メンダコってどんなタコなのか
新江ノ島水族館にメンダコという珍しいタコが展示されていると聞いた。
これはふつうのタコ。
水族館の情報によると「つぶらな瞳と小さな耳を持つ深海性のタコ。耳をパタパタさせながらパコパコ泳ぎます」とのこと。パコパコ…?。
これだけの情報をもとに、ちょうど一緒に出張中だったライター西村さんにメンダコの想像図を描いてもらった。
もちろん西村さんはメンダコについて前知識はありません。
メンダコ、想像図(西村作)。
つぶらな瞳、小さな耳、パコパコ泳ぐ。
これらのキーワードを総合すると、だいたいみんなこんな感じのタコを思い描くのではないだろうか。僕はダンボみたい垂れ下がった耳をイメージした。
実物を見るまでは。
それは新江ノ島水族館にいました。
新江ノ島水族館はクラゲ推しの水族館として有名なのだが、実はJAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)と共同で研究している深海コーナーも充実しており、得体のしれない生き物が多数展示されている。それはもう二度目以降のデートに使えそうな濃さなのである。
初めてのデートはロマンチックなクラゲか
巨大水槽くらいまでにしておこう。
通好み、深海ゾーン
竜宮城のようなきらびやかな大水槽のその先、赤い光に照らされた深海生物ゾーンには全体的にぬめっとした生き物がたくさん展示されている。
たとえばこちら。
深海の鬼ババ、ヌタウナギ。
ぬたー。
静物を思わせる抽象的なルックスに加え、深海の鬼ババ、というプロレスラーみたいなキャッチフレーズが印象的である。
深海生物にはほかにもいいフレーズを冠したものが多い。
食べることをやめた動物、サツマハオリムシ。
名前がまだない、ゲンゲ科の一種。
このゲンゲの一種に代表されるように、深海の生き物の中には、まだまだ知られていない未知なる種もたくさんいるのだ。
ちなみに上の二つは合わせてこんな感じ。深海ですね。
この見ていても圧力を感じそうな深海ゾーンに、このたび新しく加わった仲間がいる。それがメンダコである。メンダコも他の深海生物と同じく、未だ謎の部分が多い生き物なのだとか。
深海ゾーンの中では一等地に展示されています。
お待たせしました、それでは登場していただきましょう、お耳が生えた深海のアイドル「メンダコ」。
ばーん。
なかなかに衝撃的な見た目である。あなたが思い描いていた深海のアイドルとは少し様子が違うかもしれない。つぶらな瞳に小さな耳でパコパコ泳ぐタコじゃなかったのか。
上の写真は写真なのだが、もちろん実物も展示されている。
穴からのぞくようになっていました。
光の届かない環境に暮らす深海の生物は、強い光にあたると驚いて死んでしまったり、体内に有害物質が発生してしまうケースもあるのだとか。メンダコもまた動物の目には感じられない赤暗い光の中で、静かに静かに展示されていた。もちろんフラッシュ撮影は厳禁である。
そーっとのぞいてみよう。
よく見ないとわからないくらいの明かりです。
というわけでいよいよ実物の登場である。これが深海のアイドル「メンダコ」のリアルな姿だ。
………。
のぞき穴の向こうには、直径15センチくらいの物体が3匹、でろんと横たわっていた。
これが噂のメンダコなのである。僕は悪くない。
動きらしき動きは特にない。いや、しばらく目を凝らして見ていると、なんとなく横に移動しているような気もする。
なんでもメンダコの特徴ともいえる「パコパコ泳ぐ」のは光や音に反応して驚いている状態で、むしろこうして底の方にでろんとしている方が負荷がなく健康的なのではないかと(
えのすいトリーター日誌より)。そういういうわけで、できるだけメンダコを驚かせないよう、のぞき穴からそっとのぞく方式の展示となっているのだ。
とはいえやはりパコパコ泳ぐ姿も見てみたかった。そんな人向けに展示ブースには過去に泳いだ映像が流されていた。
パコパコ泳ぐ姿は別途モニターで記録映像が再生されていました。
パコパコ。
泳ぐよー。
メンダコ、やばい
この映像がまたものすごいインパクトだった。水中を上下左右に動き回る様子はほとんど宇宙からやってきた乗り物のようである。まさかこんな生き物が海の底にいるとは。実は宇宙はひそかに海底とつながっているのではないか。
しばらく見ていると、3匹のメンダコがなんだか遠い国からやってきて、ちやほやされながらも仲間に入りきれない転校生みたいに見えてきた。少しでもこちらの環境になじんで、そして一日でも長く多くの人を驚かせてもらいたいものである。
メンダコの穴をのぞかず、隣で展示中のダイオオグソクムシに集まる子ども。わかる、そっち派手だもんな。
見たい方はお早めに
メンダコはこれまでも何度か捕獲され同じように大切に展示されたことがあったらしいのだが、いまだ長期の飼育は成功していないのだとか。ちなみにこれまでの最長飼育記録は22日間。
今回のメンダコは2月13日に捕獲され、この記事が公開される3月3日で19日目である。まったく予想のできない展示ですので、見たい方は急いだ方がいいようです。