水を甘くするたくあんの正体は「サッカリン?」
この記事は2008年の記事「
水が甘くなるたくあんを求めて」について重大な続報があったため急遽掲載するものだ。
前回の記事でどうも最近のたくあんは食後に水が甘くならないらしいぞと焦った私は以下のような手順で水を甘くするたくあんを追った。
(1)数件のスーパーを回って買い集めたたくあん9種類について食後の水が甘くなるかどうかを確かめる
→どのたくあんも甘くならず
(2)水を甘く感じるのは子どもの味覚だけかもしれない(子どものころの思い出の味であるため)。子どもに食べてもらう
→甘く感じるという感想は得られず
全敗であった9種類のたくあん
今回新たに甘味料などの材料の違うたくあん4種を買って試してみたが、やはり水は甘くならなかった
(3)全日本漬物協同組合連合会の方による「現在のたくあんは以前に比べ低塩化し甘味も以前以上に加えられている」という情報に基づき、甘味料の入っていない昔ながらのたくあんをとりよせ調査→水は甘くならず
甘味料の入っていないたくあん。これもダメだった
(4)日本味と匂学会会長の先生による「かつてたくあんに使われていた人工甘味料、サッカリンナトリウム(以下、サッカリン)がいまのたくあんには入っていないからではないか」という説に基づき、サッカリンの入ったたくあんで調査→やはり甘くない?
取り寄せた、サッカリンの入ったたくあん。これでもだめだった
調査は一応ここまでで終了、「水の甘くなるたくあんは見つからなかった」として記事は幕を閉じかけているのだが、最後の最後でどんでん返しが起こっている。
サッカリンを使ったたくあんを売っていた漬物屋さんがサービスとして入れてくれた日野菜漬という漬物を食べた途端、求めていたあの甘さが口の中いっぱいに広がったのだ。
問題の日野菜漬
水を甘くしていたのはやはりたくあんの原料である大根ではなかったのだ。そして問題の日野菜漬に使われていた甘味料はサッカリンと甘草であった。
甘草は現在売られているスーパーのたくあんにも入っていることが多かったため、水が甘い問題の原因はやはりサッカリンなのではないか。というのが前回までのあらすじだ。
栃木で、やっとあえたね
さて、そこまで分かりながらもサッカリンの使われた漬物をその後なかなか見かけることもなく(サッカリンが発がん性物質を含むとして一時は規制されるも、その後規制緩和されるに至るといった複雑な背景があるためだろう)、調査は打ち切られたままになっていた。
そんななか栃木の那須でかっこいい漬物の素を見つけたのだ。
たくあんの素、楽京の素、赤漬の素。どれもかっこいい
瓶は王冠で蓋がされており、いかにも昔ながらの雰囲気。そのかっこよさにしびれて手にとった。
そして何気なく原材料を見ると、サッカリンの名前があるではないか。
はっ! 今か、パリのシャルル・ド・ゴール空港で辻仁成が中山美穂に言った伝説のセリフ「やっとあえたね」を言うべきときは。
栃木のダイユー(スーパー)が私のとってのシャルル・ド・ゴール空港になろうとは
ちなみにそんな我が心のシャルル・ド・ゴール空港、ダイユーには店内に突如として無料のお味噌汁サービスコーナーがある
那須へは那須高原に休暇で訪れたのだが、地元スーパーをひやかしてみて漬物の材料コーナーが広いので驚いた。おいしい野菜のとれる土地であるし、大量の漬物を家庭で漬ける家庭が今も多いのかもしれない。
栃木のスーパーといえばいままでレモン牛乳でしかなかったが、漬物の材料も熱いとは
バリエーションの多いなかでその漬物の素たちは明らかに気をはいていた。こいつらなら、口のなかを甘くしてくれるはずだ…。
もちろん「たくあんの素」にもサッカリン
漬けずに、なめよう
さて、そうして自宅に連れ帰った漬物の素たちであるが、購入したときに私には勝算があった。これならなめて試せるぞと。
前回、サッカリンが使われたたくあんで水が甘く感じなかったという経緯がある。今考えてみるとあれは口に入るサッカリンの量が少なかったからではないか。
漬物の素のままなめて、それから水を飲めばダイレクトにサッカリンの水あま作用を感じられるかもしれない。そう思ったのだ。
漬物の素をなめる話をだ・である調でえらそうにしてしまって申し訳ないが、今回は確実に甘い水を飲みたいのだ。
というわけで、各種少量づつ皿に出しました
すしにも使える楽京の素
まずは楽京の素。5キロのらっきょうをこの楽京の素1瓶と塩で漬けられるらしい。寿司や酢の物にも使えるということなので、いわゆる三杯酢か。
なめてみる。うん。おいしい三杯酢です。うまみが効いていてすし酢のようだ。
そして、水! ごくり!
