雪はなくても砂がある
雪が多い地域では原付のタイヤにチェーンを巻いたり自転車にもスパイクタイヤを付けたりすると聞いた。そういえば僕も石川県に住んでいたころは原付に乗っていて、冬の間さんざん苦労した記憶がある。
僕がいま住んでいるのは神奈川県で雪が降ることはめったにないのだけれど、その代わりと言ってはなんだが砂がある。
砂です。
特に海沿いの道に関して言うと、風が強く吹いた次の日なんかは車道にまで砂が積もっていたりしてこれがすごく危ない。これは季節によらず一年中である。
この砂、自転車に乗っている人にとっては本当に死活問題なのだ。
特にタイヤの細いロードタイプの自転車の場合。
もろに埋まる。
砂にタイヤをとられて何度転んだことか。いきなり目の前に現れた砂だまりに突っ込んだと思ったらすでに前輪が横滑りしていて、倒れ始めるともうどうしようもできない。
「砂界」なんて標柱、他であまり見たことないだろう(砂防指定地区ということらしいです)。
こういう場所に暮らす人たちの自転車はタイヤの太いものが多い。これはひとえに砂に埋まらないためである。
ビーチクルーザーと呼ばれるタイプです。
僕の自転車のタイヤと比べると倍くらい太い。溝もあって砂に強い。
こういう場所に住んでいるのにあえて細いタイヤの自転車を買った僕が悪いような気もするんだけれど、かといって今さら買い換えるのももったいない。僕はもう転びながら生きていくしかないのだろうか。
いろいろ調べてみると、雪国では結束バンドをタイヤに巻いてスパイクタイヤにしている人がいるのだとか。
これだ。
というわけで買ってきました。
ご存じ結束バンド。
結束バンドの便利さは今さら言うまでもないだろう。これとあとホットボンドさえあればほとんどの工作はできてしまうような気さえする。
結束バンドでタイヤをスパイクタイヤにする
特に難しい手順もないので早速とりかかりたい。これから自転車のタイヤに結束バンドを巻いていく。
ロードタイプの自転車を普段使いしている人が唯一感じる利点といえばタイヤを簡単に外せることである。対して、数ある欠点の中からあえて3つ挙げならば、転ぶ、パンクする、痔になる、だろうか。負け戦だ。
ただ巻くだけです。
正解がないので手さぐりなのだが、たぶん結束バンドの「バックル」部分は内側にしたほうがいいと思う。走るときにごつごつするので。
作業中このあたりで「なんか違う」から「かっこいい!」に気持ちが切り替わりました。
できた。
すごい。
10分くらいで前輪を巻き終えたのだが、なんというか感想を一言で表すと、すごい、だ。常識を超えたかっこよさがある。内側に向いたバンドの先が
ワラスボみたいである。
同じように後輪もワラスボ化していく。
家の前で作業していたらご近所さんから挨拶されました。
こういうことを家の前でやるときには堂々と玄関の前でやるようにしている。こそこそしていると余計に怪しいからだ。
この日も作業中にご近所さんから挨拶されたが、堂々と「おはようございます!いま自転車を直しているんです。」と答えた。明らかにその直し方違うだろうが、という顔をされたが別に悪いことしているわけじゃない、おかしなことをしているだけだ。
ほどなく完成。
30分ほどで前後輪に結束バンドを巻きつけ終えた。これはもう、かっこいいとしか言えないだろう。ベン・ハーという映画に出てきた中世の戦車のタイヤがこんなだった。横の敵にぶつけて倒すのだ。
かっこいいがただ一点、問題も露見した。それも非常に重大な問題が、である。
ワラスボ、ブレーキ問題とでも言おうか。
すれすれである。
理由は結束バンドをタイヤに巻いたからである。僕がさっき30分かけてやった。
これでは少しでもブレーキに手をかけた途端にブレーキが結束バンドをとらえ、タイヤがロックしてこけるだろう。バカなことをしてケガすると本当に悲しい気持ちになるのでそれだけは避けたいところだ。
というわけでブレーキ外した。
これにより公道を走ることができなくなった。
今ものすごい本末転倒感が漂ったが、今回は結束バンドスパイクタイヤの機能面のみの検証ということで、許してもらいたい。車輪の中心部で制動するディスクブレーキタイプの自転車だと問題ないかと思います。
かっこいいから許してほしい。
公道で乗れなくなったので海まで押していくことにした。
すごい、アスファルトの道を押す自転車がまるで別物だ。結束バンドが道と当たる度にカチカチと硬い音とたて、同時にブルブルと電動髭剃りのような振動がハンドルから伝わってくる。加えてバンドの余った部分が風を切ってサワサワ鳴っている。なんというかタイヤから生の息吹を感じるのだ。まるでペットを散歩させているみたいである。
調子よく小走りしていたのだけれど。
うっかり前輪のブレーキをかけたら「バリ!」という音とともに結束バンドが一本吹き飛んだ。
もしもの時のために、と前輪のブレーキは残しておいたのだけれど、そのブレーキを軽く握った瞬間、結束バンドが1本吹き飛んだ。近くにいた壁の塗装業者の人たちが驚いて見に来たほどの音である。乗っていたら確実にこけていた。
結束バンドスパイクタイヤの効果やいかに
海にやってきた。
ワラスボ自転車を引っ張ったまま砂地に入ると、明らかにこれまでとは違ったタイヤのグリップ力を感じる。
これはもしかするかも、と思わせる手ごたえである。
「ならおれ今から本気出しますわ!」とタイヤが振り向いて言った気がした。
なにしろタイヤ跡が今まで見たことない感じになるのだ。
一人だけ変なの通った。
おお!
おおお(ザワザワザワ…)!
音と振動があるので安心感はない、ただ、砂の上では底知れぬグリップ力を感じる。
舗装された道ではカチカチいって逆に横滑りしそうな不安感があるのだけれど、こと砂地となると地面をしっかりとらえている感じがハンドルからも伝わってくる。これまでみたいに左右に振られることも少ない。
深いところに突っ込んでみた。
砂の深いところに突っ込むと、さすがに埋まって止まってしまったが、それでも通常のタイヤではここまで進むことすらできなかったはずである。たかだか1ミリたらずの厚みの結束バンドでこのスパイク感。これはきっと雪道でも威力を発揮するに違いない(雪が降ったらまた試します)。
強そう。
結束バンドの可能性がまたひとつ
前から便利だなとは思っていた結束バンドだが、まさかタイヤに巻いて砂地を走れるようになるとは思わなかった。30分くらいで装着できるので、行先が砂地の朝には選択肢に入れてもいいだろう。ただし実用するのはブレーキ問題をなんとかしてからだ(ここすごい大事)。
タイヤが細い自転車はこういう工夫をこらしながらも乗りたくなる魅力があるのも確か。