蔵の代表銘柄は金婚と十右衛門、屋守。
創業は今から約四百年前。慶長元年1596年になります。初代の豊島屋十右衛門が江戸の神田橋の近く。石材などを陸揚げする河岸付近で武士、職人、商人達を客として酒屋兼、一杯飲み屋を始めたのが最初です。
蔵を訪問したのは2月初旬。仕込の真っ最中でした。蔵の中がいい匂い。
当時、関東では味のいい日本酒を製造する技術がまだ無かったので、上方(関西)から船で運ばれてくる「下り酒」がもてはやされていました。そこで船で着いた酒を安く売る酒屋と飲み屋を河岸の近くで開いたのです。
タンクの中ではブクブクと発酵中。ちなみに、上方から下ってくるのが下り酒で、それ以外の味の落ちる酒は「下らぬ酒」と言われた。つまらない物を指す「くだらない」の語源と言われています。
飲み屋では酒の肴として特別大きな田楽を販売して大評判となり、大変繁盛したそうです。ある意味、酒と料理を一緒に提供する居酒屋と言う営業形態を広めたのも豊島屋酒造と言えます。
そして江戸っ子に人気だった蕎麦と一緒に酒を飲むことを勧めたのも豊島屋十右衛門が最初と言われています。売れるところに売り込む。十右衛門さんやり手です。
炭酸ガス発生中。いい香りがするからと言ってタンクに頭を突っ込むと酸欠で最悪死にます。危険。
更に、この蔵発祥なのが結婚式での鏡開き。
昔は木の樽で酒を運んでいて、酒を売ったあとには沢山の空樽が出ます。この沢山の空樽を醤油や味噌造りなどの為に販売して再利用することも豊島屋十右衛門は思いつきました。その樽を売った利益で酒を安く提供し、更に店は繁盛したそうです。
酒屋、飲み屋、酒製造の他にリサイクル業までやっていたわけです。凄い商売人。ちなみに、「金婚」は、明治神宮、神田明神、日枝神社の御神酒としても使われているそうです。
酒樽のフタを叩き割って飲む飲み方は、武士が戦の出陣の際に兵達の気持ちを鼓舞しようとカメに入った酒を振る舞ったのが始まりとも言われています。
この武家社会の風習を祝い事の席で行う事を思いついたのも豊島屋。凄い販路開拓力。
鏡開き用酒樽の準備の仕方を見せてもらう
東京の住宅街にひっそりとある酒蔵ながら色々と歴史のある豊島屋酒造。今回は鏡開き用の酒樽の準備を見せてもらえました。
もし、この後の人生で結婚式、社長就任、自社ビルを建てた際のお祝いなどで鏡開きをすることになってしまった!なんて際もこれを読んでおくと慌てることは無い・・はずです。
コモ巻き職人の尾崎さん。普段は製造担当で注文が入った時のみコモを巻いています。コモを巻く技は前に巻いていた人から教えてもらったとのこと。北斗の拳的に言うなら一子相伝の技ということか。
今回鏡開き用樽の準備を行ってくれたのは、コモ巻き職人の尾崎さん。翌日に羽田空港で行われる日本酒イベント向けの酒樽の準備を見せて頂きました。
4斗(72リットル)樽。入れる量によって中が底上げされていて、実際に満タンで出荷することはほとんど無いらしい。
こちらが鏡開き用の樽。杉の木で出来ています。最初はこれに熱湯を入れてしばらく放置します。
仮に隙間が空いていてもその場で補修する技術もあるそうです。
これにより、樽の中を殺菌するのと、樽に隙間があって酒が漏れないかをチェックします。乾いた樽は縮んで隙間が空くので、それを塞ぐ意味もあります。
瓶の上に乗っている棒は一升瓶の王冠を抜く道具。上からかぶせて引くだけで簡単にフタが空く。ちょっと欲しい。
お湯を抜いたら酒を詰めてフタをします。先に外側にコモを巻いてしまうと、酒を入れる時に万が一こぼしてしまったら汚れてしまうので酒が先。
これは歌舞伎の平成中村座オリジナルのコモ。オリジナルのコモは結構いい値段するそうです。
酒を入れ終わったら樽の周りにコモを巻きます。コモは元々運搬の際に樽がぶつかり合って破損するのを防ぐ為に巻いていた物。その表面に対して区別がつくように色々模様を書き込んでいたのが今の様にラベルを書き込む形になりました。
ちなみに巻き方には2酒類あります。
飾ってある酒樽はこの形が多い。
まずこちら。「本荷」と言われる巻き方。運搬用に使われる巻き方です。
本荷も、紐を空けた後に上にかかったワラを外側に倒して鏡開き用として使うこともあるそうです。
そしてこちらが鏡開き用の「鏡」といわれる巻き方。フタ(鏡)の部分が見えています。
この飲み口を取りつけるのもコツがあるらしい。失敗すると樽が割れて大惨事に。樽酒は色々下準備があります。
「本荷」を飲む際には樽の側面にある穴に飲み口用の木の筒を打ち込みます。今回は鏡開き用の酒樽なので「鏡」の方で巻かれます。
ちなみに、樽やコモのリサイクルは今はやっておらず、基本的には売った先の方が処分しているそうです。
樽にはまず発泡スチロールのガードをつけます。昔は直接巻く事もあったのですが、樽の段差でコモにシワが出来てラベルが曲がってしまうのでこのようにしています。祝い事なので見た目も大事。
1本巻くのに鏡だと20分ぐらい。本荷だと30分から40分ぐらいかかります。
巻く際にはまず中心を決めてそこにラベルの部分が来るようにします。高さを合わせて両側を折り曲げたら巻き付けます。
手際よく巻かれていく。
このあたりから結び方が難しくなり一度見ただけではマネ出来ない職人レベルの技になってくる。
続いて同じように樽の底のコモに紐を通して閉じていきます。
もうどう結んでいるのか分からない。
コモの底を閉じたら縄をかけていきます。縄を結んだら完成です。お見事!
