特集 2013年8月20日

10年かけた自作飛行機がついに飛んだ

これが飛ぶ
これが飛ぶ
「欲しかった飛行機、作ってみた」

そういって『風の谷のナウシカ』に出てくる飛行機をつくって飛ばすOpenSkyというプロジェクトがある。手がけるのはメディアアーティストの八谷和彦さん。

足かけ10年、今夏ついにそのテストフライトが行われた。

そして筆者はボランティアスタッフとしてそのお手伝いをしたので、筆者が飛ばしたといってもいいかもしれない。おめでとう、私。
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

メディアアーティストの八谷和彦さん。ポストペットのモモちゃん作ったのもこの人。
メディアアーティストの八谷和彦さん。ポストペットのモモちゃん作ったのもこの人。

いきなり飛んだ様子からお見せしよう

動画を視聴できる方は次のテストフライトの様子をごらんいただきたい。OpenSky 3.0公式の紹介ムービーである。

10年かけて初めて自力で飛ぶ瞬間がおさめられている。なんて感動的な場面だろう。
これが白鳥が優雅に泳いでる部分で、これから記事で紹介するのが水面下の部分

白鳥の水面下を紹介する

このフライトには立ち会ってないが、筆者自身同じような場面に立ち会ったのにウウッとこみあげるものがあった。その感動、記事の最後までとっておいてほしい。

……さて以上が白鳥が優雅に泳ぐ姿であり、お待たせしました、これからお見せするのが白鳥が水面下でもがく足である。

ある日テストフライトの認可がおりたと八谷さんから連絡が入り、人が集められた。ぼくは飛行機好きでもなんでもなかったが、たまたま知人に頼まれて参加した。

早朝の都内に集合し車で千葉へ。八谷さんの車にのせてもらったため、話をきけた。
早朝、恵比寿駅に集合し千葉の公園につれていかれる
早朝、恵比寿駅に集合し千葉の公園につれていかれる

自作で飛ぶのはめちゃめちゃ大変らしい

八谷さんは主に自作の飛行機を飛ばすことが今の日本でどれだけたいへんか、役所に認められるにはどうしたらいいかをこんこんと説明してくれた。

しかしぼくは当事者意識がなくて「たいへんっすね~」で聞き流してしまった。ごめん!

それよりむしろ「こわくないんですか?」「死にますよね」とかぼんくらなことばかりきいてしまっていた。
自作飛行機界のレジェンドだとのちに判明する大西さん 『90歳のおじいちゃんが発明した電動三輪車』</A>より
自作飛行機界のレジェンドだとのちに判明する大西さん 『90歳のおじいちゃんが発明した電動三輪車』より

海の上だとまず死にます

「たとえば大北さんが以前取材していた大西さん、あの人は本当にすごいんですよ」

90歳で電動三輪車自作していたおじいさんだ。取材時にわかったがこの人は実は自作飛行機の伝説的な人だった。

「大西さんは海をこえて大島まで飛んだでしょう。あれなんか今だとぜったい認可はおりないでしょうね。

陸の上だと何かあったときになんとか降りれる場所をさがせるものなんです。でも、海の上だとまず死にます」

まず死ぬ。そんな話あんまりきいたことがない。大西さんの90歳ってふつうの人よりももっとすごいことだったのだな。
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倉庫から機体を運び入れ、翼は牽引していく
倉庫から機体を運び入れ、翼は牽引していく

ジェットエンジンの燃料は灯油

倉庫によって機体と備品をつむ。翼が入ってる箱は牽引していく。

そもそも牽引を見ること自体はじめてだ。牽引する箱にもナンバーがあって(これ教習所で見た!)と低いレベルでの感動をしていた。

「灯油を入れにガソリンスタンドよっていきますから」と八谷さんがいう。ジェットエンジンの燃料(何かとまぜてたが)は灯油なんだそうだ。
「何に使うんですか、ジェットエンジン!?」ガソリンスタンドの人もそりゃおどろくわ
「何に使うんですか、ジェットエンジン!?」ガソリンスタンドの人もそりゃおどろくわ
河川敷の公園。滑走路にはラジコン同好会のおっちゃんらがいた。
河川敷の公園。滑走路にはラジコン同好会のおっちゃんらがいた。

