潮の引いた干潟でツメタガイを探す
ツメタガイを捕りにやってきたのは、マテガイという巣穴に塩を入れると飛び出してくる貝(
記事参照)がたくさん生息する、最近お気に入りの干潟。
以前、この干潟で何度かツメタガイを目撃しているので、マテガイ捕りは同行者たちにお任せして、私は潮の引いたばかりの干潟でツメタガイを捜し歩く。
子供の頃、夏の夜にセミの羽化を見に行ったときに、一人だけクワガタでもいないかと探していた自分を思い出した。
マテガイ捕りは任せました。
普通にアサリやマテガイを狙って潮干狩りをしていると、ツメタガイは自然と見つかるものなのだが、いざ食べてやろうと探してみると、これがなかなか見つからない。
砂浜を歩き回り、だいぶ足腰が鍛えられた頃、まだ潮が引き切っていない干潟でようやく目的のツメタガイを発見した。
これが探していたツメタガイ。
ほら、カタツムリっぽいでしょう。殻の艶が素晴らしい。
裏側。
このように、ツメタガイはカタツムリのような姿をしているけれど、塩分の含まれている海水の中で生活をしている(カタツムリは塩に弱い)。
千葉などの一部地域ではイチゴ貝などと呼ばれ、煮物などで食べられているようだが、基本的にはあまり食用とされていない貝である。
しかし、その見た目から考察するところ、きっとエスカルゴのように料理したら、おいしいのではないだろうかと前から思っていたのだ。
エスカルゴとツメタガイの違い
殻の形は似ているエスカルゴとツメタガイだが、住処が陸と海と違うだけあって、その生態はだいぶ異なっている。
まずその脚の巨大さだ。ツメタガイはエスカルゴと同様に殻の中に全身を隠すことができるのだが、普段は脚をマントのように広げて砂の中を移動しているのだ。
脚がでかいんですよ。これでも少し縮んだ状態。
よく素手でアサリを掘っていると、ニュラっとしたコンニャクのような感触を味わうことがあるが、その正体はこのツメタガイの脚だ。
これだけ伸縮性に優れた脚なので、食べたらエスカルゴ以上においしいのではないだろうか。
海に戻すと、脚で殻を隠しだした。エスカルゴには不可能な行動パターンだ。
そしてそのままズブズブと潜っていった。
ツメタガイは貝を食べる貝
エスカルゴとツメタガイのもう一つの大きな違いは、その食生活である。エスカルゴが草食なのに対して、ツメタガイは肉食なのだ。肉食というか、貝食。
そのかわいい見た目とは裏腹に、ツメタガイは砂の中でアサリなどの二枚貝をガツガツと捕食している肉食系の貝なのである。
あの貝殻の見事な艶は、他の貝をたっぷりと食べてこそのものだったのだ。
ツメタガイに食べられた貝。このように穴をあけて食べるらしい。
その食欲は旺盛で、大量繁殖すると潮干狩り場のアサリを絶滅させてしまうほどの破壊力を持っているため、駆除の対象にもなっているとか(
静岡県水産技術研究所のページ参照)。
この食性の違いが、味にどのような影響を与えるのだろうか。アサリなどの二枚貝を守るためにも、ツメタガイがおいしく食べられるといいのだが。
二枚貝にとっては天敵だが、ヤドカリにとってはオシャレな住宅を提供してくれる恩人という面もあるようだ。
ツメタガイの卵は茶碗型
ツメタガイを食べる上ではあまり関係ないのだが、その卵がおもしろい形をしているので紹介したい。
この砂浜に不時着したUFOみたいな、茶碗型の物体がツメタガイの卵(卵塊)なのである。
流されてきた茶碗っぽいけれど、これが卵。
けっこうしっかりと固まっている。
ツメタガイを減らすためには、この卵の有効な利用法も見つかるといいのだが、今のところ特に思いつかない。
どう考えても食べたらジャリジャリしそうなので、とりあえず見かけたら拾って陸に置くようにしている。
クーラーボックスにいれておいたら、角を出して壁を登っていて驚いた。もはやエスカルゴというか宇宙生命体っぽい。
まずは本物のエスカルゴを食べてこよう
さてこのように捕まえてきたツメタガイをエスカルゴ風にして食べるというのが本日のテーマなのだが、ここで問題が一つ。
私が本物のエスカルゴを食べた覚えがないことだ。もしかしたら、一度くらいはどこかで食べたかもしれないけれど、その味は記憶にない。
捕まえてきたツメタガイ。脚が引っ込むと、タニシみたいに蓋が現れる。