はい、水ですね!
楽京の素で水、甘くならず…。「ガビーン」という色にしました
この「期待しながら食べて水をのみ、その水が甘くならない」という独特の体験、2008年の記憶がよみがえる。
いや大丈夫だ。まだ2種類ある。
手に染みる赤さ、赤漬の素
続いては赤漬の素。目の覚める赤さである。テーブルにこぼしてしまった分を布巾でぬぐったときに手に付いたらなかなか赤さが取れなかった。おそるべし。
用途としては生姜(これ1本に塩1キロで5キロが漬けられる)や大根を漬けるのに使うとある。
こういう赤さがまた懐かしい
なめてみると、あ、すっぱいのかこれ。よく見たら成分の30.7%が酢酸とある。
水を飲むと、あ…あらあらあら?!
これはなんだろう。たくあんを食べて水が甘くなるあの感じとは違うが、なんともいいがたい後味があった。
単純にすっぱさに反応して唾液が大量に出ているだけだろうか。
何しろ、「惜しい」と感じさせるものはあった。
赤漬の素、惜しいので写真の色はちょっと残してあります
なめ比べてみてから気づいたのだが、あきらかに水に変化のなかった楽京の素のほうが含まれるサッカリンの量は多い(楽京の素が0.44%、赤漬の素が0.25%)。
水の甘さが単純にサッカリンだけが作用したものではないとすると、正直言ってたくあんの素も危ないのだが…。
見た目はきなこ、においもきなこ
結局、期待も不安も最終的にはたくあん(の素)に集まることとなった。そもそもがたくあんからはじまっているのだ。ここでぜひ落とし前をつけてほしい。いや、つけてください本当にお願いします。
においがきなこなのでなぜ、と思ったら約90%大豆粉だった
一袋で「四斗樽」分が漬けられるらしい。四斗樽といわれてもピンとこないので画像検索してみると、大きなお祭りでやる本気の鏡割りのときの樽のサイズだった。
3キロの食塩とともに大根100本が漬けられるという。
ど、どんな味の粉なんだ。怖すぎるので耳かき半杯くらいを試してみた。
苦っ! 水! 水!
化学にまるでうといため成分表から一切味の判断がつかず、体当たりでなめているのがばれて大変におはずかしいが、驚きの苦さであった。重曹かと思うほどだ。
しかし、あわてて飲んだ麦茶(水ではなくうっかり手じかにあった麦茶を含んでいた)が、ぱーっと甘くなった。確かに。
これだ。
これだ!
苦っ! からの、甘っ!
苦味に反して麦茶のまろやかさが立つというのではなく、明らかに水の味が変化したのが分かる。
昔感じたあの現象と間違いなく同じだ。2口めの水では甘さを感じないところも似ている。
後光が差した
やっぱり水を甘くするたくあんは存在したのだ。そして少なくとも栃木には家庭の味として現存していたのだ。
まさかと思ってあわてて追加調査
さて、ここまでやってきたので最後にもうひとつ気になることを解消しておきたい。
楽京の素や赤漬の素でダメだったので期待は薄いが、もしかして漬物の素をダイレクトになめることで水が甘くなったりするんじゃないかと気になってしまったのだ。
このまま気になりっぱなしなのも気持ちが悪く、スーパーで手軽に買えるものだけでもと4種類の漬物の調味料を買ってきた。
どれもサッカリンは使われておらず、「果糖ぶどう糖液糖」や「還元水あめ」が甘味料として使われていた
結果やはりどれも水は甘くならなかった。
なめては水を飲むも、まるでかすりもしない。だんだん飲む水が甘みを感じるのではなく漬物の素の味を口からリセットさせるチェイサーのような役割になってきて「あれ、なにやってんだっけこれ」と思ったのだった。
今はなにしろ早急にたくあんの素でたくあんを漬けたい。水を甘くするためには「たくあんの素」を濃い目で作るとしてもひと袋使って大根80本くらいだろうか。1本2本漬けるのではなくせっかくだからたくさん作ってみんなに振舞いたいので四斗樽を置かせてもらえる場所を探さねば。
人工甘味料のおもいで
現状、サッカリンを使った漬物はあまりスーパーなどで売られていないことからこれからどんどん「たくあんを食べたあとの水って甘かったよね」という記憶は失われていくと思われる。
たくあん後の甘い水が事実存在したことが確実となったいま、自信をもって語り継いでいきたい。
あの甘い水を。
疑心暗鬼になってきな粉でも試した。水を飲んだらこうばしい感じはしました