

出会いは竜神バンジー

僕がその「ボラのおっちゃん」と呼ばれる方に初めて会ったのは、ライター西村さんの取材に同行した時だった。
「ボラのおっちゃん」と西村さん。
「ボラのおっちゃん」と西村さん。
情報を整理しておこう。

「ボラのおっちゃん」について、当サイトの記事に最初に記載があったのはこの記事である。

・大洗町でボラが大量発生している

この取材の際、「ボラのおっちゃん」と連絡先を交換したライター西村さんは、後日竜神大橋からバンジージャンプすることになる。

・ボラのおっちゃんに誘われてバンジージャンプ

バンジージャンプが人生を変える体験だとしたら、その機会を作ったボラのおっちゃんとの出会いこそが、西村さんにとっての人生の転機と言っても過言ではないだろう。

それにしてもたったひと月の間に二度もデイリーに登場し、三度目の今回、ついに主役として取り上げられることになった「ボラのおっちゃん」とはどんな人物なのだろうか。

少しずつ紐解いていこう。

レポーターとしてのボラのおっちゃん

バンジージャンプの取材、実はボラのおっちゃんは僕たち取材関係者よりも常に前でコメントをもらい、写真を撮っていた。
イベントの目玉ともいえる企画、住職がバンジージャンプしたあと
イベントの目玉ともいえる企画、住職がバンジージャンプしたあと
最初にコメントをとったのはボラのおっちゃんである。
最初にコメントをとったのはボラのおっちゃんである。
ボラ「どうでした?これより怖いもの、これまでの人生でありましたか?」

インタビュー慣れがすごい。住職からは「これより怖いことはさすがにこれまでなかったですね」といういいコメントを引き出していた。

でもボラのおっちゃんは特にコメントをメモしたりしない。なぜならどこにも記事を書く予定がないからだ。
偉い人にもインタビューする。蛍光のプレス用ビブスを付けているのは西村さんが取材枠で頭数に入れて申請していたから。考えてみるとそこからおかしい。
偉い人にもインタビューする。蛍光のプレス用ビブスを付けているのは西村さんが取材枠で頭数に入れて申請していたから。考えてみるとそこからおかしい。
外国人にも日本語でガンガンいく。
外国人にも日本語でガンガンいく。
ボラのおっちゃんがいれば、もう僕ら取材いらないんじゃないかとすら思った。

彼ならお願いしたら一人でバンジー飛んでレポート上げてくれるんじゃないだろうか。その記事ちょっと見てみたい。実はこの日のバンジージャンプも「空きがあれば飛びますよ!」と何度も運営本部に行って飛びたそうに話していたほどである。
僕に見栄えのいい飛び方を教えてくれたのもボラのおっちゃん。もちろんおっちゃんは飛んだことない。
僕に見栄えのいい飛び方を教えてくれたのもボラのおっちゃん。もちろんおっちゃんは飛んだことない。

ボラのおっちゃんはヒーローに厳しい

バンジージャンプの取材にはテストジャンパーとして茨城のヒーロー「イバライガー」も招かれていた。

イバライガーは役柄上、お願いするとかっこいいポーズをしてくれるのだが、これをボラのおっちゃんは見逃さなかった。
イバライガーを見つけるとすかさずアクションを要求する。そしてそれを動画で撮る。
イバライガーを見つけるとすかさずアクションを要求する。そしてそれを動画で撮る。
満足いかないとテイクツーを要求する真剣さ。
満足いかないとテイクツーを要求する真剣さ。
後で聞いたことだが、ボラのおっちゃんは剣舞をやっている。
写真もらった。
写真もらった。
今考えるとイバライガーの動画を厳しく撮影していたのは舞う者同士だからではなかったか。

ボラのおっちゃんの要求にこたえ、イバライガーの動きにも力が入る。
「シュパパパー」。イバライガーもさっきよりキレのある動きをしてくれた。
「シュパパパー」。イバライガーもさっきよりキレのある動きをしてくれた。
この時のイバライガー、本当に力が入っていて、一通り空手っぽい形を見せてくれたあとはちょっと息が上がっていたくらいだ。
それでもまた指導が入るから鬼。
それでもまた指導が入るから鬼。
最後は一緒に記念撮影。
最後は一緒に記念撮影。
ボラのおっちゃんとはいったい何者なのか。みんなそろそろ気になり始めた頃だろう。

次のページではボラのおっちゃんの家に行くぞ。
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ボラのおっちゃんの家がすごい

僕たちが愛着をこめてボラのおっちゃん、と呼んでいたこの方、本名を後藤さんという。

後藤さんは西村さんの取材したボラのたくさんいた大洗の港にこの前再び行ってきて、ボラを100匹くらい捕まえてきたらしい。

「干して醤油で煮たから。3日くらいかかった。」

僕たちはバンジージャンプの取材を終えた後、後藤さんの干したボラを見に、おたくへとお邪魔することになった。
後藤さん宅、お庭にて。
後藤さん宅、お庭にて。
この日はバンジージャンプの取材に丸一日つきあわせた挙句、お宅にまでお邪魔するのはさすがに申し訳なかったのだが、ボラのおっちゃんのことをもっと知りたい気持ちが勝った(あと断れない勢いで誘われた)。

