特集 2013年9月4日

子供といっしょに夏休みの絵日記をつける

約一ヶ月間、子供といっしょに絵日記をつけた
約一ヶ月間、子供といっしょに絵日記をつけた
手強い夏休みの宿題といえば絵日記というものがあるだろう。これは、休み中なまけてつけないでいると、あとで大変なことになる。

もちろん、小学校に通う息子の太郎(7歳)にも絵日記の宿題が出た。

親としては、毎日少しづつしっかりと絵日記をつけていただきたいと思うのだが、かんじんの本人のやる気はあまりない。

しかたないので、ぼくもいっしょに絵日記を一ヶ月つけることにした。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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やる気はほぼゼロ

先ほど申し上げたとおり、息子のやる気は、ない。
しぶしぶプリントをやる息子
しぶしぶプリントをやる息子
わかる、その気持ちはわかる。ぼくも絵日記なんて最後の日に適当にかいて出してた。

でも今、じぶんの息子にはできれば毎日日記をつけてほしいと思う。

自分の過去は棚に上げておいてこの言いよう。親とはほんとうに身勝手なものである。

しかし、口先でやれと言うだけでは、やる気のない子供の反発心をかうだけである。そこで、父親であるぼくもいっしょに絵日記をつけてみることにした。

自らが手本となり、絵日記をつける姿をみせることによって、子供のやる気を引き出そうというもくろみである。

えーと、たしか山本五十六の言葉でそんなのがあったはずだ。やってみせて、言って聞かせて褒めないと人は動かない。みたいなやつ。それだ。

「お父さんもいっしょにつけるから一ヶ月いっしょにがんばってつけてみようか?」と、太郎に声をかけてみた。
えー
えー
返事は「えー」であった。

そのあと、言ってはいないがその表情からは「こいつめんどくさいこと言い出した」という気持ちがありありとみてとれた。

でもいい、太郎はどのみち絵日記をつけなければいけないし、ぼくが絵日記をつけるのはかってだ。

ぼくのつける絵日記をみて太郎が「自分もつけるぞ!」と奮発してくれればそれでよいのだ。

大人になってつける絵日記は気が楽

さっそく文房具店で絵日記帳を2冊購入。それぞれの名前を書いて絵日記スタートである。
字の下手さが同じぐらいで恥ずかしい
字の下手さが同じぐらいで恥ずかしい
ぼくが最初につけた絵日記はこれだ。
最初なので頑張ってかいた
最初なので頑張ってかいた
先日掲載された「月島はニューヨークである」の撮影で訪れたギャラリーについて書いた。
ギャラリーのおじさんがすごくいい人で、いろいろ見せてくれたものの、話が若干長く、その後の予定が狂ってしまった。ということをかいた。
オブジェの前で記念撮影した思い出を絵に(「月島はニューヨークである」より)
オブジェの前で記念撮影した思い出を絵に(「月島はニューヨークである」より)
強制的にやらされる宿題と違って、大人になってからつける絵日記は休み明けに学校へ提出しなくても良いという心構えで取り組めるので気が楽だ。10分ほどでかきおわってしまう。

一方、太郎は30分ほどかけてこんな日記をつけていた。
なんだかわからない
なんだかわからない
プールが冷たかったらしい。唇が紫になったということを訴えている。
絵の意味がよくわからないのだが、寒くなったのでプール横の小部屋でバスタオル(緑の横しま)にくるまっているシーンだそうだ。

お前の7月22日いちばんのハイライトは「唇が紫になった」でいいの? と思ったが最初なので「ちゃんとかけたね」といって褒めておいた。

正直、褒めどころがよくわからなかったので「絵日記をちゃんとつけた」ということ自体を褒めた。メタ褒めである。
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絵をパクられる

7月23日。ゲリラ豪雨が東京を襲った日、ぼくは家で作業をしていた。その日の日記がこちらだ。
7月23日
家で作業しながら外の様子を考えている……という絵を描いた
家で作業しながら外の様子を考えている……という絵を描いた
ネットにアップされる豪雨被害の画像を見ながら外の様子を考えている。といったふうの絵日記をつけた。

学童保育から帰ってきた太郎は、ぼくの絵日記をみてからこんな日記をつけた。
7月23日
あー!パクられた!
あー!パクられた!
絵をパクられた。

「え、これ、お父さんの日記まねしてかいた?」と思わず太郎にきいてしまった。太郎はまねはしたけど、椅子に座ってる部分などにオリジナリティは出したといいはる。
ソファで独創性を表現
ソファで独創性を表現
なるほどわかった。絵をまねしたことはひとまず置いておいて、ちょっとひっかかったのは日記の本文だ。
「きょう大雨がふってかえりづらかったです 家にかえってえにっきにそのことをかきました。」
「大雨がふってかえりづらかった」というものの、大雨の大変さをかくわけではなく、「そのことを絵日記にかいた」ということを絵日記にかくという。劇中劇みたいな日記はいったいなんなのか? 不条理四コマ漫画の世界観に近い。

もうパクっていい

その後も日記のパクリは続く。
一日で食べたものを思い返す
一日で食べたものを思い返す
ぼくが外出先で食べたものや頼んだものを振り返る絵を描くと……。
サイゼリアで食べたものを思い返す
サイゼリアで食べたものを思い返す
次の日、またまねして絵を描く。