そこでツメタガイを食べる前に、有名イタリアンレストランにいって、エスカルゴを食べてみることにした。
エスカルゴがフランス料理だというこことを知ったのは、この記事を書いている今である。
有名イタリアンレストラン=サイゼリア。
赤ワインとプチフォッカというパンを合わせて、エスカルゴのオーブン焼きを注文。ガーリックバターの香りがとても食欲をそそる。
その存在は知っているけれど、食べたことのないものの代表ともいえるエスカルゴ、さてどんな味なのだろう。
どの穴から攻めようか。
たぶん初めて食べるエスカルゴの味は、正直ほとんどがガーリックバターの味なのだが、それでもサザエやムール貝などの貝類とも少し違う、独特の味わいが感じられる。
そのクニュッとした歯ごたえは、柔らかく煮たタコや上手に戻した干しシイタケのようだ。とにかくこのバターとエスカルゴの風味が、パンやワインと相性ばっちり。
この説明でよくわからなかったら、サイゼリアにいって食べてくるのが手っ取り早いと思う。
殻がないのがさびしいかな。
まずは下茹でをしてみる
サイゼリアのエスカルゴを食べた経験を踏まえて、さっそくツメタガイ料理に挑戦をしてみよう。
サザエの壺焼きのようにそのまま焼こうかとも思ったのだが、ここはひと手間かけて、軽く茹でて身を取り出してみることにした。
ツメタガイの大きさに合わせて1~2分茹でてみる。
貝殻から身をうまく取り出すことができるのかが心配だったのだが、茹でたツメタガイは、他のどんな巻貝よりも身が出しやすかった。目打ちを身に刺して形状に合わせて巻き取るようにすると、内臓の先っぽまでクルンと出てくれた。
取り出した身には砂がたくさんついていたので、やはり一度茹でて、砂を洗い落としてから調理するのが正解なのだろう。
クルンと綺麗に取り出せてうれしい。
とりあえずそのまま食べてみる
軽く茹でたツメタガイの身をエスカルゴ風に料理する前に、まずは素材そのものの味を確かめるべく、そのまま食べてみることにした。
ツメタガイを切る包丁から伝わってくる感じは、サザエやアワビのような硬さだ。
ツートンカラーの内臓も食べられるのだろうか。
まずは身の部分を食べてみると、しっかりとした歯ごたえと共に、貝の味を濃縮したような、濃厚な旨味がやってきた。さすが貝を食べて育つ貝だけあって、貝の旨味が凝縮されている。
続けて恐る恐る内臓部分を食べてみると、さらにガツンとくる貝の濃さ。ホヤやアンキモなどの珍味が好きな人にはたまらない一品だ。
食べた瞬間、握力を測ったら通常よりも二割はアップしていそうなパワフルな味。なんだか腕相撲がしたくなってきた。
エスカルゴ風にして食べる
無理にエスカルゴ風にしないで、日本酒でも用意してそのまま全部食べてしまいたいような気もするが、せっかくなので調理再開。
バターとパセリとニンニクを混ぜてソースを作る。これをエスカルゴバターというそうだ。
この組み合わせを考えた人、えらい。
今回はせっかく殻があるので、身を殻に戻し、そこにエスカルゴバターをたっぷりと詰め、なんとなくパン粉を振りかけてみた。
ツメタガイを並べる器をどうするかちょっと迷ったのだが、タコ焼き用の鉄板を使ったら、とてもしっくりときた。ナイスカップル。
タコ焼き用の鉄板が、あつらえたようにぴったり。
これをオーブンで軽く焦げ目がつくまで焼いたら、ツメタガイのエスカルゴ風の完成だ。
エスカルゴは、やはり殻つきがかっこいい。エスカルゴじゃないけど。
食べてみると、しっかりと味の濃いツメタガイと、エスカルゴバターのコッテリとした味付けが、エスカルゴ以上にぴったりとマッチ。そこに醤油を一滴垂らせばさらに完璧。
さすがは貝を食べて育った貝だけあって、ツメタガイのエスカルゴ風は、旨味と野性味に溢れた贅沢な味わい。
「海のエスカルゴ」として、海岸沿いのレストランあたりで出しても、決しておかしくない食材だと思う。
ツメタガイ、気に入りました
今回はツメタガイの数があまり捕れなかったので、エスカルゴ風しか作れなかったが、炊き込みご飯、パスタ、天麩羅など、どうやって食べてもおいしいのではないだろうか。
あまり一般的には食べられていない貝だが、食べることでアサリなどの貝を増やすことにもつながるので、今後は積極的に食べていこうと思う。