滑走路が公園にある

着いた先は河川敷の公園。ここに滑走路があるというが、なるほどたしかに草を刈り込んだ長い道がある。これか。

風の強さや滑走路の水たまりなど条件が悪ければそれだけでアウト。今日は解散らしい。自作飛行機の世界はボランティアスタッフに非情だ。

着いたころにはラジコンヘリ同好会がいて、愛犬家の人もいた。そこにやってきたわれら自作ジェット機飛ばす会。

平日の河川敷の公園って実は何が何やらなことになっている。
機体が接触する部分にはクッションをテープで貼っている
機体が接触する部分にはクッションをテープで貼っている

自作飛行機は工夫で飛んでいる

倉庫を見ておどろいたのはなんだかよくわからないものがあちこちにあること。

倉庫の段差を解消する板だったり、車に入れたときにあたる部分にさしこむクッションだったり。そうかそんなものは売ってないものな。

ギターを買えばギター形のケースがついてくる。しかし自作飛行機は前例がないのでケースも運搬方法もなんにもない。

機体を制作したりジェットエンジンを外国から手配したり大きな工夫はわかっていたが、小さな工夫がいたるところにある。

バンパーをガムテープでとめてる自動車。ああいうのの連続で飛行機が飛んでるのではないかと思う。飛行機が飛ぶのはジェットエンジンのせいではない、工夫だ。
飛行機を背中にのせて台をひきぬく。今後世には出てこないであろう曲芸
飛行機を背中にのせて台をひきぬく。今後世には出てこないであろう曲芸
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ふつうの体重計2つ使って重さを計る。そうか、100kgいかないから人用のでいいのか
ふつうの体重計2つ使って重さを計る。そうか、100kgいかないから人用のでいいのか
翼の中はこうなってる。持つと軽さに驚く
翼の中はこうなってる。持つと軽さに驚く
軽くするためなのか翼をとめる金具がめちゃくちゃ小さい。「落としたら見つからないから」みょうなプレッシャーがかかる
軽くするためなのか翼をとめる金具がめちゃくちゃ小さい。「落としたら見つからないから」みょうなプレッシャーがかかる

現場はけっこう厳しい

「この部品、落としたらまず見つからないからね!」と八谷さんの声がとぶ。

滑走路には日陰がなくトイレも自販機も水道もない。くわえて時間もなく、ボランティアスタッフもほぼ初参加。しかも人命がかかってる。

ぼくが任されたのは記録係だが、欄外にあれこれ書いてたらすぐバレてダメがきた。夢を飛ばす現場は、けっこう厳しいのだった。
ラジコン同好会のおっちゃんもまじってくる。「知ってるか、最近はこういうのでもジェットエンジン積んでるなんて場合があるんだよ!」おじさん、そのジェットエンジンですよ
ラジコン同好会のおっちゃんもまじってくる。「知ってるか、最近はこういうのでもジェットエンジン積んでるなんて場合があるんだよ!」おじさん、そのジェットエンジンですよ
ジェットエンジンを見つめるおっちゃんの目の熱さ
ジェットエンジンを見つめるおっちゃんの目の熱さ

おっちゃんらが集まってくる

なんだなんだと先客のラジコンヘリ同好会のおっちゃんらが集まってくる。飛行機好きにはたまらんものを運び入れた感じはある。

ここでジェットエンジン点火。本当かよ……という空気がラジコンヘリ好きのおっちゃんらの間で流れる。
ジェットエンジン点火。音がでかすぎて笑ってしまう

テストフライト、飛んだ

ジェットエンジンの点火テスト。近くにいる人は耳栓をつける。愛犬家の方に「でかい音しますんで」とことわりにいく。まさかジェットエンジンだとは愛犬家も犬も思わなかったろう。