鏡開きの際の注意点
さて、今度は実際に鏡開きをやる際の注意点です。
この紐を切る所から鏡開きは始まる。木槌だけでは鏡開きは出来ません。
鏡開きをやる際には色々な道具と事前準備が必要です。まず道具としては、木槌。他にはハサミなどの刃物、バールやくぎ抜きのような金属の棒、茶こしのような網も必要になります。
まず上にかかった縄をハサミで切断します。
中身の入っていない要らない樽を空けさせてもらった。ガッチリはまっているので簡単には外れません。
続いて木槌でバールをフタ(鏡)と樽のスキマに入れてフタをこじ開けます。バールは樽が割れないように樽の板の繋ぎ目付近を避け、フタの板の繋ぎ目近くに入れます。
鏡開きの時のフタはこういう棒で組み合わされて上に置かれているだけの状態になっている。
フタは木槌で叩いたぐらいでは割れないので、先にフタを外しておく必要があります。一度開けたフタをバラバラにした後に組合せ、それを樽の上に軽くおいておきます。
また、フタを空ける際に木くずが中に落ちるので、網で取り除いておきます。
この状態で鏡開きが出来る。知らずにそのままの状態で鏡開きをしたが全く割れず、建築用大型ハンマーで叩いて開けようとしたら樽が崩壊して大惨事になったという人もいるそうです。鏡開きは空けてから!
ここまで準備をしたらいよいよ鏡開きが出来ます。
紅白の帯をつけた木槌で掛け声と共につなぎ目付近を狙って軽くたたけばOK。柄杓で升に注ぎ分けて飲みましょう。
鏡開きは空けてから
豊島屋酒造に関しては、以前「
東京の酒造に日本酒はあなどれない」という記事でもこちらの蔵を簡単に紹介しています。そこでも書きましたが、雛祭りで飲まれる白酒を江戸で作り始めたのもこちらの蔵です。
「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」と謳われるほど江戸の名物となり、2月の白酒売り出し日には1,400樽もの白酒が売れたそうです。
そして、鏡開きを自分でやることはまず無いとは思いますが、用意する際は必ず先に開けてから行ってください。無理やり叩き割ろうとすると、クリスマスにシャンパンを景気よく開けようとして、飛んだ栓で蛍光灯を割ってテーブルの上の料理を台無しにしてしまった。そんな状態になるでしょう。要注意!
人生1度は鏡開き体験
酒蔵で鏡開きイベントやります。参加者全員が樽酒と蔵の日本酒を飲みながら一人一回は鏡開きをやり、他の参加者全員から何でもいいので祝われまくるというイベントです。
こちらのイベント(「
ほめられ屋敷」)の鏡開きの部分だけを取り出し、酒や料理を楽しみながら行う感じです。
開催概要は以下になります。
「開いて!祝って!日本酒会 人生一度は鏡開き」
【開催日時】
2014年4月20日(日) 13時~16時
【会場】
東村山市 豊島屋酒造内
東京都東村山市久米川町3-14-10
西武新宿線 東村山駅 徒歩約15分
現地集合、現地解散となります。
【参加費】
4500円
※鏡開き体験、蔵見学、日本酒、酒の肴、酒粕付き。
【定員】
30名
【連絡先】
酒と醸し料理 BY
http://kamoshi-by.cocolog-nifty.com/blog/
〒174-0072
東京都板橋区南常盤台1-29-6 シブヤビル1F
03-6325-9874
[email protected]
【協力】
しずく屋
http://shizuku-ya.com/
豊島屋酒造
http://www.toshimayasyuzou.co.jp/
【申し込み方法】
参加申し込みは以下のメールアドレスの本文に名前、住所、電話番号、参加希望人数を記載し、件名を「鏡開きイベント参加希望」として以下のアドレスに送付してください。
[email protected]
折り返し参加代金振込先と振込金額をお知らせします。振込手数料は参加者の方の負担とさせていただきます。
振込確認後参加案内と参加確認の番号をお知らせします。