この日は特に「お父さんがきのうかいた絵みたいにどうしてもかきたい」と言って描いた。

そんなにどうしてもまねしたいほどの絵か? と思うのだが……。

絵の構図やアイデアを自分の描きたいことに合わせてまねして描くということはその後たびたびあった。

例えばこれ。
7月31日
鬼となった瞬間
鬼となった瞬間
今年は仕事が忙しく、妻の誕生日になにかを買うような時間がなくなってしまい、妻が家に帰ってくるなり「誕生日なのにケーキのひとつもないのか!」と怒り狂った。ということを戯画化して描いた。

最初この絵を見た太郎は「こんな絵をおかあさんが見たら怒る」と思ったのか、気を使って小さい声で「いいの?」と確認してきた。

しかし、妻がこの程度の絵では怒らないということがわかると、さっそく絵をパクった。

それがこちらだ。
8月24日
カミナリの部分がオリジナリティか
カミナリの部分がオリジナリティか
プリントをやらずに怒られたときのことを描いたようだ。ぼくはパソコンに向かって仕事をしている。

内容はともかく、自分の書きたいことに合わせて絵をまねをしているのはわかる。

絵のパクリに関しては、パクってるとはいえ、ちゃんと自分の言いたいことに合わせて表現をまねして描いているので、特に何もいわないことにした。

ただ、最後のことば「こんごからはきおつけようとしています」というのが中国の変な日本語みたいになってしまっているのでもう少し頑張って頂きたい。
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青森、山口でそれぞれ絵日記を続ける

8月上旬、太郎は青森の祖父母の家へ、そしてぼくは山口へと取材に行った時期があった。
出かける前にそれぞれ絵日記はまいにちちゃんとつけるということをお互いに約束した。
列車で日記をつけるわたくし
列車で日記をつけるわたくし
旅先では数日、日記が空くことがあったものの、なんとか毎日分がんばってつけた。
8月8日
鳥取から北九州まで夜行バスに乗ったことや
鳥取から北九州まで夜行バスに乗ったことや
8月9日
義経の八艘飛びが内股気味になってしまった
義経の八艘飛びが内股気味になってしまった
ぼくは、むかし勤めていたバス会社の夜行バスで、鳥取から北九州まで移動したことや、壇ノ浦の戦いで有名な壇の浦に行ったことを絵日記につけた。
壇ノ浦で入水して死んだ安徳天皇と二位尼が「エンジョイ!下関!!」
壇ノ浦で入水して死んだ安徳天皇と二位尼が「エンジョイ!下関!!」
さて、太郎の日記である。

離れ離れになって、ぼくの日記のまねができないという状況で、どんな内容の絵日記をつけるのか? そもそも日記をつけるのか?

もっとも、祖父母にちゃんとつけさせるように頼んだので日記をつけなくなるということはなかったようだ。
彼なりにがんばったようだ
彼なりにがんばったようだ
8月7日
浮き輪にのっている自分を描写
浮き輪にのっている自分を描写
海水浴に連れて行ってもらって、浮き輪に乗ったらしい。

文字の間違いがひどいが、浮き輪に乗った自分がどれぐらい沖に流されたのか、絵でちゃんと説明している。

ちなみに、色はぬるのが面倒くさくなったらしい。
8月10日
首が飛び出る
首が飛び出る
川で黒いトンボを見つけて驚いたという事をかいている。

文章では「めずらしくて目玉がとびだしそう」と書いているが、なぜか絵は首が伸びてる。というのもちゃんと文章でツッコんでいる。

いつのまにか、首が伸びる表現や、欄外の作者ツッコミのような漫画っぽい表現手法を会得している。なにがあったのだろう。
8月9日
見にくいけれど左の黒いのがお金
見にくいけれど左の黒いのがお金
駄菓子屋で駄菓子のセットを買ったという日記なのだが、面白いとおもったのは、お金を拓本を取る要領で鉛筆をこすりつけて模様を浮き出しさせて描いていていることだ。

なるほど、横着といえばそうかもしれない。ただ、そういう工夫ができるまでに大きくなったか……という思いもある。

子供は知らないうちにどんどんいろんなことを覚えていくのだ。

提出用の絵日記をかく

ところで宿題の絵日記は、今までかいた日記の中でとくにこれはというものを画用紙に清書しなければいけない。

そこで、太郎がえらんだのがこの日記だった。
大雨のときの日記を選んだ
大雨のときの日記を選んだ
2ページ目で紹介したものよりもさらに加筆されている。読みにくいので文字に起こしてみた。
家にかえりづらかった。
7月23日火曜日
二年三組 西村太郎

きょう大雨がふってかえりづらかったです。家にかえってえにっきにそのことをかきました。大雨がふったことをかくのではなく、大雨がふったことを絵にっきにかいたことをにっきにかいたのでおかあさんにわらわれましたた。とてもむかつきました。
なぜこの日の日記を清書したのかも含めてもう、わけがわからない。

絵日記はおもしろかった

以上、子供の夏休みの間いっしょに絵日記をつけてみた。とにかくほぼ毎日、絵日記をつけさすことには成功した。

さっき寝る前に「絵日記つけるのおもしろかった?」ときいたら「うん」答えたので「じゃあ今月もつけようか!」と水を向けると「いや、夏休みだけでいい」といって寝てしまった。

結局「お父さんがかいているから、ぼくもかこう」というきもちになってくれたかどうかはわからない。
絵日記を記事に使わしてくれる代わりにラーメンおごった
絵日記を記事に使わしてくれる代わりにラーメンおごった
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