竜神大橋からご自宅までの道中、近所のサンクスが強盗に入られたときにアルバイトしていたのが知人の息子、という話もしてくれた。
その息子さんは大丈夫だったのだろうか。
その息子さんは大丈夫だったのだろうか。
ボラのおっちゃんこと後藤さん。趣味はカラオケ、現在は老人会のリハビリ体操の講師を務める。
前日泊まった旅館(後藤さんが勧めてくれた)にて。
前日泊まった旅館(後藤さんが勧めてくれた)にて。
後藤さんのご自宅は広大だった。

自宅に露天風呂と滝とゴルフコースがある

後藤さんの自宅の庭にはなんでもある。

「なんでもある」というと誇張しているように思うだろう。

違うのだ。

一般的に想像しうる、庭にあったらすごいもの、それらすべて後藤さんの庭にある。まず露天風呂。
年に2回くらいお湯を張るのだとか。
年に2回くらいお湯を張るのだとか。
そして上にのぼって酒が飲めるやぐらがある。
物見やぐらは「ツリーデッキ」と呼ばれている。後藤さんが自分で作った。
物見やぐらは「ツリーデッキ」と呼ばれている。後藤さんが自分で作った。
この後「スカイデッキ」というもっとすごいやぐらも出てくるので覚えていてほしい。ちなみにいま後藤さんが立てているのはゴルフのポールである。

そう、この芝生はゴルフコースになっている。3ホールある。
家紋入り。
家紋入り。
後藤さん、ツリーデッキに立つ。
後藤さん、ツリーデッキに立つ。
後藤さん、ツリーデッキで一杯やってる気分。
後藤さん、ツリーデッキで一杯やってる気分。
この時点で僕らはさっきバンジージャンプ飛んだことをすっかり忘れてしまっている。

次は自宅裏手の公園を案内してもらった。

普通自宅裏手の公園というと、公共の公園を思い浮かべるだろう。

後藤さんの場合、私設である。
ここが後藤さんの「親水公園」である。
ここが後藤さんの「親水公園」である。
全景。
全景。
今はまだ寒いので冬枯れしているが、これから初夏にかけてカキツバタが咲き、大変なことになるのだという。大変なことになっている状態の写真を見せてもらった。
大変なことになっている。
大変なことになっている。
親水公園はその名の通り水をつかさどる公園である。その仕組みも後藤さんが作った。灌漑から造園まで、後藤さんにできないことはない。
あそこに見えるポンプ小屋を操作すると
あそこに見えるポンプ小屋を操作すると
ここ親水公園には滝と噴水が現れるのだ。滝には魚が昇るらしい。
ここ親水公園には滝と噴水が現れるのだ。滝には魚が昇るらしい。
ポンプ小屋は目を疑う距離である。あそこから水引っ張ってきてる。ちなみにその手前は後藤さんの田んぼである。
ポンプ小屋は目を疑う距離である。あそこから水引っ張ってきてる。ちなみにその手前は後藤さんの田んぼである。
水道管工事もほとんど後藤さんがやった。後藤さんに不可能はないのだ。
これが「スカイデッキ」である。親水公園を見下ろす位置に後藤さんが作った。
これが「スカイデッキ」である。親水公園を見下ろす位置に後藤さんが作った。
階段には踊り場もある。もはや素人仕事じゃない。
階段には踊り場もある。もはや素人仕事じゃない。
ここにはなまずがいるらしい(冬場につき見つけられず)。
ここにはなまずがいるらしい(冬場につき見つけられず)。
まだ終わらない。というかここから僕らは後藤さんの本気を見る。
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ガレージ全部盛り

露天風呂、ゴルフコース、噴水、スカイデッキと見てきて、もう何が出てきても驚かないぞ、と思っていたのだが、ガレージの中を見せてもらってひっくりかえった。
ガレージがまたすごかった。
ガレージがまたすごかった。
このガレージ、ふつうに農作業小屋かと思っていたのだが、中はショッカーの秘密基地みたいになっていた。外観からは想像できない、という意味だ。

まず入ってすぐに目を引くのは2台の水槽である。
これを眺めながら酒を飲むのが好きなのだとか。
これを眺めながら酒を飲むのが好きなのだとか。
水槽の魚は近くを流れる清流から後藤さんが捕まえてきたものである。もちろん漁業権持ってる。

そういえばバンジージャンプの会場でアユを焼いて売っていたおっちゃんがいたのだが、その人も家に水槽があって、やはり川魚を飼っていると言っていた。そういう趣味が流行っているのだろうか。知らないことだらけでクラクラする。
水槽の電源はタイマーで完全に制御。
水槽の電源はタイマーで完全に制御。
趣味といえば後藤さん、盆栽とかはやらないんですか、と聞いたら以前はやっていたと言っていた。なぜやめてしまったのかというと