そして轟音がひびく。鳥が一斉に飛び立つ。おっちゃんたちの目が見開く。犬の耳がピンと立つ。全員が思う。

「なぜこんなところに、ジェットエンジンが……」
「なんでジェットエンジンが……」バサバサバサー!
「なんでジェットエンジンが……」バサバサバサー!
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風があると飛べない。他ならぬボランティアスタッフのために、風立つな。
風があると飛べない。他ならぬボランティアスタッフのために、風立つな。
かっこいい操縦も「そこじゃなくて股からベルト通して」など補助とのどろくさい装着作業がある
かっこいい操縦も「そこじゃなくて股からベルト通して」など補助とのどろくさい装着作業がある
タキシング(飛ばずに地上を進む)のあと、ついに飛んだ
タキシング(飛ばずに地上を進む)のあと、ついに飛んだ

ジャンプ飛行成功、感動どころではない

その日何度目かのタキシングをへて、ジャンプ飛行が行われた。

「おお~、ほんとに飛んだ」そんな飛んだ感動ももちろんあったが、すぐに記録係の仕事の義務感がうわまわった。何秒飛んで、何m飛んだんだっけ?

すべて目測なので目がはなせない。感動してるヒマはない。うお、また飛んだ。しまった、何m飛んだんだ!?

こうして何度かジャンプ飛行と調整を繰り返す。感動はもうしないものの、再開するたびキィィィィイイイイン!!!!!というあの音のでかさには笑ってしまう。

愛犬、ラジコンヘリときてジェットエンジンである。公園でやるレベルのことではないだろう。
地面がわるく、草むらにつっこんでいく
地面がわるく、草むらにつっこんでいく
落ち葉とばしたりするブロアーでエンジンをさます
落ち葉とばしたりするブロアーでエンジンをさます

帰ったらまた工夫

こうして何度かのジャンプ飛行が行われたが次第に動きがおかしくなってきた。

ぼこぼこの地面でぼうぼうの草むらの中をどれだけ軽くできるか限界に挑戦したものがつっこんでいくのである。すぐに部品がどこかおかしくなる。

この日は車輪付近の小さな故障が見つかって終わった。帰ったらまた工夫が待っている。
この日、だいたい真顔
この日、だいたい真顔

今は秋葉原で展示されてます

今このOpenSkyプロジェクトはアート作品として展示されている。飛ばすの手伝った側としては、機体よりも牽引した箱の方がなぜかなつかしく感じるので不思議なものだ。
アートプロジェクトなので今は展示されている
アートプロジェクトなので今は展示されている
あ~、飛ばすの大変なやつ、あった
あ~、飛ばすの大変なやつ、あった
うわ~、あの箱!
うわ~、あの箱!
このつっかえ棒こわれたんだよな~、と展示も見るポイントが変わってきた
このつっかえ棒こわれたんだよな~、と展示も見るポイントが変わってきた

取材協力

八谷和彦 個展「OpenSky 3.0 ―欲しかった飛行機、作ってみた―」

日程:2013年7月13日(土)~ 9月16日(月・祝) 火曜休
時間:12:00-19:00(最終入場18:30)
会場:3331 Arts Chiyodaメインギャラリー

http://hachiya.3331.jp/

感動も、大変さを知ればちょっと真顔

最初のムービーでえられる飛ぶ瞬間の感動(ああ~、この人たちがんばったんだね~)みたいな気持ちがふわっとやってくると思うが、その「がんばった」の一部はこんなことになっている。しんどいぞ。

自作で飛行機を飛ばすにはまず国から認められる大変さがあり、大きな工夫と小さな工夫の連続で飛ぶところまでこぎつけても一人では乗れず、人を集めてみんなで汗水どろどろになってやっと飛んでいるのだ。

一日でこれなのに10年とは……こうした実情をふまえたうえであのはじめて飛ぶ瞬間を見ると、ぼくは少々真顔になってしまう。
草むらから脱出してるとこ
草むらから脱出してるとこ
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