「酔っぱらって枝全部切っちゃったからやめた」と。

後藤さんとはしらふの時に出会ってよかったと思う。

後藤さんのガレージ紹介に戻ります。

ガレージの一角に歌手のポスターが貼られたドアがあった。
この方が好きなのだろうか。
この方が好きなのだろうか。
このドアの向こうはなんと
スナック。
スナック。
スナックなのだ。カウンターがあってカラオケセットがそろっている。
言葉がない。
言葉がない。
後藤さんはここで気持ち良くお酒を飲んで歌を歌うのが好きなのだとか。
スナックの天井。
スナックの天井。
ヨットの写真。
ヨットの写真。
酒好きの人には行きつけのスナックの一つや二つあってもおかしくないとは思うのだけれど、まさか家にスナック作る人はあまりいないだろう。よくネットで見る「その発想はなかった」というやつである。リアルにやられると言葉を失う。
ボトルもキープしている(じぶんちだけど)。
ボトルもキープしている(じぶんちだけど)。
田んぼを持つ後藤さんはもちろん農機具も所有している。
トラクター。
トラクター。
トラクターはもちろん裏にある広大な田んぼを耕すためだ。田んぼではお米を作っているが、売り物ではなく人にあげたりじぶんちで食べたりするためらしい。
モーターボート。
モーターボート。
いろいろあったがモーターボートが出てきた時点で一線を越えた気がした。

このあたりで気づいた。これはあれだ、所さんだ。所さんが世田谷に「男の城」みたいな施設を持っているって聞いたことがあるが、あれの茨城版である。後藤さんは所さんなのだ。

もう驚かない、次は映画館である。これもガレージの一角にある。
映画館。TOGOシネマズはTOHOシネマズと後藤(GOTO)をコンピレーションした造語。
映画館。TOGOシネマズはTOHOシネマズと後藤(GOTO)をコンピレーションした造語。
スクリーンを下せば
スクリーンを下せば
夕方のニュースを大画面で楽しめる。
夕方のニュースを大画面で楽しめる。
この映画館、音響システムがしっかり組んであって、夕方のニュースが体を包み込むようにエコーがかかって聞こえる。

映画館の奥には囲炉裏。
この部屋で囲炉裏を前に一杯やるのも好きなのだとか。
この部屋で囲炉裏を前に一杯やるのも好きなのだとか。
他にもプラネタリウムや雑学集を集めた蔵書棚なんかもあり、そのほとんどが後藤さんの手作りである。奥さんには、もう新しいの作るのやめて今ある設備をメンテナンスしたら、と言われているらしい。確かにこのままいったら後藤さん、いつか庭に五重塔とかスカイツリーとか建てはじめるだろう。
雑学に関する資料を集めた後藤さんの蔵書。
雑学に関する資料を集めた後藤さんの蔵書。
ウィキペディアをプリントアウトしてデート印押してファイリングしてある。
ウィキペディアをプリントアウトしてデート印押してファイリングしてある。
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後藤さん、マラソンは2時間半切る

後藤さんのガレージで走る後藤さんの写真を見つけた。僕もマラソンやっているので何気なく聞いてみるとこれがまた普通ではなかった。
実業団駅伝ではアンカーを務めていたという。
実業団駅伝ではアンカーを務めていたという。
後藤さんはフルマラソンを2時間半で走っていたらしい。走っている人にはわかると思うが、これは実は尋常じゃない。実業団駅伝ではアンカーとして伊勢を走ったこともあると言っていた。今でも茨城の陸上連盟の役員を務めている。

まいった。

ボラのおっちゃんのボラを頂く

それでは最後に、後藤さんにボラのおっちゃんに戻ってもらい、この前大洗で100匹捕ってきたボラの一部をご馳走になってお別れとしたい。
ボラは一度干した後、しょうゆとみりんで煮込んであるのだとか。
ボラは一度干した後、しょうゆとみりんで煮込んであるのだとか。
調理もカラオケも映画鑑賞も、ガレージでできてしまうのだ。
調理もカラオケも映画鑑賞も、ガレージでできてしまうのだ。
一般的にあまり食べられないボラも、ちゃんと下処理をしてから衣をつけて揚げると臭みもなく美味しいという。
揚げたてのボラは確かに美味しかったです。
揚げたてのボラは確かに美味しかったです。
後藤さん、いろいろありがとうございました。
後藤さん、いろいろありがとうございました。
後藤さん
後藤さん
ありがとうございました。
ありがとうございました。
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B級じゃないすごさ

自分にとって便利そうなものを工夫しながら作ってしまう人は世にたくさんいる。

後藤さんの場合それが一般性をとどめた範囲で特出してるのがすごい。ようするに地元で有名なB級スポットになってしまっていないのだ。そのバランス感覚が後藤さんの凄さだと思う。後藤さん、かっこいいっす。
後藤さんちの露天風呂、夜にはライトアップ。
後藤さんちの露天風呂、夜にはライトアップ。
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